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閑話

「何?風精霊の加護だと!」


 豪奢な装いの男は跪いて報告する者に驚きの声を上げる。


「はい、陛下。召喚したその日に弓使いを指導するエルフが付与に成功した模様です。痛く感動した鍛冶王が手ずから風竜の弓を新たに作製し、下賜したとの由」


 それを聞き終えた男はしばし思案に拭ける。そして、徐ろに問うた。


「して、その弓はかの英雄チンゼーに匹敵するものか?」


 跪いた報告者は淀みなく答える。


「はい、陛下。既に弓用射場では手狭と極大魔法の撃てる大射場にて修練しております」


 それを聞いて「ぐぬぬ」と唸り、即断した。


「その者にまたぞろチンテーの様な大国家を築かれる訳にはイカン。集団召喚であったな?ならば、いずれかの派閥を取り込め。我らが御せる者達を選ぶのだ。出来るだけ速やかに我が国へ連れてきて取り込む。チンゼーの二の舞いだけは避けねばならん!」


 男はそう宣言して跪いた者を下がらせた。


「宰相、召喚者どもと歳の合う男女を見繕え。確実に我が国で取り込み、チンゼーの再来への備えとする。側室の娘であれば我が娘でも構わん」


 それに応えて礼をし辞する宰相を見送ると目を閉じ、思考深くに沈む。





 またある日のとある場所でも似たような事が行われていた。


「何?ウーシマドッが召喚者の取り込みに動いただと!?」


 立派な机に控えた男は身を乗り出して報告者に怒鳴る。


「はい、閣下。ウーシマドッ王は風精霊の加護を付与されし召喚者を警戒し、自身の手駒となる召喚者を見繕っている由にて」


 そう聞いた机の主はこれまた立派な椅子に座り直して腕を組み、問いただす。


「その加護持ちはチンゼーの様な者か?」


 男は加護そのものではなく、召喚者の人となりを問う。


「はい、閣下。かの加護持ちは、男ながら女の様な容姿をした小人です。チンゼーの様な気性は持ち合わせず、周りに女を侍らせている由」


 それを聞いて「ふうむ」と腕を組んで思案に拭ける。


 暫く後、彼は目を開け報告者を見た。


「加護持ちにいらぬチョッカイを掛ければ、周りに侍る召喚者共や下手をすれば同じ加護を持つエルフとの関係も損ねかねんか」


 それを聞いた報告者は追加の情報を口にした。


「加護持ちは教会に居るエルフだけでなく、冒険者とも親しく接しております」


 それを聞いて目を鋭くして報告者へと指示を出す。


「で、あるならばウーシマドッの手垢がついておらん手懐け易い召喚者を取り込め。加護持ちや取り巻きは教会が手懐けに入っているのだろうよ。いまさら教会と事を構える訳にはイカン。気性穏やかで女を侍らせているなら下手に刺激はするな。我らはウーシマドッに対抗出来、使い捨て易い駒さえ手に入るならそれで良い」


 そう聞いて任務に戻ろうとする報告者を呼び止める。


「待て。手垢のついておらん召喚者どもはどの様な者達か?」


 問われた報告者はさすが、淀みなくスルスルと答える。


「はい、閣下。ウーシマドッは御しやすい武辺者に目を付け、指導者として送り込んだ者に口説かせているとの由にて。我らはそれに与しない勤勉な派閥を口説く事になりましょう」


 机の主は暫し黙考し、口を開く。


「その者共が欲しがるものを示してやれ。何、実現する必要はない。氾濫鎮定後には如何様にでも言い訳は出来る」


 それを聞き、報告者は恭しく礼をして辞して行く。


「教会が巧く手懐けたならば、精霊持ちとて魔王のようには暴れまい」


 机の主は報告者が辞した扉を睨みながらそう呟いた。



 

 そんな動きを察知した教会での事。


「やはり、ウーシマドッやタンペイレンが動いたか」


 荘厳な法衣を纏う人物がやや落胆気味にそう述べた。


「はい、猊下」


 恭しく跪いて居るのは、召喚責任者のスンマネンだった。


「ウーシマドッの起こりは400余年前であったな」


 スンマネンにそう確認をとる。


「はい、猊下。されど、かの王族の系譜はチンゼーハチローを召喚する以前に在った古の国とされ、チンゼーハチローにより国を服属されたと、彼らの史書には記されております。ならば、風精霊の加護を持つ召喚者が現れた今、警戒するのは当然のことかと」


 荘厳な法衣を纏う男はスンマネンによる説明にため息を漏らす。


「あの国ではそうかも知れん。が、教会の史書では、大氾濫で荒れ果て、王族貴族は盗賊と変わらぬ行いを庶民に強いていたそうではないか。それを引き締め、一纏めにしたのが大国チンテーとある。逆恨みもよいところではないか」


 そう、呆れた様にため息で締めくくる。


「はい、猊下。彼らは自らの正統性に関わる事ゆえ、加護持ちを恐れて居る様です」


 と、スンマネンも補足し、続ける


「その為、自分達の理解が及ぶ召喚者を探し、シラカワ達に目を付けた様で、現在、かの国より招き入れた拳闘が盛んに接触しております」


 と、報告を行った。


「まあ、良い。連中は只でさえ冒険者を警戒している。国の目が届かぬ庶民や商人の頼み事を助けているというのに」

 

 そう言って、またため息を吐く。


「猊下、タンペイレンにつきましては、そんなウーシマドッに対抗しようとアカィシ達に接触しております。しかも、出来もしない『還送』を説いているようです」


 それを聞いた荘厳な法衣の男は更に気落ちしている。


「あやつらは大将軍サブローを忘れたのか?」


 と、スンマネンに尋ねる。


「はい、猊下。タンペイレンでは、自ら欺き懲罰を受けたサブロー将軍を魔王と称して恐れております。しかし、だからこそ、召喚者に対する見方も決して好意的ではなく、体の良い駒と蔑む風潮があります」


「スンマネンよ、だからといってアカィシ達を連中は駒として扱うのか?」


 荘厳な法衣の男は目を細めて問う。


「はい、猊下。しかし、我々教会も、氾濫が間近とあっては、あれら国々と争う訳には行きません。氾濫鎮定までは駒ではなく、少なくとも価値の高い戦力として遇されましょう。事を起こすのは鎮定以後に」


 それを聞いて荘厳な法衣の男も頷き同意する。


「此度は風精霊だけでなく、火、水、地の加護もある。よもや80年前のような惨劇にはなるまい。鎮定後に対処するとしよう」


 スンマネンはそれを聞いて恭しく礼をし、部屋を出るのであった。

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