トラブル発生
お茶を一口含み、バーゼルシュタイン卿はポツリポツリとヴリトラールから聞いた内容を思い出しながら話し始めた。
「あの日、息子が何故森に向かったかだが、どうやら何処かで繁殖地とされている場所を書いた紙を手に入れたらしい。問題なのは、誰が書いたものなのかだが、いつの間にか持っていたという話しか聞けていない」
「そうですか……。ところで、貴方の息子さんが持っている紙を見せて貰うことは出来ますか?」
「あぁ、構わないが、何に使うつもりなんだね?」
「少し気になる事がありますので、見せて下さい。それと心当たりのある人物は居ますか?例えば、何処かの貴族の関係者など」
「何故そう思うんだね?」
「コカトリスが生息する場所は、人の手が余り入らない森の奥か、山岳地帯だけです。つまり、誰かが意図的にコカトリスの生息地に、コカトリスを変異させる為の何かを仕掛けたか、何処かで召喚して契約解除したかというのが私と討伐に行った者のの見立てです」
「……心当たりはある…だが、あり過ぎて判断出来ないというのが私の答えだ。我が家紋は死霊術師としての力と、敵対した者の命で作られたものだ。それこそ何世代も前の当主から受け継がれた戦士も居る。その中には、当然国内の者も居る……その血縁である者達からの恨みはかなりの物だろうな」
「なるほど……」
死霊術師として恐れられるのも分かるが、当然、それと同等かそれ以上の恨みも買う訳だ。しかし、彼の言い方だと、どうやら国内だけの話ではないようだ。
「もし人為的なものであれば、今回の事は、国内の貴族であれば国に対しての反逆とも取れる。国外ならば宣戦布告とも言える事だ。恐らくは、それ程の覚悟を持って挑んでくるであろう」
「……そうですね」
宮廷魔術師筆頭であり、それなりの地位を持つ者の子供を狙ったとすれば、
それはもう国賊判定の報復対象になるという事だろう。
「一応お聞きしますが、まだ狙われる可能性は考えていますか?」
「勿論だ。だが、息子の事は反抗期なのもあって、死霊術師としては諦めていた部分もある。拙いながら苦手な調合を覚え、あそこまで成長しているのなら、そう簡単に此方が手出しすることは難しいからな。だからこそ、ある程度の自由を許していたが、それがこんな事になるとは思わなかったよ」
「彼の今後はどうされるのですか?」
「あぁ、心配しなくてもいい。こちらで預かる。親がどうこう言って、本人が納得する訳では無いからな。むしろ余計に反発されそうだがね」
「そうですか。良かった」
「君は優しいのだな。わざわざ、この為だけにここまで来てくれたのか?」
「まぁ、作った手前というやつです。それに、一応彼には霊薬学のパートナーをしてもらわなきゃ私の単位が無くなりますからね」
「……ふふっ、そうだったな、未だ学生の身なのだとつい忘れてしまうよ…今回の礼としては大した物じゃないかもしれないが、ルーク卿にはコレを渡すよ」
バーゼルシュタイン卿はベルを鳴らし、一人の若い執事がやって来ると、何かの書類を受け取り俺に渡してきた。
「これは?」
「死霊術師バーゼルシュタイン家、その歴代当主が行使する秘技を記した物だ。役に立つかどうかは分からないが、何かの役に立ててくれ」
「……分かりました。有難く頂戴致します」
「さて、そろそろ時間だ。私はこれで失礼させて貰おう。不出来な息子だが、宜しく頼むよ」
「はい。出来る限り頑張ります」
最後に握手を交わし、バーゼルシュタイン卿は部屋を出て行った。
応接室を出る際に、他の人達からもお礼の言葉を言われたのには驚いたが、それだけ二人が好かれているという事なのだろう。
俺はそのまま自身の屋敷に戻り、その日はそれで幕を閉じた。
───となれば良かったのだが、そういう事にならなかった。
屋敷に戻る途中、一匹の黒猫が俺の前を横切り、細い通路に姿を消した。
その猫を追って路地裏に入った途端、俺を取り囲むように数人の男達が現れた。
「おい、お前!ルーク・フォン・アマルガムだナ?」
「えぇ、そうですよ」
「じゃあ、やっぱりあの情報は本当なんだな」
「どの情報かは知りませんが、私がルークであることは間違いありませんよ」
「そうか。そうかそうか」
リーダー格らしき男が、薄気味悪い笑みを浮かべながら此方に近付いて来ると、手に持った短剣をチラつかせて言った。
「てめーの首を土産にしてやるよ!」
「おっと……それは困りますね」
いきなり切りかかってきたので、バックステップで距離を取り、相手の出方を伺う。
「はん、余裕ぶってんじゃねぇぞ、クソガキが!」
「そんなつもりはないんですが、どうしたら信じて貰えるでしょうか?」
「信じる?あぁ、そうか。てめーはバカだから知らないんだろうが、この世の中にはなぁ、依頼で貴族様を殺したら、罪にも問われないで褒美が貰えるんだよ。てめーの首を差し出したら、一体どんな報酬が貰えるか楽しみだぜ」
どうやら、何処ぞの誰かからの依頼を受けた殺し屋集団のようだ。
確かにそういった依頼を貴族が出して、対象を殺せば、罪に問われる事はまず無いだろう。
大半は揉み消す事が出来るから、依頼を出すのだから。
しかし、この男は一つだけ勘違いをしている。
「貴方が何処の誰なのかは興味がないので聞きません。目的はバーゼルシュタイン卿に繋がる貴族だから殺そうとしているのか、別の件で狙われたのでしょうか?」「……答えると思うカ?」
「別に構いません。私も貴方達の所属に興味は無いので…まぁ、死んでから調べればその方が楽ですからね」
「……舐めた口を利いてるんじゃねェぞ!!」
話の途中で激昂した男の一人が、俺に向かって走り込んで来たので、懐から取り出した小瓶を投げつけると、それが割れ中に入っていた液体が顔にかかる。
「ぐぁあああっ!?」
すると突然悲鳴を上げ、その場でのたうち回る。
「毒薬か。何時の間に用意したのか知らんが、よくもまぁ簡単に使う気になったものだ」
「ちっ、畜生がぁぁっ!!てめぇ何しやがったぁっ!?」
残った二人も同じように苦しんでいるのを見て、慌てているが既に遅い。
「さっき投げたのは、俺の契約している魔蟲の毒液だ。最も、かなり薄めた物だがね……原液なら今頃は顔の骨すら溶かしている所さ」
俺の言葉を聞き、驚愕の表情をするがもう手遅れだ。
「残念だったな。お前らじゃあ俺には勝てないよ」
「確かにな、だが、コレならどうだ?」
そう言うとリーダー格の男は、麻袋を開いた。
「なっ……」
「へへ、驚いだろ。コイツがどうなっても良いのか? 別にオレは構わねぇケドな!!ギャハハッ」
中には子供が、手足を縛られ猿ぐつわをされていた。
問題なのは、それが知っている人物だという事だろう。
男の短剣はティルマン君の喉元に突き付けられていた。
「その子は?」
「お前には関係ないだろうがよォ」
「そうだな、だが、人質というのはどうかと思うぞ?」
「はん、口答えしてんじゃねェぞ!ガキの命が惜しけりゃ動くな」
そう言って、腰からナイフを取り出し、ゆっくりと近付いてくる。
眼の前には人質とリーダー格の男、背後と左右の路地には其々3人。
流石に本人かの確認は、この位置からだと難しい所だ。




