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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第四楽章 重なりゆく祝福の調べ
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重なる想い、響き合うハーモニー!

朝から降り続く土砂降りの雨が、容赦なく大地を叩きつけていた。


割れた石畳の溝に雨水が流れ込み、砕けたステンドグラスの破片を押し流していく。



ここは結婚式場にある中庭。


薔薇を始め美しい花々が植えられた西洋式の庭園は、式を終え、写真撮影に訪れた人々が幸せなひと時を過ごす場所。



――今は、庭園の中央に設置されていた美しい彫刻が施された噴水は砕け散り、植えられた花々は根本から踏み折られ、庭園を囲むように建つ西洋式の建物は壁にヒビが入り崩れかける、悲劇の園と成り果てていた。




エンジェルとソラリスは変身が解け、それぞれ気を失ったまま瓦礫に埋もれ、泥に塗れ倒れ伏している。

唯一意識があるエストレア――あおいは仰向けに倒れたまま、息は荒く、もう指先すら動かせない。


「ハッハァァァァッ!フウゥゥゥゥッ!!見たか!これが爆音の祝福じゃあああッ!!」


フォルティシモ男爵の高笑いが、豪雨を物ともせず周囲へ響き渡る。


その背後で、バクオンダーの背中についている巨大なパイプオルガンが不気味に脈動していた。


「さぁ、奏でようではないか……混沌の協奏曲を!!」


男爵が細剣を指揮棒へと戻し、バクオンダーへ向けて構える。


息を整え、サッと指揮棒を振り上げ――次の瞬間、世界は爆音に塗りつぶされた。




パイプのすべてが同時に唸りを上げ、不協和音の爆音が嵐のように広がる。


チャペルや西洋式の建物のヒビが更に増え、一部が音を立てて崩壊していく。


爆音の被害は、この挙式場の施設だけでは留まらず、周辺の建物の窓ガラスが、悲鳴のような音を立てて粉砕された。


「っ……う、ぁぁ……!」


石畳に伏していたみちるが、音の衝撃で跳ね飛ばされ、背中から建物の壁へ叩きつけられる。

続けてあおいも同じように吹き飛ばされ、雨と泥にまみれてうめき声を漏らした。



男爵は醜悪に歯茎をむき出しにして笑みを深め、弧を描く口の端から涎がダラダラと垂れていく。

だがそんなつまらない事に一切構わず、より熱を込めて指揮棒を振り上げ、さらに音を強めようとする。





――突如、赤黒い霧を眩い白刃が裂くように駆け抜けた。





極太の落雷がバクオンダーを直撃し、その刹那、天地を割るような轟音がバクオンダーの奏でる不協和音を飲み込むかのように掻き消し、地を激しく震わせる。


雷の直撃を食らったバクオンダーはパイプから青白い火花を迸らせ、全身を痙攣させて音を止めた。



「な、な……なんじゃああッ!? ワシはこんな演出、予定しておらんぞッ!?」



慌てて空を仰ぐ男爵の視界に、黒いコートをはためかせながら降下してくる人影が映った。


雨に濡れた艶やかな白銀の髪を持ち、ゆるやかに地面へ降りるその姿は、神々しくも見る者へ絶対零度の冷たさを背筋に走らせるプレッシャーを放っていた。



その目元はバイザーで覆われ見えない。

だがその口元は横一文字に結ばれ、右手に握られた杖はピタリとバクオンダーへ向けられている。


挿絵(By みてみん)




