第12話 魔王軍対魔王軍(中編)
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メデューサの魔王、ウェスタの目の前に立っているのはバロール族の魔王、ザデン。
「石化の蛇眼」と「致死の凶眼」の対決だ。
「大メデューサ様、バロールの『凶眼』に勝てると思いますか?」
「四千年間はバロールとは戦わなかったのう。
疎遠だったし、お互いルシファー様に従ってからの付き合いじゃった」
ぼさぼさの黒髪とぼろぼろのコートの大鎌を持った大男を凝視しながら大メデューサは行った。
「じゃが結局は魔力と気迫の勝負になるのではないか?」
確かににそうだ。
相手を死に至らしめる能力は圧倒的だが、勝ち目はあるはずだ。
「大魔王様に反抗する不届き者め」
「死神」ザデンは大魔王の側近と呼ばれる、大魔王を除けば最強の敵と言っていい。
「ここで死ね」
激戦は必至だ。
眼力使い同士の戦いということもあり、にらみ合いは重要な意味があった、が。
「お前の中央の目……いい目だな」
「何の話だ?」
予想外の反応が返って来た。
「おれの女になれ」
「!?…わたしは女ではない!」
ウェスタは狼狽した。
ウェスタは長髪ではあるが女性と間違われたことはない。
そもそもザデンとは初対面ではない。急に何を言い出すのか。
「フッ、バロール族は異性を目だけで判断するからのう。
わしの美しさに惚れるのは止むを得まい」
「なっ、何だって!?」
どうやらザデンにはウェスタの額の大メデューサの瞳が魅力的だったようだ。
それは確かに本来女性の目だ。
楽しそうに大メデューサが言う。
「よかろう。お前が勝ったら、犯すなり、殺すなり貴様の好きにするがよい」
「なっ!わたしは好きなようにされたくありません」
「なら勝つんじゃな」
とんでもない話になった。
「このひとたちが当たり前のように言ってることが全然理解できない!」
インゲルも目を回している。
「おれの女になると言うなら殺しはしない。
悪い話ではなかろう」
「いい話でもないな」
「武術の勝負で決めよう。剣を抜け」
そう言うとザデンは大鎌を構えた。
代わりにザデンの魔力の集中は解けた。
「これで『致死の凶眼』は使わなくなった。よかったのう」
「それはそうですが……」
ウェスタも剣技の構えを取った。
懸念材料だったバロールの「致死の凶眼」の脅威が去った。
代わりに予想しなかった脅威が迫っていた。
ゲイリーとアンク、勇者一行に襲い掛かる大魔王城からの敵の大部隊。
「ゲイリー!会いたかったわ!」
その先頭に立つ豪華な黄金の兜と鎧で重武装した巨人の女戦士はゲイリーと旧知の間柄だったようだ。
霜の巨人、ヨトゥン族の魔王ヘルセーだ。
「ゲイリー、あの巨人はあなたの知り合いなのね」
敵の部隊の迫る中アイギスはゲイリーに確認した。
「ああ、昔ちょっとな」
「あなたが大魔王城に召し抱えられていた時ですか?」
アンクは多少心当たりだあったようだ。
「ああ、あいつは俺が引き受ける。他の敵を頼む
ヨトゥン族の兵は手ごわいから気を付けろよ」
「分かったわ」
アイギスたちは巨人族の兵達に向かう。
魔王ヘルセーも他には目もくれずゲイリーに向かって来た。
「今すぐ降伏しなさい。
大魔王様にはわたしからとりなしてあげます。
一緒にまた大魔王城で暮らしましょう」
「相変わらず自分の都合ばっかりだな、お前は」
ゲイリーも筋骨隆々さで知られるサイクロップス族の男だ。
巨人族と並んでも見劣りしない。
今はウェスタと同様、胸当て、ひじ当て、すね当てで武装している。
愛用の金棒を握り直す。
「そこをどけよ。さもないと……」
金棒を振りかぶったかと思うと肩に背負い込んだ。
「けがするぜ!」
ゲイリーの威嚇にもヘルセーは全く動じることはなかった。
冷ややかな視線を浴びせるだけだ。
「わたしに勝てるつもりなの?」
視線が冷ややかなだけでなく、冷たい風が吹いた。
「それともわたしを怒らせるつもりなの?」
霜の巨人の氷の吐息をヘルセーは魔法で意のままに操る。
いや、無意識ですら周囲の冷気を操作していた。
「わたしは後悔しているの。
あなたが王宮武器職人を辞めるのを引き留められなかったことを」
ヘルセーが剣に吐息をかけると刀身に竜巻のように吹雪が纏わり付いた。
「宮仕えは性に合わないって言ったろ
俺は自由に武具を創作する余裕が欲しかったんだ」
「そのせいであなたと戦うことになってしまった」
剣を構える。突きの構えのようだが、そのまま剣から氷の魔法を放つこともできる。
側近として大魔王に仕えるヘルセーの必勝の構えだ。
「今度は止めるわ。あなたを凍らせてでも」
ヘルセーはゲイリーに斬りかかった。
巨体に見合わぬ素早く鋭い斬撃だ。
ゲイリーは金棒で受け止めた、が金棒は剣を受け止めた場所から凍り付いていく。
金棒がヘルセーの方に引っ張られる。
これはサイクロップス族に匹敵する腕力をもってしなければ為し得ない事だ。
「後がつかえているの。手間を掛けるつもりはないわ」
しかし、その時、金棒から蒸気が上がった。
みるみる凍結した部分が溶け、剣と金棒は引き離される。
「どうよ。俺の創作武器」
よく見ると金棒の根本、柄頭に赤い宝石が付いている。
「炎の力のまじないが封じ込まれている。
温度調節程度の力しかない代わりにちょっとの魔力でも扱える」
「わたしと戦う準備をしていたって言うの?」
さらにヘルセーは機嫌を損ねたようだ。眉間に皺を寄せている。
「気に入らないわね」
「そうかい」
ゲイリーは短い顎鬚をなでると金棒を構え直した。
ウェスタに後方からのバロールを任せたレヴィアだったが、ベヒモス軍を挟み撃ちにする手はずのゲイリー、アンク、勇者一行が現れない。
すでに大魔王城から現われたヨトゥン軍の相手をしていたからだ。
「ええい、彼らは何をしているのです?
これではわたしの作戦が!」
そうしている間にベヒモス軍が進軍を開始する。
これでは自分達がバロールと挟み撃ちにされてしまう。
ベヒモス軍の先頭を行くのは現当主、グスタフ。
大柄な体躯の持ち主の中年男性。
長く伸びた髪と髭はまるで獅子のようだ。
両手に鋭い爪が生えている。
かつては獣そのものの姿だったが今でも格闘戦での強さに翳りはない。
魔王軍きっての武闘派だ。
「日和見うかがう卑劣な本性を現したか?姉者!」
レヴィアを視認できる距離まで近づくとグスタフは叫んだ。
二人は姉弟ではないが両一族は親戚筋にあたる。
「黙りなさい。これは人間の大魔王を倒すチャンスなのです」
レヴィアの放った水流の一撃はベヒモス軍を蹴散らして行くが、グスタフはそれを正面から両腕を交差させて受け止めた。
「それで人間界に攻め込む機会を逸しては元も子もないわあ!」
それぞれの思惑を乗せて、魔王達の戦いは続く。




