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マインド・クロス  作者: 留菜マナ
分魂の儀式編
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番外編第二十四章 根本的に同じ空を見上げている

黒峯玄という少年と黒峯麻白という少女は、とにかく仲の良い兄妹だった。

眩しく照りつける陽射しの中、自然公園の中のアスレチック広場を目指しながら、二人は付き添いの執事とともに仲睦ましげに歩いていく。

「おーい、玄、麻白!」

「大輝」

「大輝だ」

そこには、いつも、二人にとって大切な幼なじみとその両親が待っている。

みんなで他愛のない会話をした後、そのまま、玄達三人はアスレチック広場へと駆けていった。

そして毎日、三人で一緒に遊んだ後、家に帰れば優しい笑顔で、家族が迎え入れてくれる。

そんな当たり前で、幸せに満ち溢れた日々。

だがーー。


その日、車に跳ねられそうになった玄をかばって麻白は死んだ。


それは、世界の端っこで起きた小さな悲劇。

だけど、彼らにとっては何よりも堪えがたい事実だった。

その事実を聞かされた時、彼らの幼なじみである浅野大輝は一瞬、玄の家族が何を言っているのか分からなかった。

だが、白いベットに横たわり、まるで眠り続けているような麻白の横に立つと、大輝の中で残酷な事実が、徐々に現実を帯びてくる。

「ーーっ」

玄の家族の制止を振り切り、大輝は病院を出ると、そのまま逃げるようにして家に戻った。

自分の部屋に戻っても、麻白に伝えきれなかった言葉が喉で絡まり、出口を失った気持ちだけが心の中で暴れ回っていた。

麻白、死んだ?

なんの冗談だよ?

どうして、こんなことになっているんだ。

麻白が死んだなんて、嘘だ。

嘘だと言えよ!

頼むから、誰か言ってくれ!

そんな、あらゆる想いと悪態が、大輝の中でぐるぐるとめぐっていた。

しかし、膝に顔を埋めると、大輝は悲愴な表情で、ただ一つの言葉だけを吐き出した。


「麻白に、会いたい」


だが、それはもう叶わぬ願いだ。

彼女の終わった物語が再び、紡がれることはない。

そのはずだったーー。

だからこそ、あの時、麻白が魔術で生き返ることができると、玄の父親から聞かされて、心のどこかで安堵している自分がいた。


ーー麻白に、また会える。


あの時、大輝達が心の底から欲している言葉を与えられた。心の底から欲していた言葉を与えられた。

ただそれだけの事実が激しく大輝達の心臓を打ち鳴らし、ひとかけらの冷静さをも奪い去ってしまった。

麻白の笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じる。

大輝は、今日もいつもの日課のように、麻白の携帯にメールを送信した。


『麻白、俺も玄もおまえの両親も、この間の誘拐騒動のことがめちゃくちゃ気になっているから、また、生き返ってそのことをきちんと説明しろよ』


一気に打ち終えて送った後、前の大会の時に麻白から送られてきた動画を何度もリピートしながら、大輝は自分の部屋のベットに横たわった。

その動画は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦を優勝した際に、麻白が優勝祝いにと自身の歌を収録した動画を、玄と大輝の携帯に送りつけたものだった。

大輝は仰向けになると、携帯の画面を再び、真剣な眼差しで見つめる。

決して、麻白からの返信が返ってくることのないことを知りながらーー。






その日、事情を知らない者からすれば、いささか奇怪な光景が広がっていた。

黒峯玄と黒峯麻白と浅野大輝とともに、黒コートに身を包んだ怪しげな格好をした少年と、眼鏡をかけ、帽子を被った少年達がそろって神妙な顔で、ブティック店の休憩スペースにあるテーブルの椅子に座っている。

