童顔の鬼神は、女勇者と宿場街に足を踏み入れる。
「なー、そろそろ機嫌直せよー」
「うるさい!」
ラセツたちは、宿場街の近くにたどり着いていた。
目の前にある門をくぐればもう中に入れるのだが、ヴィランの機嫌は昨夜から斜めに折れて一回転捻りしたままである。
今日歩いている間、一言も口を利かなかったので、さすがにラセツも本気で怒っていることくらいは理解できた。
「なー、街で飯奢るからさー」
「……」
その一言も完全に黙殺された。
だが街中に入ると、ヴィランがピタリと足を止める。
何だ? と思っていると、彼女が見つめているのは街並みだった。
「どうしたんだ?」
様子がおかしいので声をかけると、ヴィランはこちらを見てなぜか呆れたようにため息を吐いた。
「貴様は本当にめげないな……」
「なんの話だ?」
「あれだけ言われてもへこたれないことに、呆れているのだ」
「はーん。まぁ、あんま気にならねーからな」
他人の機嫌が良いか悪いかは、あまり気にはならない。
ましてヴィランを怒らせたのは自分なので、不機嫌な対応をされるのは当たり前だろうとしか思っていなかった。
「……不思議な景色だったのでな」
「不思議?」
ラセツにとっては見慣れた景色である。
軒先を開いた店が並ぶ表通り。
魚売りや豆腐売りの商人が声を上げながら練り歩いており、店の前でも客引きが声を上げている。
ガヤガヤと人が行き交う、規模こそ大きいがごく普通の街の光景だった。
「この島の建物は、全て木造なのだな」
「他のもんで作る家があるのか?」
「ナーロッパでは、石造りや煉瓦造りの家が主だった。大森林に近い街では木を使っている場所もあるが……緑が豊かなのだろうな」
「まぁ、周りは大体が山だからなぁ」
龍脈の影響で霊気が濃いため、切り拓いて人が手入れをする場所以外はあっという間に緑に呑まれる。
「それに家の作りも背が低い建物が多いし、何より街を歩く者の服装が貴様と似ている」
「ああ、なるほど」
異国の服は『洋服』という、こちらとは少し違うものだ。
ヴィランの服装も、軽装の鎧そのものがあまり見慣れないもので、服も羽織るのではなく頭から被る形に縫われている。
「ここは本当に異国なのだな……」
「村の奴らも似たような服装してたろ」
「そういう意味ではない」
なぜか少し寂しそうなヴィランの横顔に、ラセツはアゴを撫でた。
「西が恋しいのか?」
「少し感傷的になっただけだ。別に戻れないわけでもないしな」
軽く一度目を閉じた彼女は、すぐに顔を上げた。
「今からどこへ行く?」
「飯……って言いたいところだが、これ以上寄り道したらお前さんがもっと怒りそうだな」
「分かっているではないか」
「しゃーないから、ビクニんとこに行って飯を奢ってもらおう」
「……目的はどちらにしろ食事なのか」
目を細めたヴィランに、ラセツは肩をすくめてみせる。
「目的地だし、ネネコの話も聞かなきゃいけねーからどっちにしろ行くんだから良いだろ。一石三鳥だよ」
「他人からタダ飯に預かろうという点を少しは気にしろ」
「あそこは居候も多いから大丈夫だって」
そういう問題ではない、とでも言いたげな顔のヴィランに、ラセツはニヤリと笑う。
「ていうか、そんなことより気にしなきゃいけねーことがあんじゃねーのか?」
「何の話だ」
「遠見の話だよ」
ラセツの言葉に、ヴィランは思い出したようだった。
「賭けか」
「そう。ーーーお前さんが、追放されたのかどうか、その結果がもう出るんだぜ?」




