モルテの空中散歩
教室に戻ると、他の生徒は新しい従魔と前の従魔を喚び出して交流させたり、今日の最後の授業だった事もあり帰る準備をする者も居た。
エリーゼやリーフィア達婚約者組は、何か話し合いをすると言われ、明日が休みという事もあり今日の夜にメアの部屋に集まるらしい。
どうやら、渚には既に話していたらしく、迎えの馬車には焔と雪が座っていた。
どうやら二人も混ざるらしい。
そして、ふと見た窓から、アーサーが少し慌ただしく走り門から去って行き、俺は一人残された。
「さぁて、暇になったし今日はモルテに乗ってブラつくか」
「グルル」
モルテに乗りながら、空からの景色を見渡して行く。
今日も良い天気で絶好の飛行日和だ。
必須科目や選択科目のない日だからこそ、偶に学院が終った後に1人で外出するのが楽しみになっていたりする。
それから、モルテを飛ばしながら景色を楽しんでいると、ふとある場所に目が留まった。
その場所は、王都の外れではあるが、とても美味しいと評判の洋菓子店が新しく出来た場所だった。
どうやら、何かイベントが開かれているらしく、多くの人が居る様だ。
「へぇ、イベントしてるんだなぁ」
今日泊まる彼女達に、何か買っていくのも良いかもしれないと思い、何気なく呟いたその言葉だったが、モルテは何かを思ったらしく、急に方向転換をして飛び始めた。
「──ちょっ!? モルテ!、急に何を……、って速ッ!?」
俺は咄嵯にモルテの首にしがみ付くと、急旋回によるGに耐えた。
「──グゥエッ!?」
そして、暫くするとモルテは空中に停止した。
「ハァ、急にどうしたんだよ? あんな所で止まるなんて」
「グウウ」
「ん? あれって、なんかヤバそうな雰囲気だな」
その視線の先には、店先で黒い外套を着た数人の男達が一人の女の子と男性を取り囲んでいる姿があった。
「成程ね……、助けろと?」
「グゥ」
「ま、仕方ないか」
俺は女の子と男性を助けるべく、その現場へと向かって飛んでいった。
「──いい加減に払う物を払えと言っているんだよ、なぁ? 借りた物は返す……子供でも分かる常識だろぉ?」
「……うぅ」
「お、お願いします。どうか妹だけは……見逃してくれませんか?」
「駄目だねぇ。金が返せないなら、お前の妹を売るしか無ェだろう? 変態貴族にでも売れば十二分に返済出来るかもなぁ」
「ヒッ!?」
ふむ……、話の内容から察するに、借金の取り立てか。
しかし、何処の世界にもこういった業者っているんだな。
取り敢えず事情を聞く為にもあの人達から話を聞こうか。
「おいおい、あんまり弱い者虐めをするんねぇぞデュオ。……カリソンさんよォ、別に良いじゃねえか。この娘が高く売れりゃあ、借金は無くなる。それで良いだろう? 期日はとうの昔に過ぎてるんだからよ」
「そんな、話が違います!」
「あぁ? この書類に書いてあんだろうが!! 期日までに金を返せなかった場合は、この娘は奴隷商に引き渡すってなぁ!!」
「クッ、どうしてこんな事に……」
「あ~あ、俺等みたいな金貸しに関わったのが運の尽きだな。それとも、その腕を壊される方が良いか?」
「い、嫌だ!」
「だったら大人しく言う事聞けよ? なぁ、坊主」
「……分かった」
「ハッ! 最初からそうすれば良かったんだ」
「ま、待ってくれ! 頼む! まだ、まだ妹は5歳なんだ! せめて、10年! 10年後に……!!」
「それはこっちで決めることだ。この娘を返して欲しけりゃ、分かったならさっさと金を返すんだな」
「……クッ」
どうやら、彼等の話は全て聞き終えたらしい。
周りの人は客かと思ったが、どうやら全員金貸しの仲間の様だ。
店の塗装や看板を壊す様な事はしていないみたいだが、この状況を見ている人達は直ぐに目を逸らして去っていく。恐らく、彼等に関わって厄介ごとに巻き込まれるのは御免だと、そういう事だろう。
「……ん? おい! あのガキは何だ!!」
「あぁ? ──オイ、小僧ここで何やってる?」
「どうしたんだァ、何だこのガキ?」
「あぁ、どうも。……ちょっと、お菓子を買いに来ただけでしてね。お兄さん達はお客さん? 店員さんかな? 店員さんなら手に持って食べれるのを幾つか貰える?」
俺は、偶然店に来た客を装い、取巻きの男達から少女を守る様に間に割って入った。
「あぁ? 誰に向かって言ってんだ?」
「何だぁ、てめぇ?」
「……チッ、おい、このガキ今は取り込み中だ。……妹だったな適当に何か持って来い、逃げたら分かってるな?」
「わ、分かりました……」
女の子は店に戻ると、菓子を持って戻って来た。
「……ほれ、持ってきてやったぜ」
「あぁ、値段はいくらかな?お金を払うよ」
「……銅貨3枚です」
「はい、これで」
俺は彼女に銅貨3枚渡し、持ってきた焼き菓子を1つ口に運ぶ。
口の中に広がる甘さは軽く、食感はボーロに近い物だった。
「──うん、美味しい。……ところで、話は変わるけど、あんたらって取り立て屋か何かなのか?」
「てめぇには関係ねぇだろ」
「そうだぜ。ガキは引っ込んでな、怪我するだけだぞ」
「そっか……。でも、その娘が変態貴族に売られるってのは流石に可哀想に思えて来てね、だから……、借金の金額が幾らなのか教えてくれるかい?君達の雇い主の名前も」
「あぁ!?」
「何のつもりだ」
「俺はこの店の味が気にいった。その娘を連れて行かれたら、この菓子を作った人が本気で取り組めなくなるかもしれないだろう?」
「そうか。じゃあ、この娘は金貨50枚か大金貨5枚だ。どうだ?」
「そうか……、で、この店自体の総額は幾らなのか言ってないよね?その辺りは大丈夫?」
「……ッ!?」
「まぁ、良いわ。生憎持ち合わせが無くてね、白金貨での払いでも良いか?」
俺はそう言って白金貨を2枚取り出し眼の前の男に投げ渡した。
「──本物の白金貨だな 。良いだろう、俺等としてもこの方が助かる。……おい、契約書持って来い!!今すぐだ!!」
「へぃ!」
男の一人は急いで何処かへと走り去った。どうやら少しは真っ当な金貸しなのかもしれないが、この後が大変になりそうだった。




