選択科目とスライム煉瓦
悩むのは、結局のところ卒業までの間にどの技能スキルを取るのかに要約される。
学生手帳に記載された説明には、選択科目は2つ以上であれば何個受けても構わないとされていた。選択科目は一般科目が終わってから行われるとからだ。
逆に言えば、平日の5日間内に最低2つは受けねばならないのだが、問題は選択科目の行われる時間だった。
例えば、オリビアの選んだ地質学と魔獣学は、同じ時間帯に授業が在るため、日をずらす必要がある。
逆にアーサーの選んだ魔工技術師と魔力制御の科目は、魔力制御の後に魔工技術師の科目が行われる為、そのまま1日で行うことも出来るし、分けて行うことも出来るのだ。
(ただ、開拓の事を考えるとなぁ……)
まとめて行える科目だと、欲しい技能スキルが手に入らない、かといって欲しい技能スキルを得る為にバラバラに受けると開拓する時間が取れるかわからないのだ。
今欲しいスキルは、【特殊加工職人】の技能スキル。これは加工職人の科目を受けて、上位の科目に行けば得られる【魔金属加工職人】と【魔結晶加工職人】の二つを得た上で、漸く得られるのだが、どちらも難しく時間がかかる。
下手をすれば習得が卒業ギリギリになる計算だ。
他にも気になるスキルは在るが、そちらを選ぶと、開拓に掛ける時間が本当に足りなくなりそうだった。
「ルーク、どうしたの?」
「何か悩み事かしらぁ?」
「難しそうな顔してるね?」
「きっと、この後の事を考えているのですわ。きっと」
婚約者達も話しているが、この後王城に向かい、ジークリッドさんに報告と、レイさんに発注する資材の確認も残っていた。
ソドムさんの所には、カルロさんとルーチェを一度連れて行く必要もあるので、かなり予定が詰まっている。
俺は、結局当初の予定通り、特殊加工職人の技能スキルを得る方向で、【加工職人】【薬品学】を記載し用紙を提出した。
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【ドラムシアス学院 DSクラス オーレルカ視点】
「流石に貴族科の子供は、選ぶ科目が多いというのに提出が早いですね……おや?」
今日提出された選択科目を仕分けしていると、気になる科目の選び方をしている生徒を見つけた。……彼だルーク・フォン・アマルガム子爵。
今は学生なので、学院の規則に添えば、子爵と呼ばなくても良いとなっているが、規格外な子だ。
選択科目は一般科目の後に行われる為、複数選ぶ子もいれば、最低数で終わらせる子もいる。
ただし、大体の生徒は自分の進む道にあわせて、【錬金術】と【薬品学】や【細工職人】と【商人】等の関連性が高い物を選ぶ傾向があった。
「加工職人と薬品学ねぇ? 錬金術のスキルを持っているから、薬品学は分からなくはないですが……加工職人は、興味本意で入れたのか……なにか起きそうな予感がしますねぇ。一応、担当教師に伝えるだけしておきますか」
オーレルカは呟きながら、加工職人の担当教師に伝えに行くのだった。
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【王城 応接間】
「現状は、瘴気の除去が必要な為、南東の集落は現在解放が難しいです。そこで、北東の【鬼神の郷】と北西の【妖精の大樹】、エルダードワーフ達の住む【シュルフェーレ】が位置的に開拓可能な場所になります……当然、試練を合格してからですが」
「成る程、わかった。霊域の集落までの道は終わりそうかい?」
「はい、現在進行中ですが、既に全体の半分程、道は出来ています。路面に関しては煉瓦を並べ、煉瓦の並べた継ぎ目から、排水用の溝に雨水を流す造りにしていますので、水溜まりも出来難いようにしているところです」
「確か火山灰とスライムゼリーを大量に使った新しい煉瓦だったかな?」
「はい、スライムゼリーの特性を持たせた煉瓦です。撥水効果を持つスライムゼリーを火山灰と合わせて固形化し焼き固めた物で、修復も同じ物を入れ換えるだけで容易に出来るようにしています。対荷重や走破性も実験しながらですが、大型の馬車や地竜種を歩かせています。結果として今の所、火山灰とスライムゼリーの配合率を4対6の割合で錬成する事で、撥水能力、強度共に問題ありません」
この世界の舗装は、石畳舗装が多く耐久力は高いのだが、修繕する際には採石場から切り出して加工する必要があり、大きさによっては時間がかかる事もある。
そこで、石材と同じ様に扱える素材を試して見ることにしたのだが、スライムのドロップ品が役にたつとは思わなかった。
初めは、普通の石畳舗装にしようかと思っていたのだが、石畳の枚数や無名の地の大きさがそれなりに大きいため、路面確保の石材がどれだけ必要になるか分かりにくい事と、確保出来ないときの代用品という形で作成を始めた。
だが、素材の面で行き詰まり、悩んでいた所にエリーゼがやって来て話をしていた時に「香油を抜き取るのとは逆だね? スライムゼリーなら油だけ抜き取るから、水だけ抜き取るのは難しいなぁ」その一言で思い付いたのが、スライム煉瓦だった。
スライムゼリーの撥水性能は、薄く伸ばす事で香油や着色料を抽出するのに適すが、水に対してはどう加工しても全くと言って良いほど通さない。そこに、火山灰を混ぜる事でコンクリートの様な形状固定の粘液が出来上がったのだが、中々使い勝手が良い。作成までにかなり失敗作も多かったが……。
「もし、上手く行けば鋪装も楽になるだろうな、切り出す手間も要らなくなるか……ここだけの話、既に採石場も殆ど機能してないから此方としては正直な所助かる」
「一応エリーゼが確めてくれましたが、レシピを見ながらであれば、錬金術師で無くとも作成可能な物ですから、其なりに雇用にも繋がります」
「それも考えていた。その技術だが……」
「既にレシピは錬金術ギルドにエリーゼの名義で登録してもらったので、近い内に販売もされますよ」
実際に作るテストピースは殆どエリーゼが引き受けてくれたので、(その代わりエリーゼの欲しい素材を何度かダンジョンに採りに行ったが)レシピの配合率を書いた後に署名欄をエリーゼと俺の連名で出しておいた。
「そうか、冒険者ギルドもスライム討伐に向かう新米冒険者が増えたから、下水道の掃除も今じゃ人気のクエストらしいからなぁ」
下水道の掃除は、駆け出し冒険者のクエストとしては人気が無いが、他のクエストもマウス系統やスライム、アメーバ種の魔物が大半の為、武器の消耗が激しい人気の無いクエストの1つだった。その為、懸賞金を高めに設定したのだが、それが逆転したようだ。
「それではこの後、ソドム様の所に向かうので、これで失礼します」
「あぁ、ソドムには迷惑かけたからなぁ。ついでにコレを持って行ってくれないか?」
「わかりました。また何かありましたら報告しますね」
「うむ、頼んだよ」
ジークリッドさんから、ソドムさん宛の封書を預り、ダムシアンの外壁に移動したのだが、かなり騒がしい様だ。……何かあったのだろうか?




