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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第二楽章 動き出す物語 
22/100

ブレッシング・ノーツ、はじまりの音符♪

何とか書きあがった!今回は短め。それではどうぞ!

 日は完全に沈み、夜の深い青色の空の下、あかりは桜並木を走っていた。


 意図せぬディスコード……フォルティシモ男爵とワルイゾーの襲撃に巻き込んでしまい、いつの間にかその場から姿を消していたみちるが心配で、あおいと別れた後すぐに走って喫茶店へと向かっていたのだ。


 見覚えのある店構え、扉の前で立ち止まり、走ってきたことにより乱れた呼吸を整えて、鞄をぎゅっと抱きしめた。


 「ソラシーはここで待っててね、お店の人に怒られちゃうかもだから……」

 

 「了解ソラ!」


 あかりの肩に止まっていたソラシーが飛び立ち、植え込みの植物に紛れるようにして身を隠した。


 深呼吸をして扉を開く。


 「……いらっしゃいませ。おひとりですか?」


 出迎えたのは、エプロン姿のアリサだった。

 相変わらず無表情ではあるものの、その対応は以前よりも柔らかく、どこか自然な空気が滲んでいる。


 「アリサちゃん!……あの、みちるちゃんは?」


 「現在休息中です。今日はお疲れの様でしたので」


 「そっか……ありがとう」


 アリサに礼を言い、みちるが無事だったことに胸を撫で下ろしつつも、あかりの心にはぽっかりとした空白が残っていた。


 言いたいことも、伝えたいことも、あれだけあったはずなのに──今はただ、彼女の眠る姿を見ることもできないというもどかしさだけが残っていた。


 そのまま喫茶店を後にしたあかりは、家に帰り、夕食を終えたあと、自室のベッドにうつぶせになっていた。


 「……みちるちゃん大丈夫かなぁ」


 ぽつりと、小さい声で呟く。


 しかしすぐ近くで毛繕いをしていたソラシーにはちゃんと聞こえていたみたいで、自分の羽から嘴を放すと首を傾げてあかりを見つめた。


 「ピ?」



 「ううん、なんでもない……。みちるちゃんが無事で良かったんだけど……ちゃんと話せてなくて。まだ、何も終わってない感じ……」


 「ソラ……」


 ソラシーはしばらく考えるように沈黙し、やがてちょこんとあかりの背中に乗ると、ふわふわの羽で彼女の頬をそっとくすぐった。


 「でも大丈夫ソラ。明日があるソラ!」


 「……うん、明日があるよね。ありがとう、ソラシー」


 スマホの通知のバイブレーションが鳴り、誰だろうと画面を見ると、今日連絡先を交換したばかりのあおいからメッセージが届いていた。


 『楠さん、大丈夫だった?』


 『うん、直接は会えなかったけどアリサちゃんがちゃんと帰っているって』


 『アリサって……あの噂の転校生の咲良さん?』


 『そうそう!咲良アリサちゃん!みちるちゃんの親戚らしくて、今は一緒に住んでいるって聞いたよ』


 『へぇ』


 『明日、あおいちゃんも一緒にみちるちゃんの家の喫茶店行ってみない?そこでお話しできればなって!』


 既読が付いて少し間が開いた後。


 『分かった、明日の午後2時に図書館前に集合でいい?』


 『うんっ!ソラシーと一緒に行くね』

 

 そこまでメッセージを打った後、あかりはふと良い事を思いついた。


 

