ノートリアスに襲撃
「━━━ッ!!」
打ち合う刃と刃、その衝撃で火花が散り鍔迫り合いになると、俺はヴェニスに向かって話し掛ける。
「おうヴェニス!へばってねぇか?」
「ぬかせ!てめぇこそ息が上がってんじねぇか?」
俺とヴェニスは今、戦いの最中だったのだ。お互いに肩で息をしており、体力的にも限界が近づいていた頃……決着の時は訪れる。
互いに相対していた相手を切り裂き一息つく。
「はぁ……はぁ……俺の勝ちだ」
「ぬかせ、今のは引き分けだろうが……」
そう言って座り込むヴェニスに俺は手を差し伸べた。そんな俺の手を掴んで立ち上がると彼はこう口にして見せたのだ。
「まぁ今回は負けてやる、だが次は俺が勝つからな?」
そんなヴェニスの言葉に笑みを浮かべるとお互いに拳を合わせるのであった。
━━それは数日前、ハイマートの娘を治療した直後の事である……ノルンが告げた言葉は衝撃的なものであった。
「ルークよ、未来視をしてみたが、主の隣の男も戦列に加えていたぞ。よって、ベルフォート討伐に必要な戦力増強をしようと思う」
あっけらかんに告げるノルンの言葉に俺達は口を半開きにしていた。
「は?何言ってんだよノルン、敵になるかもしれん奴を仲間にするとかあり得ねぇだろ?」
「ん? 金さえ払えばどんな依頼も引き受けるのが蛇の目だぜ? 何ぞ昔の女神の名前と同一の名前が聞こえたが、気のせいだろ」
そう言ってヴェニスは笑みを浮かべているが、その当人を相手にするのは話した方が良いだろう。
「ヴェニス、聞いてくれ。こいつは━━」俺が話し掛けようと手を伸ばすがその瞬間だった。
突如目の前に現れた蛇眼の男が剣を振り下ろす……しかしヴェニスは素手でそれを受け止めたのだ。
「ほぉ……危ねぇじゃねぇか」
「チッ!失敗したか」
不敵な笑みを浮かべながらそう言って来た男に警戒を強めるのだが……そんな時、ノルンはため息を吐きながら口を開いた。
「はぁ……だから言ったであろう?こうなる事は知っていたと」
「成る程ねぇ……前金白金貨5枚、完了でもう5枚でどうだ?」
「前金3完了で6」
「間をとって3,5」
「仕方無い、前金4完了で5枚だ」
「了解したぜ、此方準備に金がいるからな」
そんなやり取りを終えると蛇眼の男が剣を引いていた。どうやら引き際を確かめている様だが、そんな隙は俺もヴェニスも持ち合わせていない。
「んじゃ依頼内容と報酬の話をしようか……そこの雑魚を殺せって依頼なら3金貨で引き受けるぜ?」
「何抜かしてやがる?その屑は俺の獲物だ、手を出すんじゃねぇよ」
お互いの殺気がぶつかり合う中、俺は懐から封筒を取り出すとそれをヴェニスに投げ渡した。彼は受け取るなり中身を確認すると笑みを浮かべて口を開く。
「成る程な……良いだろう依頼を受けてやる」
(良かったのか?)