「く、黒い……悪魔……ッ!!」


男爵が狼狽えるように一歩二歩と退く。


——肌を刺すような殺気が、言葉よりも雄弁に告げていた。


怒っている(絶対許さん)と。




胸の奥を締めつけるような圧迫感。

最高傑作(バクオンダー)を従える彼でさえ、一歩も動けなかった。



アリサは無言のまま、泥にまみれた少女達のもとへ歩む。


ナノマシンによるバイタルサイン測定を瞬時に済ませ、最も傷の深いみちるを抱き上げ、泥のついた顔をそっと撫でる。



「……遅くなってすまない」



微かに漏れた声と共に回復魔法が発動し、温かな光がみちるを包む。

苦痛により強張っていた身体から力が抜け、呼吸も安定していく。



容態が落ち着いたのを確認し、ほんの僅かにアリサの顔に安堵の色が浮かぶ。


このまま豪雨の中置いておくわけにもいかず、一先ず雨風を凌げるチャペルの室内へと運び込み、破壊を免れた長椅子へとそっとみちるを寝かせた。



アリサは続けてあかりも同様に癒し長椅子へと運ぶと、最後に唯一意識のあったあおいの元へと歩み寄った。


「……あなた、誰?」


みちるとあかりを助けた所を見て、敵ではないのかもしれないと、一度はほっとした表情を浮かべるが、見知らぬ顔を隠した少女へあおいは警戒心を露わにする。



「……名乗るほどの者じゃない」


アリサは左手をあおいへとかざし、回復魔法を発動させる。


あおいは温かな輝きに包まれると、ついさっきまで自身を苦しめていた爆音による頭痛も、男爵に穿たれた腕や頬の傷も消え去り、まったく力の入らなかった手足にも活力が戻り、その場へ力強く立ち上がった。


