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薫子は黄金の椅子に腰かけたまま息を詰めて焦っていた。
自分は誤解していた。
間違っていたのだ。
人形のふり、とはただ動かなくていいだけの単純な勝負ではない。
(なんてことなの……!)
舞台に登場したとき、すでに勝負はついてしまっていたのだ。
ニーナは剣舞に怯むこともなく、矢を打ち込まれても微動だにしない。椅子の背に矢が突き刺さったダンッ!! という大きな音に全身を震わせたのは自分の方だ。
びくっと身体が跳ねたのに、誰一人として薫子の負けを言い出さない。
誰も自分を見ていない────。
そのことをまざまざと肌で感じたのだ。
(このままでは負けてしまうわ……!)
仮にニーナが身動きしても、観衆はニーナの人形役に称賛の大喝采を贈るだろう。
何か決定的な失敗をニーナに犯させなければ──……、と思考に没頭したとき。
正面から何かがとてつもない速さで向かって来て、あっという間に自分の右側を通過して背後の書き割りへと突き刺さったのだ。
「ひいいいいッッ!」
どんな強力で射られたのか。
書き割りをぶち抜くような重い音が中庭にこだまし、気づけば薫子の口から悲鳴が迸り出ていた。
「ひいッ! な、なんなの!? 何が起こったの!?」
椅子から転がり落ち、這う這うの体で逃げたが何が起こったのかさっぱり分からない。
舞台に身を伏せ見上げれば、書き割りにはビンビンと揺れながら突き刺さる矢がある。
「な、なぜ私の方に矢が……!?」
予想外すぎて理解が追いつかない。
愕然としながら矢を見つめていると、辺りに反響するような低い大音声が響いた。
「そこまでだ! 勝者はニーナ!」




