23ワン目 アジトを守る者達
座ったまま振り返れば、でかい鍋を両手に抱えた仏頂面の男と、バスケットを持った女が近づいていた。
女の名前はナターシャ。肩口で切りそろえた真っ直ぐな金茶色の髪がさらりと揺れている。目は薄い水色の瞳で、騒がしい傭兵部隊の中では物静かな人という印象が強い。ちなみにリュヴァルクの中では唯一の既婚者だ。
リュヴァルク部隊の人間はオレ達以外だと、十九歳から三十二歳くらいまでいると聞いている。中には、自分の年齢がわからない者もいるので、おおよそそのくらいだろうという話だ。最年長はゴズバルだ。ガオスは二十六歳。ナターシャはアディアより二歳年上らしいから、二十四歳だな。かなりの読書家らしく、なにか読みたい本があればいつでも訪ねていいと言っていた。カナンが以前占い師に探してもらったというものは、ナターシャからお下がりでもらった本だったりする。
仏頂面の男はオルドラという。最初に体面した時は不機嫌にも見えて、新入りのオレを嫌っているのかと思ったが、普通の顔がこれらしい。ヘアバンドで緑の前髪を上げており、紫の目をしている。傭兵だからか、こいつもやっぱり身体がでかい。動物が好きなのに逃げられることが多いらしく、ダイキチを見ると心なしかそわそわしている。初めて撫でた時は無言ながら、嬉しそうな雰囲気だったな。
「ナターシャさんとオルドラさんだね。外で料理するのかな?」
「もう美味そうな匂いがしてやがる。オレ達にも分けてほしいぜ」
「いや、人様の飯にたかるのは悪いだろ。──あっ、こらダイキチ!」
なんて話していたら、ダイキチが駆けていく。オレは慌ててその後を追いかけた。食いしんぼう犬は、目をきらきらさせながら二人の前でお座りしている。ご飯をねだっているのだ。
「相変わらず、鼻がいいな」
「キュフンッ クーンッ」
「凛々しい顔立ちなのに愛嬌があって可愛いじゃないか。私は好きだぞ」
「別に嫌いとは言ってねぇだろ」
「うちのダイキチが悪い! ──この食いしん坊め。待て、だ! 人間と同じものは味が濃すぎるだろ」
「キュー……」
オレが叱るとダイキチは伏せたまま上目遣いでこちらを見てくる。可愛い顔をしてもダメなもんはダメだ。飼い主としてそこはしっかり教えておかないとな。他所で餌付けされて腹でも壊したら、そっちの方が可哀想だ。
「叱らなくていい。ダイの反応もあながち間違いじゃねぇからな。オレ達は飯を持ってきてやったんだ。ただし! 味は保証しねぇ、文句は言うな」
「言う奴なんかいないよ。嬉しい差し入れだ。だよな、お前ら?」
「ワフッ」
「僕もオルドラさんの料理大好き! リュヴァルクの中で一番の美味しいもん」
「ダイも尻尾振りまくってるぜ。一緒に食えるってわかってるみたいだぞ。よしよし、賢い奴だなぁ」
「鍛錬を頑張っているようだから、初日くらいは助けてやろうと思ってな。ゴズバルがいないし、ついでに少し見てやるか」
「助かる。実は魔法のことをちょうど誰かに相談したいと思ってたんだよ」
「ああ、そういえば、ソージは昨日魔法の適性をみたんだったか? 聞くだけなら出来るが、オレはそっち方面があんまし得意じゃねぇ。魔法ならこいつの方が適任だぞ」
オレ達の間に大鍋を置いたオルドラが親指で後ろを指す。ナターシャに視線が集まると、薄い微笑みが返された。
「私でよければ力になろう」
「まっさらな初心者を相手にするつもりで教えてくれ」
「うん、その言動でだいたい把握したよ。魔力の放出からやってみよう。だが、その前に腹ごしらえをしなさい。頭と体を動かすためにはエネルギーが必要だ」
「やったぜ。なぁ、なに作ってくれたんだ?」
「慌てんな。大鍋には野菜と魚を煮込んだスープ。そんで、ソージこっちのパンを食ってみろ」
「まだ熱いから気をつけて」
「エイローク。むぐっ、なんか入ってんな……酸味があるけど、この食感は肉だな! トマトペーストを絡めてあるのか。めちゃくちゃ美味いよ。あんた、本当に料理上手だな」
ナターシャがバスケットから出したパンをもらって、オレは食事前の言葉、祝福よあれを唱えて、遠慮なくパクつく。途端に手を汚すほどの肉汁が中から溢れる。ふっくらした白いパンにもしみ込んでいて、これがまた堪らない味だ。思わず夢中になって食べていると、ごくりと喉を鳴らした二人と一匹が声を上げる。
「僕もほしい!」
「オレにもくれ!」
「ワゥッワンッ」
「君達は育ちざかりだ。たくさん食べて強くなれ。ダイの分はこっちにある。ソージに味が薄いものがいいと聞いたからな、特別に用意したんだよ」
「スープは好きなだけお代わりしていい。よく味わって食えよ」
大鍋からスープを木の器にすくって、オルドラがオレ達に配ってくれる。ダキキチは地面に置かれた皿にパンを入れてもらったようで、お座りしながらオレを見上げてくる。
「いいものもらったな。ダイキチ、食っていいぞ」
「ワフッ」
「エイローク! うめぇ~っ、なんだこれ、こんな美味いもんはじめて食う!」




