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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第二楽章 動き出す物語 
18/100

星降る出会いのプレリュード♪

 学校から帰ってからのあかりはずっと上機嫌だった。

 空っぽになったお弁当箱を菜月へと渡しながら、明日はあかりも一緒に自分のお弁当のおかずを作る約束をしたのだ。


 今はそのお弁当の材料の買い出しに、ソラシーを頭に乗せながら町へと繰り出していた。


 「ふんふ~ん♪」

 

 「ピ、あかりご機嫌ソラ」


 「えー?そうかな~??」


 「ソラ」


 実際、あかりはニコニコ笑顔で鼻歌を歌いながらスキップ交じりに歩いているのだ。誰がどう見てもご機嫌だと答えるだろう。


 夕日に染まる桜並木を眺めながら、その先に見える図書館を見てあかりはふと思いつく。



 「あ!そうだ!図書館でレシピ本見てこようかな!……えっと、ソラシーぬいぐるみの真似できる?」


 「ピ……ピィ……できなくはないけど、折角なら外で待ってるソラ!この付近も空から見てみたいソラ!」


 「決まりだねっ!ちょっと見たらすぐ出て来るから!」


 頭の上からソラシーが飛び立ち、それを合図にあかりも走って図書館へと駆けこんだ。







 「あ、あった……料理本コーナー!」


 あかりはそっと声を漏らし、わくわくしながら本棚を端から端まで眺める。


[料理の心得]

[旦那を唸らすお袋さんの味]

[調理とは料理する事]

[楽しいお弁当]



 最新のオシャレなレシピ本はさすがに入荷しておらず、少し前の本が多いがその中でも比較的新しく、また簡単な料理が乗っていそうな本を手に取り、空いている椅子へ腰かけた。


 「……えへへ、明日のお弁当、何作ろっかな……」


 卵焼きの可愛いアレンジ、ちょっとしたひと手間で美味しくなるミニハンバーグの作り方。


 国民的アニメのキャラ弁の作り方、型抜き野菜の詰め方のアイデア──

 ページをめくるたび、胸が弾む。


 ある程度読み終わって本を閉じると、あかりと反対側、窓際の席に座る同じ制服を着た女の子が目に入った。


 分厚い本を何冊も机に積み上げ、熱心にページをめくっている。

 長めのボブカット、端正な横顔、知的な雰囲気。

 あかりはちょっと首を傾げた。


 あの子……どこかで見た事あるような……?どこだっけ……


 その時。


 ──ぱら、とページをめくった手が止まり、ほんの一瞬、彼女の視線がこちらに向いた。


 目が合ったわけではない。

 ただ、何かの気配を感じたように、短く周囲を確かめた──そんな動作だった。


 あかりは思わず息を飲み、さっと目を逸らした。


 

 次の瞬間、彼女はまた視線を本に落とし、静かにページをめくり始めた。


 「……今度また……ちゃんと挨拶、しようかな」


 小さな声で呟き、あかりはそっと料理本を棚に戻した。

 胸の奥に、少しだけ高鳴る何かを感じながら。


 外に出ると、近くの木の枝でソラシーがちょこんと待っていた。



 「ピピィ!あかり遅いソラ!」

 

