終章
「あ、ヴィラン。その妖怪、痺れさせてくるから気をつけろよー」
「そういうことは先に言え!」
ダイジャを送る道中、修行のためにこの国で正式に冒険者として登録したヴィランは、一人妖怪退治の依頼をこなしていた。
後ろから彼女に声をかけると、すでに痺れを喰らっていたらしい。
猫又姿に戻したネネコを原っぱであぐらを掻いて撫でながら眺めるが、大きく飛びのいてから回り込もうと走る動きにそこまで鈍っている様子は見えない。
それどころか、こちらと話している余裕までありそうな様子だったので、ラセツはさらに声をかける。
「痺れ喰らってるのによく動けるなぁ」
「抵抗した麻痺の魔法など、正座のそれに比べれば大した痺れではない!」
「いやそれはねーだろ」
「わっちもそう思うにゃ……」
ネネコも頷くが、どうやら彼女にとってはあの痺れはよほど堪えたようだ。
さすがに妖怪の攻撃より強烈ということはないと思うが、確かに、血が戻りかけた時の感覚は独特ではある。
まぁこの妖怪が厄介なのはそれだけなので、周りにいるダイジャやその部下たちものんびりしたものだった。
昼も近いので、一部は昼食の支度をしているほどである。
「セァ!」
グラムを振るって妖怪の最後の一匹を斬り伏せたヴィランに、ラセツは軽く拍手を送った。
「ご苦労さん」
「この程度で苦労しているようでは、貴様に勝つことなど夢のまた夢だろう」
「まぁ、そりゃそーだけどな」
ヴィランが無事に退治を終えると、そのまま飯の時間になる。
先ほど川で捕まえていた魚を串に刺して炙る間に、焚き火の近くで和んでいると、ネネコがラセツの膝の上から問いかけてきた。
「そういえばラセツ。しばらく居にゃかったけど、ノブナガ様との勝敗はどうなっているのにゃ?」
「今のとこ勝ち越してるよ。一勝だけだけどな」
「にゃー……ムカデを相手にしていた時も思ったけど、ますます強くなってるんだにゃぁ」
「そらその為に定期的にケンカしてるわけだしな」
すると、横の石に腰かけたヴィランが焼けた魚を手に取りながら問いかけてきた。
「結局のところ、そのノブナガというのは何者なのだ?」
「んー? お前さんが首を狙ってた相手だよ」
ラセツの言葉に、ヴィランがピシッと凍りつくように動きを止めた。
「……何だと?」
「だから、お前さんが首を狙ってた相手だって。ここを支配する第六天魔王だ」
すると正面に座ったダイジャがかすかに笑みを浮かべる。
「なるほど、お前がここに来たのはそれが理由か。……私に対して五人がかり、兄どころかネネコにも勝てない程度の腕前では無謀な話だ」
「黙れダイジャ」
ヴィランはそんな元・魔王を睨みつけてから、ラセツに顔を向けてきた。
その後、チラリと膝上のネネコにチリリと不穏な気配を込めた目を向けてから、改めて問いかけてくる。
「では、ノブナガというのは……」
「お前さんの言う、東の大魔王だな。最初に会ったのがアイツじゃなくて俺で良かったな」
アハハ、と笑って見せるが、ヴィランの表情は和らがなかった。
「どこが……」
「あん?」
「貴様、〝六大魔性〟とやらの一人で!? 大魔王に勝ち越しているだと!?」
「あいつ攻撃が大雑把なんだよなー。殲滅とかは得意だけどタイマンは得意じゃねーんだよ」
「そういう問題か! 全然まったく、ただの鬼の子ではないではないかぁ!!」
なぜか涙目になりそうになっているヴィランに首をかしげる。
ノブナガの正体がそんなに衝撃的だというのだろうか。
まぁいいか、とラセツは軽く肩をすくめた後に、自分も魚を手に取った。
「ただの鬼の子だよ。俺にゃ別に領地もなんもねぇ。この身一つで、お前さんと連れ添いたいだけの男だ」
「ーーー!」
ヴィランが言葉に詰まると、ダイジャがさらにおかしげに口を挟んでくる。
「なんだラセツ、お前、ヴィランに懸想してるのか?」
「おうよ。良い女だろ?」
川魚の、柔らかい白身の肉を頬張りながら言い返すと、ダイジャは理解できない、とでも言いたそうに沈黙を保った。
「つーか、誰が連れでも誰をめんこいと思っててもどうでもいいだろ。そんなことより、ヴィラン」
「なんだ」
「約束はナシになったが、俺は別に諦めてねーぞ?」
ラセツは、ネネコの背中を撫でながらニヤリと笑って告げる。
「やることが済んだらーーーいつか、俺の嫁になれよ!」