 「ねね、ソラシー。そのままじっとしてて?」


 「ピ?」


 撮影モードをインカメラにして、寝そべったままピースをするあかりと、その背中に乗るソラシーで2ショットを撮り、あおいへと送る。


 『仲良しなんだね、ソラシーと』


 『でしょー♪』


 また少し間が開いた後に、あおいからも写真が届いた。


 『うちの猫。くろみつ』


 木星がプリントされたクッションに、ゴロンと寝そべる黒猫の写真。赤い首輪には金の三日月のチャームが輝いていた。


 『わ、すっごい可愛いっ!いつかあおいちゃんの家行った時抱っこさせてっ!!!』


 『うーん……くろみつ気分屋だから、機嫌が良ければ触らせてくれるかも』



 そんな他愛もないやり取りを菜月に風呂に入るよう呼びかけられるまで続けるのだった。







 ──そして、翌日。


 待ち合わせの14時よりも30分早く図書館前へと到着したあかりとソラシーは、ストレッチをしながらあおいが来るのを待っていた。


 空を見上げれば青空に白いわた雲がゆっくりと流れていた。時折太陽を隠すように雲が横切り、日陰になった瞬間涼しい風が爽やかに通り過ぎていく。



 「やっぱり家を出るのが早かったソラ」

 

 「え、えへへ……楽しみでついつい……」



 待ち合わせ時間の15分前、遠くに春らしい私服姿のあおいが歩いてくるのが見え、あかりは大きく手を振って出迎える。


 そんなあかりに気が付いたのか、あおいは小走りで図書館前までやってきた。


 「あかり早いね、ソラシーも昨日ぶり。もしかして待たせちゃった?」


 「ううん!ついさっき来たところだから!じゃあ行こうか!」


 「ピピィ!」


 軽口を交わしながら、昨日の出来事を少しだけ振り返りつつ、二人は楠家の喫茶店へと歩みを進めた。





 「へぇ……ここが?」

 

