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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第11話 魔王軍対魔王軍(前編)

 打倒大魔王を目指す、メデューサ族の魔王ウェスタと女勇者アイギス率いる一行。

 魔界十二支族の治める魔王城は、いよいよ十二支族の重鎮たる、リヴァイアサンとベヒモスの城を残すのみであった。


 しかし、リヴァイアサンの魔王レヴィアから対大魔王の同盟を持ちかけられる。

 ウェスタ達は会談のためにリヴァイアサン領に向かうことになった。

 テュポーン侵攻の傷跡の残る市街地を抜けてリヴァイアサン城を目指す。


「リヴァイアサンとベヒモスと言えば魔界の保守勢力の代表じゃねえか」


 サイクロップスの魔王、ゲイリーは不思議がった。


「よく大魔王と戦う気になったなもんだな」


「そうでもありません」


 と言ったのはスフィンクス族のアンク。


「保守勢力と言っても元人間の大魔王をよしとしない者たちもいます。

 魔王レヴィアはその勢力の代表格です」


「わしは人間の大魔王などを許す保守の意味の方が分からんわい」


 四千年前から蘇った大メデューサはジェネレーションギャップを感じざるを得ないようだった。


「さっきから言ってる保守勢力ってどういう意味?」


 人間代表としてアイギスは質問した。

 魔界の政治事情は全く分からない。


「体制を変えるのに慎重な勢力、ということかな」


 ウェスタは説明した。


「大魔王を支持してその体制の安定を目指す勢力のことだ。

 リヴァイアサン、ベヒモス、スフィンクスは伝統的にその立場を取って来た」


「わたしは今回転向しましたけどね」とアンク。


「保守の反対は?」


「革新、という言葉になるかな。

 最も現大魔王の治世は安定していたので、革新勢力は基本的にいない」


「あなたは今それだからね」


 インゲルは指摘した。


「わたしは人間との戦争を止めたかっただけで体制を覆す気はないよ」


 とは言え現大魔王の打倒を目指すという意味では確かにウェスタは革新勢力に該当するのだろう。


「で、その保守勢力のはずのリヴァイアサンが今回反大魔王に回ったってことね」


「そして、その理由は魔王レヴィアは元々人間が大魔王であることに不満を持っていたから、ということです。

 単純に今回テュポーンによる被害が大きかったこともあるのでしょうが」


「もう一人のベヒモスの魔王は?」


「魔王グスタフは強い大魔王なら文句はないようです。

 それに人間界侵攻の方針にも賛成しています」


「そっちの転向はなさそうね」


「一度人間の勇者に負けたんじゃろうが。

 何が強い大魔王か。どいつもこいつも腑抜けておるわ」


 大メデューサは文句があるようだった。


「勇者は魔王退治のスペシャリストです。

 彼でなくとも勝つのは至難の業ですよ」


 アンクはそう諭した。


 一行はリヴァイアサン城に到着した。

 城はテュポーンの被害をなんとかやり過ごしたようだった。


 一行は玉座の間にて魔王レヴィアと会談することになった。


 リヴァイアサン族はかつては巨大な水竜の姿であったが、目の前の魔王レヴィアは人間の大きさと姿だ。

 毛皮の付いた豪奢なドレスを身に着けた中年の女性だ。

 髪は長髪をフォーマルスタイルにまとめている。

 ひれのようなものが耳や二の腕に見受けられるのが水竜であったなごりか。


「ようこそ、いらっしゃいました。ウェスタ殿」


 レヴィアは握手を求めて来た。

 ウェスタの知っている魔王レヴィアは厳格で、かつ傍流のメデューサ族など歯牙にもかけておらず、話し掛けられた経験などなかった。

 しかし、目の前のレヴィアは賓客待遇でウェスタを迎えている。


「『石化の蛇眼』を習得なされたとか。

 人間の勇者一行とも同盟を結ばれたとも聞き及んでおります」


「はい、こちらにおられるアイギス殿が勇者です」


「これはかわいらしい。あなたが歴戦の勇者殿とは」


 サイクロップス族のゲイリー、スフィンクス族のアンク、勇者一行のゲーゴス、ジャンヌ、フィリップも挨拶を済ませた。


「なぜレヴィア殿はわたしと共闘を?」


