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19ワン目 悪縁の予感

「甘いのはお前だ! オレはこいつが欲しがっていたノートも売っている書店を案内してやるんだよ」


「書店か。ジュライは本も読むんだったな」


「冒険譚とかの面白い本が好きだぜ。ソージは読み書きの練習中だろ? 読みやすい本を選んでやるよ」


「そりゃ助かる」


「つーわけで、カナンは黙ってついてこい!」


「ソージ! 僕の方がぴったりなのを見つけてあげるから」


「わかったわかった。二人に頼むことにする。くれぐれも、喧嘩して本を破くなよ?」


「おうっ」


「任せて」


 カナンとジュライはバチバチと火花を散らすと顔をそむけ合って馬に乗る。オレはこっそりオーディスに視線でカナンを頼むと、ジュライの後ろに再び同乗した。通行人の邪魔をしないように中央よりに馬が歩き出すと、中央の広場を通り過ぎたところで、馬の脚が止まる。その店には本の看板が掲げられている。随分と大きな書店のようだ。


 ジュライとカナンは書店の傍の路地に隠すように馬の手綱を縛ると、オレの両手首をそれぞれ掴んでぐいぐい引っ張っていく。そうして四人揃って書店に入れば、室内には膨大な量の本が本棚にぎっしり並んでいた。まるでちょっとした図書館だ。


「先に書き取り用のノートを見たい。どの辺にあるんだ?」


「たぶん前にこっちで見たな。ペンとかと一緒に雑貨類が置いてある場所があるんだ」


「僕はその間に本を選んでるよ。兄さんも一緒に探して」


「ああ、そうしよう」


 ジュライが店頭に案内してくれる。そこにはおしゃれなペンやら上品な柄の封筒、それに無地のノートから皮製の高そうな手帳まで並んでいた。オレは手ごろな値段のノートを手に取る。シンプルだが書ければいいからデザインは二の次だ。


「よしっ、ノートはこれでいいな。次は本……って、カナン達はどこに行ったんだ?」


「子供用の本が置いてある場所だろ。やっぱ最初はそういう簡単なものから始めた方がいいからな」


「少しは読めるから、多少は難しくてもいいぞ」


「じゃあ、アレはなんて書いてある?」


「こう、けつな……貴族……なんちゃら。最後の字はなんて読む?」


「【品位】だな。あそこの本棚は貴族御用立つの本が並んでいるんだぜ。オレ達には一生関係ないジャンルだよな」


「貴族ね……やっぱりいるんだな」


「お前の世界にはいないのか?」


「いたけど、オレの生まれたとこじゃ今は貴族って階級が存在しないんだよ」


「そうなのか!?」


 驚いたはずみなのか、ジュライが声を大きくすると、すぐ側で嫌味な咳ばらいが聞こえた。オレ達が振り向くと、いかにも貴族然とした同じ年くらいの少年が蔑んだ目でこちらを睨んでいる。邪魔だと言いたい様子を見てとり、オレは騒ぎを大きくしないために険悪な表情をしているジュライの腕を掴んでさりげなく方向転換を図る。


「用は済んだから、カナン達のところに行こう。向こうで待ってるかもしれないぞ」


「……おう」


「そこの下民、待て。ハルビス子爵家の息子であるこの僕に頭も下げずに去るなんて失礼だろう」


 どうやら相手は貴族のボンボンのようだ。ジュライはすっかり殺気立っている。凶悪な顔つきで舌を打つ。


「ちっ、なんだテメェ。貴族だからってオレ達に関係あるかよ。こっちは──ムガァッ」


「言うなよ、ジュライ。無駄な争いは避けべきだ」


 リュヴァルクだと言いかけたジュライの口を素早く押さえつけて、オレはお貴族様ににっこりと笑顔を向ける。目は笑っていないけどな。


「失礼しました。邪魔をして申し訳ないです。オレ達はここを去りますので心行くまでこちらでお楽しみください。では、失礼──……」


「待て。僕はその謝罪の仕方に満足していない。この床に膝をついて許しを乞えよ!」


「この野郎、調子に乗りやがって──……っ」


「おい、下民の分際でこの僕に文句があるのか? それなら騎士に貴族侮辱罪で引き渡してやってもいいんだぞ!」


「……くそっ」


「さぁ、膝まづけ。僕に許しを乞うがいい!!」


 ジュライが悔しそうに口をつぐんで膝まづこうとする。オレはその腕を掴んで止めた。こいつのずる賢い目を見ればわかる。こいつはオレ達が謝罪したところで必ず難癖をつけて騎士に引き渡すつもりだ。つまり、この状況を変えたいなら選ぶのは謝罪じゃない。


 オレはため息をついて、敬語をぶん投げて口調を戻す。


「貴族侮辱罪なぁ。いったい、オレ達がどんな侮辱をしたって言うんだ?」


「な、なんだと!? 僕に口答えをするつもりか!」


「オレの言葉が理解出来なかったのか? もう一度聞くが、オレ達がどんな侮辱をした?」



「貴様ぁっ! ──お前達っ、この無礼な下民を切ってしまえ!」


 激昂した貴族の声に呼応するように護衛らしき二人の男が剣を抜く。周囲がざわめきながらこちらに注目する中、落ち着いた声が割って入る。こっからが勝負! オレはオーディスがなにかを言う前に口を開く。背筋を伸ばして、訓練兵のようにハキハキとした口調を意識する。


「申し訳ありません、隊長! 実はこちらの貴族の方に身に覚えのない嫌疑をかけられまして」


「隊長だと? 何者だ?」

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