18ワン目 悪縁の予感
馬は縛った場所で大人しく待っていた。リュベルクの紋章が威力を発揮したのかもな。路地からはあの男達の姿も消えている。少なくとも目に見える範囲にはいないようだ。
オレは馬の轍に足をかけながら、さっきから気になっていることを三人に聞いてみる。
「そういえば、お前達の属性はなんなんだ?」
「オレはハゲ師匠と同じ炎だぜ。一回だけ、教えてもらったんだけどな、魔法を使おうとしたら、すげぇ疲れちまって碌に使えなかった。そんで、まだ早いって言われてよ。たぶん、お前と同じタイミングで教わるんじゃねぇの」
「僕も魔法はまだ教わってないんだ。属性は兄さんと同じ空だよ」
「じゃあ、この中ではオーディスだけが習得者ってことか。どういう魔法を使うんだ?」
「まだ未熟だが、この場所から別の場所に一瞬で移動することが出来る」
「すごいな、それ! 馬を使わずに移動出来るってことだよな?」
「オレ一人なら目に見える範囲に飛べるが、まだ範囲が狭い」
自分の手を見下ろして、拳を握りしめるオーディスはまだまだ満足していないって顔だ。ストイックに努力しそうな性格だし、きっとこの様子ならさらに魔法を進化させていくだろう。
「成長途中ってことだな。その内、オレ達のことも連れて飛べるようになるんじゃないか?」
「いずれは、そうなりたいと思っている」
「言うじゃん。じゃあ、オレ達も負けてらんないな。今まで以上に鍛えるか」
「ハゲ師匠が依頼から帰って来た時には、魔法を習えるようになりたいぜ」
「うんうん、そうだよね。僕も頑張る! でも、今日は街を楽しもうよ。ソージに案内したいとこがいっぱいあるんだ」
「こういうことはメリハリが大事だって言うし、鍛錬は明日からってことで。どこに連れていってくれるんだ?」
「まずは僕のおすすめのお店を紹介してあげる。ジュライ、着いて来て!」
「おうっ。──しっかりつかまっとけよ、ソージ」
カナンはうきうきした様子で兄と共に馬へと乗ると、さっそく手綱を引く。オレが馬に乗ると前に乗り込んだジュライが今度は手綱を握り、カナン達の馬を追いかけていく。狭い路地を抜けて大通りに出れば、もう露店が広がっていた。馬の脚を緩めながら、通りを眺めていれば主に食べ物の屋台が多いことがわかる。カナンは黄色いテントで作られた屋台の前で馬を降りる。
「へい、まいど! なんだ、カナ坊じゃねぇか。久しぶりだなぁ、おい。また友達を連れて来てくれたのかい?」
「うんっ! 彼は僕の新しい友達のソージだよ。──ソージ、ここが僕のおすすめの屋台。なんといっても熊肉の串焼きがいいよ。肉厚でね、すごく美味しいんだ!」
「これがうちの一番人気の串焼きだよ。カナン坊の友達だってんならサービスしてやるから、食ってきな! 下ごしらえしてあるからな、柔らかくて旨いぞ~」
「じゃあ、そいつを一本もらおうか。オーディスとジュライはどうする?」
「ぜひ、いただこう」
「オレは腹減ってるから三本くれ!」
「おいおい、けっこうデカイんだぞ。三本も食えるのかい?」
「余裕だぜ」
「じゃあ、全員に鶏肉を一本おまけしてやらぁ。──新規の坊主は半額でいいぜ。そのかわり、また来てくれよな」
「ありがとな、おっちゃん。また寄らせてもらうよ」
全員で代金を払うと、馬を引きながら串焼きをさっそく食べる。かなり柔らかくて、ちょっと歯を当てるだけでホロリと肉が噛み切れた。こんなに美味い串焼きは初めてだな。塩コショウのシンプルな味付けなのに臭みもなくて食べやすい。じっくり味わいながら咀嚼を繰り返していると、カナンがオレの顔色をうかがうように効いてくる。
「……どう?」
「美味いよ。お前がおすすめするだけあるな」
「えへへっ、よかった! あの店は僕と兄さんがリュベルクに入った日にガオスさんに教えてもらった露店なんだ。いろんな街に移動してるからあのおじさんを見つけたら買うようにしてるんだって。だから本当はガオスさんのおすすめのお店なんだけど、僕も大好きだから君に教えてあげたくて」
「いいおっちゃんだったな。タイミングさえ合うなら、今度ガオス達に土産で買って行ってやるか。いつも世話になってるしな」
「うん、そうだね。それまでにお小遣いをためとかないと」
「むっぐんぐ!」
カナンと話していると、ジュライがオレ達の間に後ろから顔を突っ込んで来た。頬を肉でぱんぱんにしている。お前はどこのハムスターだ。
「ちょっと食べながら話さないでよ。汚いでしょ」
「んぐっ、これでいいだろ!」
大きく喉を鳴らして肉を飲み込んだジュライが鼻息荒くカナンに言い返す。なんでこいつらはいつも大体喧嘩腰なんだ? 別に仲が悪いわけじゃないのにな。……末っ子同士だからか? ジュライも血のつながりがないとはいえ兄貴がいたわけだしな。
「街中で言い合いするなよ」
「二人とも騒ぐな。リュベルクなのがバレたら悪目立ちする」
「オーディスの言う通りだぞ。次はジュライのお勧めを案内してくれるじゃないのか?」
「ふんっ、当然だ。こいつだけに任せておけないからな!」
「なにさ、君が選ぶとこなんてどうせ甘いお菓子の店でしょ」