「テュポーンを放って、市街に甚大な被害を出した大魔王ブラムは倒さねばなりますまい。

 彼の主導する人間界侵攻にもわたしは本当は反対だったのですよ。

 あの時は助け舟も出せず申し訳ありませんでした」


 ウェスタは平和を求める同志が増えたことが嬉しかった。

 このまま進めば、自分の理想はきっと実現する。そう思った。


「『石化の蛇眼』を習得された今のあなたなら信頼できます。

 共に大魔王を倒しましょうぞ」


 会談はいい手応えをもって終了した。ところが、


「胡散臭い女よ。お前が勝つと踏んでいるだけではないのか」


 賓客用の客間に通されるなり、大メデューサは言った。


「そうでしょうか?」


「それでも協力してくれるなら同じことでしょ?」


「若造ならいいように操れると思っておるのじゃろう。気を許すなよ」


「覚えておきます」


 会談中言葉を発せず、髪に隠れて姿も現さなかった大メデューサだったが、相手の観察はしていたようだった。

 元人間の大魔王をよしとしない者達の代表、伏せている思惑があるだろうとは思っていたが、味方も一筋縄ではいかないらしい。


 大魔王城が目前の位置の広場にベヒモス軍はすでに布陣しているようだった。

 ウェスタ達は、二手に分かれる作戦を取ることになった。

 広場に繋がる大通りをウェスタとレヴィアが率いる魔族の軍勢が進む。

 同時に勇者一行とゲイリー、そしてアンクとその配下の部隊が、市街地の地形を利用して側面を突く。

 ベヒモスは武闘派の魔王として知られ、精強な軍を率いているが、挟み撃ち作戦で虚を突くことで勝機を見出すことにした。


 土地勘のあるレヴィアの作戦に誰も反対しなかった。

 しかし、作戦が始まってすぐに、スフィンクス族のアンクはこれはまずいと思った。

 自身が飛行していて気付いたが、市街地の地形は上空からは丸見えだ。

 上空を偵察する敵がいれば市街地を進む部隊は看破できる。それどころか……


「普通に物陰から敵来てるし。報告報告ー!」


 アンクが飛行して周囲を確認した時には、フリルの付いた緑色のドレス姿の羽の生えた少女が飛び去るところだった。

 大魔王の召使い、ハーピー三姉妹の長女、ケライノーだ。


 同じ頃、進軍するウェスタとレヴィアの部隊の上空にもハーピーの姿があった。

 白いドレスは三女、オキュペテーだ。


「逆にそろそろ挟み撃ちにできるし」


 大魔王城の上空には青いドレスの次女、アエローがいた。


「微妙に二人とも戻って来てるし。微妙にあいつらに合図するし」


 レヴィア軍の後方からどよめきが起こる。

 どうやら敵が現れたようだ。


「上手いこと最後尾を狙うとは。偶然の鉢合わせとは思えない」


「じゃろうな。待ち伏せされていたな」


 ウェスタと大メデューサは状況を把握したが、少し遅かったようだ。

 前方のベヒモス軍も進軍して来る。


「レヴィア殿、ベヒモスは任せます。

 わたしは後方の敵を迎え撃ちます!」


 後方では味方が次々と倒されていた。

 しかし、敵の軍勢の姿は一向に見えない。

 後方に向かうウェスタは胸騒ぎがした。


 敵はたった一人でレヴィア軍を次々と倒していた。

 軍勢を視認できなかったのはそのせいだ。

 大鎌を持った大男、ぼさぼさの長髪で片目を隠している。

 他の魔王と同じく王族の衣装をまとってはいるがところどころ破れぼろぼろになっている。

 ウェスタの予想した通りの相手だった。

 一人で軍勢を相手にできる男。

 大魔王の側近、「死神」の二つ名で知られる。

 見るものに死をもたらす「致死の凶眼」の使い手。


「見つけたぞ、メデューサ」


 メデューサ族の天敵、バロール族の魔王ザデンである。


 一方、ゲイリーとアンク、勇者一行の前には大魔王城からの敵の大部隊が迫っていた。

 先頭に立つのは兜と鎧で重武装した巨人の戦士だった。剣を携えている。

 兜からは長い金髪が溢れていた。

 雪のように白い肌を持った美しい女戦士、霜の巨人、ヨトゥン族の魔王ヘルセーだ。


「ゲイリー!わたしに会いに来たのね!」


「奇襲掛けて来といて何言ってやがる!」


 大魔王城を目前に、魔王達同士が争う空前の大混戦が始まった。

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