ベルフォート 2
それを見た俺は思わず口角を上げると『空脚』を使い彼女の手から離れ自由落下に身を任せたのである。
(まぁ……重力を操作すれば問題ないけどな)
そんな事を考えて地面を思い切り蹴って駆け出した俺の左右を無数の影達が通過したのが分かった。そして化け物の足元に飛び込んだ俺は、即座に『転移』のスキルで上空へと転移する。
そして再び落下しながら白竜を斬った時と同じ様に魔力を収束させると魔導銃を構えて撃ち放つ。その瞬間、青白い閃光が化け物の身体を撃ち抜いたのだ。だが……カミナの攻撃でも一瞬怯んだだけであったのである。
(ちっ……火力不足か)
そんな事を考えつつも奴に向けて再度『転移』すると目の前に迫る触手に舌打ちしながら転移で躱す。そして『空脚』を使って一気に加速して彼女の懐に飛び込んだのだ。
(首か心臓を破壊すれば再生する事は出来ないはずだ……それなら、やりようはある!!)
そしてマルミアドワーズを振りかざすカミナの動きに合わせ最大威力の魔導電磁加速砲をぶっ放した。
その瞬間、視界が真っ白に染まる程の光に包まれ衝撃波が周囲に拡がったのだ。そして激しい爆発音と共に巨大な閃光が迸ったのである。
光が収まった時、俺は化け物の足下に立っており彼女は身体を貫かれていたのである。その身体には風穴が空いており核である魔石があったのだ。
(勝ったのか?)
そんな疑問を抱いていると彼女の身体が光り輝き始めたのだ。それはまるで浄化の光のようで瞬く間に傷口を塞いでいったのだった。
(ちっ……ダメか)
舌打ちする俺の背後から彼女に向かって影が飛ぶと、その首を斬り飛ばしたのである。そんな光景に驚いていると、目の前の化け物の身体が光の粒子となって消えていったのだ。
その光景を唖然と見つめていると、俺の元へカミナが降り立ったのだった。
「ルーク!大丈夫か!?」
そんな彼女の無事な姿に思わず安堵の息を吐きつつ笑みを向けた。
「ああ、何とか勝てたよ」
そんな俺の言葉に彼女は安堵したように笑みを浮かべるが、すぐに厳しい表情に戻ると、俺の後ろを指差したのである。
「おい、ルーク!まだ終わってないみたいだぞ!」
そんなカミナの叫び声に振り返ると先程の化け物よりも遥かに巨大な黒い影が迫ってきていたのである。
(チッ……今度は一体何だよ!?)
そんな愚痴を吐きながらも素早く銃を構えた俺はその影に向かって発砲したのである。
だが、銃弾は影に触れる事なく消えて無くなっていた。それを見た瞬間に嫌な汗が頬を流れるのを感じたのだ。
(もしかして魔力を吸収するのか?厄介だな……)
そんな事を考えている間にも目の前まで迫った影が大きな腕を振り上げていた。俺は咄嗟に『空脚』を使ってその場から飛び退き距離を取ったのだが、その行動を予想していたかのようにもう片方の腕が迫っていたのだ。
(この野郎……俺の動きが予測出来るのか?)
そんな事を考える間も無く巨大な影の腕が俺の身体を捉えると凄まじい力で握られていたのだ。
「ぐっ……」
苦しそうな声を出す俺を見ていたカミナは動こうとしたようだが、それを制する声が響いてきたのである。
「貴女の相手は私よ?」
その声は、いつの間にかカミナの背後を取っていたベルフォートが発した声だったのだ。
「ルーク、此奴の肉体が依り代ならば本体を消せ!!」
カミナの叫びを聞いた俺は即座に魔導電磁加速砲を撃ち込んだ。そして直撃した巨大な影の身体が霧散したのだ。その瞬間、俺の身体は上空に投げ出されていた。
「なっ!?」
(くそっ!嵌められたのか!?)
そんな事を考えつつも咄嗟に魔力波を放ったのだ。するとその衝撃により落下速度が緩み何とか着地することが出来たのである。そして俺の元へベルフォートが舞い降りたのだ。
「おいおい……化け物かよ」
そんな軽口を叩いている間も奴の無数の触手による攻撃は続いていた。それらを躱しながらも俺は反撃の機会を窺っていたのだ。
(何とか懐に入り込めれば……)
そんな事を考えつつもギリギリで躱していると、奴の攻撃パターンに変化が生じたのである。今までは無軌道に触手が振り回されていたのだが、突如標的を定めたかのように俺だけを狙った攻撃に変わったのだ。
しかも同時に無数の影の拳が俺に襲い掛かってきたのである。その攻撃を必死に避けていたのだが、ついに直撃を受け吹き飛ばされてしまったのだ。
「ぐあっ!?」
地面に叩きつけられた衝撃で一瞬意識を失いかけたが、気合いで堪えて立ち上がろうとしたのだ。しかしそんな俺の目の前に奴がいたのである。
(くっ……ここまでか)
思わず諦めかけたその時だった。突然ベルフォートの背後からカミナが現れ斬りかかったのだ。だが、その攻撃をいとも容易く躱した化け物は凄まじい速度で距離を取ったのである。
カミナの手にはマルミアドワーズと鏡花水月の二振りの剣が握られていた。
「ルーク!今だ!!」
そんなカミナの声に弾かれるように俺は立ち上がり魔導電磁加速砲の照準を奴に合わせた。そして最大出力で放たれた一撃はベルフォートの身体を飲み込んだのだ。
その圧倒的な破壊力に俺は勝利を確信したのである。だが次の瞬間、俺の耳に声が聞こえてきたのである。それは笑い声だったのだ……
「素晴らしい力ですわ……是非とも欲しいですね」
(なっ!?馬鹿なっ!!)
そんな事を考えた瞬間だった、視界が真っ白に染まる程の閃光と共に凄まじい衝撃が俺を襲い吹き飛ばされていたのだ。そして地面を転がると呻き声を上げながら身を起こす。
「かはっ……うっ……」
身体を動かそうとしても痺れて動けない事に舌打ちしつつも顔を上げると、そこには無傷のベルフォートが立っていたのである。その姿を見た俺は呆然と彼女を見つめる事しか出来なかったのだ。
だが、彼女はそんな俺に視線を向けながらも口を開いたのである。
「分体が消し飛ばされるとは思わなかったわ……あの威力は予想外だったわよ?私がいなければ間違い無く消滅していたでしょうね?」
そんな余裕の笑みを浮かべながら歩いてくる彼女に俺は絶望を感じていた。だが、その時……
「なっ!?貴様は!?」
突然ベルフォートが驚愕したような声を上げたかと思うと、俺の前に小さな影が現れたのだ。その姿を見て驚き目を見開く。何故ならそこには一匹の黒猫の姿があったのである。
そして次の瞬間には巨大な黒い龍の姿と変じた。
「ハイペリオンの姿を模った物ならば、我等六柱の龍で抑えられる。リデルの身体を返してもらうぞ」
その声は黒龍オルクスのものだった。




