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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第15話 大魔王ブラム

 ベヒモス、バロール、ヨトゥンとの戦いに勝利し、意見の対立したレヴィアも石化し、いよいよ大魔王城に臨むウェスタ達。


「兵士は先ほどの市街戦でほぼ投入されました」


「じゃあ敵は大魔王一人って事?」


 アイギスはアンクに質問した。


「大魔王城には魔法生物を反永久的に生み出す魔方陣があります。

 間違いなくそれが起動しているでしょう」


「魔法生物ってどんな生物?」


「ガーゴイルやゴーレムです。

 戦闘力はそれほどでもありませんが、素材の頑丈さだけでも馬鹿になりません」


 ガーゴイルは石でできた翼の生えた悪魔、ゴーレムは様々な素材でできた人型の巨人の総称だ。


「そうだろうな。魔方陣の位置は特定できているか?」


「もちろんです」


 ウェスタは広大な大魔王城の構造には疎かった。

 しかし、ヘルヘイムの壁の内側に領地を持つスフィンクス族のアンクはそうではない。


「魔方陣の調整を行ったのがわたしですからね」


 大魔王城の左右にある尖塔、その最上階にそれぞれ魔方陣は一つずつあるようだった。

 城の中の魔法生物の数に応じて個体数を自動で調節し、与えられた魔力を節約しながら長時間の魔法生物の召喚を可能とする、アンクの自信作らしい。


「その両方を制圧してから中央にいる大魔王を倒せばいいの?」


「両方の魔方陣が停止されたら大魔王の間の扉に結界が張られ、それは大魔王自身が解除するか、大魔王が倒されるかでしか消滅しません」


「厳重な仕掛けね」


「当時は大魔王と戦う事になるとは思っていませんでした」


「それもあなたが作ったのね」


 左右の尖塔と中央にある大魔王の間、三か所を同時に攻略するしかないようだ。


 ウェスタと勇者一行は中央の大魔王の間へ。

 ゲイリーとアンクはそれぞれ魔族の部隊を率いて左右の尖塔を目指した。

 魔法生物であるガーゴイルもゴーレムもメデューサの「蛇眼」の効果がない。

 ウェスタは剣で戦う他なかったが、勇者一行の戦闘力のおかげで苦戦はしなかった。

 大魔王の間までは難なく辿り付いた。


「今度こそ大魔王を倒すわ」


 一度は敗走させた相手だが、決して油断はできない。

 アイギスは決意を新たに再戦に臨む。


「今度も俺たちの勝ちに決まってる」


 ゲーゴスは得物の魔神の戦斧を握り直す。

「そう願いたいが、敵も同じ様にはいかんように考えているじゃろう」


 フィリップは、大魔王が一度敗れているというのに何の策もなしに待ち構えているとは思えなかった。


「無理はしないで。わたしの回復魔法を頼って」


 女神の加護を受けた勇者一行に関しては死亡からの蘇生もできるジャンヌだが、その彼女が倒されては元も子もない。

 ジャンヌはできる限り大魔王との交戦は避けたいと思っていた。


「『石化の蛇眼』は大魔王にも効くのかしら?」


 アイギスはごく自然な質問をしたつもりだったが、ウェスタたちの返答は一瞬遅れた。

 逡巡の間を確かに感じ、アイギスは首を傾げた。


「無論じゃ。元人間ごときに防がれてたまるものか」


 大メデューサだけがこの質問に答えた。



 大魔王との戦いの間にウェスタが『石化の蛇眼』を習得できなかったら永遠に意識を奪う。


 この会話はアイギスたちには聞かれていなかった。

 レヴィアの石化の時点で彼女達はウェスタに近づくことをためらったからだった。


 この件に関してその後、ウェスタと大メデューサの間での話し合いはなかった。

 インゲルはこの事が大魔王との戦い以上に気掛かりだった。


 伝令の使い魔をゲイリーとアンクの元に送る。

 これで魔法生物を生成する魔方陣は解除される事だろう。

 一行は禍々しい文様の刻まれた大魔王の間の扉を開いた。


 そこは窓のない壁に掛けられた松明だけが灯りの広間だった。


「久しぶりだな、勇者アイギスとその一行」


 高台の玉座に腰掛ける黒いマントと礼服の初老の男。