 「ごめんごめん!でもね、可愛いレシピいっぱい見つけたんだよ!」


 笑顔で駆け寄り、春の風に制服の裾がふわりと揺れる。


 ほんの小さなすれ違い。だけどそれはこれから始まる物語の前奏曲(プレリュード)だった。







———————————————————————————————————





 翌朝。


 キッチンには、朝の光が優しく差し込んでいた。


 菜月はエプロンをきゅっと締め、手際よく卵を割ってボウルに落とす。

 その隣で、あかりも小さなエプロンを身につけ、菜月の手元を覗き込んでいた。


 「わぁ……! ママ、すっごく綺麗に割れるね!」


 「ふふっ、慣れれば簡単よ。あかりもやってみる?」


 「う、うんっ!」



 恐る恐る卵を割り、ボールへ落とすと黄身が潰れてしまったがなんとか成功。

 菜月は笑って、小さく拍手をした。


 「上手上手。じゃあ、これを混ぜてね。私はその間にウィンナーを焼いちゃうから」


 「うんっ! 任せて!」


 あかりは泡立て器を持つと、一生懸命にボウルの中を混ぜ始める。


 シャカシャカ、シャカシャカ。


 勢い余って少し飛び散るけれど、そんなの気にしない。


 良い感じに溶きほぐれたら塩コショウを少し振っておく。


 「……よーし!オムレツ、頑張って作るぞー!」



 書きだしたメモを壁に貼り、手順を確認する。


 「えーと、まずはバターを溶かして……っと」


 コンロに火を点け、セットしたフライパンに分量を量ったバターを落とし、ツツっとバターが溶けながらフライパンの上を滑ってしゅわしゅわと広がっていくのを見守る。


 全て溶けきったらすぐに卵液を静かに注いで、ゴムベラで混ぜながら火を通していく。


 ぎこちない動きながらも、頑張る娘を見守りながら、菜月もまたどこか誇らしげに微笑んでいた。


 「……あ、あれ……?」


 途中までトロトロの半熟だったのに、急に玉子が固まりはじめ、ゴムベラで混ぜるとほろほろコロコロして固まりになっていきスクランブルエッグになってしまった。


 「あらら……これはもうスクランブルエッグとして私が食べるわね。もう一回チャレンジしてみて?」


 「う……うん、ごめんねママ」


 

 フライパンからコロコロしたスクランブルエッグを皿へと移し、もう一度バターを落として溶かしていく。

 バターが溶けきったら卵液を注ぎ、今度は注意深く優しく撫でるように混ぜ、焦げ付かないように中火より弱めに設定する。


 液体っぽさがなくなり半熟にトロトロとしてきた時、今度は火からフライパンを外し、ゴムベラを外側の固まった部分を剥がすように一周させ、フライパンを傾けながら玉子を折りたたんでいく。


 「あっ!切れちゃった……わっ!?崩れ……ひぃ~!?」



 結果として、オムレツは完成した。だがあかりの思い描いていたオムレツには程遠い、いびつな形のオムレツになってしまったが。


 「うぅ~……ママみたいに作れないよ~……」


 「何でも挑戦と練習あるのみよ!……夕ご飯の時もあかりが手伝ってくれたら、お料理上手くなるかもしれないわよ?」


 「……うん、やるっ!!もっとお料理上手くなりたいもんっ!」

 

 ――そんなドタバタした朝の始まりは、何気ないけれど。

 確かに幸せな時間がゆっくりと流れていた。








 そして、時は少し進んで。


 「ふふ、みちるちゃんもアリサちゃんも美味しいって言ってくれるかな……」


 あかりは登校の道をお弁当の入った鞄をぎゅっと胸の前で抱えて歩きながら、今日の昼休みを思う。


 悪戦苦闘の末に作った自作オムレツは、形こそ不格好だったが菜月が「ちゃんと美味しそうだよ」って言ってくれていた。


 それが何だかとても嬉しくて、胸の中にあった小さな誇りが、今日のあかりの足取りを軽くしていた。


 「よーし、今日もドレミってこうっ♪」


 柔らかい日差しの中、桜並木の通りを歩いていると、見慣れた二人の姿が視界に入った。

 みちるとアリサが、ちょうど喫茶店の前から出てきたところだった。


 「おはよーっ、アリサちゃん、みちるちゃん!」


 元気いっぱいに手を振ると、みちるは少し恥ずかしそうにしながらも手を振り返し、アリサは小さく片手を上げて返してくれた。


 「……なんだか今日は、いつもよりご機嫌ね?」

 

 「え、えへへ……わかる? 実はね、今日はお弁当が楽しみなんだっ!」


 あかりは顔を赤くしながら照れ笑い。


 「朝からお弁当が楽しみって……あかりって食いしん坊なの?」


 と呆れたようにみちるはため息をついたが、その口元はわずかに緩んでいる。

 アリサは無表情のままだったが、ほんの少しだけ目が細くなったような気がした。


 三人は自然と歩調を合わせ、今日も一緒に学校へ向かう。

 あかりの心は、朝日と同じくらい明るく晴れ渡っていた。




 教室のドアを開けると、まだ全員が揃っていないせいか、あちこちで小さな笑い声が飛び交っていた。

 あかりが「おはよー!」と声をかければ、すぐに「おはよー!」と明るい声が返ってくる。


 続いて、後ろから入ってくるのはアリサ。


 「おはようございます」と淡々と口にするだけで、クラスメイトたちは自然と彼女に注目し、

「おはよー!」「咲良さん、おはよう!」と笑顔が向けられていた。


 ……そして。


 みちるが一歩、教室に足を踏み入れる。

 以前なら――小さくざわついて誰も声をかけない。

 そんな空気だったのに。


 「……あ、楠さん……お、おはよ!」

 