「……凄い。本当に治ってる……!」


状態を確かめるかのように、何度か手を握ったり開いたりを繰り返しているあおいへアリサは背を向け、杖型の魔導デバイスを構え、男爵とバクオンダーへ向き直る。


「……お前達の番だ、覚悟は良いか」



低く、冷たい声が響いた瞬間、空気が張り詰めた。




———————————————————————————————————




バクオンダーが雷の麻痺から立ち直り、パイプを震わせて低く唸る。

男爵もまた指揮棒を細剣へと変化させ、挑発するように刃先をアリサへ向けた。


「黒い悪魔め、ここで会ったが100年目!体育館での無礼、今こそ清算の時ッ!返り討ちにしてくれるわいッ!!」




「……返り討ち?」



アリサから発せられる声は感情の篭らぬ、抑揚のない冷ややかなものだった。



「――やれるものなら、やってみろ」



杖型のデバイスが淡い光を放ち、杖から不可視の風の刃が走る。


それは風でありながら鋼の刃のように切れ味は鋭く、バクオンダーの身体から生えたパイプを右腕ごとスッパリと抵抗なく切り落とした。


「バ、バクオンダアアァァッ!?」



続く風刃がバクオンダーへと襲い掛かるも、残ったパイプから放たれた爆音の衝撃波により切断魔法の威力が削がれ、大量に重ねて盾にしたパイプを傷付けるだけに終わる。



切断された腕が地面に落ちた瞬間、ぶるりと震え、粘液を含んだように形を崩す。


その塊は生き物のように蠢き、断面へ這い寄ると――ぬちり、と不快な音を立てて吸い付き、繋がった。


次の瞬間、肉と金属が音を立てて再構築され、そこから新たなパイプが芽吹くように生えていく。


「……自己修復型か」


わずかに目を細め、動きの癖と修復速度を見極めるアリサ。

その隙を逃さず、男爵が細剣を閃かせ、矢継ぎ早に踏み込んできた。




「ピョオォォォォッ!!」



男爵の本気の連撃。

シャンデリアから同時に落下した15本もの蝋燭を、1本たりとも落とす事なく全て細剣へ突き刺す事のできる速さと正確さ。


クレシド卿からも一目置かれるその剣捌きを――アリサはいとも容易く杖で受け流す。


ならばと更に突くスピードを上げる男爵。


一度、二度、三度――。 二人の攻防戦は一呼吸の間に三度行われていた。


その三度目攻防戦の最後に、男爵は己の持てる全力を籠めた稲妻の如きフェイントの入り交ざった突きを放った。



「なっ……!?」



電光石火の如き速さの男爵の細剣が、それを上回る速度で振るわれた剣状へと変形させたアリサのデバイスにより叩き折られる。


金属音が、折られたという結果に遅れて雨音にかき消されるように短く響いた。



「なれば、拳で――!」



折れた細剣をすぐさま投げ捨て、既に近距離まで接近した男爵が肉弾戦を仕掛ける。


鋭い突き、早く重い蹴り。


しかしアリサは無駄なくその全ての攻撃をいなし、男爵の攻撃にカウンターを合わせ、裏拳で頬を打ち、体勢を低くしながら地をしっかりと踏み締め、体重を乗せた掌底を鳩尾へと叩き込む。


「がっ……ごふぅっ……!?」


言葉にならないと声と衝撃で肺から追い出された息を吐き、男爵はよろめいた。


「……邪魔」


アリサは追い打ちとばかりに回し蹴りを男爵へ見舞い、噴水プールへと蹴り飛ばすと、視界外からこっそり不意打ちを狙っていたバクオンダーへ、ノールック・ノータイムで杖先をピタリと向け、電撃魔法を放つ。


不意を打つつもりが逆に打たれたバクオンダーは、杖型デバイスより放たれた白い雷撃に身を貫かれ、再び全身を痺れさせ膝をつく。


「……処分する」



剣へと変形させた杖をバクオンダーの首元に突きつけ、切っ先に光が集まっていく。



「待てぇいっ!そやつをそのまま仕留めても、奪った感情は戻らんぞッ!それでもいいのかッ!?」



男爵の叫びが響き、アリサの動きが止まる。




奪われ、捻じ曲げられ、反転したポジティブエネルギーの浄化——それは彼女では為せぬ事。


浄化は、ブレッシング・ノーツの役目だった。


「……邪魔をする理由は、それだけか?」


「くかっ!!お前さんがそれでいいなら手を下すが良いッ!!だが、娘っ子共は……許してくれんぞォ?」


「……そうか、私には関係ない事だ。敵は排除する」


アリサは今一度しっかりと剣状にしたデバイスを握り直し、刃へ魔力を纏わせ大きく振りかぶる。



――その時、豪雨にかき消されぬよう大声であおいが叫んだ。


「待ってぇ!!」




———————————————————————————————————




――数分前。

あおいは、自身と友人を救ってくれた黒い少女の姿をずっと目で追っていた。


しっかりと見ているはずなのに、何故かその魔法少女の特徴が、彼女の顔も特徴も、ぼんやりと記憶から霞んでいく。


ただ、黒い服を纏っていた。それしか記憶には残らない。



「黒い悪魔め、ここで会ったが100年目!体育館の借りは返させてもらうッ!返り討ちにしてくれるわいッ!!」


「……返り討ち?」



「――やれるものなら、やってみろ」



そこからは、あっという間の出来事だった。

メロリィに変身していないあおいの目には到底見る事も目で追う事も叶わない、上級の戦い。


黒い少女の杖が輝くと、バクオンダーの両腕からびっしりとハリネズミのようにニョキニョキと生えていたパイプが切断され、金属音をまき散らしながら落下し、続けてグシャリと鈍い音を立ててバクオンダーの腕が落ちていた。



「うっ……」


思わず目をそらしてしまうあおいだったが、少ししてもう一度視線をバクオンダーへ向けると、切断されたはずの腕が再びくっ付いており、パイプまでニョキリと生え始めていた。