 現在の魔界の支配者、大魔王、吸血鬼ブラムである。

 冷気にも似た魔力と威圧感が空間を支配する。


「そしてメデューサよ」


 ついに敵として相対したウェスタとブラム。

 威圧感は変わらない。いやそれどころか、今回は造反への怒りが感じられる。


「勇者を引き込んで、大魔王城まで手引きするとは思わなかったぞ」


「魔界に平和と自由を取り戻すためです」


 それでも今回は敢然と意見することができた。

 協力してくれている仲間たちのためにも怯む訳にはいかないと思った。


「なあに。手段を問うつもりはない。

 強さこそが魔界の掟。勝ったものに従うまでだ」


 大魔王は笑みすら浮かべていた。


「いずれにせよ、万死に値するがな」


 冷酷で冷徹な笑みを。



 ブラムはまずウェスタに仕掛けて来た。

 腰から抜いた細身の剣で切り掛かる。


「貴様の父、オキツは優れた剣士だった」


 ウェスタの父オキツは他ならぬブラムが大魔王になる前に殺している。

 父の方から腕試しを仕掛けた結果なので、ウェスタはこの件でブラムをさほど憎んではいない。


「敵として戦ったが、その強さは敬意に値すると思っている」


 剣の打ち合いはブラムの方に分があった。

 ウェスタは追い詰められていく。


「貴様の剣技はそれほどでもないがな」


「くっ……!」


 初めて見る大魔王の剣技だったが、一筋縄では行かない。

 武術にも精通しているようだ。


「ハイドラ!」


 少女の声と共に水流がブラムに襲い掛かった。

 女勇者アイギスだ。

 アイギスが魔王ハイドラとの戦いで会得した水流だった。


「わたしが相手よ!」


 不意打ちだったが、魔力の集中を感じ取っていたのかブラムに慌てるところはなかった。

 ブラムは切り払いでウェスタとの距離を置くと……


「フォルネウス」


 ブラムの手からも水流が現れ、アイギスの方へ向かって行く。

 威力はブラムの方が強くアイギスの水流は押し戻されて行く。

 アイギスは後ろに飛び退く。


「この力は……!そんなまさか!」


 一つの予感が胸騒ぎとなって、アイギスを狼狽させる。


「それなら!イフリート!」

 アイギスは火炎流を放つ。


「アグニ」


 ブラムは巨大な火球を召喚した。

 アイギスの火炎流はかき消される。

 炎の勝負もブラムに軍配が上がった。


「マンティコア!」


 アイギスは目にも止まらぬ速さでブラムに斬りかかる!


「ブラックパンサー」


 剣を抜いたブラムはアイギスの高速の剣技を全て受け止め、弾き返した。

 アイギスは勇者の剣を手放してしまう。


「わたしと同じ力?」


「アイギス!これを使え!」


 アイギスの足元に飛んで来たのは戦士ゲーゴスの両刃の大戦斧、魔神の戦斧だ。


「ミノタウロス!」


 アイギスはそれを持ち上げるとブラムに殴り掛かった。

「ギガンテス」


 ブラムは壁に立て掛けられた大剣を魔法で引き寄せると戦斧の攻撃を受け止める。

 そして、あっさりとアイギスの攻撃を押し戻した。


「同じではない」


 武器としては魔神の戦斧と比べれば小振りで劣っているのは明白だったが、力比べはブラムに軍配が上がる。


「練度が違う」


 大剣を投げ捨てるとブラムは言い放った。



「何故あなたが勇者の力をっ!?」


 優劣よりむしろアイギスにはそちらの方が気になった。


「……ふん」


 ブラムからの返答はなかった。


「やはりそうか」


 ウェスタは合点がいったようだ。


「過去の大魔王の戦いの記録を見ると、複数の魔物の能力を操った例が見受けられる」


「じゃああれは大魔王の能力なの?」


「多分な」


「じゃあ、じゃあ…」


 インゲルは理解が追い付かない。

 アイギスと同じ力を大魔王が使ったのではなく、歴代の大魔王と同じ力をアイギスが使っている?

 戦いの中で新たな謎が持ち上がる。

 魔界の覇権を巡る戦いは、人間界の勇者アイギスの運命をも巻き込んで最終局面を迎えて行く。

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