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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第17話 笑顔の大団円

 気高さと覚悟に根差した「黄金の意志」で、黄金に輝く石化の蛇眼を発動し、ついに大魔王に勝利したウェスタ。

 しかし、大きな犠牲を出してしまった。

 大魔王によって、勇者の仲間三人が相次いで殺害された。


「ジャンヌ、ゲーゴス、フィリップ、見てて…くれた…?」


 仲間の名を呼び、涙ぐんでしまうアイギス。



「見てはいなかったな」


 それは戦士ゲーゴスの声だった。


「え……?」


 返答を期待しての問い掛けではなかったのでアイギスは驚愕した。


「フィリップは今復活させるところだからもうちょっと待っててちょうだい」


 今度は僧侶ジャンヌの声だった。


「…おお、終わったか、全く生きた心地がせんわい」


「でしょうね」


 フィリップもジャンヌの蘇生魔法で復活したようだ。


「ジャンヌ!死んだと思ったわ」


「わたしもそう思ってたわ。声も出せなかったし、身体も動かせなかった。

 でも、あなたとウェスタの声を聞いて、黄金の輝きが目に入ったらもうちょっと頑張れそうな気になったの。

 何とか自分に回復魔法を掛けるのは間に合ったみたいね」


「ジャンヌ!」


 アイギスはジャンヌに抱き付いていた。


「よかった…、本当に……」


「結構出血したから触らない方がいいわよ。

 ああ、紫色なら目立たないかと思ったけど、やっぱり美しくないわ。

 早く着替えたい」


「もうジャンヌったら」


 アイギスは自分の服が汚れているかどうかなど気にならなかった。

 そのままジャンヌの修道服にうれし涙を押し付け続けた。


 感動が収まってからアイギスは石化した大魔王ブラムの側にたたずむウェスタの元に向かった。


「あの黄金の蛇眼は一体何なの?」


 ウェスタは大メデューサとのやり取りの事を話した。

 キーとなる感情の事と、大魔王との戦いで「石化の蛇眼」を発動できなかったら意識を奪うと言われた事も。


「そんな事があったのね。

 支配欲と殺意ではなく、気高さと覚悟かあ」


 アイギスは、石化したブラム安らかな笑みを見詰めた。

 テュポーン、ベヒモスのグスタフ、リヴァイアサンのレヴィア、いずれも恐怖と驚愕の表情で石化した。

 確かに黄金の蛇眼は性質が違うのだろう。


「魔王らしくないかな?」


 いつも言われる事をウェスタは先んじて言ってみた。


「そうね。でも」


 振り向いたアイギスは微笑んで言った。


「あなたらしいわ」



 その時、その笑顔を見た時、ウェスタは急にどきっとした。

 戦っている間は意識してなかったが、これほどかわいらしい笑顔を見た事がなかった。

 同時に彼女が今後どうするのかに思い至った。

 今まで当たり前のように一緒にいたが、やはり彼女は今後は人間界に戻るのだろう。

 別れの時がすぐにもやって来るのではないか、そう考えると残念でならない。


「ちょっと何急に考え込んじゃってんの?」


 インゲルに話し掛けられ、我に返る。


「だっ、大丈夫だ!」


「顔も赤いし、疲れてる?」


「石化の蛇眼は精神を消耗するから疲れもするわい。

 あの黄金の蛇眼の事はわしには分からんがのう」


「まあ、そうですね。と、とても疲れてます」


「さっきは大丈夫って言ったのに、変なの」



 さて、大魔王に勝った以上、新たな大魔王に就任しなければならないが、一つ問題があった。


 石化させたベヒモスのグスタフとリヴァイアサンのレヴィアの事だ。

 特に共闘関係にあったのに意見の相違の末に石化させてしまったレヴィアが問題だ。

 両名は十二支族の筆頭にして、大魔王城の周囲に領地を持つ名士だ。

