私達って、最強?
油断に油断を重ねて熱中症になっていました。
皆さんもこれからの季節、熱中症にはお気をつけて…
それではどうぞ!
ブレッシング・ノーツが結成されてから、ちょうど一週間が過ぎた。
それは、長いようであっという間の日々だった。
みんなには内緒の正義の味方の三人組は、同じ図書委員のグループだからという建前で、休み時間や昼休みは一緒に過ごすようにしていた。
そんな三人に気を使っているのか、アリサは昼食時と登下校時以外は空気を読んで邪魔にならないように距離を取り、自身に話しかけて来るクラスメイト達との交流を図り、また保険委員としての職務を全うせんと校舎を巡り、怪我をしている人がいないか、体調を悪そうにしている人がいないか見回りをするようになっていた。
もちろんあかり達はそんな気遣いは望んでおらず、スッと教室を出ていくアリサの背中をあかりは寂しげに見つめていた。
始めの頃はワルイゾーとの戦いの最中、エストレアが覚醒した時のように土壇場で必死に合わせられていた連携も、放課後の特訓では緊張感が薄れ息の合わない事が多く、エストレアがチャクラムを射出するタイミングでエンジェルが飛び出して、あわや大惨事となりかけていた。
それが今では、お互いの動きを自然と感じ取れるようになり、短い言葉だけで連携が取れるようになっていき、その特訓の成果が如実に現れていた。
そして迎えた実戦の時……!
夕暮れ時の公園には、もう帰らねばならぬ時間でも、あとちょっと……あともう少しと名残惜しく語らう学生達、優しくもう帰ろうと声をかける母親の元へと走りながら戻っていく小さな子供などの姿があった。
丁度時刻は17時を迎え、夕方を知らせるメロディーチャイムが流れていく。
そんな穏やかな空気を、場違いな爆音を撒き散らしながら騒音がぶち壊した。
「――おぉぉんッ!!今日こそは調和を滅し、我が爆音に酔いしれさせてやるわぁぁぁいッ!!」
爆音と共に現れたのは、見慣れた黒燕尾服の迷惑男。
フォルティシモ男爵――またしてもその男である。
「ふはははは!歓声も拍手も、ワシに捧げられぬのならッ──全て奪って黙らせてくれるわッ!」
手にしたミュートジェムを掲げ、響くメロディーチャイムと学生達、親子のポジティブエネルギーを吸い取らせた。
————————————————————————————————————
「ピッ!!感じるソラ……また奴等が来たソラッ!!」
「えっ!またっ!?」
既に帰宅していたあかりは、すぐにあおいとみちるとのグループメッセージに連絡を入れる。
『ソラシーから、またワルイゾーが出たって!!空見上げてみて!赤黒い雲が出ている所にいるはずだよ!!』
スマホを手に、焦りでタイプミスをしながらも打ち込むあかりをじっと見て、ソラシーは何かを考えるかのように首を傾けていた。
————————————————————————————————————
「ワールイゾォォォォン!!」
逃げる人の流れに逆らい、赤黒い雲の下の公園へとあかりが駆けこむと、既に到着していたあおいがエストレアに変身し、ワルイゾーの注意を引いている間にみちるが感情を奪われ佇んだまま動かない人達を安全な所まで手を引いて逃がしていた。
「ごめんっ!すぐに参戦するねっ!ブレッシング・チェンジ!」
エンジェルへと変身を済ませ、みちるの横へと降り立つ。
「っ……エンジェル!急いでこの人達を避難させないと!あそこのベンチのおじさん、私じゃどうしようもできなくて……!」
「私に任せて! ……おじさん、危ないから連れてくよっ!!」
エンジェルとみちるが手分けして避難誘導を進める中、男爵は肩を揺らしながら高らかに笑う。
「ヌハハハハ!!よかろう、逃げるがいいッ!恐れるがいいッ!ささァ!我が新たなるワルイゾーよ……奏でるがよい、破滅のディストーション!!」
男爵が黒い指揮棒を振り下ろすと、巨大なスピーカーが二つくっ付いたような頭部を持ち、電信柱のように細長い身体を持つ異様な形状のワルイゾーがその場で立ち止まり、大きく息を吸うような動作を見せた。
「……!みんなっ!!耳を塞いでっ!!!」
エストレアがワルイゾーの攻撃を看破し、鋭く叫び注意喚起をする。
「ゥゥウオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアッ!!!」
塞いだ手をも貫通し脳や内臓まで震わせるような爆音のサイレンが鳴り響き、公園の樹木が音圧でへし折れ、近隣の建物の窓は軒並み砕け散り、すぐ近くにいたエストレアは巻き上がった砂煙と共に宙を飛び、エンジェルのいる場所まで後退させられる。
「んん~ん!!ナイス爆音ッ!!この五臓六腑を震わせるサウンド……たまらぬゥ!!」
恍惚とする男爵と対照的に、ブレッシングノーツはかなりのダメージを受けていた。
「爆音攻撃……!ほんっとに迷惑ぅ……!」
「え?ごめん、何か言ってる……よね?耳が聞こえない……」
「エンジェル……エストレア、耳……聞こえてる?私今……全然聞こえないんだけど……」
キンキンとサイレンの残響が未だに三人を苦しめているが、一番早く立ち直ったのはエンジェルだった。
「うるさいワルイゾーにはお仕置きっ!!許さないんだからっ!!」
地面を強く蹴り、高速でワルイゾーとの距離を詰めると細長い身体を支える足を狙い、連続でパンチを打ち込む。
頭が重いのか、簡単にバランスを崩して尻もちをついたところに、届くようになった追撃のパンチを胴体へと叩き込む。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「ワルゥっ!?」
更にバランスを崩し、重い頭のスピーカーから地面へと倒れ込む。
簡単には立ち上がれないのか、手足をバタバタさせて何とか起き上がろうとするが、うまくいかない。
ようやく耳が聞こえるようになったのか、エストレアも耳に当てていた手を下ろし、チャクラムを構える。
みちるは未だに頭が痛むようで、蹲ったままだがしっかりとワルイゾーを見据えている。
「よしっ!行くよ、エストレア!」
「援護する!」
反動をつけて無理やり起き上がったワルイゾーが再び爆音を発しようと大きく息を吸い込み始めた。
「まずい……!来るよっ!」
「大丈夫!エストレア!上から牽制を!」
「了解!」
放たれたチャクラムが流星の如き閃光を描き、ワルイゾーの息を吸って膨らむ胸を押さえつけるかのように着弾していく。
衝撃で息を乱した所を、今度はエンジェルが跳躍しながら正面から胸付近へと飛び掛かり、ため込んだ息を吐きださせるようにパンチを加えていく。
「ワルルルゥッ!?」
完全に吸い込んでいた息を吐きだしてしまったワルイゾーは、ひるんだようにその場で足踏みをする。
そんなワルイゾーへと追撃のチャクラムが襲い掛かり動きを完全に止めた。
「ワルイゾーは即退場っ!! プリズム・シャイニングキーーーック!!」
空に響き渡ったエンジェルの元気な掛け声と共に、まばゆい光の軌跡が宙に瞬く。
天へと跳躍したエンジェルの飛び蹴りが、エストレアの操るチャクラムにより四肢を強襲され身動きの取れないワルイゾーの真正面を捉え、その身体をゴム毬でも蹴り飛ばすかのように吹き飛ばしてく。
「今よっ!エストレア!」
「うん……!癒しの音色よ──トゥインクル・セレナーデ」
エストレアにより奏でられるフルートの癒しのメロディーが響き渡り、たちまちワルイゾーを浄化させてハーモニックジュエルと変化させる。
星の輝きがワルイゾーが暴れて壊れた建物や窓を始め、自動販売機やベンチなどを包むと元通りに直していく。
散りゆく光粒が空に舞い、感情を奪われた人々を癒し、爆音の悲劇の記憶を拭い去り静かに音を取り戻す町──。
「ぬぅぅぅうおおおおぉぉぉぉッ!!!!!またしてもッ!!忌々しい娘っ子共め!!」
捨て台詞を吐いてフォルティシモ男爵が次元の穴へと消えていく。
「……終わったわね」
エストレアがふわりと地面に舞い降り、変身を解除する。
一瞬身体を包んだ光が弾け、元の制服姿に戻ったあおいへと吹き抜けた風が胸元のリボンを揺らす。
「ふふんっ、今回は完璧だったよね? 私のキック、バッチリ決まってたしっ!」
地上に降り立ったエンジェルが、変身を解除しながら自信満々に胸を張る。
満面の笑みで振り返る彼女に、みちるは呆れたように小さくため息をつく。
