ソドム様と待ち時間
「お待たせしました。ソドム様」
「構わぬよ、儂も良い買い物が出来た。それでは行くとしようかのぅ。ルーチェ嬢も連れていくんかのぅ?」
「そのつもりです」
「なら暫し待つとしようか、女の準備は時間が必要じゃからのぅ。待っとる間に、1つ手合わせ願おうか?」
商会の商談室に戻った俺は、ソドム様と共にルーチェの用意を待っていたが、ただじっと待つのも暇になる。
恐らくあの二人の事だから、更に着飾りなんやかんやと用意もしていることだろう。
そんな考えをする二人が居れば、自然と足を運ぶのは、身体を動かす事の出来る場所になってくるワケで、俺とソドム様は、サンバリューさんに運動場の使用許可を貰って移動してた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「取り敢えず、素手喧嘩で良いかのぅ?」
「魔術は身体強化のみで、他の攻撃魔術は禁止でしますか?」
「そうじゃのぅ。 まぁ肩慣らし程度に抑えるとしようか、身体強化のみではつまらんしのぅ」
到着した運動場はそれなりに広いが、俺の魔術を繰り出せるほどの耐久性は無さそうだし、直すのが大変になりそうというのもあった。
素手の対戦は、ダリウス相手に訓練しているが、ソドム様もかなりの技術を持っているので、安心して力が出せる。
互いに構えて、出方を見ながら息を整えた。
「それでは始めるか、ルーク君……手加減は要らぬぞ、打って来るがえぇ!!」
「わかりました。━━━ヤッ、セイッ!!」
「フム、やはり打点に容赦がないのぅ」
懐に潜り込み、肘打ちと鳩尾への打撃を流れで放つが、手の甲で流されたまま、手首を絡め取られた。
そのままでは、関節を極める流に成りそうだったので、掴まれた手を開き握られた手首と手に隙間を作ると、肘と肘を近付ける様にテコの原理を使い抜け出る。
「━━シッ!!」
「━━ムッ!」
更に奥に潜り込み、懐から掌打と膝打ちを仕掛ける。
力は流石に負けるが、素早さと小回りならこちらの方が上だ。
だが動きで次の動作を読む様な相手には、当然膝打ちまで防がれる。━━そこまでは想定内だ。
こちらの打点が低い位置から打っているため、防ぎ方も、流すか躱すか止めるかのどれかになるが、要は自分がして欲しい様に誘導すれば良い。
「うぉっと!!」
顎へと伸びた掌打と防がれた筈の膝は、陽炎の様に揺らぎ消え、軸足にしていた左膝の裏側へと足払いをかけていた。
ソドムは足払いを受けるが、自らの跳び跳ねる様にして空中で回り、ルークから距離を取ると、先程の消えた掌打と膝を止めた箇所を見る。
「幻覚か?……しかし感覚もあったのぅ」
「『幻覚』のスキルはまだ持ってませんけど、『囮』の魔術を応用すれば、フェイントの替わりにもなります。戦闘用じゃない魔術の応用も、格上の相手なら多少は騙せますからね」
「しかし、それをバラしても良かったのかのぅ?」
「こんな子供騙し、何度も効かないでしょう?」
こちらの攻めは終わった。ソドム様の構えが変わり、守りから攻撃に移るのだ。
「フム、なら儂も1つ手を見せるとしようかのぅ?」
二階部分をチラリと見上げたと思えば、ソドム様の圧がより重苦しものに変わる。
「儂の秘技の1つじゃが、見ても真似は出来まいよ」
歩き始めたと思った矢先、何故か俺の視界は空を見ていた。
何が起きたのか全く分からない。
手足の感覚と身体の反応が掴めずにいた。
「ソドム様…」
「ほう、未だ喋る事は出来たか。割りと強めにかけたんじゃがのぅ」
その瞳は、オニキスよりも黒く前に黒龍オルクスの塒に行った時に見た暗闇よりも暗い黒だった。
「魔眼と呼ばれる物を知っておるかのぅ? これは対象の意識を操る魔眼『ゴアプの魔眼』というスキルらしい。儂も詳しくは知らんが、昔に攻略した迷宮で手に入れたモノじゃ」
スゥーと瞳の色が元に戻り、何時もの笑顔に戻っていた。
「魔眼はダンジョンの攻略報酬で、時折得られる物らしいが、遺伝する事も有ると言われておるのでな、お主にも体感してもらうことにしたのじゃ」
「かなり強力な物ですけど、害はないのですか?」
「ちと見た目が恐くなる以外は無いのぅ。さて用意が済んだ様じゃ、戻ろうか」
その声に振り替えると、フューネさんがニコニコしながら、俺達の方を見ていた。
「いやぁ、久しぶりにソドム様の魔眼を見たワ。相変わらず恐ろしいスキルよネ~」
「人に使うよりも、魔物や魔獣に使う方が多いからのぅ。そう人目につかんだけじゃわい」
移動しながら、先程の話を聞いて思ったが、ルーチェの暗殺者のスキルや魔眼のスキル等、創造で作製出来ないかと思案し始めた頃、目的の扉に到着したようだ。
「ここからは、ルーク様お一人でお願いしますワネ」
「分かった」
「ソドム様は此方にどうぞ、先程のネックレスの調整を行いますワ」
二人は、そのまま通路を歩き曲がって行った。
俺はノックを行い返事を待つ。
「はい、どうぞ」
返事が返ってきたので、扉を開けると、その部屋は他の部屋とは違い、大きなベッドとシャワー室が有る生活用の部屋で、中心にルーチェが居た。
「本日よりルーク様の奴隷となりました……ルーチェです。宜しくお願い致します」
その姿は、良い所のお嬢様……と言うよりは、忍び装束と言うような服装だったのが少し笑えるが。
「だから言ったジャナイノ! こっちのドレスの方が可愛いからって」
「そんなフリフリアタシが着るわけ無いだろう? 第一、アタシが着たって似合わない」
サンバリューさんは、薄い水色のフリルが付いたドレスを片手に、様々な装飾品の箱を広げていた。
「似合わない事はないでしょ? 猫人族が同族で評価する外見的特徴のネコミミと尻尾は、一目見ても毛並みが綺麗な物だとわかるよ、俺も触りたい位だし。それにルーチェは顔立ちも整ってるし、鈍色の髪も綺麗じゃないか」
「……~~あぁ、もうっ! サンバリュー!!」
「諦めなさい。この子、本気で言ってるカラ。ルーク子爵様に1つ言わせて貰いますワ……不用意に女を口説くと痛い目見るワヨ」
「あれ? 今の所どこら辺で、口説いてたっけ?
ただ客観的に見て、火傷跡が酷かったから消したら、綺麗な顔が出てきただけだし、それを本人が否定したから、事実を述べただけだよね?」
ルーチェを見ると、顔を伏せてこちらを見なくなっていたけど、なんかマズった?
確か同族同士で褒めるのは、求愛の証だけど、多種族から褒められるのは当たらない筈だ。
「良く勉強してるケド、獣人族の殆どは、ミミと尻尾を触れるのは、夫婦や親しい間の者が出来る事ヨ。その辺は学院とかでも習うと思うケド」
「つまり、触りたくなるってのは?」
「ソウヨ、求愛してるのと同じネ。リーフィアちゃんは、教えなかったのかしら?」
呆れた様なサンバリューさんの声は、俺の知らない事実を物語っていた。