 「オシャレなお店だよね!ザ・喫茶店って感じですっごくドレミってるの!」


 お店のドアを開けると、エプロンを着けたみちるが二人を出迎えた。


 「いらっしゃいませ……ってあかりと杏堂さん!……とりあえず、席案内するわね」


 そう言ってテーブル席へと案内しようとするみちるへと、マダムこと詠子が待ったをかけた。


 「みちるちゃん、せっかくお友達が来てくれた事だし、一度お部屋に上がって貰ったら?」


 「え……でも」


 店の奥からスッと現れたアリサが、みちるが手に持ったままのトレーを受け取り、小さく頷く。


 「ほら、ちょうどお店も落ち着く時間だし、アリサちゃんもいるから……ね?」


 「……ありがと、おばあ様。じゃあ二人共こっちよ」


 あかりとあおいはマスターやマダム、アリサへと会釈しみちるの後に続き、店の奥の住宅用玄関へと進んでいった。



 三人を見送り、そっとマダムの近くに立つアリサ。



 「……あの子達、アリサちゃんが話してくれた昨日の件で来たのでしょう?」


 「……はい、みちるを心配してお見舞いを兼ねた、事情説明かと」


 マダムはそっと微笑んだ。


 「優しい子達ね。特にあの子……柚木さん?あの子には、人を惹きつける温かい輝きがあるわね」


 アリサはわずかに頷く。


 「……観測による分析結果においても、彼女の行動原理は自己犠牲傾向を含みます。ただし、それは合理性の欠如ではなく、ある種の信念が……」


 「いいのよ、そんなに難しく語らなくても」


 マダムはくすりと笑って、アリサの腕にそっと触れた。


 「アリサちゃんも、あの子の事を好ましく思っているって分かるわ」


 その言葉に、アリサのまつげが一瞬、揺れた。


 「……柚木あかりは、私には少し眩しい存在です」


 「それでいいのよ。眩しさに目を細めながらでも、誰かを見つめようとするアリサちゃんの変化……。焦らなくても一歩ずつ進んでいけばいいの」


 アリサの瞳に、ふと迷いのようなものが浮かぶ。しかし、それを言葉にはせずアリサは黙ってうなずいた。



—————————————————————————————————————



 みちるに了承を得て、開けた小窓からソラシーがぽふっと入ってくる。

 これで、三人と一羽が揃った。


 初めはソラシーを不思議そうに見ていたみちるだったが、ソラシーが不思議な喋る鳥だと分かるとびっくりしながらもすんなり受け入れていた。


 役者がそろったところで早速あかりが話を切り出した。



 「……ねえ、みちるちゃん。昨日のこと、どこまで覚えてる?」


 「うーん……道路標識が飛んできて、それを避けようとしたら……その後は……なんだか、夢みたいにぼんやりしてて……」


 「そっか。やっぱり、覚えてないんだね」


 あかりとあおいは、真剣な表情で顔を見合わせる。


 そして──それぞれが、自分が何者であるかを語り始める。



 ブレッシングパクトのこと、変身のこと、そしてソラシーの事。

 自分たちがメロリィ・エンジェルとメロリィ・エストレアであること。


 昨日メロリィエストレアになったばかりのあおいにも、ソラシーとあかりから説明があり、あおいは静かに頷きそれを受け入れる。


 だが、みちるの表情はどこか寂しげだった。


 「……私、ここに混ざってて良かったのかな?多分、何も役に立てない……と思う」



 「そんなことないよっ!みちるちゃんだって、すっごく大事な仲間だよっ」


 「……そうだよ。昨日だって私たちと一緒にいた。巻き込まれた形だけど……それでも、あの場にいた。それに昨日の事を覚えているって事が大事だと思う」


 そんな二人からの励ましの言葉を受けてもなお、みちるは目を伏せていた。


 「あの時のこと、夢みたいで……怖かったはずなのに、何もできなかった自分のことばかり気になっちゃって。今になって、置いてかれた気がして……」


 「変身できるからすごいとか、何かできたから仲間とか、そんなこと関係ないよっ!私たちと一緒にいてくれる……それだけで充分なの!」


 あかりの言葉に、少し照れたように笑いながらあおいが続けた。


 「……それに。私だって昨日までは、何も知らなかった普通の子だったよ?」


 みちるは少しだけ目を見開き、そして──ようやく、柔らかく微笑んだ。


 「ピィ、ならみちるはサポーターとして一緒にいるのはどうソラ??」


 「「サポーター?」」


 あかりとみちるの声が重なる。


 「あかりからの話だと、みちるはとっても頭が良いと聞いたソラ!それに歌も綺麗で美人で高嶺の花で」


 「わーっ!!わぁあああっ!!!ソラシーストップ!!」


 珍しくあかりが顔を赤くしてソラシーの嘴を手で覆う。

 もちろんソラシーの声はみちるにも届いており、みちるも顔を赤くして俯いてしまった。


 そんな両名を交互に見て、妙な空気を断ち切るようにあおいは咳払いをしてから口を開いた。


 「……つまりは、機転が利く楠さんに避難誘導とか戦況を見て指示出してもらうって事?」


 「そうソラ!だからみちるも仲間ソラ!」


 「仲間……か」


 みちるは少し真剣な顔をして、ソラシーを、あおいを、そしてあかりを見た。


 「……私なんかでも、何か役に立てるなら……」


 静かに、それでもしっかりと意思の籠もった声で呟いた。……少し恥ずかしそうに目をそらしてそっぽを向きながらだったが。


 その言葉を受け、あかりはぱっと表情を明るくして笑った。


 「うん……!うんっ!!もちろんだよっ!ね?あおいちゃん!」


 「うん、いいと思う。基本私が後衛だから楠さんを守れるし」



 三人は顔を見合わせ、そっと頷き合い……自然と笑みを浮かべた。




 「じゃあ、グループ名を決めるソラ!」


 「グループ名……?」


 「そうソラ!みんなで力を合わせて戦うんだから、名前があったほうが絶対いいソラ!」


 「そう、ね……なんだか、それって素敵かも」

 

 「名前かぁ……うーん……」


 しばし考えたあかりの口から、ふとこぼれた言葉。


 「……ブレッシング・ノーツとか、どうかな?祝福と音符。私たちらしくていいかなって」


 「うん、いい名前だと思う」


 「私も……好き。あったかくて、優しくて……強そう」


 「ソラシーも気に入ったソラッ!ブレッシングノーツ……!キラキラの溢れる良い名前ソラ……!!」


 皆の顔に笑顔が浮かび、満場一致でチーム名が決定された。


 「じゃあ決まりだねっ!……せっかくだから決めポーズとかセリフとかも考えちゃう?」


 「……ちょっと恥ずかしくない?」


 「私だけ制服とか私服でやるのはちょっと……」

 