「……ちょっとあかり。調子に乗るのは自由だけど、慢心は敗北のもとよ」
「ピィ~、でも今回は連携ばっちりだったソラ~!」
みちるの頭に飛び乗ったソラシーも、パタパタと羽ばたきながら満足げな声を上げる。
確かに、今回は上出来だった。
敵の出現に即座に反応し、三人が自然にポジションを分担して動いていた。三人が揃うまでの間も、あおいとみちるの連携はしっかりと取れ、合流した後もあかりが前に出て相手の注意を引きつけ、あおいが後方から支援。みちるの誘導によって一般人の避難も完全に終わっていた。
呼び出されたワルイゾーはそこそこ手強かったが、それ以上に三人の結束の力の方が強かった。
──そんな手応えが、今のあかりには誇らしくてたまらなかった。
「で、でも……ほら?……今の私達って、もしかして……最強じゃない?」
誇らしげに胸を張り、漏れ出してしまうニマニマ笑いを浮かべながらくるりとその場で浮かれたように回転しスカートをなびかせ、あかりが二人と一羽へ問いかける。
その様子に、あおいは黙って何かを考え込み、みちるは小さくため息をついた。ソラシーはというと純粋にあかりの言葉に喜ぶようにぴょんぴょん跳ねていた。
「……まだ始まったばかりよ、あかり。強くなれたなんて思い込むのは早いわ」
「うう~、もうっ! ふたりとも冷たいなぁ~! ちょっとくらい褒めてくれてもいいのに……」
「でも、まぁ……少しは、慣れてきたのかもね。私達も」
苦笑交じりのあおいの言葉にあかりは目を丸くして、すぐにぱぁっと顔を輝かせた。
「だよねっ? やっぱり、最高にドレミってるよ!このチーム!」
「ピィ~!チームワークの勝利ソラッ!ブレッシング・ノーツ、最強伝説始まったソラ!」
三人と一羽は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべる。
──そう、こんな日常が、続いていけばいいのに。
心の底から、あかりはそう願っていた。
しかしその裏で、静かに忍び寄る影があった。
とあるビルの屋上。人の気配もないその場所で、一人の男が双眼鏡を覗きながら佇んでいた。
「……なるほど。あれが、エンジェルとエストレア……か」
呟くその声は誰にも届かず、風に紛れて消えていく。
あまりにもフォルティシモ男爵が苦戦する相手、メロリィエンジェルとメロリィエストレアは、一体どれほどのものなのか。今後どのように攻めるべきか。
静かに、密かにクレシド卿は観察を終えると次元の穴を開き拠点へと戻っていった。
しかし……クレシド卿は気付いていなかった。観察をしている自分もまた、密かに黒い悪魔に観察されている事を。
————————————————————————————————————
公園からの帰り道、鼻歌を歌いながらご機嫌に歩くあかりとそのすぐ後ろをあおいとみちるが並んで歩く。
既に夕焼けも夜の深い青に飲み込まれ、空には星が瞬いていた。
もうすぐあおいの家に到着するというそんな時、ふと思い出したようにあかりが口を開いた。
「あ、でもそういえば今日さ! ワルイゾーが出た時にたまたまみんな、すぐスマホ開いていて良かったよね!」
「……そういえばそうね。私もお店の手伝いに行こうかと制服を着替えようとしていた時に通知が聞こえて、見てみたらワルイゾー出現だもの。一人でお店頼んじゃったアリサには悪い事をしちゃったかも……」
「私は、今日の復習していて……たまたま目に見える机に置いてあったからかな。普段はあまり使わないし……」
二人の話を聞いて、今日の即時集合できたのはたまたまだったと、運の良さを感謝するあかりだったが、今後はどうしようと腕を組んで悩み始める。
「……でも、本当に今回は運も味方していたと思うわ。次はどうか分からない」
「そうだね。敵も徐々に手を変えてくるかもしれないし、気は抜けないね」
あおいが静かに言葉を重ねる。
「ずーっとスマホ見てるわけにもいかないし、何か良い方法があれば良いんだけど……」
ソラシーは羽をばたつかせながら、空中でくるくると旋回する。
「──だったら、作るソラ!」
「へっ!? なに作るの!?」