 彼らを石化させたまま新体制に移行する訳にはいかないが、大いに揉める事になるだろう。


「さきにグスタフ殿だけ復活させてはどうでしょう?」


 アンクがそう提案してきた。


「大魔王との戦いに勝利したウェスタのことを案外あっさり認めるかも知れません。

 上手く行けばレヴィア殿との対話で睨みを利かせられるかも」


 一理あると思った。それにウェスタの知るグスタフは決して頑迷ではなく、むしろ気さくな人柄であったはずだ。

 交戦派である事だけが懸念材料だった。

 提案通りウェスタはまずグスタフの石化を解いた。


「見事だ。ウェスタ殿。『石化の蛇眼』を習得されたとは聞いておったが、ブラム殿にも勝ったか」


 グスタフは全く遺恨を残してはいなかった。


「そなたを大魔王と認めよう。そなたの考えに従う」


 さらに、レヴィアについて相談してみると、


「姉者は大魔王の座なんぞ狙っていないし、ウェスタ殿を裏で操り実権を握る考えでもない」


 予想外の反応だった。


「で、でもあなたの事を処刑しろとかも言ってたわよ?」


「まあ姉者は思い込みが強いからなあ」


 思いの他、軽い反応だった。


「今思えばわしは戦果を上げたくて、姉者の話をちゃんと聞いていなかったかも知れん」


 自身が殺されかけていた事を伝えても平然としていた事は意外だったが、いとこ同士でレヴィアの気性を理解しているのかも知れない。


「それではレヴィア殿は何故大魔王と対抗したかったのです?」


「大魔王様と意見の相違があった事は間違いないのだ」


 グスタフは顎鬚をいじりながら神妙な面持ちで言った。

 当時の事を思い出しているようだった。


「姉者は市街地の再開発がやりたいのだ」


 レヴィアは二十年前、市街地のインフラ整備を手掛けて以来ヘルヘイム市街地に相当の愛着を持っていた。

 二十年前目にして各所の老朽化が目立って来たので再開発を提案したが、軍備増強路線の大魔王ブラムに反対された。

 その上、先だってのテュポーン暴走による市街地の破壊である。

 レヴィアは大魔王と主戦派に怒り心頭だったと言う。


「都市デザインを任せると言えば機嫌を治すだろう」



 ウェスタは遂に意を決してレヴィアの石化を解いた。

 石化を解かれたレヴィアは果たして不機嫌極まりない表情だった。


「お陰様で大魔王に勝利できました」


 石化したのが大メデューサとは言え、どの口が言うのか?とウェスタは我ながらに思った。


「それはおめでとうございます。

 それでわたしの事を処刑なされるおつもりか?」


「い、いえ、わたしはレヴィア殿をこの戦いの功労者と考えております」


「ほう……」


 表情は緩んでいない。まだいぶかしんでいる感じだ。


「ついてはあなたにも協力を要請したい。

 かつてあなたが手掛けたと言うヘルヘイム市街地の復興を」


 レヴィアの眉が動いた。大いに関心を示したようだ。


「しかし、かつてはブラム殿に予算がないと言われましたぞ」


「人間界との戦争は中止にするので、軍備に当てるはずだった予算は浮きます」


「しかし、復興と言われても元が痛み過ぎておりますので……」


 ここでグスタフがウェスタに耳打ちをして来た。


「そうではない。ウェスタ殿……」


「そうか!」


 ウェスタは膝を打った。


「レヴィア殿、わたしには建築や治水の知見がありません。

 一からあなたにお任せします。復興以上を目指します。

 都市デザインをあなたにして頂きたいのです」


「おお!都市デザイン!」


 レヴィアは立ち上がった。その目は輝いている。


「アイデアは細部までできておりますが、テュポーンめによる被害だけはこれから確認するしかありませぬ。

 少々の時間を頂きますぞ?」


「お任せします」


「よし!引き受けましたぞ!グスタフ!」


