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童顔の鬼神は、大百足と対峙する。


「……ラセツ」


 ヴィランの震える声が名前を呼ぶ。

 

「まずは誰よりも強くなって、己を貫きゃいい。守るも、復讐も、自由だ。簡単なことだろ。だが強くなるにゃ、まず弱さを知ることだ」


 誰だって、皆弱いのだ。

 初めから、強くなっても、そして高みに至ったところで。


 弱さは消えはしない。

 そんな己の心の弱さをありのままに受け入れ、目を背けないことを〝強さ〟と呼ぶのだ。


 よっこいせ、と立ち上がったラセツは、ネネコに目を向ける。


「おい、気付いてるか?」

「にゃ? あ……」


 やり取りに意識を向けすぎていたネネコは、バッと顔を入口のほうに向けて耳をピクピクと動かした。


「どうした?」


 ヴィランの問いかけに、パシリと拳を手のひらに打ち付けたラセツは、ニィ、と笑みを浮かべて応えた。


「ーーー外道のお出ましだよ」


※※※


 ーーー妖怪・大百足(オオムカデ)の一族。


 生まれた時から強者としての運命を約束されていたムカデは、誰よりも一族の中で凶悪な気質を備えていた。


 冷酷にして残虐、強い力で相手を(なぶ)るのが好きで……何よりも、竜族が好物だった。


「ギャギャギャ……」


 だが、そんなムカデにも手出しが出来ない一族がいた。


 ーーーこの国を支配する第六天魔王、ノブナガの親族である。


 大百足は絶対的な強者ではあったが、鬼神や龍神と呼ばれる者たち、あるいは土蜘蛛などに代表される同じような強き妖怪には後塵を記していたのだ。


 特に〝六大魔性〟と呼ばれる、この島で最も強い者たちには、いかなムカデでも真正面から歯向かうことは出来ない。


 その状況には我慢がならなかったが、だからといってどうすることも出来なかった。

 ムカデはその力を、弱者を虐げることにしか使ってこなかったからだ。


 ーーー気に喰わねぇ。


 しかしその鬱屈した状況にねじ曲がっていたムカデに、千載一遇の好機が現れた。


 顔だけは知っていたノブナガの弟……ダイジャが、ほんの少数の友だけを連れて上陸するのを見かけたのだ。


 しかも弱っている様子だった。


 嬉々として襲い掛かったムカデだったが、子分どもの不手際と妙な猫又の忍者に邪魔されて取り逃した。


 腹いせに小鬼どもに村を襲わせたものの、それも邪魔されて逃げ帰ってきた。


 ーーークソ面白くもねぇ。


 だが、今……ビクニから買った情報によって、再びダイジャの姿を捉えることが出来たのだ。


「ギャギャ……あそこにいるんだなァ?」


 子分の小鬼に問いかけると、怯えた様子でうなずく。

 あの小僧と異国の娘っ子がダイジャとどんな関係なのかは分からないが、そんなことはもうどうでも良い。


 ーーー娘と猫又は嬲って犯して、竜は生きたまま喰う。タマラネェナァ……!


 ヒクヒクと鼻を鳴らすと、芳しさを感じる。


「ギャギャ、匂う、匂うぜぇ……エサの匂いだァ……!」


 ムカデはべろりと唇を舐めた後に大顎を開き、耳障りに軋らせながら声を上げた。


「出てこい、ダイジャ!! ギャギャ、今度こそ逃がさねぇぜェ!?」


 しばしの沈黙の後、ガラリと戸が開く。

 

 そこから姿を見せたのは……先ほど小鬼に後をつけさせた、チンケな小僧だった。

  