 「……っ。……お、おはよう……」


 恥ずかしそうに、でも勇気を出したような小さな声が、教室の隅からかけられた。

 それに対しみちるは、少し戸惑ったように目を瞬かせたが……ほんの少し口元を緩め、小さく「おはよう」と返した。


 その様子に、別の女子が「楠さん、今日の髪型かわいい……」とポソッと漏らし、また別の子が「……今度、話しかけてみようかな」なんて言葉を交わしていた。


 あかりは、そんなみちるの背中を見つめながら、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。

 やっぱり、少しずつ、みちるちゃんも変わっていくんだ……。


 「……ふふっ」


 つい笑みがこぼれ、あかりはくるっと振り返り、自分の席に着いた。

 今日の授業も、きっと楽しい一日になる――そんな予感がしていた。





———————————————————————————————————




 社会、英語と難なく授業を終え、次は移動教室の音楽の時間。


 授業間の休み時間の間に各々のタイミングで音楽室へと移動し、並べてある椅子にそれぞれ友人と固まって座っていく。


 そんな中、ピアノの心得のある女子生徒が授業が始まるまで、教室内に置かれているグランドピアノをおもむろに弾き始める。

 

 「えーはるかすごーい!」

 

 「クラシックだよね、あの有名なやつ!何だっけ?何とかの為にみたいな?」



 一部の女子グループがワイワイとピアノを囲んで盛り上がっている中、珍しくアリサがピアノへと興味を示していた。


 「……これが音楽……か」

 

 「アリサちゃんピアノ気になる??」


 じっとピアノを見つめるアリサにあかりが問いかけた。


 「……少し。映像媒体から聞くものより……良いものだ」


 アリサの淡々とした声に、あかりは目を輝かせて笑った。


 「そっか、そっか!生で聴く音って、心に響くよねっ!」


 隣でその様子を見ていたみちるは、口元を緩める。


 「……ふふ、あかりって本当に音楽が好きなのね」


 ピアノの前では女子たちが「すごーい!」と盛り上がり、男子の一部もちらちらと様子をうかがいながら笑い声をあげている。

 教室の空気は、まるで小さな音楽会のように華やいでいた。



 「……アリサちゃん、ピアノ弾いてみる?」


 あかりが何気なく問いかけると、アリサは一瞬だけ考えるように目を伏せ、それから小さく首を横に振った。


 「……やめておく。破損させる可能性がある」


 「そ、そうなんだ……破損って……!?」


 「……冗談」


 あかりは一瞬ぽかんとした後、ふふっと笑い出し、みちるもつられて笑みを漏らした。


 ──そうしているうちに、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。


 「はーい、席について!授業始めますよー!」


 わっと盛り上がった空気が一気に静まる。

 三人もそれぞれ席につき、授業が本格的に始まろうとしていた。




 「——というわけで、今聞いた教科書のこの歌をアカペラで歌っていきましょう!来週からは合唱曲をパートごとに分かれて歌っていきますので、今日のこの歌で自分がどのパートになるのか、考えてみてください!それでは皆さん起立!」


 ガタガタと音を立てて皆が立ちあがる。

 すぐに教師が指揮棒でリズムを取り、皆が同時に歌いだすがリズムも音程もバラバラで、すぐに指揮棒で指揮台を叩き歌を止める。


 「んーんー、皆さんリズムも音もバラバラ!やっぱり一人ずついってみましょう!はいそっちの端っこから順番に!」


 数フレーズだけそれぞれ一人ずつ歌っていく。

 人によって上手な人から声変わりで全く音が合わない人、ふざけて歌って怒られる人と様々だ。


 もうあと数人であかりの番が近付いてくる。緊張しながらも、自分の歌うフレーズの音を頭に浮かべ、しっかり音程通りに歌えるようにシミュレーションを続ける。


 「次は柚木さん!」

 