「おうよ、姉者!」


 レヴィアは降ろしていた髪を束ね、豪奢なガウンを脱いで、シャツとパンツ姿になった。

 すると貴族的な印象が職人のたたずまいに変貌を遂げる。

「力自慢を集めよ。忙しくなるぞ!」


「任せておけい、姉者!わはははは!」


「なんかあの人も印象変わったわね」


 楽しげに去って行ったレヴィアとグスタフを茫然と見送りながらインゲルがつぶやく。


「だが、実際に市街の復興は重要だ。

 これは一石二鳥と言ってもいい」


「そうですね、上々です」


 アンクも笑顔でお墨付きをくれた。

 ウェスタは、大魔王になるに当たって幸先のいいスタートを切れたと感じた。



「あんた達も解放だってさ」


 ゲイリーはヘルセーとザデンの縄を解いた。

「ウェスタは望むならこのまま仕えて欲しいそうだが、どうする?」


「俺が主と決めたのはブラム様だけだ」


 ザデンはそう言うと去って行った。


「仕えてもいいんだけど」


 ヘルセーは目の前の大魔王城を見上げた。


「あいつがブラム様に勝ったなんて今だに信じられないわ」


「そうか?俺はあいつはやると思ってたぜ」


「どうしてそう思うの?」


「時代を変えるのは誰もやらない事をやる奴だ。

 そういう奴は意外と古いものの考えでは、弱いとか甘いとか思われるもんさ」


「ふうん、確かにブラム様は保守的な人だったけど」


 魔界の赤黒い空を眺めながらヘルセーは言った。


「だからこそ信じられないのよね、あの人が軽率に戦争を始めるなんて」



 大魔王城の大広間の勇者一行、アイギス、ゲーゴス、フィリップ。

 今日はひとまず城内の空き部屋で休む手はずだった。


「大魔王の事だけど」


 アイギスは二人に尋ねる。


「わたしの力、あの人と似てるよね」


「…………」


「あの人わたしのお父さんなのかな?」


「どうだろうな」


「あの人がわたしのお父さんかも知れない。

 話をする機会があったら聞いてみたいな。

 これからは人間と魔族が仲良くできる世界にするんだから、大魔王のあの人とだって仲良くできるよね」


 そう考えると不思議と笑みがこぼれて来る。


「ああ、そうなるといいな」


 ゲーゴスはそう言ったがフィリップは何も言わなかった。


「あの人といつ話ができるかな?そう言えばジャンヌはどこ?」



 石像と化した大魔王ブラムの安置された、大魔王城の一室。そこに立ち入る一つの人影。


(ごきげんはいかが、大魔王)


(わたしに話し掛けられるとは、貴様がそうだったのか)


(ええ、あなたの声も聞こえますよ)


 部屋は静まり返ったまま。

 それは心の声による対話だった。

 石と化したブラムと限られた会話の手段だった。


(そうか、だから貴様は死ななかったのか)


(メデューサを味方にできたのは嬉しい誤算でした。あなたをこんなに容易く生け捕りにできるとは)


(わたしも殺されないで済んでいるのは嬉しい誤算だが、貴様の接近をここまで許してしまうとはな)


(あなた自身が人間界に来なければ、もっと守りを固められたでしょうに)


(勇者とかいう奴が何者か確かめたかった)


(殊勝なことです。どうでしたか?)


(ヘドが出るな。そのために今まで時間をかけていたのか)


(ええ、わたしは主神すらなし得なかったことをなし遂げます。

 知恵の果実を返してもらいます。あの子なら使いこなすでしょう。

 そして魔界と魔族を滅ぼします。その時初めて美しい世界が生まれるのです)


「フフフ……あっはっはっはっはっはっは………!」


 石像の周りをぐるぐる回りながら小躍りするその人物の哄笑だけが室内に鳴り響いていた。

前半部分、第一部完結です。

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