童顔の鬼神は、女勇者と剣の関係を知る。
「……グラムが話したのか?」
『お前さんは妖怪か』ーーーその問いかけを聞いたヴィランは、固い表情でそう問い返してきた。
それに、首を横に振ってみせる。
「いんや、コイツはお前さんに訊け、と言った。だから聞いてんのさ」
彼女が妖怪なのではないか、というのはあくまでもラセツの推測である。
すると拳を膝の上で握りしめた彼女は、ボソリと肯定した。
「完全な亜人、というわけではない……私は、エルフと人間の混血、ハーフエルフだ」
えるふ、という言葉には聞き覚えがあった。
「〝尖り耳〟か。なるほどな」
言われてみれば、という程度だが。
耳の形や容姿の美しさなど、気づけば心当たりがある特徴を持つその妖怪の名を、ラセツは知っている。
もっとも、この島国でその特徴を持っているのは肌の黒い者たちであり、名も〝黒尖り耳。と呼ばれているのだが。
「私の故郷、というのは、エルフ族の住んでいた森だ。魔王と人間の領土のちょうど間にあり、魔王によって焼かれた」
そうして人に助けられ、魔王への復讐に最初は立ったのだ、と。
「父が人間で、母がエルフだった」
「混血……なるほどな。つまりそいつが、この剣を手にする条件だったのか」
「それは知らん。そんな話は聞かされていなかった」
―――混血、ってよりは、長寿の方が条件か。
ラセツはその言葉を受けて、グラムが口にしたことの意味を推察する。
妖刀の中にも意思を持つモノはあるし、そうではないモノもある。
どちらにせよ宿主を餌程度にしか思っていないことが多いが、グラムはそうではなさそうだ。
純血の尖り耳ほどではなくとも、混血であれば長大な寿命を持っている。
さらに木陽の気質を持つ者であれば、陰水の存在は相生の関係……水側から木側に、逆に活力を与えることも可能なのだ。
遣い手を選ぶための条件の一つが、自分の死の影響を最小限に抑えられる……つまり『多少、寿命を対価に力を振るったところで大きな影響を受けない存在』ということなのだ。
「私は半端者だ。しかし、それでエルフの里で迫害されるようなことはなかったし、人間側に救われた後も……少なくとも近しい者たちは、それを理由に悪し様に言うこともなかった」
ヴィランはひどく、混血である己に負い目を感じているように見えた。
それは誰かに何かを言われた、というような話ではなく、彼女自身が生きる上で少しずつ降り積もったものなのかもしれない。
違いを感じるたびに、少しずつ疎外感を覚える。
ラセツ自身にも経験のある話だった。
「俺も半端だからな」
だからラセツは、ヴィランにそう声をかける。
「え……?」
「そうだろ? 俺は鬼の親に育てられた。人間よりは物の考え方も鬼に近ぇ。俺とお前さんは、互いに半端もんだが」
ニヤリと笑い、彼女の胸元を指差した。
「己の居場所を、自分で見つけようとしてる、ってところも、そっくりだな」
ヴィランは、ハッとした顔をする。
たぶん、彼女は実際にそこまで考えていた訳ではないだろうが。
ラセツにそこまで疑いを持たずについてきたのは、同じように故郷を失い、似たような境遇にいたからだろう。
故郷を奪われた彼女は自分と同じような存在に飢え、『はじき出されなかった』という事実と、『いてもいい場所』を無意識に求めているのだ。
そうして雛鳥が、自分の親を刷り込むように……見つけた相手にすがる気持ちが、どこかにあるのだろう。
『世界を滅ぼす』と、そう予言を受けたラセツも、同じなのだ。
自分ではまったくそんなつもりはないが、不吉な予言はそれだけで弾かれる理由になる。
幸い、ラセツの周りにいた者たちはそうではなかったが。
ヴィランは今まで『人間のために戦うこと』以外に居場所を見つけることができなかったのだろう。
―――だから、この島に来たのだ。
それが、最初に与えられた『自分がそこにいていい理由』だったから。
「謎も解けたし、寝るか」
ラセツは、彼女を言いくるめることはせずに立ち上がった。
それらを伝えることで、あるいは伝えずに甘い言葉をかけることで、ヴィランを自分に依存させることはきっと簡単だ。
だが、ラセツはそれを望まない。
ーーー夫婦になるってのは、そういうことじゃねーはずだからな。
「なぁ、ヴィラン」
「なんだ」
「自分の居場所ってのは、他人が与えてくれるもんじゃねぇ。自分で見つけるもんだ。そいつだけは、覚えとけ」
お互いがお互いの居場所になる。
共に一生を過ごすとはそういうことなのだ、とラセツはなんとなく思った。
一方的に愛でるのも悪くはないはずなのだが……心の奥底で、何か違う、と思ってしまったものは仕方がない。
「お前さんも、自分の生き方は自分で決めたいだろ?」
ヴィランは戸惑った顔で、立ち上がったラセツを見上げてくる。
「……そんなもの、当たり前だろう」
「そう、当たり前だ。だが、生きてるとついつい忘れるもんではあるから、な」
彼女に手を振り、ラセツはその場を後にして自分の寝室に向かった。
きっとヴィランは、本当の意味でこちらの言葉を理解できてはいない。
「不自由だよなぁ」
不器用、とも言い換えれるかもしれない。
ラセツは自由が好きだ。
ヴィランは見た目は自由だが、その心は色んなものにがんじがらめに縛り付けられているように見える。
彼女にへばりつき、凝り固まった重たいものは、一個一個解いていくほうが、良いような気がした。
ーーーしばらくは、一緒にいるわけだしな。
自由になり、そうしてラセツと一緒にいることを選んでもらえるともっといい。
そんなことを考えながらあくびをしたラセツは、外廊下から見える青い月を見上げた。
「いい夜だ。ていうか、今日は退屈しねーいい一日だったな」