 「ッ!」


 ピッと指揮棒を向けられて、ついワルイゾーとフォルティシモ男爵を思い出してしまい、身構えてしまう。


 「……どうしましたか?」

 

 「あ……!ご、ごめんなさいっ!」


 誤魔化すように歌い始めると、変な力が入ってしまって声が裏返ってしまう。

 数フレーズを歌うと、教師が止める合図をしてあかりの番が終わってしまい、失敗したと項垂れる。


 「うぅ……失敗した……」


 「はい次、楠さん!」


 あかりの隣に立つみちるは緊張した面持ちだったが、一度歌いだすと正確で澄んだ歌声が音楽室に響き渡った。


 「はい!素晴らしい!さすが楠さんですね!……では次、咲良さん!」


 無事に歌い終えてほっとした表情を浮かべるみちるだったが、すぐ隣のアリサから発せられる、恐ろしいまでの棒読み染みた音痴な歌声に思わず吹き出してしまう。


 「ちょ、ちょっとストップ!咲良さん……本気で歌っていますか?」

 

 「……」


 重々しくしっかりと頷くアリサに、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる教師。


 「……そ、そうですか……。えっと……まぁ、音楽は気持ちですからね、気持ち。頑張りましょう」


 クラスのあちこちからクスクスと笑い声が漏れる。

 あかりも思わず笑いかけたものの、そっと口を押さえる。


 みちるも肩を小さく震わせながら、アリサの方をそっと見ると、当のアリサは無表情ながらもどこか気落ちしているような雰囲気を漂わせていた。


 「……音楽は難しい」

 

 「あはは……」


 アリサちゃん、ほんと、何でも完璧ってわけじゃないんだ……。

 でも、音痴なのもアリサちゃんらしくて、なんだかちょっとかわいいかも……?


 胸の中で呟きちょっぴり安心する。



 その後も順に生徒が歌っていき、全員が歌い終わると次は合唱曲の楽譜が配られた。

 男子はテノールパートを、女子はソプラノとアルトに分けられ、アリサはアルトパート、みちるとあかりはソプラノパートに割り振られた。



 「皆さん楽譜は届いていますね?まずはCDの音源でお手本を聞いて、それぞれパート事に分かれて練習を始めて下さい」



 音源を聞いた後、あかりとみちるはアリサと別れ、ソプラノパートを歌うグループへ合流し、終鈴のチャイムが鳴るまで特に何事もなく練習を続けた。


 一方で、アルトパートからは時々笑い声が漏れ、教師が見かねて指導に行く姿をあかりはチラチラと見ていた。



———————————————————————————————————



 次の4限、理科の授業が始まるまでは、ずっと後ろの席からどんよりした落ち込みオーラが漂ってきていた。

 けれど本鈴が鳴り、教師がやってくるとピタっとそのオーラが止んだ。




 「じゃあ前回のミニテスト返していくぞー。順番に取りに来るように。赤山ー」


 答案用紙が順々に返されていく。

 良い結果だった人と、そうでなかった人――表情はまるで天国と地獄のコントラスト。


 「楠ー」

 

 「はい」


 みちるは答案を受け取ると、右上の点数を確認し、そっと小さく息をつく。

 ──96点。ふっと悔しそうに微笑む。

 

 「く……あともうちょっとだったのに……」


 「柚木ー」


 「は、はいっ!」


 あかりが受け取った答案用紙の右上には、72の数字。


 「はぅ……」


 フラフラと席へ戻りつつ、心の中でブツブツ。


 まだ私基準だとセーフ……70を下回ってなければセーフだよ……!

