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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
19/46

第19話 逆に微妙に普通だし

 石化させた大魔王が連れ去られた。

 ハーピー三姉妹はその実行犯を見ているようだ。


「詳しく話してくれないか」


 ウェスタはハーピー三姉妹に詳しい状況の説明を求めた。

 しかし、状況の理解は予想外に難航した。


 ※幸いにも後で要約されるから、我々が次の一節を解読する必要はないようだ!


「普通にあたし達は大魔王様を救出したかったし」


「微妙に昨夜の内にお城に忍び込んだし」


「逆にあたし達は城の作り知ってるし」


「普通に窓から侵入したし」


「微妙に大魔王様のいる部屋に入ったし」


「逆に部屋にはすでに侵入者がいたし」


「普通に白い羽だったし」


「微妙に天使に見えたし」


「逆にそいつは魔法で大魔王様を持ち上げて部屋を出たし」


「普通に大きめの窓から脱出したし」


「微妙にあたし達はそいつを追いかけたし」


「逆に目的地は結界城だったみたいだし」


「普通にあたし達はどうにかして大魔王様をお救いしたかったし」


「でも微妙に別の天使が出迎えに来てたし」


「逆に見つかって、逆に襲われたし」


「普通に天使の群れから何とか逃げて来たし」


「微妙にその時さらった奴の顔が一瞬見えたし」


「逆にヴェール被ってたけど、そいつは勇者どもの女僧侶だったし」



「これは……分かり難いな」


「申し訳ありませんが、書き留めるのでもう一度言って頂けますか?」


 ウェスタもアンクも彼女らの説明に戦慄した。

 ハーピー姉妹からの情報収集がここまで困難とは思わなかった。

 ウェスタ達は書き留めて内容を整理する事にした。


「三つ子だからってこんなしゃべり方する?」


「普段どういう会話をしてるんだ?」


「ああ、この逆は本当に逆だったのですね」


 アンクは筆記したものをまとめて平易な文章に書き直した。

 内容は以下の通りである。



 ハーピー三姉妹は大魔王を救出するべく昨夜の内に城に忍び込んだ。

 彼女たちは大魔王城の作りを知っていたので、大魔王のいる部屋に窓から難なく侵入した。

 しかし、部屋にはすでに侵入者がいた。

 白い羽を持ったその姿は天使に見えた。

 侵入者は魔法で石化した大魔王を浮遊させ、部屋を出た。

 大きめの窓から大魔王と共に脱出したその侵入者を追うハーピー三姉妹。

 目的地は結界城だった。

 何とか大魔王を取り戻したかったが、そこで侵入者を出迎えに現れた別の天使に発見され、逆に襲撃を受けてしまう。

 天使の群れから命からがら逃げて来たが、侵入者の顔が一瞬見えた。

 ヴェールを纏ったその顔は勇者一行の女僧侶だった。


「侵入者は勇者一行の女僧侶だった……だと?」


 ウェスタは衝撃を受けた。女僧侶ジャンヌの正体が天使で、大魔王を連れ去ったと言う。


 そこにアイギスが現われた。


「何だか騒がしいのね。それはそうとゲーゴスもフィリップもジャンヌも見当たらないんだけど知ってる?」


「あわわわ、普通に出た!」


「微妙に出た!」


「逆に出た!」



 ハーピー三姉妹は怯え始めた。


「あら?あなた達は……」


「普通に来るな!」


「微妙に来るな!」


「逆に来るな~!」


 アイギスは首をかしげた。


「わたし、別にあなた達に危害を加えるつもりは……」


「ぐるな~~~!」

 三人揃っての大音量だった。


「アイギス、ちょっと来てくれ」


「あ、ウェスタ」


 ウェスタはアイギスの腕を掴み、大魔王城の方へ向かう。

 さっきデートに誘われたばかりなので照れ臭くなってしまったが、話を聞くとそれどころではなくなった。


「ジャンヌが天使になって大魔王を連れ去った?」


 冗談のような話だが、そうではないらしい。


「君は彼女から今回の事を知らされてはいないんだな?」


「え…ええ……」


 ハーピー三姉妹が怯えるのも無理はない。

 ジャンヌは勇者一行なのだから勇者である自分が疑われるのは無理からぬ事だ。


「わたしは君の言葉を信じるが、君の仲間の事、特にジャンヌの事を詳しく聞きたい」


 ウェスタ、ゲイリー、アンク、ヘルセーの魔王達に加え、ハーピー三姉妹も同席させ(本人たちは嫌がったが)、アイギスの話を聞く事になった。

 アイギスとジャンヌは赤ん坊の時揃って修道院の前に捨てられていたと言う。

 十二歳の時、修道院の聖堂で二人は女神の啓示を受けた。

 近々始まる大魔王の侵攻を阻止し、人間界を守れと。

 女神の加護によりアイギスは勇者となり、ジャンヌはそのお供になった。

 そのすぐ後、戦士ゲーゴスと魔法使いフィリップが修道院にやって来た。

 二人とも女神に選ばれ、啓示を受けたと言う。

 二人をお供にし、アイギスは旅立った。

 その一年後大魔王の侵略は起こり、さらに一年後、人間界各地の魔物を討伐したジャンヌは結界城で大魔王を退けたのだった。


 ジャンヌとは生まれた時からいつも一緒だった。

 ジャンヌは料理も僧侶としての勉強も日々の務めも何でも完璧にこなした。

