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中魔王メデューサ  作者: 隘路(兄)
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第10話 石化の蛇眼

 ウェスタ一行が大魔王城を目指して進むほどテュポーンの咆哮が大きくなって来た。

 避難する住民の魔族とも行きあい、混乱の様が伝わって来る。


「いよいよだわ」


 アイギスは相次いで仲間が命を落とした苦い記憶を思い出していた。(幸いにも二人とも生き返ったが)

 仲間たちも同様だったが、メデューサの魔王ウェスタは雪辱戦に意欲を燃やしていた。

 初代メデューサの瞳の力を手に入れ、初代メデューサの魂を自らの蛇髪に呼び込んだ。

 今度こそは負けられない。


 ヘルヘイムの壁が見えて来た。

 彼らにとって本来は攻略の対象であった防壁だが、すでに一部が崩れ去っている。

 テュポーンの仕業だった。その巨体からの怪力なら造作もないことだったろう。


「ご先祖様、『石化の蛇眼』の射程まで近づきます」


 ウェスタは自身の頭部の左側面の蛇髪に話し掛けた。


「手なづけてやるだけだから安心せい」


 低い女性の声が言った。初代メデューサである。


「近づくのも結構大変よ」


 これは右側面の蛇髪、インゲルから。


「ああ、ひどい有様だな」


 壁内の市街地もかなり破壊されていた。

 住民の魔族の死体も見受けられる。

 建物の破壊に巻き込まれたばかりでなく、テュポーンの髪の竜の放つ熱線に当たった者もいるようだ。


「しかし、この辺りは高い建物も多い。近づくのは容易だろう」


 ウェスタは周囲を見渡して、近づく算段を立てた。


「みんなは危険だから下がっていてくれ。わたしが行く」


「気を付けてね、ウェスタ」


「ああ!」


 女勇者アイギスの呼び掛けに力強く答える。

 ウェスタは跳躍し、建物を駆け上がって行く。

 倒壊した建物も利用し、屋上へ上がる。


 そこからテュポーンに接近していく。

 巨大な禍々しい姿が次第に大きくなっていく。

 長い角を持った巨人で、十頭の竜が髪の毛代わりに生えている。

 手足の爪は鋭く伸び、下半身は茶色い毛に覆われている。


 近づくには特に高い建物からでなければ難しいだろう。


「おーおー。本当に四千年前と変わっておらんのう」


 大メデューサの感嘆の声。


「まああきれた。子犬なんて言って。

 やっぱり前からあの大きさだったんじゃない」


 インゲルはため息をついたが、大メデューサは気にも留めない。


「全く懐かしいのう」


「しかし、『石化の蛇眼』が見れないのは残念でもあります。

 わたしも習得しなければ」


「あとでじっくり教えてやるわ」


 見張り台の尖塔にテュポーンが近づいたタイミングで接近を試みた。


「おーい、テュポーンや。四千年ぶりじゃのう」


 テュポーンはそちらを見て一瞬動きを止めた。


「わしじゃ。メデューサじゃ。昔はよう遊んでやったろう」


 大メデューサの気配には気付いた節があった。

 しかし暴走を止める気配はない。


「機嫌が悪いのか?狭い城に押し込まれておったそうじゃからのう」


 呼び掛けてもテュポーンは止まらない。

 大メデューサを四千年前の友人とも気付いていないようだった。


「わしが分からんのか…?」


 大メデューサは当てが外れたようだった。


「四千年前のことなんて覚えてないんじゃないの?」


インゲルは言うが、


「いや、そうかも知れんが、それは理由ではないな」


 大メデューサは何かを悟ったようだった。と、その時、


「危ない!」


 尖塔にテュポーンの拳が飛んで来た。

 ウェスタは間一髪飛び降りたが、尖塔は粉々に粉砕された。

 落下中、ウェスタとインゲルは大メデューサのつぶやきを聞いた。


「老い、か」


「ルシファー様はお前なら一万年は生きるだろうと言われた。

 魂を目玉に封じ込めたわしの楽しみの一つじゃった」


 着地後、鎌首をもたげてテュポーンを見つめる大メデューサの目は遠くを見るようだった。


