番外編第四十五章 根本的に彼女のルナリア・オルタナティブ③
『ラグナロック』と、そのチームメンバーである黒峯麻白のサポート役の人達によるエキビションマッチ。
今まで謎めいていた麻白のサポート役の人達の実力が分かる。
そんな聞くだけで震える光景を前に、大会を観戦していた観客達もその瞬間、ヒートアップし、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
交通機関などの関係で帰らなければならなかった者達も、来週、配信されるオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦の本選決勝の動画と一緒に、今回の対戦を配信してほしいと大会関係者に懇願している者達まで出る始末だ。
どこまでも楽しそうな観戦者達を見て、玄の父親達、そして、大会関係者達も、すでに引けるような状況にないことを痛感する。
「…‥…‥目立ちすぎだ」
盛り上がる大会会場の決勝ステージで、拓也はげんなりと言って肩を落とす。
押し殺すような拓也の声に、元樹は軽く肩をすくめてみせた。
「まあな。でも、麻白、楽しそうだな」
「ああ」
元樹の言葉に、拓也は真剣な眼差しでステージに立つ綾花を見遣ると、どこか照れくさそうな笑みを浮かべる。
「で、友樹。対戦方式はどうするんだよ?」
大輝が意味を計りかねて元樹を見ると、元樹は眉を寄せて腕を頭の後ろに組んでから言った。
「総当たり戦にするつもりだ」
「総当たり戦?」
元樹の答えに、大輝は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。
戸惑う大輝をよそに、元樹は先を続ける。
「ああ。それなら、時間を稼げるし、玄達、『ラグナロック』のチームメンバー同士の対戦もできるからな」
「なるほどな」
苦々しい表情で、大輝は隣に立っている玄と綾花の方を見遣る。
確かに、総当たり戦にすれば、拓達の仲間が魔術を使う少年ーー魔王を救出するための時間をうまく稼ぐことができるだろう。
「…‥…‥総当たり戦か」
その意味深な元樹の提案に、拓也は顎に手を当てて真剣な表情で思案し始めた。
きっと、一対一では、俺と玄達とでは、天と地ほどの実力差があるのだろう。
ふと脳裏に、涙目の瞳でペンギンのぬいぐるみを抱えた幼き日の綾花の姿がよぎる。
気持ちを切り替えるように何度か息を吐き、まっすぐに元樹を見つめた拓也は思ったとおりの言葉を口にした。
「いや、俺だって構わない」
意外とも取れる強きな発言に呆気にとられたような元樹を見て、拓也もまた決まり悪そうに視線を落とす。
「確かに、俺はみんなと比べたら、まだまだ初心者かもしれない。でも俺は、大切な人からゲームを教えてもらったんだ」
綾花はその言葉を聞いた瞬間、はっとした表情で目を見開き、戸惑うように拓也を見遣った。
驚きの表情を浮かべる綾花を見て、拓也は照れくさそうに口を開く。
「まだ、ランキング入りはできていないけれど、だからといって、自分から勝負を逃げたりはしない」
「…‥…‥拓、それは俺に対する当てつけか?」
元樹が不服そうに投げやりな言葉を返すと、ようやく拓也はほっとしたように微かに笑ってみせた。
「負けないからな」
不意にかけられた言葉が、意味深な響きを満ちる。
絶対にーー。
言外の言葉まで読み取った拓也を尻目に、元樹はそう告げるとステージ上のモニター画面に視線を戻してコントローラーを手に取った。
遅れて、綾花達もコントローラーを手に取って正面を見据える。
「では、これより、優勝した『ラグナロック』と、そのチームメンバーである黒峯麻白さんのサポート役の人達によるエキビションマッチをおこないます…‥…‥って、対戦方式はどうするんだ?」
途中から困惑に変わった実況の言葉に、観客達も疑問を浮かべる。
