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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第四十二章 根本的に枯れた心と終わる世界

「麻白」

「おい、麻白!」

1年C組の担任の実家から出た後、綾花達が荷物を手に、待ち合わせのドームの大会会場へと向かっていると、不意に玄と大輝の声が聞こえた。

声がした方向に振り向くと、少しばかり離れた道沿いに、玄と大輝が綾花達の姿を見とめて何気なく手を振っている。

荷物を握りしめて玄達の元へと慌てて駆けよってきた綾花は、少し不安そうにはにかんでみせた。

「玄、大輝、遅くなってごめん」

「心配するな」

「麻白、遅いぞ」

玄と大輝がそれぞれの言葉でそう答えると、綾花は花咲くようににっこりと笑ってみせた。そして、嬉しさを噛みしめるように持っている荷物をぎゅっと握りしめる。

元樹とともに、綾花の後を追いかけ、玄達の前に立った拓也は、居住まいを正して真剣な表情で頭を下げた。

「玄、大輝、今日はよろしくな」

「おまえら、今回は勝手に消えたりするなよな」

拓也の言葉に、大輝はそっぽを向くと、ぼそっとつぶやいた。

「はあ…‥…‥」

困ったようにため息をついた拓也をよそに、元樹がこともなげに言う。

「なら、玄と大輝も、俺達に内緒で麻白を連れていかないでくれよな?」

「あ、ああ。…‥…‥拓、友樹」

「あっ、大輝、照れている」

綾花に指摘されて、大輝は振り返ると不満そうに眉をひそめる。

「麻白、俺は照れてないぞ。ただ、こいつらとこれからのことを話していただけだ」

「大輝は相変わらず、たっくん達に対して、順応性なさすぎだよ」

「そんなことないだろう!」

綾花の嬉しそうな表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

「大輝らしいな」

笑ったような、驚いたような。

あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。

少し間を置いた後、玄は綾花に向き直ると、ずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。

「麻白、今日の第三回公式トーナメント大会は、いつもより長いが大丈夫か?」

「うん。魔術で生き返っていられる時間が延びたから大丈夫だよ」

「麻白!」

あくまでも彼らしい玄の反応に、綾花はほっと安堵の息を吐くと、花咲くようにほんわかと笑ってみせる。

その時、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。

「あっ、あかり」

声がした方向に振り向くと、少しばかり離れた大会会場の受付付近に、車椅子に乗った、海のように明るく輝く瞳をした少女ーーあかりが綾花達の姿を見とめて何気なく手を振っている。