「しかし、そのまま老いさばらえて本能のままに暴れるのは見るに堪えんな」


「よかったな、せがれよ」


 ウェスタとインゲルは大メデューサの声の違いを感じ取った。


「見せてやるぞ。『石化の蛇眼』を」


「テュポーンを手なずけるのでは?」


「知性のかけらも感じられん。単なる獣になり下がったようじゃな」


「それでは…?」


「あやつは、ここで殺す」


 威圧感が重力のようにのしかかってくる。

 それは大魔王に圧を掛けられた時と似ていたが、もっと有無を言わせぬものだった。

 恐怖感以上に、抗い得ぬ力を感じるものだった。

 それが自分の内側から、正確には額の大メデューサの瞳から湧き上って来る。

「石化の蛇眼」の前兆だった。


「この邪気は……」


「邪気か…。まだ本質が見えておらんな」


 大メデューサはウェスタの感想をそう評した。


「これが『石化の蛇眼』のキーとなる感情だ。よく覚えておけ」


 その感覚がさらに増幅し、ウェスタはよろめいたが、左半身がすぐに姿勢を正した。


「しっかりせい!獲物を見据えろ!」


 巨大なテュポーンの禍々しい姿。

 しかし、恐怖感はない。

 自分の第三の瞳に宿った力の敵ではない。

 その黄色い蛇眼が赤く染まった時、テュポーンの深淵のような瞳に初めて恐怖が宿った。


 そして、その瞬間に勝負は付いていた。

 大メデューサの瞳から放たれた赤い光は一瞬でテュポーンに到達し、テュポーンは灰色の石像に変わった。

 さらにその巨体はみるみる砂のように崩れ落ちていく。


「やはりな。中身は枯れ木のごとく痛んでおったな」


「これが『石化の蛇眼』……」


「崩れ去ったのは奴の身体が弱っておったからじゃ。

 長生きも考えものよのう」


 大メデューサはどこか寂しそうだった。


 そこに空中から近づく人影があった。


 三人の鳥の羽の生えた少女達。ハーピー三姉妹だ。


「普通にメデューサ生きてた」


「逆にテュポーンやられちゃった」


「微妙に、微妙だし!」


 その姿をウェスタも確認する。


「大魔王に伝えろ!わたしは生きていると!

 魔界の平和と自由を脅かすものとは誰であろうとわたしは戦う!」


「普通にムカツク~!」

「微妙にムカツク~!」

「逆ににムカツク~!」


「普通に大魔王様に言いつけてやる!」

「微妙に言いつけてやる!」

「逆に言いつけてやる!」


「だから伝えろって言ってるでしょ」


 インゲルはすまして言った。

 ハーピー三姉妹の鼻を明かせたのはちょっと気分がよかった。


「おっと後ろを通りますよ」


 ハーピー三姉妹の背後から飛んで来たのは鷹の翼を持った少年、スフィンクス族のアンクだった。


「ウェスタ、長居は無用です。わたしの領地へ行きましょう」


 アンクはウェスタを捕まえるとスフィンクス領へ飛び去って行った。


「アイツも普通にうざいー」

「微妙にうざいー」

「逆にうざいー」


 後に残されたハーピー三姉妹は空中で地団太を踏むように暴れた。


 市街地の上空を進むウェスタとアンクだったが、住民の魔族達が歓声を上げていた。

 破壊の限りを尽くしたテュポーンを倒したことが原因だった。

 これは逆にテュポーンを解放した挙句、討伐に失敗した大魔王の求心力の低下を招くことにも繋がった。


 スフィンクス城に辿り付き、休息し今後について協議していたウェスタたちの元に使いが届く。

 半魚人の兵士は、リヴァイアサン領からだった。

 テュポーン暴走で最も被害が大きかった地域だ。

「当主レヴィアは、石化の蛇眼を使いこなし、一撃のもとにテュポーンを撃破したウェスタ様に賛辞を申し上げます」

 兵士は魔王レヴィアからの書状を読み上げた。


「ひいては対大魔王の同盟を申し出るものであります」


 リヴァイアサンは十二支族でも由緒ある名門の保守的な一族だ。

 その現当主、魔王レヴィアからの共闘の申し出だった。

 魔界を二分する戦いが迫りつつあった。

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