 でも、ママに見せたら顔が曇るやつだよこれ……。



 はぁぁと肩を落とす。


 「咲良ー、満点だ」

 

 「……はい」


 アリサはすっと立ち、答案を受け取ると一瞥して、何の驚きもなく淡々と席へ戻ってきた。

その答案の右上には、もちろん100点の数字。


 「うわ、理科も満点かよ……」


 「なんかもう凄すぎて怖いんだけど……」

 

 周囲から小さなひそひそ声が漏れる。


 でも当の本人は、まったく気にする様子はない。


 当然とでも言わんばかりに無表情で答案を閉じ、机に置いた。



 さっきまで後ろから漂っていた、どんより落ち込みオーラが完全に消えているのに気づく。


 ……あ、なんか空気軽くなった……


 思わず小さく息をついて笑みを漏らすあかりだった。






 理科の授業は特に波乱もなく、淡々と進んだ。

 たまに教師のダジャレで教室内が沈黙に包まれたり、あかりがノートの余白に可愛い落書きを描いて遊んでいたりするくらいで、時間はあっという間に過ぎていく。


 チャイムが鳴り、昼休み。


 「よーし、やっとお昼だぁ~!」


 とあかりが嬉しそうに声を上げると、アリサは静かに弁当を用意して席を立ち、みちるの席へと集合する。


 今日のお弁当は特別だ。

 

 あかりは朝、菜月と一緒に作った手作りのおかずをそっと詰めたお弁当箱を開けると、胸がドキドキする。


 「ほら見て見て!今日は、私が作ったんだよ!」


 みちるとアリサに見せると、みちるは「ほんと?可愛くできてるじゃない」と微笑み、アリサは真剣な顔であかりの弁当を眺めた。



 ミックスベジタブルと鶏肉のチキンライスに、ちょっと形はいびつだが黄色と白のマーブルが可愛いオムレツが乗り、別添えのミニパックのケチャップでぱぱっと猫の絵を描いていく。

 

 残ったスペースにいろどりにブロッコリーとカニを模した(はずの)ウィンナー、ミニトマトを入れたあかり渾身のお弁当だ。


 「みちるちゃんとアリサちゃんは……今日はどんなお弁当なの?」


 「今日はサンドイッチ、おばあ様と私とアリサで作ったの」


 昨日の和風の弁当箱とは違う、バスケット型のお弁当箱の蓋を開けると綺麗に切り揃えられたサンドイッチがぎっちりと並べられていた。


 「わぁ……!!凄い、ピクニックとかで食べる感じ……!!」


 「……今日は外で食べて……みる?」


 あかりのピクニックの言葉で思いついたのか、みちるが頬を赤らめながらも提案をしてくれる。


 「いいね!!いこういこうっ!!」


 一度開いたお弁当箱の蓋をもう一度閉め直し、席を立った。





 中庭のベンチに三人並んで座り、改めてお弁当箱を広げると、春風がふわりと髪を揺らした。


 「わぁ……やっぱり外で食べると気持ちいいね!」


 あかりが嬉しそうに手を合わせる。


 「……ええ、悪くないわね」


 みちるは照れくさそうに頬を赤らめ、アリサは静かに頷いて座っている。


 周りでは同じように外でお昼を取る生徒たちの笑い声が遠くから聞こえてくるが、この小さな輪の中は穏やかで特別な空間だった。


 

 「ねぇ、みちるちゃん、アリサちゃん、よかったら私のオムライス食べてみない?」


 「え、いいの……?じゃあ……」


 「……いただく」


 それぞれ箸を伸ばし、あかりの手作りおかずを口に運ぶ。


 「わ、美味しい!」


 「……悪くない」


 「……ほんと?良かったぁ~!!」


 心がじんわり温まるような時間。

 照れながら視線を逸らしていると、ふとあかりの視線が中庭の片隅に向かう。


 ベンチの影、静かに一人座って本を読んでいる女子生徒がいた。

 落ち着いた雰囲気、赤みがかった明るい茶色の髪、知的な横顔。



 あれ……あの子、この前図書館にいた……?



 ほんの一瞬、少女──杏堂あおいが視線を上げ、あかりと目が合う。

 でもすぐに視線を本に戻し、またページをめくり始めた。


 「……えへへ、なんだか気になるなぁ」


 あかりは小さく呟き、笑みを浮かべながらもう一度お弁当へと視線を戻す。


 「ほ、ほら!あかりもサンドイッチ……食べてみてよ」


 「……私のもある」

 