内心でそう呟いているとヴェニスが俺の肩に腕を回して来た。
「先ずは……不届き者を始末するとしようか!!」
そう言って走り出したヴェニスの後を追う様に走り出すと、目の前には蛇眼の男が立ち塞がる。
「洒落臭え━━ッ」
ヴェニスにそう怒鳴ると、腰に下げた杖を掴み刃を引き抜いた。
仕込み杖。正に暗殺者ならではの武器と言えるが、立ち回り方はさながら剣客のそれと似ていた。
刃を振るう事無く相手の得物を受け流す様に攻撃を避け、一瞬の隙をついて切り伏せる。
これがヴェニスの戦い方だと理解した時には既に勝負は着いていた。俺の出る幕もなく……それどころか魔法すら使わずに決着が着いてしまったのだから驚きである。
「こんなん想定してねぇよ……」
そう呟く男を前にして俺は動けずにいたのだ。何故なら彼が死に際に浮かべた不気味な笑みの意味が理解出来なかったからだ……そして男は俺の目の前で呆気なく死ぬ。
「マスターよ、終わったぞ?」
ノルンの声が響くと俺は我に返り辺りを見渡すのだが、周囲には何もなく静まり返っていた。まるで戦闘が始まる前の状態に時間が巻き戻った様に感じたが……それは違うと悟る事になる。何故なら先程まで居た筈の蛇眼の男が死体ごと消え去ったのだから━━
(一体どう言うことなんだ?)
そんな疑問を抱いているとヴェニスは鼻で笑うと静かに口を開いたのだ。
「あれはベルフォートの因子を使った実験体だ。ノートリアスが1つ因子を持っているってのは小耳に挟んだが、坊主の話を信じるなら、ノートリアスは俺達の敵だということになる。ったく、良い稼ぎだったが仕方無ぇし、報酬は増額させてもらうぜ」
ヴェニスはニヤリと口元をつり上げると、そのまま立ち去って行ったのだ。
(これが俺とノートリアスの因縁の最後になる)
そう予感していた。
そして、数日後ヴェニスの情報を頼りに、ノートリアスの施設を襲撃したのだった。
鳴り響く警報音を無視しながら、因子と思われる物が安置される場所を潰す事に専念していた。
「くっ……!何故情報が洩れているのだ!? ヴェニス!裏切るのか!?」
研究者のような男がそんな事を呟きながらノートリアスの施設を破壊していた俺達を睨み付けていた。
「遅せぇよ、もうテメェ等の依頼は終わってんだよ」
そんな言葉とともにヴェニスは一思いに男を切り伏せたのだ。命乞いをする余裕すら与えずに殺すと、ヴェニスはため息を漏らすが気にする素振りを見せなかった。
この先に装置があるであろう区画がある、そこを目指して進んでいると研究者風の男が目に入る。
「お前達の所為で計画が台無しだ!死ね」
そんな身勝手な言葉を告げる男は隠し持っていた刃物でヴェニスに斬り掛かるが、それは容易く弾かれてしまった。
そして次の瞬間には男の首が床に転がっていたのだ。
(悪いけど負けるわけにはいかないからね)
そう思いながら俺はそっと視線を逸らしたのだった。
どうやら警報が鳴ったからなのか、多くの者達が武装しながら駆け付けていたようだが、その数は数名ほどであり大した驚異にはならなかった。
━━紺色のサーコートを着た男が現れるまでその姿を見た瞬間に、心臓を鷲掴みされた感覚に陥る。
「━━ッ!?」
本能のままヴェニスと同時に動いた瞬間、俺達の居た場所に無数の穴が空く。
「ぐっ……何者だ!」
そう叫ぶが男は静かに答える。
「ふむ、アレを避けたか」
短い言葉と共に更に槍を構えて攻撃して来たのを避けながら、こちらも応戦するが相手の技量は桁違いであった。
(とんでもない速度だったぞ!?)
そんな事を考えながら距離を取るとヴェニスも後退していた。そんな様子を見てか、男は静かに呟いたのだ。
「既に完成している筈だったのだが……まあ良い」
その呟きを聞いて俺は首を傾げたのだが、その言葉を遮ってヴェニスは口を開いた。
「まさか、”教授”自ら俺達のお相手をしてくれるたぁ恐悦至極ってか?俺も暇じゃねぇんだ……さっさとくたばりな」
そう言うとヴェニスは魔法を行使して男に攻撃を仕掛けていた。炎の槍が男を襲い、それを避けながら反撃を開始するのだが━━
「まさか貴様ともう一度戦うことになるとはな……」
その攻防の最中にも男はそう呟いていた。




