ソドム様の用事は?
━━━ルーチェ
新しい主人からアタシの名が、初めて呼ばれた。
古い言葉で光を意味する言葉だ。
スキルに目をつけられ、孤児院から奴隷商の暗殺者として、闇に生きたアタシには似合わない名だ。
でも、新しい主人が、アタシよりも子供の主人が、手紙を見て呼んだ名だ……不思議と嫌じゃなかった。
緋緋色金の拷問首輪が、外れる可能性を持つこの男の子に賭けようと思った矢先、身体の傷が全て消え去り、その上、自分の親を知る大公に会うわ、いきなり宰相の娘とか言われるわで訳が分からない事に成ったが、貴族になる気は更々無い。
「アタシの名はルーチェ。新たな主人はなんと呼べば?」
緋緋色金を知っている様だが、まだ子供だ。気長に付き合うとしよう。
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「お話の内容はともかく、奴隷紋を刻む準備は出来たワ。この娘は犯罪奴隷として既に登録されてますから、ソドム様が睨んでもどうしようも無いワ。そしてこれが契約書ヨ」
サンバリューさんの手には、『ルーチェ』と書き加えられた契約書が握られており、サンバリューさんの名前も奴隷商人の欄に記入されていた。
金額も、大金貨2枚と金貨8枚の記載がされており、俺はギルドからの引き落としにチェックをして名前を記入してサンバリューさんに渡す。
「これでこの娘は貴方の好きにして良いわヨ」
取り敢えず、犯罪奴隷としての契約を終え、好きにして良い許可も出たから、ここからが本題だ。
「貴族号を含めて名乗ると、ルーク・フォン・アマルガム子爵だ。好きに呼んでくれて構わない。先ずは首輪からだな」
『アポーツ』で緋緋色金の含まれた首輪を取り寄せ外すと、そのまま首輪から『抽出』と『再錬成』を用いて、小指の爪程度の大きさではあるが、純度100%の緋緋色金を取り出した。
他の成分で使えそうな物は特に無いので、首輪を1つの金属玉に形成してアクセサリーの素材用として異空間収納に入れておく。
「えっ!? 首輪……」
「ルーチェちゃん。諦めなさい……貴女の新しい主人は、色々と規格外だからネ」
何か言われているが、気にせず進めよう。
「サンバリューさん。奴隷契約の破棄は、今行うと契約解除後に鉱山とかに行くことになるの?」
「一応、直後の契約解除や破棄は出来なくは無いケド、窃盗や暴行の犯罪奴隷だと最低3~5年契約はしておかないと調べられた時に面倒ヨ。ついでに言えば、人を殺めた犯罪奴隷は基本的に解除されることは無いワ」
「ありがとう。なら犯罪奴隷は解除出来るんだね?」
「余りオススメはしないワ」
流石に今すぐ解除しようとは思ってない。
解除するにしても、した後の事を決めないとどうしようもないからね。
一応、渚以外にメイドを雇う予定ではあったから、事後承諾になるけどお願いしておこう。
………所で、ソドム様は何故ここに来たのだろうか?
「さて、それでは儂の用事に移っても良かろうか? とは言えそう大した事ではないがのぅ」
考えている事が分かるのか? と思えるタイミングで、ソドム様が声をかけてきた。
「フューネさん。お酒とおつまみセットに、ハンドクリームを大金貨一枚分、適当に箱詰めお願いします」
「分かったワ 今後ともご贔屓宜しくお願いします。ルーク子爵様、良ければこの部屋を引き続きお使いくだサイ。私達は引き上げますので……この娘の着替えもあるからネ」
そう言うと、ルーチェを連れて二人は部屋を後にした。
残されたのは、俺とソドム様だけだ。
「ルーク君や、お主の家族を連れてダムシアンに顔を出して欲しいんじゃよ。儂としては、もうちっと、婚約者の両親と親として、交流しておきたいと思ってのぅ」
「わかりました。いつ頃が良いですか?」
「今日ダムシアンに帰るでな、ついでにこのまま、お主の転移先を増やしておこうかとも思っておるんじゃよ。まぁそちらの都合もあるじゃろうからご両親を連れてくるのは何時でも良い。」
「それでは、よろしくお願いします。……そうだ、リーフィアにもお土産持っていかないと」
獣公国には、近く行くつもりで居たが、思わぬチャンスが訪れたと言った所か渡りに船と言うべきか。
「ホッホッ、リーフィアも喜ぶじゃろうて」
「取り敢えず、リーフィアの好きそうなお菓子と飲み物を買って来ます。どこかで待ち合わせをしますか?」
「いや、儂もここで買い物をしてから戻るつもりじゃったから、ここで待っておるよ」
馬車で来ているとは言え、公国の大公様が1人で居ても良い店なんて限られてる。
その言葉を聞いて、俺は直ぐに目的の店に向かうことにした。
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「さて、ルーク君も行ったみたいじゃし、儂も買い物をするとしようかのぅ? サンバリューさんや?」
ルークが商談室から出ていき、ソドムは一息入れながら何もない空間に話しかける。
「大公様に呼ばれては仕方無いわネ」
「ルーチェの居た孤児院を荒らしたのは、同じヤツかのぉ?」
「そうですワ、同じ魔剣を所持していたそうヨ最も、自らの意識を持ったまま行動したらしいですけどネ」
サンバリューとソドムの顔には、何の表情も浮かんでいないが、話は進む。
「カルロの情報は未だ入らぬか?」
「そっちは残念ながら、でも私も驚きましたワ。まさかグラファス家の対象組織がここまで大きな物だとは思わなかったですかラ」
「表立っては打ち切っておったが、ルーク君が絡むと思いの外、良し悪し関係無く進むのぅ」
本当に変わった子供だ。そう思う表情をしながら、ソドムは手頃なサイズの宝石が付いたネックレスを手に取ると、書いてある値段の白金貨2枚を渡して、箱に入れる。
「引き続きカルロと魔剣の情報を頼むぞ?」
「これからもご贔屓にお願いしますワ。大公様」
(これで儂の憂いも無くなれば良いのじゃが、どうなるかのぅ?)
妻へのプレゼントを買って、ルークの帰りを待つソドムの顔には、何時もの笑顔の様に細められた目が戻っていた。