「ピィッ! 名付けてブレッシング・リンク! 仲間との絆を繋ぐ、魔法の通信アイテムソラ!!」
ソラシーが輝きながら三人の頭上を飛び回り、ふわりと光の粒が舞い落ちて来る。
その粒が次第に集まり一際眩く輝き光に包まれると、三人の左手首に画面のついた腕時計のようなアイテムが装着された。
「お、おぉぉ~っ……!!」
「これ、スマートウォッチ……?」
事を成し遂げたソラシーはゆっくりとあかりの頭へと着地し、自慢げに羽を広げた。
「なんと!顔を見ながらの通話、メッセージ、ワルイゾー反応のスキャンも出来るソラ!」
「なにそれすごい……」
みちるが思わず小さく呟く。
「あまり目立ち過ぎないように、色々な人がつけているものとデザインを寄せたソラ。完璧ソラ!」
あかりが目を輝かせながら早速画面をタッチして操作を始める。それだけでテンションが跳ね上がっていた。
「うわ~、かわいいし便利! ありがとうソラシー!」
「ピィ♪ 喜んでもらえて嬉しいソラ!」
「……まぁ、これで戦闘中の連携もよりスムーズになるはずね」
あおいも腕にはめながら、機能を確認するように目を細める。
するとあかりが急に走り出し、あおいとみちるから少し離れた所で振り返る。
「では、記念すべき初通信! ──あおいちゃん!みちるちゃん!聞こえてる?」
『──聞こえてるわ、あかり』
『ふふ、私もちゃんと受信できてるわ』
三人は画面越しにふふっと自然に笑いあった。
──これで、どこにいても、みんなと繋がっていられる。
少しずつ、だけど確かに強くなっていく彼女たちの絆を祝福するようにそれぞれのブレッシング・リンクがキラリと瞬いた。
————————————————————————————————————
揺らめく蝋燭のシャンデリアに照らされたホール。そしてそのステージの脇に設置されているクレシド卿のバーカウンターに座る二人の人影があった。
「……また、あの娘たちに負けたのね。男爵」
ミーザリアが肩をすくめるようにして溜息をつく。そんな彼女の隣には頭を抱えながら悔しげに唸っているフォルティシモ男爵。
「ぬぅぅううっ!何故だ!何故こうもタイミングが完璧なのだ!?我がワルイゾーの華麗なる演奏を毎度邪魔してくれるとは……!」
「あなたが無計画に突っ走るからよ」
「わ、ワシが悪いのか!?」
「……それ以外何があるのよ、もっと策を練ってから行きなさいな」
その言葉に、男爵の動きがピタリと止まった。
「ならばやはり夜戦かッ!静寂を切り裂く爆音こそ、我が芸術!今日のワルイゾーの爆音攻撃には随分とあの娘っ子たちも堪えていた様子、ならば深夜に爆音で叩き起こしてやればッ!!」
夜の出撃。それはつまり、あの存在――黒い悪魔が相手になるということ。
ミーザリアの指先が無意識に震えていた。
自分の中に植え付けられた恐怖は、そう簡単には消えてくれない。
「……行きたいなら行けばいいじゃない。でも、命の保証はしないわよ」
「ぬ、ぬぅ……っ!」
「でも……そろそろ逃げてばかりじゃ駄目ね。……そろそろ、本気で行くわよ」
くるりとマイクを指に絡めるように回し、ミーザリアは立ち上がる。
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
「夜に勝てないなら、夕方に出ればいい。光と闇が交わる時間……あの黒い悪魔は昼間から夕方にかけては現れないらしいじゃない?ならその時間帯を狙えば……やれる」
「み、ミーザリア……?」
「グラーヴェ様のためにも、これ以上無様は晒せない。……次は、私が行く」
戦うことなく敗北した孤高の歌姫の再戦の時は近い……。
————————————————————————————————————
「……それではお先に休ませていただきます。マスター、マダム」
「ああ、お休みなさいアリサさん。今日も助かったよ」
「お休みなさいアリサちゃん。ゆっくり休んでね」
リビングでくつろぐ楠夫妻へと就寝の挨拶を告げ、静かに階段を登っていく。
今夜も悪意感知に反応は無く、平穏な時間が流れている。しかし今日の襲撃前に現れていた別の幹部らしき男。まだその能力こそ把握はしていないが、これからあの雑魚以外の襲撃者が増える前兆なのかもしれない。
