グレゴリー・フォルティス
「遅いじゃないかジン、ベクター? 俺を待たせるとはどういうつもりだ。あぁ!?」
ダンジョンに潜るには、明らかに向かない派手な貴族の礼服を着ている痩せた男が声を掛けてきた。
ベクター達の髪と同じ色、瞳をしているその男は、かなり苛立ちながら、魔力を放っていた。
「作業員を待たずに先に行ったのは、そっちだと思うが?」
「作業員が来るとは聞いていたが、そんなもの中の冒険者を使えば良いだろうが!!」
「依頼書の無い依頼を冒険者がする筈が無いだろう?」
「全く使えん連中だ!! で、その子供は何だ? 作業員の一人とは言わんだろうな? こんな子供までにやる金は無いぞ」
流石は、自分の名前をお抱え奴隷商会に与える馬鹿だ。俺の事を本気で知らない様なので、その状態を利用してやることにした。
「恐れ入ります。グレゴリー次期当主様。私は、ラーズと申します。鑑定と解析の魔術を持っておりますので、今回の調査で発見された不明品などをその場で鑑定する為に同行しております」
俺はここぞとばかりに、媚びを売る様に振る舞う。
「ふん、鑑定士か。確かに必要だな書類に関してはベクターがやれば良い。他の作業員はこれだけか?」
「後はこちらの騎士姿の3人が、今回作業員達の護衛として伯爵様が手配してくださった騎士様だ。騎士だが我々よりも立場は上になるから、そのつもりで居ろよグレゴリー?」
「相変わらず、年長者への口の聞き方がなっちゃねぇな、ジン? こっちの鑑定士の方がまだ礼儀があるわ」
ヘラヘラ笑いながら、ジンを詰るがこの後の事を完全に予想出来てはいないのだろう。
俺達は階段を降り、11階のフロアに着いた。そこは、他のエリアと同じ様に空や風があるのだが、エリアの半分を湖が占めていた。
透明度の高い透き通った水なのだが、『索敵』を使い調べると、水自体に様々な魔物が潜んでいた。
中でも危険なのは、アメーバ種の1つ『フローズンネグレリア』という魔物が潜んでいた事だ。
こいつは鼻や口から体内に侵入する事で、対象を中から喰らい尽くす肉食アメーバで、特に他のアメーバ種が苦手とする氷属性の魔術に、唯一対応出来ている。最も、死にはしないだけで固まりはするので、余り変わらないが。
ある程度周辺の確認を終えると、三兄弟は各々の血を、バルバドス伯爵が用意した調査用紙に落として、魔力登録をしていた。
「さて、これで何の憂いも無く仕事に取り掛かる事が出来る」
ベクターがそう言うのと、ほぼ同じタイミングで、グレゴリーも石弾を放っていた。
「そうだな、お前達が何をしようとしているのか、俺が知らないと思うか?」
そう言い放つグレゴリーの後ろに、いつの間にか作業員の一人が居た。確か入り口でロケットペンダントを見ていた人だ。
「こ…これで、む…む…娘を返してくれるんですよね?」
「あぁ、お前の娘を返してやるぞ……これを娘と呼べるのならな?」
グレゴリーはそう言うと、子供の大きさならば余裕を持って入る檻を呪い蜥蜴に引かせた荷台で降ろした。
作業員の男は、走りだし檻に向かうが、俺は嫌な予感がした為、解析をしようとした瞬間。
「止めといた方が良いよ、お兄ちゃん。あれに子供はもう居ないから」
沙耶に言われ、檻を注視する。中で何か動いているが、此処からだと丁度作業員のおじさんが影になって良く見えない。
「マリア………うわぁぁ!?」
いきなり叫んだ作業員のおじさんは、急に尻餅の様な倒れ方をして、後退りしていた。
「おいおい、大事な娘と感動的な再開じゃ無いのかぁ? 抱き締めてやれよ。……アハハハハッ!!」
そこに居たのは、15歳くらいの女の子だった物。既に人の枠から外れたその姿は、女の子の身体に無数の蔦や根が絡み付いた異質な状態だった。
既に目には生気も無く、虚ろな瞳をしていた。
その姿を見た作業員のおじさんは顔面蒼白の状態で、膝を突いている。
「私の…マリア……どうして……」
「いやぁ、彼女ね、良い声で鳴いてくたけど、飽きたから遊び半分で胎内に人喰い花の種子と魔石を仕組んだら、魔力適性が良かったんだろうなぁ。俺も知らねぇ魔物に成りやがったんだわ。良かったなー、まだ原型はかろうじて残ってんだぜ?」
グレゴリーは下卑た笑みを浮かべ、呪い蜥蜴の群れを呼び出していた。
「(ルーク、不味いぞ!! 魔力パスが何処にも無い。下がれ!!)」
カミナが唸りながら注意を促すが、背中の寒気が止まらない。
「あぁ、他のマンイーターなら扱えるが、コイツらは契約も受け付けねぇから、せいぜい相手になってやれや」
グレゴリーはそう言うと、異空間から他の檻を開き、したの階に逃げ出した。