続けて男爵が黒い細剣を振るいながら少女へと肉薄し、あおいが一度息を吸い瞬きをした――ほんの僅かな時間だった。


ガランと男爵の振るう細剣の刃身が折れて落ち、はっと息を飲んだ時には既に男爵の身体は宙を舞い、破壊された噴水のプールへと頭から落ちていた。



間髪入れずに落雷の轟音が響き、驚いたあおいは思わず尻餅をついてしまう。


「……凄い」


どれだけ下半身が水たまりでびしょぬれになろうと、今のあおいはどうでも良かった。


ほんの一瞬の攻防戦。


今の自分達では到底敵わない、圧倒的な強さを目の当たりにして、あおいは胸が苦しくなっていた。

呼吸をするのを忘れていたのだ。



気が付けば、黒い少女は膝を着いたバクオンダーの首元へと剣を突き付けており、勝敗は決していた。



バクオンダーには敵わなかったが、何とかなりそうで良かったとあおいがほっと息を吐くのもつかの間。


「待てぇいっ!そやつをそのまま仕留めても、奪った感情は戻らんぞッ!それでもいいのかッ!?」



「えっ……!」


衝撃の言葉が男爵から紡がれた。


――ダメ……それは……絶対ダメだ……!

ミカが、お姉さんが、あのままで終わっていいわけがない!