※※※


「はん、ほどほどにムカつくツラした野郎だな」


 小屋を出たラセツは、小鬼たちとそれを従える禿頭を一瞥した。


「プンプン臭うぜ、格下しか相手に出来ねーザコの気配がよ」


 あれが盗賊のムカデだろう。

 浅ましい顔をして、顎からヨダレでも垂らしそうな様子である。


 ーーーまた下劣そうな奴に目をつけられたもんだ。


 鼻を鳴らしたラセツは、追ってきたヴィランとネネコを手で制す。

 そしてムカデを親指で差しながら振り向き、入口に手をついて厳しい顔をしているダイジャに話しかけた。


「よぅ、ダイジャ」

「……なんだ」

「とりあえずお前さんが死にたがってるのは分かったが、どうせ殺されるならヴィランにしとけ。あんな下品な野郎の腹にゃ収まりたくねぇだろ?」


 ラセツの言葉に、ムカデがギャリ、と不愉快そうにアゴを鳴らす。


「なんだ、テメェは?」

「黙っとけよゴミ。俺は今ダイジャと話してんだからよ」


 挑発するようにムカデを見てアゴを上げたラセツに、背後からダイジャの声が聞こえる。


「……たしかにな。どうせ殺されるのなら、闇の勇者のほうがよほどマシではある」

「そうだろ。てなわけで、今回は俺がお前さんを守ってやるよ」


 お前らはそこで見とけ、と三人に言い置いて、ラセツは前に出た。


 ーーー復讐は何も生まねーが。


 見るだけでムカつくムカデの顔を見据えながら、ラセツはズンズンと近づいて行く。


 ーーーノブナガへの義理もあるし、今あるダイジャの命(モン)を守るついでなら、ちょっとくらい私情混ぜてもいいだろ。


 ラセツは我慢が嫌いだ。

 村を襲った張本人が目の前にいるのに、ダイジャの命を守るなんてお綺麗な目的のためだけに動くつもりはなかった。


 ーーー村を襲ったことを後悔するぐらい、ボコボコにしてやらぁ。


 怒りを存分に発散出来そうなケンカの気配に、ラセツは自分の口もとが緩むのを抑えきれなかった。


「このクソガキ、さっきから聞いてりゃ偉そうな口を叩くじゃねーか。背丈ほどちっこいテメェの身の丈ってモンを知らねーようだな」

「そう思うか? お前さんこそ、デカくて硬いアゴと分厚いまぶたばっか育って、頭ん中空っぽそうに見えるけどな」


 ちょうど仲間たちとムカデの間くらいで足を止めたラセツは、首に手を添えてゴキリと鳴らした。


「ぶち殺されたくなきゃ、今すぐ土下座して足でも舐めて見せろよ」

「調子に乗るのもいい加減にしとけよ。テメェはどうせ殺すが、手足をもいで目の前で喰ってやるよ」


 ムカデは奥に埋もれたような目を出来る限り大きく見開き、ビキビキと頭に血管を走らせている。

 短気な上に堪え性のないその様子に、ラセツは少しだけ興醒めした。


 ーーー小物にしか見えねーがなぁ。


「手下もいねぇ、見たところ金もなさそうなクズが……テメェは、そこの無様な蛇以上に何の力もないってことを教えてやるよォ……!」


 ムカデは言いながら、横に立つ小鬼に手を伸ばして、その襟首を掴み上げた。


「ギ、ムカデサマ、ナニヲ」

「うるせェ」


 その瞬間、ゾブリ、と音を立てて小鬼の頭が消えた。

 周りの小鬼たちが凍りつく中、ビュ、とちぎりとられたような断面を見せる小鬼の首から血が吹き出し、ビシャビシャとムカデに降りかかる。


 巨大なアゴの中でゴリゴリと音をさせて何か(・・)を飲み下したムカデは、ギロリと周りの小鬼たちを睥睨した。


「テメェらの失態のせいで、こんな不愉快な思いをしてんだ……今度逃げたら、コイツと同じになると思え」

 

 ブン、と死体を放り捨てて、ムカデがアゴをしゃくると、小鬼たちは慌てて手にした斧や剣などの得物を構えた。


 ガチガチと奥歯を鳴らしているのは、以前対峙した時に見たラセツに対する怯えもあるだろう。


「……仲間だった奴をあっさり殺して、恐怖で縛るかよ。どこまでも救えねーな、お前さん」


 カッ、と喉を鳴らして笑みを深めたラセツは、親指を下に向ける。


「俺にゃ確かに、手下もいなけりゃ金もねぇが。少なくともテメェ以上に有り余ってるもんが三つあるぜ」


 じりじりと間を詰めてくる小鬼たちをまるで意に介さず、体内で気を練り上げたラセツは、一息に言い放った。


「品性と、力と、クソ度胸だ。ーーー己の浅慮を、地獄で後悔しろや」

「テメェがなァ!!!」


 ついにキレてムカデが吼えるのと同時に、小鬼たちが一斉に飛びかかって来た。

 


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3巻発売されました!ヾ(๑╹◡╹)ノ"こちらもよろしくお願いいたします!!
N8910EM『最強パーティーの雑用係〜おっさんは、無理やり休暇を取らされたようです〜』
― 新着の感想 ―
[良い点] 思ったより小物だな こいつw [気になる点] 品性? え? [一言] まあ ムカデよりはあるかなw
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