交換ノートを握りしめて、綾花達の元へと車椅子を動かして駆けよってきたあかりを見て、元樹は真剣な表情を収めて、穏やかな表情を浮かべた。

「あの子が雅山なんだな」

「そうみたいだな」

屈託なく笑う元樹をよそに、拓也は苦々しい表情であかりを見遣る。

その理由を慎重に見定めて、元樹はあえて軽く言う。


「心配するなよ、拓。雅山は生きている。麻白と同じようにさ」


「…‥…‥そうだな」

元樹の同意が得られて、拓也はほっとしたような、でもそのことが寂しいような、複雑な表情を浮かべる。

それにさ、と元樹は腕を頭の後ろに組むと言葉を探しながら続けた。

「雅山、嬉しそうだな」

「ああ」

元樹の何気ない言葉に、拓也は綾花と楽しげに話しているあかりを見遣ると、どこか照れくさそうな笑みを浮かべる。

「あやーーいや、麻白のおかげだな」

「そうだな」

憂いの帯びた拓也の声に、元樹もわずかに真剣さを含んだ調子で穏やかに言葉を紡ぐ。

元樹は周囲を窺うようにしてから、こそっと小声で拓也につぶやいた。

「拓也。綾、一人で四人分、生きるのは無理かもしれないが、俺達で綾の負担を少しでも受け持てば、不可能も可能にできるだろう」

「…‥…‥そうだな。綾花が、綾花と上岡と雅山、そして麻白の四人分生きると決めたのなら、俺達は綾花の負担を少しでもなくしてみせる」

頭をかきながらとりなすように言う元樹に、ようやく拓也はほっとしたように微かに笑ってみせた。

ーー雅山は生きている。麻白と同じようにさ。

元樹の言葉の波紋がじわじわ広がり、拓也の胸の奥がほのかに暖かくなった。

麻白も雅山も、魔術で生き返ったことによって、いろいろな問題が生じている。

だけど、綾花達なら、きっと乗り越えられるような気がした。

拓也はほくそ笑むと、綾花達へと視線を向ける。

麻白と雅山。

あの時、確かに死んだはずの彼女達が、魔術で生き返ったことによって、こうして手を取り合っている。

二人の様子を見ていると、拓也は何でもないことが、本当に幸せなことなのだと実感できたのだった。

「ふむふむ」

そんな中、電柱の陰に隠れながら、黒コートに身を包んだ少年ーー昂は、綾花達の様子と玄の父親達の動向を探るため、こそこそと聞き耳を立てていた。


『綾を、黒峯玄の父親から徹底的に護ってほしい。今度は目立たないようにな』


元樹の懇願を受けて、昂は綾花を護るために、少し離れた場所から綾花達の様子を見守っていた。

玄の父親の思惑が分からない以上、この方法が何よりも有効かもしれないと、元樹は考えたのだ。

もっとも、実際のところは、今回も昂が綾花のーー麻白のサポート役として、玄達に認められなかったから、というのが最大の理由ではあったーー。

元樹の言葉、そして、前回の公式の大会の時の教訓を生かして、今回、昂は、頭にはちまきを巻き、『麻白ちゃん、ラブ』と書かれたタスキを掲げて、麻白の熱狂的なファンに扮していた。

だが、あまりにも怪しすぎて、近くにいた他の大会参加者達や通行人達から思いっきり冷めた眼差しを向けられ、電柱自体が必然的に避けられていたことにも気づかずに、昂は先を続ける。

「やっぱり、麻白ちゃんは可愛いのだ」

こみ上げてくる喜びを抑えきれず、昂はにんまりとほくそ笑む。

しかし、そうこうしているうちに、綾花達は既に大会受付でチーム登録を済ませて、大会会場へと歩き始めようとしていた。

「むっ、こうしてはおれん!早速ーー」

麻白ちゃんの後を追わねば!

大会受付を颯爽と通り抜け、昂がそう続けようとしたところで、受付で参加登録をおこなっていた大会スタッフ達から呼び止められた。

「君、ちょっと待ちなさい!」

「むっ、な、何なのだ?我は怪しい者ではないのだ!」

「この先は、大会参加チームのみだよ。一般の人は、一般入場からお願いします」

大会スタッフの声に合わせて、さらに数名の大会スタッフ達が、それでも大会参加チーム用の入口ゲートに向かおうとしていた昂のもとに駆け寄ってくる。

あっという間に囲まれた昂は、彼らによってあっさりと捕らえられてしまう。

「こ、これでは、前回の公式の大会の時と同じではないかーー!!」

大会スタッフ達から行く手を遮られ、昂はうめくように叫んだ。

なおも逃走を図ろうとするが、スタッフ達に完全に囲まれていて、とても逃げられないことを悟り、昂はがっくりとうなだれたのだった。






「大会受付の前で、魔術を使う少年が捕らえられているのを確認しました。今は、大会会場内にある個室で事情聴取を受けているようです」

その執事の知らせが、玄の父親のもとに届いたのは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦の予選が始まった時だった。

「玄達は、大会会場に入ったのか?」

「はい。玄様、麻白お嬢様、大輝様、そして、麻白お嬢様のサポート役である少年達は、既に大会会場に入られたそうです。今は、チーム戦の予選がおこなわれています」

執事からの知らせを聞いて首を傾げた玄の父親に、執事はこくりと頷いてみせた。

「今は、チーム戦の予選か」

玄の父親は顎に手を当てて、執事の言葉を反芻する。

あえて意味を図りかねて、執事が玄の父親を見ると、玄の父親はなし崩し的に言葉を続けた。

「今が予選だとすると、大会の決勝が終わるのはお昼過ぎか」

「はい。お昼過ぎになるものと思われます」

問いにもならないような玄の父親の言葉に、執事はそう答えると丁重に一礼する。

ドームの大会会場で繰り広げられている喧騒をよそに、大会会場の外で佇んでいた玄の父親は、いまだに拓也達によって奪われたままの愛しい娘に想いを馳せた。

この大会が終われば、麻白が、私達のもとに戻ってくるーー。

彼らから麻白を取り戻せば、また前のように、家族四人で幸せに過ごせる日々が訪れるはずだーー。

そのためには、彼らから麻白を引き離さなければならない。

玄の父親は携帯を取り出すと、あらかじめ、大会会場内に包囲網を配置していた周囲の警備員数名と連絡を取り合う。

「黒コートの少年が、大会会場内にある個室に連行されている。即急に、取り押さえていてくれないか」

周囲に目を配りつつ、玄の父親は厳かな口調で指示を続ける。

「そして、大会が終わった後、麻白をさらった者達から、麻白を取り返してほしい」

あまりに自然かつ素早い反応をした玄の父親は一度、目を閉じると、速やかに携帯を切ったのだった。

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― 新着の感想 ―
こうして憑依することで存在が継続している状態というのを目の当たりにすると、人の生きるということは、何を指しているのかと悩ましくなってしまいますね。他の人が「いる」と認識していれば生存なのか。忘れられて…
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