 「えーっ!いいじゃんっ!なんかこうドレミってる感じでふわーってなりそうで!!」



 部屋には少女達の楽し気な話し声と笑い声が響き渡り、ソラシーの目には七色にキラキラと光る音符が、彼女達を祝福するように浮かび漂っているのが見えていた。



 ──こうして、祝福の旋律を紡ぐ少女たちの物語は、静かに幕を開けた。


 ブレッシングノーツという名の、最初の音符が刻まれた瞬間だった。






————————————————————————————————————―





 みちるの部屋のドアがノックされ、静かにドアが開けられると、そこにはアイスカフェオレの注がれたグラスとアーモンドケーキが3つずつ乗せられたトレーを持つアリサが立っていた。


 「……こちら、マスターからの差し入れです。遅くなって申し訳ないと」


 「ありがとアリサ、おじい様にもお礼を伝えておいてくれる?」


 無駄のない動きで、座る三人の前にグラスとケーキを配膳し、ぺこりと軽く一礼して去っていく。


 「えっ!アリサちゃんも一緒に……!」


 思わずあかりがアリサを引き留めようとするも。


 「……仕事があるので。どうぞごゆっくり」


と、バッサリ断られ撃沈する。


 ドアへと消えていく銀色のアンダーポニーテールと背中を見送りながら、あかりは小さく息をついた。


 そんなあかりを見て苦笑いを浮かべながらみちるはあおいへと声を掛けた。


 「ねえ、杏堂さん」


 「なに?……あ、あおいでいいよ」


 「じ、じゃあ……あおい!こうしてちゃんと話せて良かったなって……思ってる。私達は昨日知り合ったばかりなのに、今日はもうこんなに仲良くなれたって……ちょっと不思議な気分」


 「そうだね……私も、同じこと思ってたよ」


 ふたりの視線が合い、自然と小さな笑みがこぼれる。


 「あかりには感謝しないとね、二年生になってからあかりのおかげで……本当に色々変わったもの」


 「うん……本当に……。あかりは凄いね」


 「き、急にどうしたの二人共ー?私何もしてないよ~!」


 急にみちるとあおいから感謝を口にされ、くすぐったい気持ちが抑えきれずに冷たいカフェオレをストローで一気に吸い込み、火照った頬を冷ます。


 そんなあかりの様子をみちるもあおいも優しく笑って見つめていた。




 ──そしてふと、あかりが呟いた。


 「ブレッシングノーツって……これから、どんな音を奏でていくのかなぁ」


 「それは……私達次第、だね」


 あおいが静かに答える。


 「うまくいかないことも、あるかもしれない。けど……この三人でなら、きっと乗り越えていける気がするわ」


 続けてみちるが。


 「ピィッ!その通りソラ!困った時は、ソラシーに頼るソラ~!」


 唐突なソラシーの声に、三人ともふっと笑いがこぼれた。


 「……ほんと、頼りになるね。ソラシーは」


 「ピィ!それほどでもあるソラ!」


 「いやあるんかい!」


 ついツッコミを入れるあかり。そんなやり取りの空気の中、誰からともなくまた、笑い声がこぼれる。


 日差しはゆるやかに傾き、窓の外では風が若葉を揺らしていた。


 ほんの少し前まで他人だった三人が、今こうして、同じ時間を過ごしている。


 ──始まりの音は、まだ小さくてもいい。

 けれど、確かにそこに鳴っている。


 少女たちの胸で高鳴る祝福の音色は……今、動き始めた。


 それは、やがて誰かを救う旋律となるだろう。



ようやくこのニチアサ世界の本来のタイトルである「ブレッシング・ノーツ」の名前が出せました。

作者的にはこれでようやく第一楽章が終わった気分です


次回はここまでの登場人物紹介。 どうぞお楽しみに!

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