初模擬レース
暫くすると、模擬レースの開始を告げる鐘が鳴り響いた。
そして、それと同時に従魔に乗った生徒が続々とコース内に入っていく。
「おっ、そろそろ俺達の出番だな」
「うん、そうだね」
「俺達は『飛行型騎乗コース』だから、こっちだな! 入ろうぜ」
「分かったよ」
そう言って入って行ったコースは、流石にコースが広いだけあって俺達以外にも複数の生徒がいる様だった。
「皆準備は良いな? このコースは従魔単体でゴールに辿り着くまでのタイムを競う『操魔型コース』とは違い、コース内にある障害物を如何に早く回避するかが鍵となる。その為『操魔型コース』と比べて、召喚獣を乗りこなす技術も勿論必要だが、いかに障害物を回避して進むのかという判断力の2点が重視される」
サディア先生の説明を聞きながら、俺達はスタート地点に立つ。
「今回のこの模擬レースは、本番同様に障害物を置いた状態で行うが、本番と同じく他者への攻撃魔術は禁止だ。障害物の破壊のみ許可されるが、本番はこの腕輪型の結界石を嵌めて行う。もし、ルール違反を犯せば壊れる為、即失格とするから、くれぐれも注意するように。それと、既に他のクラスや上級生も参加しているフィールドに転移されるから、最初は流して動きを見るのも1つの方法だ。……では、これより『従魔レース』を開始する。全員位置について……」
──バンッ!!
魔力の爆発音。
その合図と共に、一斉に召喚獣に乗って走り出す。
最初の内は他のクラスメイトの後ろに付いて様子見だったが、徐々に前方の人達との距離が開いてきたので俺とアーサーも動き出した。
まず最初に行うのは、コースの確認をしながら障害物の確認。これは他のクラスも同様で、皆一様に同じ方向に向かって進んでいる。
その先に何があるのかは、当然先頭集団が向かえば分かる。
「アーサー! 右斜め前! 岩場!落石ポイントだ!!」
「了解!」
「モルテ! 左に旋回しながら躱せ!!」
「ガァアアッ!」
カルネージバードは俺の指示通りに旋回し、落石を回避する。
それを見たアーサーが感心したような声を上げた。
「ヒュ~、やるなルーク。流石はカルネージバードだな。あんな巨大な物体をよく避けられたな?」
「あぁ、モルテの動体視力のお陰だな。それにあの程度なら大した問題じゃない」
「成程な」
それから、何度か指示を出して順調に進んでいった。
カルネージバードは、基本的に高い場所に生息しているので地形の変化には敏感だ。
しかも、今回は渓谷なので、その長所を活かしやすい。
「よし、次! 次の角を曲がって、すぐの所で鋭角ターンだ。気を付けろよ? 下手な減速は後ろから追突されるぞ」
「おうッ。……よし、今だっ!!」
アーサーはボルクのスピードを緩めず、角を曲がり切った瞬間に急加速してカーブを抜けた。
俺は、モルテの速度を更に加速させ、鋭角面ギリギリで宙返りを行うと、頂点部で体勢を戻し水平飛行に移行。
俗に言うインメルマンターンと呼ばれる空中戦闘機動を行い、回避しながら速度を上げた。
「おぉっ!? スゲェ! よくこんな曲芸紛いな事が出来るな」
「まぁ、伊達に鍛えてる訳じゃ無いさ」
そうして、その後も次々と襲い掛かる障害を突破していった。
途中、他クラスの召喚獣が、コースから外れた所にある谷底へ落下していくのが見えた。
恐らく、契約者の操作ミスだろう。
しかし、そんな姿を余所に俺達は一周目を翔け抜け、二周目に入った。
そして、二週目の終わり辺りに差し掛かった時、遂にその時が来た。
「──おい、あいつら凄くないか?」
「ん?……本当だ。1年だろ? 他の上級生と同じかそれより速いなんて」
俺達の事を見て驚いている者達がいた。
それもその筈、俺は一周目で大凡のトラップエリアを把握した為、速度を落とす事無く突き進み、モルテの動体視力と機動力で的確に障害物を回避しているのだから。
アーサーに至っては、ボルクの速度と防御力、攻撃の3点で物ともしない走行をしていた。
さながら空飛ぶ戦車とでも言えば良いのだろうか?
この光景は、他の生徒達にとっても異質に映ったのだろう。
何時の間にかコースに残っている1年は、俺とアーサーだけになっていた。
「このまま突っ切るぞ」
「任せろ」
「──グエェェェッ」
俺達は最後の直線コースを走り、ゴールへと向かう。
そして、ゴールした時間を確認すると、僅か5秒の差だった。
このタイムは、事前に計測していた生徒のタイムと比べても大差は無い結果だった。
「やったなルーク!」
「あぁ、まぁ、初めてのコースならこんなもんでしょ?」
実際、流しの時間を含めてこの時間なのだから、最初から飛ばせばこのタイムより速くゴール出来たかもしれない。
そう思うと、このタイムは満足するべきタイムなのだろうと実感した。そして、観客席にいるサディア先生がコースに下りて来て、俺達の元にやって来た。
「見事だったぞ。特にアーサーはボルクとの息が合っていた」
「ウッス、ありがとうございます!!」
「それとルーク、君の見せたあのターンは何だ? 速度が落ちること無く加速までしていたが、一体どうなっているんだ?」
「えっと、それは……、モルテの機動力を最大限に活かしただけです」
「ほぅ……。君はどの分野でも中々面白い技術を持っているようだな」
「いえ、偶々上手く行っただけですから」
「それでもだ。あの様な技術を持つ者はそうはいないだろう」
明らかに俺の言葉を鵜呑みにしていないのが口元の動きで察せられるが、恐らくそれも此方に対するカマなのだろう。
「…………」
「それに、アーサーも良くやっている。ボルクは頑丈で力もあるが、アーサーがしっかり乗りこなしている証拠だ」
「はい! ありがとうございます!!」
俺の場合は前世の知識を活かしただけだし、アーサー達の様な防御力と攻撃を持っていないからこそ機動力を選んだだけだ。
サディア先生もそこをしっかりと見てくれているのが分かったからこそ、アーサーは褒められて嬉しそうだ。
「そろそろ授業も終わりだ。そのまま技術と信頼を重ねてレースに望むと良い。今日はもう終わりなのだろう?」
「はい」
「分かりました」
サディア先生は、次の生徒に声を掛けに行く様で、俺達はそのままコースから学院に戻った。
「さて、これからどうしようかな……」
「あ! そうだ、俺この後ちょっと用事があるから先に行くぜ」
「あぁ、了解」
俺はアーサーと別れ、残りの授業を確認しながら一度教室に戻るのだった。




