第18話 大魔王ウェスタ
大魔王ブラムに勝利した翌日からウェスタは大忙しとなった。
近日中に魔界中に大魔王就任の布告を行わなくてはならない。
同時に人間界にも侵攻の意志がない事を伝えなければならない。
しかも人間界との窓口も実質アイギス達くらいしかいない状況だ。
テュポーンや戦闘による市街地の修繕をグスタフとレヴィアが引き受けてくれたのがせめてもの救いだった。
ウェスタはアイギスやアンクと相談し、今後の方針を決めた。
勇者アイギスは人間界の各地で凱旋をし、その際指導者たちを極秘裏に大魔王となったウェスタと会わせることにした。
前大魔王を勇者と共に倒した友好的な魔族として。
ただ、人間界には複数の国家がある。
「大変な時間と労力を要する事になるでしょうね
お二人もお疲れでしょうがよろしくお願いします」
相談が終わるとアンクは工程や予算を計算すると言い、いち早く部屋を後にした。
「すごい。いよいよ二つの世界の争いが終わるのね」
「ああ。君のおかげだ」
「あなたがいたからよ、ウェスタ。じゃあまた後でね」
「ああ、そうだ。アイギス」
ウェスタは立ち去ろうとするアイギスを呼び止めた。
「シラクス市には行ったことがあるかい?」
「立ち寄ったけど長居はしなかったわ」
「あそこには大きな本屋があるとアンクから聞いている。
ゲイリーからはいいレストランがあるとも」
「へえ、そうなんだ」
「市長と二人で午後会談するが、移動は次の日だ」
「ふむふむ」
「その時間を利用して出掛けないか?二人で」
「二人で?」
「二人」
「夜景がきれいらしいんだ。そのレストランは」
改まった表情のウェスタが何だかおかしい。
部屋に入った時からインゲルが目を丸くして緊張していたのが何事かと思っていたがこのことだったようだ。
「どうかな?」
「そうね。いいわ」
笑顔でアイギスは答えた。
予想してなかった事だが、ウェスタの申し出が素直に嬉しかった。
考えてみるとアイギスには魔界に留まらなければならない理由はない。
でも当たり前のように戦いの後はウェスタの進める人間界との友好に協力している。
彼の事を支えようとしている。
これっきりで別れるのは寂しい、そう思い始めていた。
「髪伸びて来たかな」
部屋を出た後何となく身だしなみが気になった。
「伸ばしてみよっかな」
いつも髪を切ってくれるのはジャンヌで、戦いの邪魔になると言われていた。
もう伸ばしてもいいのではないか。
伸ばしたらどんな髪型にしようか?
考えるだけで楽しくなって来た。
ウェスタと二人で出掛けることも。
平和って本当に素晴らしい、そう思った。
ウェスタは無事にアイギスと予定を取り付けた事に上機嫌で執務を行っていた。
戦いの直後だったし、大魔王就任の重責もあったが、苦になどならない。
と、思っていたら何やら大魔王城前の広場が騒がしい。
そう思っていると執務室の扉をノックする音が聞こえて来た。
「どうぞ」
入って来たのは美しいブロンドの、スタイルのいい、ウェスタの二倍ほどの身長の女性だった。
氷の巨人族、ヘルセーだった。
鎧と兜を脱ぐと誰もがその美しさにはっとする。
「ウェスタ。ハーピー三姉妹が戻って来たわ」
外の騒ぎはこの事だろう。
大魔王の側近ハーピー姉妹、大魔王が倒された後、消息が不明だったが、それが自ら戻って来たという。
「そうか、見つかったか。それはよかった」
「それがボロボロで傷も負っているの。でもあなたに会わせろって」
「傷を?」
魔界において誰がハーピー三姉妹に手傷を負わせるというのか。
ウェスタは急いで広場に向かった。
広場にはすでにアンクやゲイリーもいた。
ウェスタに気が付くとハーピー三姉妹は駆け寄ってきた。
「普通にアンタのせい!」
「微妙にアンタが勝ったせい!」
「逆にアンタが石にしたせい!」
すごい剣幕だが確かに腕や足が擦り傷だらけだ。
羽も周囲に散らばっていて痛々しい。
「ふ、普通に大魔王城に天使がいたの!」
「び、微妙にあたし達が大魔王様をお救いするつもりだったのに!」
「ぎゃ、逆に大魔王様が連れ去られたの!」
急いで確認を取らせると確かに安置されていたはずの大魔王の石像が姿を消していた。
大魔王に勝ったのも束の間、魔界の動乱は終わらないのだった。
「なあ、じじい…」
「なんじゃ?先を急ぐと言ったろう」
魔界の荒野を進む二人は勇者一行の戦士ゲーゴスと魔法使いフィリップだった。
「メデューサのあいつは気高さと覚悟、そう言ったぜ。
俺たちもそういう風に生きられないのか?」
「それは無理な相談じゃな。わしらはアイギスとは違う。
命をあいつに握られておる」
「ちぃっ!」
二人の行く先には大きな古城があった。
魔界と人間界の境界、結界城である。
【現在展開可能な情報】
・打ち合わせ
「い、いきなり二人は早いのでは」
「何を言っておる?二人で出掛けないでどうするか」
「多分アイギスはまだ恋愛に興味なさそうだけど、ウェスタの事、嫌いじゃないはずよ」
「そ、そうか。でもやはり今回はまだみんなでいいんじゃないか?」
「二人でと言わなかったら貴様の意識を奪うぞ!」
「そんな横暴な!」
「横暴じゃないわよ! て言うか次も、その次も二人で行けるように彼女の興味ある事を聞き出すのよ!?」