「くかっ!!お前さんがそれでいいなら手を下すが良いッ!!だが、娘っ子共は……許してくれんぞォ?」



残念ながら黒い少女の返答は聞こえない。でも、彼女の動きで大体察せられる。


思わずあおいは立ち上がり、叫んでいた。



「待ってぇ!!」



今まで出したことのない大きな声。こんな声が出るんだと、あおいは自身で驚いていた。


胸の鼓動が張り裂けそうなくらいうるさい。

でも、行かないと。



ふらふらと、黒い少女へ向けて歩き出すあおい。


踏み出す毎にビシャビシャと足元の水たまりが音を立てる。



いつの間にか足音が二つに、三つに増えていた。


振り向けば、後ろには目を覚ましていたあかりとみちるが続いていた。



言葉は要らない。



三人はそれぞれ目を合わせ、頷き合い、あおいが一歩前に出た。



「私達に……任せて」



三人は同時に、再びブレッシング・パクトを構えた。



「「ブレッシング・チェンジ!!」」




舞い散る光の羽根、魔法陣、音符の煌きが三人を包み込み、その姿を変えていく。




「響け、祝福の音色!一緒に紡ぐ想いのメロディ―!」


「愛の旋律、届けます!メロリィ・エンジェル!」




「瞬け、希望の星々!想いを重ねる星座の煌めき!」


「夜空を照らす未来の光!メロリィ・エストレア!」





「灯せ、情熱の誓い!闇夜を切り裂く暁の旭光!」


「光満ちる太陽の煌めき!メロリィ・ソラリス!」




「いくよ。せーの!」


「「輝き奏でる祝福の調べ!ブレッシング・ノーツ!!」」



祝福の戦士達が再び輝きながら、戦場へと舞い降りた。




アリサの前に立った三人の少女達。


雨は容赦なく三人の身体を叩き、髪も服も泥にまみれて重く張り付いている。

呼吸はまだ荒く、足元もおぼつかない。


それでも、その瞳だけはさっきの敗北を知ってなお、力強く輝いていた。


「……今更何だ。お前たちは失敗した。大人しく下がっていろ」


アリサは背を向けたまま、低く冷たい声を放つ。


「ううん、無理」


エンジェルが一歩前に踏み出す。雨粒が頬を滑り落ちても、その笑顔は揺るがない。


「だって私達は――ブレッシング・ノーツだからっ!」


「悲しみに満ちたまま、幸せな感情を奪われたまま、私達は負ける訳にはいかないの!」


ソラリスの声は静かだが、深く響く。


「今ならきっと、届くはず」


エストレアがじっとアリサの背を見据える。その瞳は、負けた時よりもずっと熱かった。



アリサはバクオンダーの首元へ剣を突き付けたまま、半身で三人へと振り返り、じっと彼女達を見た。


瞳の奥に、僅かに迷いと……三人への期待の色が揺らめいた。



三人から向けられる瞳の輝きに、一度だけ彼女達へ託してみようという気がアリサの胸の中で起こった。


「……なら、やってみせろ。駄目なら私が責任を持ってコイツを始末する」



麻痺が解け、こっそりと動こうとしていたバクオンダーへとアリサは再び雷撃を放ち、痺れで身動きを封じてからその場から離れ、杖を構えたまま三人の動向を見守り始めた。




「……でも、浄化技が効かなかったよね」


啖呵を切ったものの、エンジェルが不安を隠さず口にする。


「だったら、違う方法を試せばいい」


エストレアが静かに言葉を続けた。


「昔、童話で読んだの……三人の音楽家の話。一人一人の音はばらばらでも、心をひとつにすれば美しい調べになるって」


ソラリスが少し考え込んでから口角を僅かに上げる。


「三重奏……か。悪くないわね」



三人は視線を交わし、頷き合った。

ブレッシング・パクトが光を放ち、三人の手にそれぞれの楽器を握らせる。


新しい旋律が頭へと流れ込み、パクトの導きのまま、エンジェルが調べを奏で始めた。



エンジェルのライアーから紡がれるアルペジオが空気を震わせる。

それは、雲間から差し込む光が穏やかな湖面を撫でるような、清らかで澄みきった響き。


柔らかなライアーの和音やアルペジオが天より光を注ぎ、

ソラリスのバイオリンが、燃えるような情熱と暖かさを宿した旋律を紡ぎ、

エストレアのフルートが、夜空を彩る無数の星々と流星を思わせる高く透き通った音色を奏でる。


三つの音色は、溶け合い、響き合い、ひとつのハーモニーへと昇華する。


その瞬間、三人の足元から光が広がり、色取り取りの輝く音符が溢れ出す。



「「「―――ハーモニック・グローリア!!」」」


三人の声が重なった瞬間、音符と光は踊るように広がった。


金色の波紋が中庭を満たし、温かな風がバクオンダーの身体を撫でていく。


不協和音に覆われていたその巨体は、抗うように呻き声を上げたが、優しい旋律はそのすべてを包み込み、癒していく。


パイプから溢れていた闇色の靄が次々とほどけ、重苦しい爆音は小鳥の囀りのような和音へと変わっていく。


最後のひとかけらまで光に溶かされた時、バクオンダーは深い安堵の吐息を漏らし、その身体は柔らかな光粒子となって空へ還っていった。


ふわりとエストレアの手の中へ納まったのは、一際大きなハーモニックジュエル。

エストレアは大事そうにそっと胸へと抱き締めた。






この時、バイザーで隠されたアリサの瞳から一筋の涙が零れて頬を伝っていた。


「……これは?」


ブレッシング・ノーツの三重奏による浄化の調べは、アリサの胸の奥底に封じ込めた、凍り付いた心にまでエンジェル達の優しさ、温かく穏やかな想いが染み込むように流れ込み、溶かし始めていたのだ。





「……くはは、参ったな。ワシの完敗じゃあないか」


よろよろと立ち上がった男爵の顔に、いつもの大仰な笑いや怒声はない。


代わりに、拍手――乾いた音が静かに響く。


「お主らの奏でた調べ……確かに、ワシのバクオンダーの爆音すらも飲み込む力があった。ワシの芸術はまだ未熟であったと、形として突き付けられてしまったわい」


それだけ告げると、男爵は燕尾服の裾を翻し、深く一礼する。



「では、また舞台が整った時にお会いしよう――ブレッシング・ノーツ」


次元の穴が開き、吸い込まれるようにして男爵の姿は消えた。




ディスコードを撃退したことにより、バクオンダーによって破壊の限りを尽くされた建物からバラの植え込み、ステンドグラスの砕け散った崩壊しかけたチャペルも瞬時に元通りになり、空を覆う赤黒い雲が、雨雲を道連れにするように立ち消えていき、雲の隙間から日の光が差した。