しかも、さらに奇怪なのは、その少年達が、これから黒峯麻白のサポート役として、大会に出場するということだった。

だが、そうならざるを得ない出来事が、これから告げられようとしていた。

「麻白、そいつらは何なんだよ」

「…‥…‥あ、うん」

大輝の不服そうな質問に、黒峯麻白の姿をした綾花はほんの一瞬、戸惑うように息を呑んだ。

そんな綾花の反応に、玄は表情を緩めて軽く肩をすくめてみせる。

「…‥…‥麻白の知り合いか?」

「…‥…‥うん」

玄の言葉に、綾花は自分に言い聞かせるように頷く。

「玄、大輝、心配かけてごめんなさい。この人達はこの間、あたしを誘拐したこの男の子に、何とかこれからもあたしを生き返させてくれるように説得してくれた人達なの」

「むっ。我としては、我を出し抜いた黒峯蓮馬達に、麻白ちゃんを会わせるつもりなど毛頭なかったのだがな」

ブティック店の休憩スペースにあるテーブルに綾花達が着席してからしばらく経った後、綾花は意を決したように立ち上がり、頭を下げて謝ってきた。

その様子を見て、元樹の隣の席に座っていた昂が面白くなさそうに顔をしかめると、つまらなそうに言ってのける。

その不可思議な会話に、玄と大輝は完全に呆気に取られてしまう。

「なっーー」

「はあっ…‥…‥?」

玄と大輝は一瞬、綾花と昂が何を言っているのか分からなかった。

複雑な表情を浮かべた大輝が立ち上がり、戸惑うように言う。

「麻白、どういうことだよ?そもそも、そいつらは誰だ?」

「あたしの友人だよ」

そうして口にされたのは、思いもよらない言葉だった。

これには大輝も、横で話を聞いていた玄も唖然とした。

「はあ?麻白の友人?」

「…‥…‥麻白の?」

怪訝そうに問い返してくる大輝と状況がいまいち呑み込めない玄が、綾花をまじまじと見た。

「えへへ。あたしが、初めて生き返った時に、友達になってくれた人達なんだよ」

「…‥…‥麻白の友人」

そう告げる綾花の瞳はどこまでも澄んでおり、真剣な色を宿していた。

そのことが、玄を安堵させる。

麻白は生きている。

麻白は今、確かにこうして、俺達の目の前で生きている。

それは、決して変わることのない揺るぎない事実だった。

「…‥…‥そうか」

麻白の言葉に、内心の喜びを隠しつつ、玄は微かに笑みを浮かべた。

「おい、そこ、麻白に甘すぎだろう。あっさり、納得するなよ」

「大輝が冷たすぎ」

大輝に指摘されて、綾花は振り返ると不満そうに頬を膨らませてみせる。

「麻白、俺は冷たくないぞ。ただ、麻白を心配しているだけだ」

綾花のふて腐れたような表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

「だいたい、こいつらは誰一人、身元を明かせない上に何より、こいつはこの間、麻白を誘拐した奴なんだぞ!」

「だけど、俺達は麻白を生き返させてーーそして、麻白をこれからも生き返させるように、彼を説得した命の恩人でもあるだろう」

それにさ、と元樹は言葉を探しながら続けた。

「麻白は魔術で生き返った影響で、たまに頭痛が起こることがある。そして、俺達は麻白が生き返った時に、その頭痛で苦しんでいるのを何度も目撃し、対処したことがある」

「「ーーっ」」

何のひねりもてらいもない。

ごく当たり前の事実を口にしただけの言葉。

目を丸くし、驚きの表情を浮かべた玄と大輝を見て、元樹は意味ありげに綾花に視線を向ける。

「だがーー」

大輝がさらに不可解そうに疑問を口にしかけるが、元樹は気にすることもなく言葉を続ける。

「だから、その恩人でもある俺達が、退院したばかりの黒峯麻白のサポート役を引き受けても構わないだろう?」

「ーーっ」

決死の言葉を元樹にあっさりと言いくるめられて、大輝は悔しそうに唇を噛みしめた。

拓也は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いをにじませる。

「…‥…‥黒峯玄、浅野大輝。俺達の身元を明かせなくてごめん。だけど、言えないんだ。俺達の方で、いろいろと事情があって」

拓也はそこまで告げると立ち上がり、視線を床に落としながら請う。

「だけど、麻白と友達なのは本当だ!だから、頼む!俺達を、麻白のサポート役として認めてくれないか?」

「お願い、玄、大輝!」

「どうかお願いします!」

拓也に相次いで、綾花と元樹も粛々と頭を下げる。

「むっ?」

しかし、昂だけが座ったまま、尊大不遜な態度で腕を組んでいた。

しばしの間、沈黙が続いた。

あくまでも真剣な表情でこちらを見つめてくる拓也達に、玄は無言でその拓也達の視線を受け止めていた。

そんな時間がどれほど続いたことだろうか。

玄がふっと息を吐き出した。そして引き締めていた口元を少し緩めると、さもありなんといった表情で言った。

「…‥…‥分かった」

「えっ?」

その言葉に、綾花は驚いたように目を見開いた。

玄はため息を吐きながらも、いつものように妹のーー綾花の頭を優しく撫でる。

「だけど、あくまでも麻白のサポート役としてだけだからな」

「玄、ありがとう」

綾花がぱあっと顔を輝かせるのを見て、玄は思わず苦笑してしまう。

そんな中、大輝はそっぽを向くと、軽く息を吐いて言う。

「おまえら、大会の邪魔だけはするなよな。あと、麻白を誘拐したこいつだけは、麻白のサポート役としては認めないからな」

「大輝は順応性なさすぎ」

「おまえらが、順応性ありすぎなんだよ」

そう言い捨てると、大輝は足を踏み出し、手を伸ばし、不満そうに頬を膨らませてみせた綾花をがむしゃらに抱き寄せていた。

「ふわわっ…‥…‥」

「とにかく、麻白、チーム復帰できてよかったな」

「…‥…‥っ」

有無を言わさず、にんまりとした笑みを浮かべて、綾花を抱き寄せる大輝の姿を見て、隣に立っていた拓也は苦々しく眉を寄せる。

「…‥…‥おのれ、浅野大輝!我のことを散々、けなした上に、我を麻白ちゃんのサポート役として認めないとは許さぬでおくべきか!」

「…‥…‥おまえ、一応、誘拐犯っていうことになっているんだから、もう少し、きちんと謝罪しろよな」

カップをぎりぎりと握りしめ、不愉快そうに顔を歪めながら言う昂を横目に、元樹は呆れたように嘆息するのだった。

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― 新着の感想 ―
昴にとっては不都合なのでしょうが、読んでいる分には面白いですね。綾花ちゃんじゃない綾花ちゃんにどんどん有象無象が増えていく展開がいつもながら、今回も面白かったです。みんな、昴以外、純粋気味?なのが良い…
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