霊薬学のパートナーは問題児?
「それでじゃが、ルーク君の素質を考えれば、他の生徒と組んでも然程問題じゃ無いが、ティルマン君と組むのは少しばかり問題があると思うてな」
「成程、そういうことですか」
「……言わなくとも伝わる様で助かるが、あえて言うならば、出来過ぎるというのは悪い噂になるのぉ」
アル爺様の言いたい事は分かる。
余りにもレベルの高い者同士がペアになると、それだけ周囲と実力差が出来てしまうと言うことだ。
「そこでじゃが、ルーク君のパートナーとして相性が良さそうな者が居ての。適正的には何と言うべきかの……ルーク君が上を行き過ぎていて、彼は下を行くような子じゃが……根性だけならかなりの物だろう」
「……それは、つまり?」
「ルーク君が指導役となって、彼……ヴリトラール君を鍛えて欲しいのじゃよ。あの子は良い子に育ってくれると信じておるが、如何せん過度に自信が過ぎる。調子に乗りやすい。だからこそ、本物の実力者と対面せてやりたいと思っての。勿論、他にも色々と理由はあるがの……」
「……1つお尋ねしますが、ヴリトラール君の家名って、バーゼルシュタインではありませんか?」
「ほぅ、知っておったか。あの子が息子なんじゃよ」
「あぁ、成程……ありがとうございました」
どうやら俺の予想通りだったようだ。
「それでは、宜しく頼むぞ」
「はい、こちらこそ」
こうして、俺のパートナーが決まったのだった。
それから数日が経ち、ティルマン君とベロニカ嬢の二人は無事に課題をクリアした。
ベロニカ嬢は精霊の祝福を得て、ティルマン君に関しては、霊薬以外の生産系技能の習得に成功していた。
そして、この日がヴリトラール君との初顔合わせの日でもあった。
理由は単に彼の時間が合わなかったり、此方の都合が悪かったりという物で、今日に至るまで顔を会わせる機会が無かったのである。
まぁ、学園内を歩けばすれ違う事もあるが、顔が分からない相手に話しかけられるのも、恐怖というのもある。
ただ、アル爺様から「ヴリトラール君からルーク君に対して、とても大事な話しがある」とだけ言われていた。
そして、俺は通常授業の終わった放課後、霊薬学の前に初めてヴリトラール君と会った訳なのだが、彼は一言で言うなら"貴族らしくない貴族の子息"であった。
まず、容姿からして美少年と言って差し支えは無いのだが、その瞳には強い意思を感じる。
しかし、その服装はかなり奇抜な物で、錬金術の素材を入れるカプセルを手首に巻き、汚れても目立たない服装をする生徒が多い中、堂々と白衣を着ている点でかなりの変わり者だろう。
だが、その胸元にはしっかりと生徒の紋章が付けられている為、ここの学生であるのは間違い無い。
「やぁ、初めまして。私がヴリトラールだ」
「どうも、ルークだ。それで、俺に用があるみたいだけど、何なのかな?」
「うむ、そうだな……単刀直入に言おう。僕と勝負しろ!」
「は?」
いきなりの宣戦布告に思わず間の抜けた声が出てしまった。
それにしても、まさか初対面の人物に決闘を申し込まれるとは思っていなかった。
「えっと……何故、俺に?」
「決まっている! 僕はお前が気に入らないからだ!! 錬金術師として優秀だとか、英雄だとか言われてるけど、チョット人よりも優れただけの 男だろ? そんな奴に負けるとは微塵も思ってないが、まぐれで勝ったなんて思われるのは心外だからな!!」
成程、成程。
要するに、自分の力を証明したいと。
確かに、アル爺様の見立て通りに限りなく才能には恵まれてはいる。
けれど、それを磨く努力をしていない。
自身の不得手を磨くばかりで、ただの宝の持ち腐れ。
さぞかしバーゼルシュタイン卿は、優秀な死霊術師としての教育をしたがった事だろう。
「ふむ、話は分かったが、勝負の内容は何だい? まさか剣やら魔術ってワケにも行かないだろう?」
「ふん、簡単だよ。僕は霊薬学の授業が終わったら、錬金術に必要な素材を集めるつもりだ。お前には、その品で作れるこの薬を作って貰う。数と質で勝負だ!!因みに、もし僕の勝利ならば、一つ願いを聞いて欲しい」
「ほう、内容にもよるね」
「勿論だ。君が勝てば、僕のできる範囲で君の要望に応えよう。だが、君が負けた場合は、僕の配下になって貰う!!」
「へぇ、随分と自信満々だねぇ。それは俺が勝つと確信できる根拠でもあるのかい?」
「当然だ。君がどれだけの事をしてきたのかは知らないが、所詮は田舎貴族の英雄だ。対して、僕はバーゼルシュタイン家の子息であり、死霊術師としても名高い家系だ。その僕が緻密な魔力操作で調合した薬が劣るハズが無い!! 期限は一週間後だ」
「成程、成程。それじゃあ、君の言う君の実力とやらを確かめさせて貰おうかな。俺が勝てたら、君には俺の言うことに従って貰うよ?」
「あぁ、良いだろう。ただし、こちらが勝った暁には、絶対に約束を守ってもらうからな!! ……まぁ、どうしてもと言うなら、霊薬学のパートナーはしてやるけど」
何故か勝負する事に成ったが、まぁ、良いだろう。
どの道、俺の薬の方が品質が良いのは分かりきっている。
それでは、早速、勝負と行こうじゃないか。
何故か、彼に対しての被虐心が沸々と湧いてくるが、恐らくこれは物珍しいからだろう。
それと父様に対しての侮辱発言も到底許せる物ではない。
それから、霊薬学の授業が終わりヴリトラール君は宣言通りに、素材集めに出掛けて行った。
その手際はどんな物か知らないが、俺は彼から受け取った薬品名を見て、思わず笑みを浮かべた。
「……面白い」
彼が俺に与えた用紙に記された薬品名は『解毒薬』。
しかも、俺が知る物の中でも上位に位置する珍しい品だ。
……問題は、彼が素材をどう用意するのかという所だが、本当に自身で採取出来るのだろうか?
用紙の最後に記された素材を見ながら、手持ちの素材を確認していくが、十二分に量はある。
素材を確認し終え教室に戻ると、教室が少し騒がしかった。
そこには、何故かヴリトラール君の姿があり、俺が教室に入ると彼が口を開いた。
「それでは、一週間後にバーゼルシュタイン家にて、薬の出来を比較するからな!!精々、無駄な足掻きをすると良い。この天才の僕が君より劣っているはずがないんだからな!! ふははっはは!!!!」
そう言い残し、彼は笑いながら去って行く。
彼の後ろ姿を見送った俺は、ゆっくりと自身の席の背もたれに体重を掛けた。
何故なら、彼は気付いていないのだ。
自分が用意するべき素材が何処で採れる物なのかを……。
その事に思い至り、彼の無知さを嘲るように鼻で笑うのだった。