もし今後の襲撃者の中で、みちるに害を与えそうな存在が現れたのなら、その時には……。
そうアリサが思考を巡らしながら屋根裏部屋への梯子を下ろそうとしていた時、もう既に就寝しているはずのみちるの部屋のドアがゆっくりと開いた。
「……あ、あのアリサ……?寝る前にちょっと……いい?」
何か決意を秘めたような眼差しで自分を見るみちるへ、否定の言葉をかける事などできるはずもなく、彼女へと誘われるがまま部屋へと入った。
みちるの部屋は、寝る直前だったのかベッドの近くの明かりだけが灯され、薄暗かった。
いつものように、ベッドに座るみちるの横に軽く会釈をして並んで座る。
「……」
みちるはじっと床を見つめて、大きく深呼吸をした後にゆっくりと口を開いた。
「……ごめんね、夜遅くに。でも……アリサにはちゃんと話しておこうと思って。おじい様とおばあ様には内緒にしてね……?」
「……はい」
「……私ね、ずっと秘密にしてたの。おじい様にもおばあ様にも、もちろんアリサにも。……でも、本当はずっと、言いたかったのかもしれない」
みちるはゆっくりと両手を膝の上で組みながら、小さく俯いた。
「私、ブレッシング・ノーツっていう名前の、正義の味方のサポートをしているの。……あかりと、あおいと一緒に。変身こそできないけれど、私なりにできることをしてるつもりなの」
アリサは表情を変えずに静かに頷くだけ。
「……ごめんね、こんなに近くにいるのに、ずっと隠してて。でも、今の私はそれを話せるくらいには……ほんの少しだけ、強くなれたと思うの」
みちるがふっと寂しげに微笑んだとき、アリサがゆっくりと口を開いた。
「……分かっています。色々と悩んでいる事も……それでもとても楽しそうにされていた事も」
みちるが驚いたようにアリサを見る。
「……気付いていたの?」
「はい。でも、みちるが自分で話してくれるその時まで……待っていました」
アリサの声はどこまでも穏やかで、拒絶も咎めもなかった。それが余計に、みちるの胸に沁みた。
「……ありがとう。アリサ」
ほんの少し、涙ぐみながらみちるがそう言うと、アリサは静かに続けた。
「……みちるは、ただの支援役なんかじゃない。あかりや杏堂さんのような特別な力を持たずして、危険に身を晒してでも、それでも誰かの為に動き、あのチームを支えている。誰よりも尊く強い人です」
その言葉に、みちるは何も返せず、ただ、そっと目を伏せた。
やがて、静かに時間が流れる中、みちるがぽつりと呟く。
「……これからも、そばにいてくれる?」
アリサはその問いに答えず、ただ静かにみちるの手へと自身の手を重ね、静かに頷いた。
それだけで、みちるの目を滲ませ揺らしていた涙が、ゆっくりと頬を伝い流れて行った。
「きっとあかり達にも何か事情があるでしょう。表立って戦地に共に立つ事は叶いませんが、姿が見えずとも、必ず傍にいます。……ずっと、如何なる時も」
そっと、みちるの頬を伝う涙を指で拭い、アリサはぎこちなく、不器用で僅かな変化でしか無かったが、確かにみちるへと微笑みを浮かべていた。
「……ッ!か、カッコつけすぎ……!バカ……」
みちるは自分の顔が一気に熱くなるのを感じ、思わず顔を伏せてしまい、強がりな言葉を吐いてしまう。
それでもアリサが、あの何を言っても何を食べても表情がほんの僅かしか動く事のなかったアリサが、確かに微笑みを見せたのだ……自分だけに。
その事実が何よりもみちるの心を温かくし、同時に……新しい感情が芽生え始めていた事に、まだ気付いていなかった。
アリサは何も言わずに立ち上がり、軽く会釈をするとみちるの部屋を出た。
「……おやすみなさい、みちる」
「……お、お休み。アリサ」
ドアが閉じられて、アリサの顔が見えなくなってしまう事が、どうしてこんなに寂しいのだろう。
みちるはそっとトクンッと高鳴る胸元に手を当てる。
熱を持ったその場所に、小さな、とても大切な灯が灯りはじめていることを、まだ知らないまま。
クレシド卿ー!後ろ後ろ!!
というわけで、チームでの戦い方になれてきたあかり達のお話でした。
次回もお楽しみに!