 いずれ司祭となって修道院を切り盛りするのはジャンヌだと思っていた。

 勇者に選ばれるまでは何でもジャンヌに任せておけばいいと思っていた。

 いや、勇者になってからも自分が迷った時はジャンヌが常にに最適解を出してくれていた。


「何か彼女を不自然に感じた事はないか?」


「そんな事言われても……」


 いつだって正しい道に導いてくれた最も信頼していた人物だ。不自然だった事など……


「あ!そう言えば……」


 それは結界城で大魔王を倒した時の事だった。

 アイギス自身は大魔王を撤退させただけで十分だと思った。

 しかし、ジャンヌが「彼はまだ生きているわ。追いかけて止めを刺すのよ!」と主張したのだ。

 後日、女神の啓示でも、魔界に渡って、大魔王を倒すように指示された事で魔界に進出したが、その時初めてジャンヌの意見に違和感を覚えたのだった。


「やはり彼女は大魔王に固執している節があった、という事なのか」


 柔和な人格でもあったし、反面物事に無関心な部分もあった人物だけに、大魔王に止めを刺す事にこだわるのは確かに気になる点ではある。


「しかし石像を破壊せず持ち去ったんだよな」


 ゲイリーが気になったのはこの点だった。


「石像を破壊するのがそんなに難しかったとは思えないけどな」


 鍛冶職人としての視点だった。


「殺す事以外の目的があったのかも知れない。

 彼女は結界城に入ったんだな?」


「普通に入ったし」


「微妙に入ったし」


「逆に入ったし」


「とにかく結界城に向かおう」


「そうですね。目的が済んだら殺される可能性もあります。急がないと」


「アンク、空から運んでくれるか?」


「はい、ですがさすがに一人運ぶだけで精一杯です」


「みんなも後から付いて来て欲しい」


「分かったぜ」とゲイリー。


「大魔王の命令ならもちろん従うわ」


 ヘルセーは早速席を立って支度をしようとした。


「わたしも行きたい!」


 アイギスは疑いを持たれてもおかしくないポジションなので確認を求めるように言った。


「分かった。一緒に行こう」


 ウェスタは承諾した。むしろアイギスにも来てもらわなければなるまい、と思っていた。


「普通に待って!」


「微妙に待って!」


「逆に待って!」


 言うまでもなくハーピー三姉妹だった。


「普通にあたし達も運ぶし」


「微妙にそうすれば四人運べるし」


「逆にあたし達速いし」


「しかし怪我をしているじゃないか、安静にしていろ」


「普通に平気だし」


「微妙にそんな事言ってらんないし」


「逆に大魔王様助けたいし」


「分かった。頼む。でも無理はするなよ」


 涙ながらに協力を申し出る彼女らをそれ以上拒否する事はできなかった。



「どうしてもあなたの耳に入れておきたいことがあります」


「何だ?」


 戦闘準備をするウェスタにアンクが話し掛けてきた。


「イフリートら開戦派への大魔王の指示についてです。

 大魔王ブラムの計画は結界城の周辺を制圧した後は守りを固めることばかりだったようです」


「どういう事だ?」


「彼の目的は人間界を支配することではなかった可能性があるということです」


「だがハンス村は滅ぼされたんだぞ」


「それは結界城の周辺だったからでしょう」


 思い当たる節はあった。ハンス村を滅ぼしたミノースは「防壁を作るからしばらくは移動しない」と言っていた。

 電撃作戦の選択肢もあったはずだ。それに魔王達の半数を魔界に残しての侵略計画にも疑問はある。


「何者かから魔界を守るためだったと考えることができます」


「何者か、とは何だ?天使とかジャンヌの事だったと言うのか?」


「とにかく嫌な予感がします」


「君の洞察がそう告げているなら無下にはできないな。

 いずれにしろ今は急いで結界城に向かおう」


 飛行能力のある者が他の仲間を運び、短時間で結界城を目指す。

 アンクがウェスタを運ぶ。

 そして、ハーピー三姉妹がそれぞれアイギス、ゲイリー、ヘルセーを運ぶ事になった。

 緑のドレス姿の長女、ケライノーがアイギス担当だ。


「宜しくね。わたしの事、信じてくれる?」


 アイギスは運搬拒否もあり得ると思っていたのである意味ホッとした。


「普通に信じてないから妹達には運ばせないし」


「そう」


「でもきっと普通にあんたの力が必要。そう思うからあたしが運ぶの」


「それで十分よ。頼んだわ」


 姿を消した仲間とジャンヌの目撃情報。しかも天使の姿をしていたと言う。

 生まれてからずっと一緒だったのに何故、何も相談してくれなかったのか?

 そもそもやっと築けそうな魔界との平和な関係を乱すような事をするのか?

 そして、自分と同じ能力を持つ、自分の出生に関わりがあるかも知れない大魔王ブラムが連れ去られた。

 アイギスは自分自身のためにも結界城を目指さなければならないと思った。

【現在展開可能な情報】

・ハーピー三姉妹

     名前    ドレスの色 口癖

 ・長女 ケライノー   緑   普通に~

 ・次女 アエロー    青   微妙に~

 ・三女 オキュペテー  白   逆に~

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