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22ワン目 アジトを守る者達

 ジュライから飛んできた蹴りを後ろに飛んで避けたら、横からカナンの剣が迫っていた。くそっ、見えているのに身体がついていかない。とっさに腹の前で剣を水平に構えて左腕で支えると、カナンの体重が乗せられた剣が上から振り落とされた。


「よく防いだね!」


「重いっ、ダイエットしろカナン!」


「なっ、僕をデブ呼ばわりするなんて酷い! 今度は当ててやる!!」


「くらってたまるか!」


「おいおいおい、このオレを警戒しなくていいのか!?」


「ぐあ……っ!」


 カナンの追撃を剣で必死こいて防いでいると、顔を狙ってジュライから蹴りが飛んできた。これは避けられない! せめて攻撃のダメージを軽減させようと自分から左に顔を逸らすが、激痛をくらって目がチカチカする。くっそっ、いいのをもらっちまった! 


 口の中が切れて血が顎を伝う。それを拭いながら必死に膝を上げようとする。けれど、打たれた頬は心臓の鼓動と一緒にドクドク痛むし、集中力が散ってしまって動けない。


「おらっ、もう一発いくぜ!」


「グルァァオオオオンッ!!」


 オレがまだ立ち上がれないでいると、ダイキチが助けるように牙をむき出して飛び出してきた。勇ましくジュライに噛みつこうとするが、そこに小手を巻きつけた腕が突っ込んでくる。カナンだ。

ダイキチはその小手に牙を立てて食いついて離れない。オレは二人の注意が逸れた隙に、震える膝を上げる。


「……はぁ……はぁ……もう、一回……っ」


 死にそうになりながら構えて見せたオレに、ジュライは腰に両手を当てて空を仰ぐと首を振った。


「ふぅ~っ、止めだ! あのよ、お前今日どうした? やけにへばるのが早くねぇか?」


「それ僕も気になってた。調子が悪いの?」


「そんなに……わかりやすかったか? はぁ……悪い。昨日休みをもらったら、逆にこれまでの疲れがどっと出たみたいでな、いつもより体が重いんだ。──ダイキチ、戻れ」


 オレは痛む左頬を押さえつつ、素知らぬ顔をして、自分の太腿を叩くと鍛錬の終わりを合図した。ダイキチはカナンの腕から牙を離すと、素直に戻ってくる。その表情からは獰猛さが消えて、すっかりいつもの呑気な顔だ。


 二人に追いつきたいから必死こいて自主鍛錬してたなんて、恥ずかしくて言えるか。

情けないことに、早朝に森の中を三十分ほど走りまわったら、汗まみれでぶっ倒れたのだ。誰にも見られなくてよかったよ。足はガクガク震えっぱなしで、しばらく立てなかったからな。


 誰だよ、二時間なんて途方もない時間設定したの? ……オレだわ。無謀すぎた。体感的に考えて、目先の目標は一時間だろう。身体が慣れるまでは、三十分から伸ばしていくのが現実的かだろうな。


 カナンはダイキチの前でしゃがんで、もしゃもしゃとその顔を揉む。人慣れしているので、オレが許可する限りは抵抗もせずにされるがままだ。


 一般的に、シベリアンハスキーは陽気で人懐っこい性格だと言われている。ダイキチにもそれは当てはまる部分が多い。食いしん坊でのんきなところもあるが主には忠実だ。リュヴァルクでは、その愛嬌を振りまいて傭兵達にも可愛がられている。


「あははっ、すごい伸びるね~」


「ワヒュッ」


その一匹と一人の楽しそうな様子とは反対に、ジュライは額の汗を拭いながらオレをジロリと見てくる。


「なんだ?」


「ソージよぉ、な~んか隠してねぇか?」


 さっそく勘づくのか!? こいつ、鋭すぎだろ! オレは思いもよらぬことを言われたという表情を作って、カナンにまで疑われないように反論する。


「止めろ、その半眼。言いたくないけどな、単純にオレの体力がまだ二人に追いつけいてないんだよ」


「……なるほど、言われてみりゃあそうか」


「ちょっと休憩しようか。考えてみたら、僕達朝からずっと鍛錬し通しだったし、もうお昼になるよ。いつもは師匠がペース配分を考えてくれるけど、今の僕達はそれが出来てない。その辺も考えなきゃいけないね。ところで、ソージのほっぺたが腫れてきてるんだけど」


「おお~っ、すげぇ腫れっぷりだな」


「ぎゃっ、つっつくなよ! お前は悪魔か!」


 ジュライに無遠慮に指でつつかれて、オレは濁った悲鳴を上げた。こっちが痛いってのはわかってるだろうに、とんでもない奴だな。


 騒いでいると、カナンが水筒の水でタオルを濡らしてくれた。


「ふざけてないで、これで冷やしなよ」


「ありがとな。休憩したら飯食うか。それで、午後は三人の位置を交代しよう。カナンが受ける方で、オレとジュライが攻撃役な。オレは拳だけ使って攻撃するから、ライジュンは剣を使うって形でどうだ?」


「それでいいよ。僕の番が終わったら今度はライジュンが攻撃を受ける方だね。二人とも手加減しないから覚悟しておいてよね」


「大きな口を叩くじゃねぇかよ。お前ごときの攻撃なんてちっとも怖くねぇぜ!」


「ワンッ」


「ダイキチまで煽り合いに参加しなくてもいいんだよ。いててっ、しみる。口の中までやってるな、これ」


 オレは濡れタオルで頬を押さえながら項垂れる。しばらく食事に苦労しそうだ。

 

 ふと、人の気配に気づく。土を踏みしめるような足音が二つする。反応したのは三人と一匹が同時だった。

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