童顔の鬼神は、女勇者の心持ちを心配する。
ラセツは宿に荷物を置くと、ヴィランを伴ってすぐにそこを出た。
「疲れてねーか?」
「さほどでもない。それに、さっさと始末をつけてしまいたい」
海を渡ってからこっち、たった三日の間に色々なことが起こったので気遣ったが、ヴィランは首を横に振った。
「最初は山で追いつくつもりだったのだからな」
「そいつは違いねーが」
まぁ、ラセツはネネコに会えるのが楽しみなので全然構いはしない。
教えられた通りに道を抜けて、宿場街の外れまできたラセツは、日雇いたちが住むあたりに入っていった。
出て行く者も入ってくる者も多いこの地域だが、ラセツはともかくヴィランは新顔に見えないからだろう、ジロジロと目を向けられる。
ラセツは気にせずに歩いたが、ヴィランは不愉快そうに眉根を寄せた。
「……落ち着かないな」
「何が?」
「見られていることがだ。殺気の類いは感じないが」
「そりゃお前さんがめんこいから見られてるだけだしな」
実際、ヴィランは見惚れるほどの美貌を持っている。
ビクニはその内面まで含めて気に入ったのだろうが、本当に花魁として入ればすぐに人気になるのは想像に難くない。
ーーーまぁ、性格に難があるっちゃあるか?
ラセツにはめんこいとしか感じられないが、言葉遣いなどで気に障る者もいるだろう。
そんなことをつらつら考えていると、ヴィランは目を伏せてボソリと呼びかけてきた。
「……ラセツ」
「なんだよ」
「だからその……そういうことを軽々しく口にするなと、何度言わせれば……」
なんだか今までと違って口調に勢いがない。
耳の先が赤く染まっていたりと、照れた態度は変わらないのだが。
「ーーーお前さん、やっぱりちょっと疲れてんじゃねーか?」
あんまりしおらしい態度を取られると、思わず抱きしめたくなってしまう。
そんな気持ちの代わりに憎まれ口を叩くと、ヴィランは唇をかんだ。
「疲れてなどいない」
「体じゃなくて、心がだよ」
仲間の裏切りを知ったことで、心に傷を負っているはずだ。
事実を突きつけたのはラセツ自身だが、それは必要なことだった。
利用されていることを知らないまま、無謀な挑戦に向かうことを是とは言えない。
自ら考え、自分の意思でケンカを売りに行くのとは根本的にわけが違うからだ。
だがヴィランは首を横に振り、剣の柄を撫でながらこう口にした。
「……何かをしている方が落ち着くのだ」
気が紛れる、ということだろう。
そちらの方がいいのなら、止める理由自体はなかった。
「なら、行こうぜ。書きつけにあったのは、あそこだ」
そう言ってラセツが指差したのは、日雇い者の長屋通りからさらに外れた場所にある小屋だった。
すぐ近くにある雑木林の影に、ひっそりと隠れるように立っている。
しかし多分、外見そのものは偽装だろうと思われた。
ビクニの用意した隠れ家だというのなら、中はしっかりと住める場所になっているはずで、馬小屋などとは違うだろう。
では行こう、と、うなずきながら一歩足を踏み出そうとしたヴィランが、動きを止める。
「……なんだと?」
いきなり剣を見下ろして、ヴィランがそう言った。
ラセツも目を向けると、グラムが輝いている。
秘宝を通して会話をしているのだろう。
「どうした?」
「グラムが、おかしなことを言い出してな」
表情を固くしたヴィランは、戸惑いながらも冷たい刃の気配を纏う。
凛々しい、とも呼べる横顔に浮かぶのは、敵意だった。
「ーーーあの小屋の中から、魔王の気配がする、と」