 「えっ!いいの!?……じゃあ~」


 みちるとアリサから差し出されるお弁当箱に、どれを食べようか悩むも、みちるの方からはタマゴサンドを、アリサの方からはブルーベリージャムサンドを手に取った。


 「いただきまーす!……うんっ!このタマゴサンド味付け完璧~!!これ、玉子とマヨネーズと……なんだろ?」


 「……隠し味にハニーマスタードを混ぜているの。仄かに甘くてピリリと刺激もあって美味しいのよ」


 「ほぇ~……さっすがみちるちゃん!とっても美味しいよっ!」


 満面の笑みを見せるあかりに釣られたのか、みちるもふわっと笑顔を見せてくれた。

 その笑顔があまりに綺麗で、ついあかりのサンドイッチを食べる手が止まってしまう。


 

 「……あかり、こっちも食べて」


 「むぐっ!……うんっ!甘酸っぱくておいしっ!これも何か入っていたり?」


 「……ジャムを塗っただけ」


 「あっ……凄い綺麗に塗れてるよね!私が塗ると端っことか塗れてなかったりはみ出しちゃったりするし!」



 春風がそっと、ページをめくる音とあかり達の笑い声を空へと運んでいった。






———————————————————————————————————




 昼休みの後半。

 中庭のベンチで楽しんだお弁当タイムが終わり、あかりはふと思い立ったように立ち上がった。


 「ねぇ、みちるちゃん、アリサちゃん、私ちょっと図書室寄ってくるね!」


 「……図書室?」


 「えへへ……明日のお弁当、もうちょっと工夫したいなって思って!レシピ本、もし図書室にもあったら探してみようかなって!」


 あかりはほわっと頬を赤らめ、照れ笑いを浮かべる。

 アリサは無言のまま、ただ小さく頷き、みちるは、あかりらしいねと優しい笑みを返した。


「すぐ戻ってくるから、先に教室戻ってていいよ!」


 そう言い残し、あかりはぴょんっと軽やかに中庭を後にする。

 小さな背中が春風に押されるように、校舎へと駆けていった。





 昼休みの終わりが近づき、廊下はもう静まり返りつつある。

 あかりは図書室の前で一度深呼吸し、そっと引き戸を開けた。


 すぅ、と空気が変わる。

 昼休みのざわめきから切り離されたような、静かで凛とした空間。

 窓から差し込む柔らかな光が、机と机の間に伸びる本棚を照らしている。



 「えっと……料理コーナーは……」

 

 あかりは靴音を立てないよう、そろりそろりと奥へ進んでいく。

 


 ──ドンッ!


 「わわっ!? きゃっ……!」


 不意に何かとぶつかり、あかりが手にしていたお弁当箱とメモ帳が床に落ちた。


 バサバサッと音を立てて何冊もの本が宙を舞い、舞い上がった埃が窓から差し込む光を浴びてきらきらと反射する。

 まるで──星が瞬いているみたいだった。


 「ご、ごめんなさいっ……!」


 慌てて顔を上げたあかりの目に映ったのは、中庭で見たまだ名も知らぬ女子生徒。


 赤みがかった明るい茶色の髪、長めのボブ、白い指先が素早く床の本を拾い上げる。

 横顔は凛としていて、瞳はまっすぐ、本の背表紙を見つめている。


挿絵(By みてみん)


 あかりは息を呑んだ。

 ──この子、さっきの!


 「……大丈夫?」

 

 落ち着いた、少し低めの声が耳に届いた。

 彼女はゆっくりと顔を向け、柔らかく微笑む。


 「え、あ……は、はいっ!」


 あかりは慌てて頭を下げ、落としたメモ帳とお弁当箱を拾い上げる。

 指がちょっと震える。胸の奥が、ドキドキとうるさい。


 「気をつけてね」


 そう言って、彼女はすっと立ち上がり、本を胸に抱えて図書室の奥へと歩いていった。

 後ろ姿は背筋が伸びていて、静かで、けれどどこか孤独な影をまとっているように見えた。


 「……あ……あの……!」


 思わず声をかけかけたが、彼女はもう振り向かなかった。

 あかりは胸の前でそっと両手をぎゅっと握り、ゆっくり息を吐いた。


 「……また、来てみようかな……図書室」


 誰にも聞こえない声で、そっと呟く。

 頬が少し熱くなって、自然と笑顔がこぼれた。




チラチラとあかりの視界に映っていた謎の同級生。本が好きそうなこの子は一体……?


次回もお楽しみに~!


追記 杏堂あおいのイラスト追加しました

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