「……やった、勝った……!勝ったよぉ~!!」


「うん……!勝てた……!」


「ふふ、やった……!」


エンジェルがはしゃぐようにエストレアとソラリスへと抱き着き、二人も三人で輪になるように抱き合い、喜びを分かち合った。


「エンジェル~!!エストレア!!ソラリス!!さいっこうにカッコよかったソラぁ!!一時はどうなると思ったソラ……!」


チャペルの屋根から舞い降りたソラシーがエンジェルの頭へと着地し、皆でソラシーをもみくちゃにしながら撫でまわした。



笑顔を浮かべはしゃぎ合うブレッシングノーツの三人は、共に響かせたハーモニーに確かな手応えを感じていた。

この先、どんな事があってもこの三人がいれば絶対大丈夫。

いよいよそんな心が強く育っていた。



「あ……そういえば、あの黒い魔法少女……!」



エンジェル達がはっと気付いた時には、既にアリサはその場から立ち去っていた。


「あの子のおかげで助かっちゃったね……お礼言いたかったなぁ」


「うん……実際今回の勝利はあの黒い魔法少女ありきの勝利だと思う。今度会えたら……私もお礼を言いたい」


しみじみと謎の黒い魔法少女への感謝を口にするエンジェルとエストレアに対し、ソラリスはどこか考え込むような仕草を見せ、口を閉ざしたままだった。


「……ソラリス?」


「え?あ……そうね!また……会えるといいけれど」






一方、透明化したまま空を飛び帰路を急ぐアリサは、未だズキズキする胸を押さえていた。


――胸へと溢れようとしている、この気持ちは、この感情は何なのか。


ナノマシンによる鎮静化が追いつかないほど、溢れんばかりの感情を胸に、脳裏に残るブレッシングノーツの三重奏の余韻を響かせながら、アリサは一足先に楠家へと帰還したのだった。




———————————————————————————————————



どこかから響くフルートの調べが心地よく、柔らかな風がミカの頬を撫でる。

さっきまで全身を締め付けていた重苦しい不安は、まるで夢だったかのように消えていた。


「……あれ? 私……何してたんだっけ?」


首をかしげながらも、胸の奥にはぽっと小さな灯りがともっているような、不思議な安心感が広がっている。


「……ううん。いいや。お姉ちゃんの結婚式、ちゃんと……がんばらなきゃ」


そう呟くと、ミカはスカートの裾についた雨粒をぱんぱんとはたき、笑顔を浮かべてチャペルへと駆けていく。

背中に差し込む陽光が、まるで祝福するようにきらめいていた。


その様子を、少し離れた木陰からブレッシング・ノーツの三人が静かに見守っていた。

エンジェルは安心したように胸へ手を当て、エストレアは柔らかな笑みを浮かべ、ソラリスはそっと目を閉じて頷く。


「……よかった。笑顔、戻ったね」


「ええ……私たちの音、ちゃんと届いたんだわ」


「……頑張れ、佐伯さん」


三人の視線が自然と重なり合い、ほんの短い間、何も言わずに微笑み合う。

空には、雨雲を押しのけるように大きな青空が広がり、陽射しが街を優しく包み込んでいた。



エンジェル達の合体技のお披露目回でした


さて、第一部も間もなくフィナーレ。 ぜひ最後までお楽しみ下さい。


~~次回予告~~


仲間と一緒なら、どんな困難だって乗り越えられる!

私達はやっぱり最強だよ~!って言ったら、あおいちゃんに怒られちゃった!


あれ……みちるちゃんが何だかお悩み気味、何かあったのかな?


えっ黒い魔法少女とアリサちゃん?一体どういう事~!?


次回「触れられた心、揺らぐ旋律」


新しいハーモニー、はじまるよっ♪

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― 新着の感想 ―
こんばんは、最新話まで読みました。 良い感じにニチアサというか、プリキュアっぽい何かですね。 三重奏で合体技を出す所や、一度やられても諦めずに立ち上がるあかりたちの輝きに 自分も勇気付けられそうです…
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