ティアの試練
「それでは改めまして、ようこそいらっしゃいました。この『霊域の集落』を守護する天護りティア・ラビエル。見ての通り、人に味方した半堕天使です」
「半堕天使とは?」
「女神ベルフォートから産まれ、女神エウリシアの元に集った天使の事です。天使としての神性は逆転していませんが、反旗を掲げた時点で、堕天使と同じ状態になりエウリシア神の神性を受け入れ今の姿に成りました。人の歴史に書かれている名は、守護天使でしたか」
元の主を裏切り、同一神でもあるエウリシアの力を受け入れて、堕天を防いだから半堕天使という事らしい。
「あぁ、そう言えば私の試練を伝えなければいけませんでしたね」
ふと思い出したかのように、ティアさんは呟き、ながら手帳を取り出した。
「そうですね、クインローゼリアの討伐もしてもらえましたし、毒沼も元の泉に戻すのはファナンにさせる予定でしたから、消える騎士達も貴方の騎士の仕業と報告も受けましたし、難しいですね」
「ティアっち、いっそのことアレで良くない?」
「貴女いつの間に帰って来たんですか? ですが……そうですね、悪くないですね」
ティアさんはファナンさんの言っていた『アレ』とやらを聞いた途端に、納得しながらテーブルに地図を広げ、数ヶ所にチェックを入れていく。
「ルーク君への試練は、この集落周辺の森『魔霊の森』で最近現れた魔物の討伐、もしくは捕獲をしてもらいます」
「その魔物とは何ですか?」
「報告内容から察するに、悪魔の武器ですね。恐らくですが、魔霊の森で亡くなった方の持ち物だと思われます」
「あぁ~、大事にしていた物に霊が宿るみたいな物ですか?」
「考えは似たような物ですが、どちらかと言えば怨念や恨みを元に、知能の低い低級悪魔が取り付いた物ですよ。もしくは持ち主の無念や願望が長く宿り続けて魔力を溜め込むと意思を持ち始め、動き出した物ですね。どちらも無差別に人や魔物を襲いますので、これを解決して貰います」
そう言い終えると、チェックを入れた地図を渡してきた。そこには、可愛らしい字で出た時間や範囲を記してありとても分かりやすい。
「それでは明日以降に討伐をお願いするとして、今日は歓迎会をしましょうか?」
「そうっすね~、準備は出来てるんで、後は肉焼いて終了ですねぇ~、デザートが有れば完璧なんですけど」
「ここで、甘味なんてフルーツ位しか無いのだから仕方無いでしょう」
「なら、こちらをどうぞ」
いきなりの歓迎会を開く発言に少し驚いたが、デザートに丁度良い物を、異空間収納に入れていたのでそれを出した。
渚が図書館で見つけた調理本に載っていたチョコレートケーキの王様『ザッハトルテ』をこの世界の材料で再現した物だった。
素材が分かれば作るのも容易い。そう思い俺はフューネラルデ商会に材料の仕入れを行い、今回は本家のホテル・ザッハーを真似て、スポンジ内側にアンズーメのジャムを挟み込んだ型で作成している。
多少材料費がかかったが、食べたフューネラルデさんやサンバリューさんが目の色を変えていた程だった。
「ケーキっすか? これチョコレートでしょ?」
「チョコ、レート? 美味しいのかしら?」
「ティアっち絶対気に入る筈ちゃ、滅茶苦茶に美味いから」
そんな会話をしつつ、気が付けば辺りが暗闇に包まれる。
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楽しい歓迎会も終わり、そのままティアさんの邸宅に泊まる事になったのだが、気分が高まっているのか、どうにも寝付けないでいた。
周辺には、霊体となった人達や、アラクネ族、ラミア族等の獣公国にも住んでいる種族も居たが実際は少し違う種族らしく、アルケニー族とメデューサ族というらしい。
闇聖霊の加護を受けたアラクネ族やラミア族と言ったところで、桂花とは違い、蜘蛛や蛇の体に女性の上半身がある混合型亜人に分類される人達だ。
「まだ起きていたのか? ルークにしては管理が甘いな」
「カミナ? どうかした?」
「月の良い日だからな、少し出てこようかと思ってな。お前も来るか?」
「夜間の外出は、集落内だけだったろう?」
「傲りではないが、この世で本気の私に敵うものが居るとすれば、神から産まれた六龍とお前くらいだろうさ」
「本気のカミナを相手にしたら? 冗談キツすぎるぜ。斬り結ぶ前に首が無いよ」
「冗談半分、本気半分なのだがな。まぁ良い、明日の朝には戻る」
「行ってらっしゃい」
「あぁ、行ってくる」
月明かりを背に、夜の景色に溶け込んだカミナを見送り、俺は眠りに入る為ベッドに寝そべったのだが、翌朝カミナが戻ることがなかった。
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【???】
「本当に手伝いをさせないのですか?」
「あぁ、それがルークの為にもなる」
「優しいのですね」
「ルークには厳しくしてやらねばならんが、当然甘やかすのも私の仕事だからな。それと黒曜の事だが」
「分かって居ます、その者を護衛として任命しますわ。それでは、転移の制限はこちらで解除しておきますカミナさんは、暫くの間こちらの方で過ごされてくださいね」
古代遺跡の名残か、はたまた転移者の造り出した異物か。内部に置かれた装置らしき物は、中心の塔の様な物に繋がれていたが、どうにも壊れているのか反応を示さなかった。
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翌朝カミナが戻らず、他の式達に聞いたが、渚もベリト達も本当に知らないようで、前回、酒盛りの席でしこたま飲んで居たことも考え、カミナを探す班と、試練を受ける班に別けることになったのだが、ティアさんから待ったがかかった。
「試練はルーク君一人の力で行うものとします」
「それはどうしてですか?」
「今回の程度すら、こなせないのであれば、他の集落の試練等受かりませんからね」
その目は、非常に冷めた、ゴミを見るような目だった。
「分かりました。他に条件は有りませんか?」
「一応ですが、護衛をこちらで選ばせて貰います。その護衛が助けに入った時点で、失格になるように観察させてもらいますね」
「その護衛は?」
「黒曜でしたね、新しい従魔のその子を連れて行って下さい。監視者はファナンが遠くから見ていますので、問題ないです」