その際、大会スタッフから手渡された即席のトーナメント用紙を見て、こっそりとため息をつくと、実況は吹っ切れたように言葉を続けた。
「えー、エキビションマッチの一回戦は、浅野大輝さんvs黒峯麻白さんの対戦です!」
「おおっ、『ラグナロック』同士の対戦か!」
「どっちが勝つんだろうな」
場をとりなす実況の声と紛糾する観客達の甲高い声を背景に、コントローラーを持った綾花と大輝はステージに立つと、互いにまっすぐ前を見据えた。
「大輝、勝つのはもちろん、あたしだよ!」
「このエキビションマッチは、レギュレーションが一本先取で、一対一による総当たり戦、最後まで残った方が勝者となります!」
決意のこもった綾花の言葉が、場を仕切り直した実況の説明と重なる。
「いや、勝つのは俺だからな」
綾花の言葉に大輝が嬉しそうにつぶやいたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。
ーーバトル開始。
対戦開始とともに、先に動いたのは大輝だった。
大輝のキャラが地面を蹴って、綾花のキャラとの距離を詰める。
迷いなく突っ込んできた大輝のキャラに合わせ、綾花のキャラはあえて下がらず、自身の武器であるロッドを振る舞った。
「ーーっ!」
ロッドから放たれた一撃を、上体をそらすことでかわした大輝は、視界を遮る風圧に大鉈による反撃の手を止めた。
モニター画面に映る近代的な高層ビルの屋上で、暁闇の空を背景に対峙する二人は静かに佇んでいる。
コントローラーを持ち、ゲーム画面を見つめる綾花を横目で見つめながら、大輝は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。
ーーやっぱり、麻白とのバトルは面白いな。
言い知れない充足感と高揚感に、大輝は喜びを噛みしめる。
「麻白、このバトル、俺が勝つからな!」
「ううん、勝つのは、あたしだよ!」
交わした言葉は一瞬。
挑発的な言葉のはずなのに、大輝と綾花は少しも笑っていない。
あっという間に離れた二人は、息もつかせぬ攻防を再び、展開する。
「つ、ついに、我と麻白ちゃんが公式戦で対戦できる機会が訪れてしまったのだ」
そんな中、お互いの隠しようもない余裕のなさに、玄の父親の警備員達に捕らえられていた昂は嬉しそうに含み笑いした。
「うおおおおおおっ!」
この上なく熱いバトルが繰り広げられている、綾花と大輝による一対一の対戦を観戦しながら、昂は意味もなく絶叫する。
「…‥…‥ふむふむ、なるほどな。…‥…‥なんということだ。黒峯蓮馬に捕まってしまったばかりに、我としたことがこのような重大なサプライズに参戦することができぬとは!」
玄の父親の警備員達に捕らえられながらも、昂は視線を動かして、エキビションマッチがおこなわれているステージをひたすら吟味し続けていた。
「おのれ~。我も、麻白ちゃんと対戦したいのだーー!!今すぐ、麻白ちゃんと対戦したいのだーー!!」
得意げにぐっと拳を握りしめると、昂は誰かに宣言するかのように高らかにそう言い放った。知らず知らずのうちに胸が湧き踊る。
ーーその時だった。
昂を連行していた警備員の一人が、昂にだけ聞こえる声で静かに告げた。
「…‥…‥舞波、話は終わったな。では、この後、ここから逃げ出す手段を実行に移すから、そのつもりでな」
「おおっ…‥…‥」
その声を聞いた瞬間、昂が溢れそうな涙を必死に堪え、その人物の顔を見上げる。
「舞波、今すぐ、魔術を使って、黒峯さん達の目眩ましをすることができるか?その後のことは、私に任せてほしい」
「もちろんだ、先生」
きっぱりと告げられた言葉に、昂は嬉しくなってぱあっと顔を輝かせた。
昂を連行していた人物の一人ーーそれは、警備員に扮して昂を救出する機会を窺っていた1年C組の担任だった。




