ハイマートとファズ
俺は暫く考えた後で答えを出したのである。
「わかった、条件を呑もう」
そう言って彼の元へと歩み寄ると目の前に眠る少女を解析鑑定を行なった。
名前:ファズ•ラトリー
種族:屍喰族(死霊族)
称号:人狩りの生き残り、血塗れの少女、死を齎す者、
解析鑑定を終えた後で、ヴェニスに確認を取ると彼は頷いたので俺はある魔法を唱える事にしたのだ。それは第四位階の再生魔術であり、アンデッドとしての弱点である浄化の光を当てて葬り去るというものだが、それでは少女の苦しみは続くだろうと思い至ったのである。だからこそ使う必要があったのだ……彼女に安らぎを与える為にも。
(ハイペリオンよ俺に力を貸してくれ)
そう心の中で念じると力が沸き上がってくるのを感じた後、静かに手をかざして呪文を唱えようとした瞬間、頭の中に声が響いた。
『待て、ルークよ』
(ハイペリオン? いや違うぞ?)
突然現れた声の正体が分からず首を傾げているとヴェニスの声が聞こえてきた。
「おいおい……ここに来てやめましたは無しだぜ?」
そんな彼の言葉を無視し、全神経を集中させて声の有り処を探す。そして見つけた。
「━━招来、ノルン」
時の魔導書の魔神、時を遡る力や未来視を持つ魔神でもあるノルンを召喚すると、その場にいた全員が驚愕の表情を浮かべていた。
『ルークよ、汝の力は既に我をも超えたようだな』
そう言いながら現れたノルンはハイペリオン達と比べて小さく身体の大きさは片手程しかないのだが、圧倒的な存在感を放っている。そんな彼女を見上げながら俺は問い掛ける事にしたのだ。
「ノルン……お前に頼みがある」
その言葉にノルンは笑みを浮かべた後、静かに答えたのである。
「この娘に施した呪いを取り払うと言ったところか? さもありなん」
まるで心を見透かされた気分になるが、不思議と不快感は感じなかった。ノルンに全てを任せようとした瞬間だった……彼女は静かに首を振りながら答えたのである。
「我の力を使えば確かに呪いを消す事は可能だが、この娘は既に死んでいるのだ……既に理を外れた存在よ」
そんな言葉に俺が固まっているとノルンは更に言葉を続ける。
「だから本来ならば一度崩壊させ再創造する他ない……」
今の言葉から推測すると少女の魂も精神も消滅させるという事だろうか?そして俺の心を読んだ様にノルンは言葉を続ける。
「その通りだルークよ、魂が無くなれば肉体も消滅する運命なのだ……」
そんな残酷な言葉を聞かされながらも俺は諦めなかった。
だがどうする?このままじゃ少女は助からない……そして俺が悩む中、ある一つの方法が浮かんだのだ。
(待てよ……俺なら救えるかもしれない)
そう思った俺は少女に向かって手をかざしてこう唱えた。「慈雨の奇跡」そう唱えると少女の肉体は光に包まれていく。その光景を見守っていた者達の反応は様々だった。ヴェニスは訝しげな視線を向けており、ハイマートは目を見開きながら固まっている。だがそんな事はどうでも良かった……無事に少女を救えればそれで良いと思っていたからだ。
「マスターならば、そうするであろう事は予想がついた。そこに我の力を加えると」
そして徐々に光は収まっていくと、少女の肉体が再生していく様子が見えた。
「慈雨の奇跡……第四位階水の古代聖魔術か!?」
そう呟いたのは俺ではなくヴェニスであった。その言葉を聞いたハイマートは驚愕の表情を浮かべているとノルンは笑みを浮かべながら口を開く。
「お前は相変わらず博識だな……ルーク子爵よ感謝するぞ。これで娘は救われた、だが娘の中に巣食う呪いを消す事は無理だろう。再発するまでの気休め程度にしかならんがな」
そう言うヴェニスだったが、ノルンがヴェニスの鼻面を蹴飛ばしていた。
「ぐぁ!な、何しやがる!!」
鼻を抑えて怒鳴るヴェニスだったが、ノルンは腕を組みながら仁王立ちしており、そんな彼に対して冷たい視線を向けながら口を開いたのだ。
「愚かな男よ、汝の行いは愚者のそれに等しい事を理解しているのか?」
そんな鋭い指摘にヴェニスは苛立ちながらも反論する。
「何言ってやがる!俺が見た段階でもう駄目なのはわかっていたんだ」
しかしその言葉を遮る様にノルンが答えるとそれは俺にとって予想外の言葉であった。
「呪い諸共全てを巻き戻した。この娘子に呪いがかかる前までな、そして魂は慈雨の奇跡が保護したおかげで無傷じゃ馬鹿者め!!ルーク、マスターの力が無ければこの娘子は死んでいたのじゃぞ!!?」
ノルンの言葉に全員が驚きを隠しきれない様子でいたが、特にヴェニスは目を見開きながら口をパクパクとさせていた。
(どういう事だ?)
そう思ってハイマートに視線を向けると彼は静かに首を縦に振る。つまり、呪いが解けたという事だろうか?そんな疑問を浮かべているとノルンは深いため息を吐く。
少女の顔を見ると、穏やかに眠る子供のそれであり、蛆が群がっている箇所など何処にも在りはしなかった。
「マスターの神力が我を完全書として復元出来たからこその結果よ。時の巻き戻しも自由自在なれば出来る御業よな」
ノルンの話を聞いて更に驚愕したのだ。彼女の言う事が本当ならば俺の力は想像以上に強大という事になるからだ。しかし同時に疑問が生まれたのも事実であり、それを解決すべく問い掛けたのだ。
「何故そこまでして俺に力を貸す?」
するとノルンは不敵な笑みを浮かべながら答えてくれたのだ……俺が望んだ答えを。
「ルークよ、汝はいずれ真なる魔神へと至るであろうがその前に治す者、片付ける事があるであろう?そのための力を蓄えさせたのだ六年間な」
そう言って笑うノルンの言葉に俺は悟ったのだ……俺の運命は彼女に導かれ、彼女と道を共にする事になるのだろうと。だが不思議と不快感は無くむしろ安心感さえ覚えていたのだ。だから俺は頷いて見せるのだった。
それから数日後、少女の容態も安定したらしく彼女は病院へと移されたらしい。ハイマートがお礼を言っていたが、そんな事より今はやるべき事があった。




