暗殺者の名無し娘
俺はこの娘を、どうしたものかと考えあぐねていた。
富岳の身体を造るのに、別の魔力を持たせた魔導鎧を作成しようとした矢先、足りない素材を求めた結果が、何故か女の子の暗殺者(犯罪奴隷)を買うか買わないかとなっている。
「この娘、前の契約者が違法奴隷を売る貴族デネ、その貴族の護衛と逃亡奴隷の始末を請け負う奴隷だったんだけど、その貴族をどうやったか分からないけど始末したらしいのヨ。それで逃げて倒れていた所を、ウチの若いのが取引の帰りに見つけて、先週から特例でようやく商品兼リハビリとして在籍してるのヨ」
「……よし、分かった。それでは質問をします。それに答えて下さい」
可哀想ではあるが、案内された所にまともな緋緋色金が残っているとは考えにくい。
あったとしても劣化していれば、再錬成をするが、してどれだけの量になるのか分からない以上メリットが薄いので、自分の売り込みをしてもらう事にした。
「貴女を買って、俺にどんなメリット、つまり利益が在りますか? 緋緋色金の場所意外で答えて下さい」
「……アタシは暗殺者で、毒物が効かない身体になってる、毒薬も暗殺術の一つで作ることができる。後は暗闇でも良く見えるから夜間の見張りが出来る。苦手な事は着飾る事……です」
毒薬の調合は俺には出来無い事だが、必要性も感じない。
そもそも渚や桂花が毒を扱う為、ある程度用意出来る。
夜間の館内の見廻りなら三騎士の仕事として割り振っているから特にしてもらう事が無い。
「暗殺術を他の人に教えることは出来るかい? 若しくは他人が会得する事はどうかな?」
「……アタシの教えられた物で良ければ、教えることは出来る。会得は人によるから分からない」
もし雇うのならばメリットになる物は、暗殺術のスキル継承、若しくは会得のどちらかが出来る可能性だ。
過程がある複合スキルならば、仮に対敵した場合に解析がしやすくなるし、知らないスキルが含まれていればそれに警戒を行えるからな。
「今見せてもらうことは出来る?」
「……分かった」
「嘘、あの娘消えた!?」
「落ち着きなさいサンバリュー、きちんと居るワ。ワタシも姿が分からないケド、気配は何とか分かるワ」
名無しの娘は、気配を消して目の前からも姿が消える。━━━成る程、足音もそうだが呼吸音すら聴こえない。
「潜伏マスターの中に姿を消すスキルが含まれているのに加えて、消音のスキルの併用と言った所か……ここにナイフかペンでもあれば、首をやれたろうね? 先ずは顔と筋力を戻すのが先かなぁ」
「「「!?」」」
俺は緋緋色金の魔力で探知していたから、何とか動きは分かった。
悔しい事に、彼女の魔力には反応しなかったので、覚えたばかりの魔力を使わせてもらったが……成る程、暗殺術これは中々有用なスキルのようだ。
「二人ともこの娘と契約します。後はその前にやることしないとな『復元』」
依然として姿が見えない彼女の腕を取り、引き寄せる。
ここに来たのは最近だと言っていたが、恐らく逃げ出す前から、まともな食事をしていないのだろう、その腕は余りにも細すぎた。
「えっ!? アタシの身体が……」
「あぁ、元に戻したよ。顔の火傷も消したし、傷も残って無い筈だ」
「ルークちゃん、貴方自分が何をしたか分かってるの!?」
「聖属性の上位治療魔術ですよ?」
『復元』で傷や火傷と落ちた筋力を元に戻したのだが、何か問題があったのだろうか?
「そこは問題ないわヨ。ここで治療しなかった物を治した事が問題なのヨ!!」
「商品としても扱うのには、最低限の知識や作法を教えたり、怪我の治療を行う義務が有るノ。でもね、殺人を犯した結果で成った犯罪奴隷はそれに当たらないのヨ……法律上、本当に危ない犯罪奴隷の場合、能力を封じる事もするくらいにはネ」
「でも彼女は元が違法奴隷で、悪い貴族を始末した結果の犯罪奴隷ですよね?」
「過程だけ見ればそうだけど、殺人だけでも違法奴隷の時にかなりの数をこなしてるから、これでも減刑して、契約可能な犯罪奴隷になったのよ? これは過程ではなく、結果のお話なのヨ。世知辛いけどネ」
フューネさん達も思うところは有るようだが、流石に女の子の顔に目立つ火傷跡が有るのは良くないだろうと思った行動が良くなかったらしい。
「……まぁ良いワ、どうせその娘引き取り手が無ければ、鉱山行きか開拓地に宛がわれるだけだったから。貴方に引き取られた方が良いと思ってたしネ」
「それはどういう事で?」
「ルーク君にはまだ早いと思うケド、年端もいかない娘でも、女として見る屑が居るって事ヨ」
特殊性癖な方々は、どの世界にも居るんだね。
俺は転生してから婚約者が出来たけど、そう言った趣味は持ってなかったし、けっこう彼女達に抱いている感情は本気だと思う。
カミナからも、精神が前世より少しだけ身体に引っ張られているのから注意しろと言われていたしね。
「後は、最近は偽造証明が多くてネ、中には冒険者のランクを偽る物まで出回ってる始末なのヨ。そっちはユスター洞窟でルークちゃんが捕まえた自称Aランク冒険者から発覚したことだけどネ」
「そんな事在りましたね。偽のAランク冒険者だったんですか?」
確か、Aランクを盾に新人のお姉さん二人とカミナに迫った三人組が居たっけ?
「正確には、素行の悪さでチームから追放された元Aランクの盾役が1人居たけど、残りは雑魚も良いところね。リーダー格の男が、この娘の居た奴隷商貴族と繋がってたのも在って、その話から向かった先でバラバラの遺体と血の臭いが積まれていたケド、捕まっていた奴隷は皆逃げた跡だった。って話ヨ」
サンバリューさんは話しながら、契約書に記載をしていたが、話し終わるとその契約書に印を押して、俺に差し出す。
「さて、犯罪奴隷との契約だケド、文字通り罪人が成る奴隷、その罪次第では人権も無いワ。それが犯罪奴隷ネ」
「はい」
「先ずは、購入後に奴隷が犯した罪は、主人の罪にも成る事。当人、若しくは主人が死んだ場合か、望んだ場合に奴隷契約が無くなるから、そこは注意してネ? 次に、犯罪奴隷と性奴隷は隷属印……奴隷紋と呼ばれる物を身体に刻むケド、手の甲で良いカシラ?」
「……構わない」
「最後に、名前を登録して終了だケド、この娘の名前が無いから、決めてもらえると助かるワ」
名前かぁ、ペット感覚で名付けるのは簡単だけど、そういうのは駄目だよなぁ。
「すまぬが、この部屋にルーク君は居るかのぅ」
名前を考えていると、知っている声が扉の前から聞こえてきた。それは、先程まで会っていたソドム様の声だった。




