魔神の力
カミナは影に戻り、沙耶は魔力をルークに渡した後、いつの間にかベリト達の所に移動したようで、同じ場所に反応があった。
「さて、小僧。力を見せる前に1つだけ注意しておくぞ」
「何ですか?」
俺は首を傾げながら、何事かと思い聞くことにした。
「今の我の力は完全ではない、故に代償が1日の時間停止という妥当な所に成っている。本来の力を行使した場合、回数によって、1日増えるから、その辺を考えて行使せよ。今の我が力では、精々1年分の〝過去〟と〝未来〟しか操ったり見たり出来んからな」
1年分しか過去の改変が出来ないとはいえ、非常に強力な力であることに変わりはない。
「魔神さん、1つ質問がある」
「何ぞ?言うてみよ」
「効果範囲はどれ程かな?」
「時の戻しは他者も含めれば際限無く、未来視は小僧の周囲の事位だな」
「時間の戻しは他人にも掛けることが出来るんだね、その後はどうなるんだ? 例えば変質した人の場合とか」
魔物とのキメラにされた子供達や、変異して魔物になった子供達を治す事が出来るのか、そこが重要だ。
「変質したのが1年以内ならば、肉体ぐらいなら元に戻せる。記憶は1年前に戻るがな、病に患った者ならば、患う前に戻るだけだから治療すれば、患う事も無くなる。そういった使い方が出来るのが、我が力なり」
ドヤ顔で、自身の能力を説明する魔神を余所に、情報を纏める。
どうやら、リミットは1年以内かそうでないかのようだ。俺は急ぎバルバドス伯爵の所に戻り、資料をかき集める事にした。
地下室に戻ると、なにやら騒がしい。伯爵達が話し合っていたのだが、どうやら子供達の事で揉めている様だ。
バルバドス伯爵とサーモス子爵は武器を構え切っ先を子供達に向けており、子供達の前には、ベリトとゴームが立ち塞がり構えている。伯爵達対してノルドが異を唱えている所だった。
「この子供達は、被害者なのですよ!! 楽に死なせる事が、救いになるわけ無いでしょう!!」
「そんな事は分かっている。だが、貴様は子供達の親に、子供の……この様な姿を見せるのか? それこそ気が触れる事になりかねんぞ? それよりも、貴様達は何者だ……? ただの騎士ではあるまい」
「我は名は、ベリト・ザイファー、我が君ルーク様に仕えるデュラハン・ロード」
「俺はゴーム・ドーヴェン、コイツらの幼なじみのダチだぜ!!」
「私の名は、ノルド・シグルド……親友ベリトの呼び掛けに応え、今一度、顕現した者だ!! 」
ただの名乗り……しかし伯爵達が連れてきた近衛兵士達には、その名の意味が分かるのだろう。
伯爵達も、名を聞いたと同時に、俺の方を向く……その顔は、睨むような目付きだった。
「ルーク男爵……この者らの名は、本当にその名で違いないのだな?」
「間違い所か、本人ですからね」
「貴殿は……この都市にある英雄の墓を暴いたのか?」
「何ですかそれは? ベリトは、ユスター洞窟の隠し部屋に居ましたし、ゴームとノルドは神龍皇国の火山でベリトがネグロスで喚んだら現れたそうですよ?」
英雄の墓と言うのは知らないが、何か意味があるのだろうか?
「まあ良い、本物かどうかは今は置いておく。この者らの主人ならば、貴殿はどうするのだ?なにか出来るのか?」
「ベリト達の事ならば、私の配下ですので、下げます。子供達の事ならば、少し手伝って頂きたいことがあります」
バルバドス伯爵は、俺の顔を見ると微かな笑みを浮かべる。
「良かろう、何をすれば良いか言ってみよ」
俺は、子供達の拐われた日付を古い順に調べてもらい、この場と俺のタルタロスの指輪に捕らえた子供の名前を探してもらった。
一刻一刻と時間が過ぎ、日が傾く頃に、全ての資料を集めた中から、子供達の名前を見つけ終えた。
記録の確認をした結果、1年内の誘拐された子供の中で、魔獣に食べられた者が居ないことは確認出来たが、殆どが貴族に売られるか、キメラの実験台にされた後、拒否反応を起こして亡くなっていた。
よく見れば、キメラの状態で生存している子供達は、殆どが亜人の身体をしている。
〝人馬族〟〝蛇人族〟の体をしているのは、恐らく彼等の死体を使っているのだろう。それに子供達を結合させて、造り出したと思われる。
魔神は、「あくまで、生きている者か、壊れた物以外の用途は禁ずる」と釘を刺してきたので、死者蘇生はこの世界でも禁忌になるのだろう。
そこを理解すると、先程のバルバドス伯爵達の反応も理解できる。
全ての名簿を確認し、全員がギリギリ1年内に誘拐されている事が分かった為、魔神に対して願う事にした。
バルバドス伯爵からは、「本当に大丈夫なのか? その小さいので」と言うような視線があるが、俺も知らないことなので返事が出来ない。
「さて、それではこの者らの時間を戻すぞ……今回は代償無しで行うが、本来ならあり得ない事だと理解しておけ」
魔神はそう言うと、部屋を覆い尽くす程の魔術陣を無数に展開していく。
その中央には砂時計の様な物が在り、さらさらと流れる砂が底に溜まっているのだが、魔術陣が部屋を覆い尽くすと、中の砂が動きを止めた。
周囲の近衛兵士達は、この状態に目を見開き、驚愕している様に見えた。
俺も声が出ない程の衝撃が走る光景が、その場で行われていた。
砂時計の砂が、逆再生の様に時計の天井に吸い込まれていく。それと同時に、キメラに変貌していた子供達の身体が、徐々に身体が人の物に戻り、魔獣や魔物、亜人の身体では無くなっていく。
「ふぅ……これで、終いぞ」
その言葉を最後に、魔神は陣を解除した。
その場に残ったのは、誘拐された当時の子供達と魔獣や亜人の死体などの、材料とされた物が散乱していた。
脳喰い花に変貌した子供達も、蔦などは跡形も無く消え去り全員が気を失っている様だった。
「小僧、此にて我の力は理解したな?」
自身の魔導書と同じ大きさの少女は、強大な力を俺達に見せ付けると、自慢気に胸を反らしながら、俺の頭の上に座るのだった。




