39話 楓ちゃんとデート その2
書いてて楓ちゃんが好きになりそうです。
レストランで昼食を摂ったあと。
俺と楓ちゃんは再びショッピングモール内を巡っていた。
あるときは四階の楽器屋を、またあるときはメガネ屋を。
楽しい時間とはあっさり過ぎていく。これは誰もが共通して感じているものだろう。
俺たちも今、それを存分に感じていた。
昼食を食べ終えたのが十二時半。店巡りを再開したのがそれから十分後のこと。
そして今の時刻は、午後三時過ぎ。
もう三時間近くも過ぎていたのだ。
本当に、楽しい時間とはあっという間に過ぎていく。
三時。おやつ時に俺たちが来ていたのは、ショッピングモールを出て徒歩十分のところにある喫茶店だった。
これも同じく全国規模の──うん、もう説明しない。
俺たちは窓側の席に着くと、それぞれ注文をする。
俺はチョコケーキとブラックコーヒー。楓ちゃんは蜂蜜とホイップたっぷりのパンケーキ(四枚重ね)と紅茶を頼んだ。
「ふふっ、楽しみですね」
「あぁ、そうだな」
楓ちゃんは笑顔でパンケーキを待つ。
どうしてそんなに楽しみなんだろう。そんな疑問を楓ちゃんは察したのか、「クラスメイトがすごい美味しいって言ってたんです」と説明してくれた。
なるほど、なんとも女子高生らしい理由だ。
それから雑談をしていると、店員さんがチョコケーキとパンケーキ、それと飲み物を持ってきた。
ふむ、見た目は悪くない。と言うか、めっちゃ綺麗だ。これは家じゃなかなかつくれないな。
店員さんはテーブルに全ておき終えると、「ごゆっくり」と言い店の奥に消えていった。
「それじゃあ食べましょう! 葉雪にぃさんっ」
楓ちゃんはフォークとナイフを手に掴み、目を輝かせる。
「そうだね、食べようか」
俺は微笑を浮かべ、フォークを手に取る。
フォークで一口サイズに切り、そして一口。
……うん、旨い。甘さが控えめでとても食べやすい。これは俺も負けたなぁ。
そう感想を抱きながらも、俺はフォークを進める。
楓ちゃんなんて、すごい幸せそうにパンケーキを食べている。
と言うか、もう一枚も食べたのか。早いな。
パンケーキの大きさは、他の喫茶店のものよりも少し大きく、厚さは二倍近い。
つまり、一枚だけでも結構量があるのだ。
それをこんな短時間に食べるなんて……
俺は昔耳にした『スイーツは別腹』という言葉を思い出し、苦笑した。
「あっ、楓ちゃん、頬っぺたにクリーム付いてるよ」
俺はラブコメの定番通り、指でそのクリームを取り、ぱくりと口に入れた。
うん、甘い。
「は、葉雪にぃさんんんんっ!?」
楓ちゃんは顔を真っ赤に染め、あたふたとしだした。
「な、なにをっ……!?」
「いや、ほら、よくラノベとかである定番のシーンだろ?」
「ら、ラノベ? あの、葉雪にぃさんの部屋の本棚に入ってるものですか?」
あぁ、楓ちゃんはラノベを読んだことないのか。
「そうだよ。もしよかったら、何冊か貸そうか?」
「いいんですか?」
「勿論。茜や光月、朝日とかよく借りに来てるし」
茜たちの名前を出すと、楓ちゃんは急に膨れっ面になる。
あ、あれー? 名前出すだけでもダメなの?
「葉雪にぃさん、いいですか? 葉雪にぃさんは今私とデートしてるんです。だから私だけを見て、私のことだけを考えてください」
「名前出すのもダメ?」
「ダメです」
楓ちゃんはキッパリと断言する。
いつもの楓ちゃんからは考えられない行動だ。
やっぱり、相当溜まってたのかな。
俺は一度フォークを置き、楓ちゃんの頭に手を伸ばす。
「分かったよ。名前も出さない。今日はずっと、楓ちゃんのことだけを考えるよ」
そう言うと、楓ちゃんは再び顔を赤く染め、「……葉雪にぃさんは卑怯です」と言った。
なんで?
それから俺たちは、昼食のときと同じように、互い『あーん』をしながらスイーツを食べた。
また食べに来たいな。そう思える美味しさだったことを、ここに述べておく。
◇妹◇
喫茶店を出て、俺たちは駅に向かった。
時刻は三時四十分。まだ帰るような時間ではない。
楓ちゃんは早足気味に歩き、俺の手を引っ張る。
さて、どこに連れていってくれるんだろうか。
俺は期待を表すように、楓ちゃんの手を握り返した。
俺たちが住んでいる方向とは反対の電車に乗り、揺られること十分。
着いたのは、先の場所よりも緑の多い場所だった。
「こっちです」
駅を出ると、再び手を繋ぎ、楓ちゃんは進み始めた。
俺は楓ちゃんに引っ張られるなか、ふと高い場所にある公園を見付けた。
へぇ、あんなとこに公園があるのか。もし楓ちゃんが気付いてなかったら、帰りにでも教えて行こう。
楓ちゃんに連れてこられたのは、少し古風な雰囲気を漂わせているゲーセンだった。
外見は少し古臭く、だが、内装はしっかりとしている。
俺は外見に反したゲームの充実さに、驚きを隠せなかった。
特に、なんと言っても十年以上前のゲームが置いてあったことには、声を上げて驚いた。
いやぁ、懐かしい物が見れた。
「それにしても、どうして楓ちゃんはここを選んだんだ? 楓ちゃんはゲームとか、あまり興味なさそうだけど」
「興味ないわけではないですよ。ただ、口にするとお父様が色々買い占めそうで……」
「た、確かに……」
厳人さんはちょっと……結構な親バカなのだ。お小遣いは毎月十桁程の額を。それに、体育祭のためだけに会社まるまる休んだり。ホント、うちの親よりも親バカだ。しかも、金がある分余計に限度がなくなっている。
はぁ、厳人さんって仕事してるときは良い人なんだけどなぁ。やっぱり残念なところあるんだよなぁ。
と思っていると、楓ちゃんがジト目で俺を睨んでいた。
え? ……もしかして、男性もダメなの?
「葉雪にぃさん、何度も言いますけど──」
「分かった、分かったから笑顔!」
俺は楓ちゃんの言葉を遮り、わしゃわしゃと頭を撫でた。
「あっ、葉雪、にぃさん……っ」
楓ちゃんは膨れっ面を綻ばせ、そして可愛らしい笑みを浮かべた。
それから俺たちは、色々なゲームをして遊んだ。
UFOキャッチャーでぬいぐるみを取ってあげたり、プリクラを撮ったり、カーゲームで対戦したり。
とても楽しい時間を過ごせた。
◇妹◇
色々なゲームで遊び尽くし、ゲーセンを出たのは五時手前だった。
空は微かに茜色に染まり、俺たちをも茜色に染めた。
そろそろ帰らないと、夕飯に間に合うか心配だな。
と思っていても、俺たちが向かっているのは駅ではない。
俺と楓ちゃんは、急な階段や坂道を登っていた。
俺は途中で気付く。
あぁ、なるほど。楓ちゃんは最初からここに来る予定だったんだ。
多分、ショッピングモールも喫茶店もゲーセンも、全部は時間稼ぎのようなモノだったのだろう。
いや、多分それらも目的ではあった。だが、一番の目的はコレだったんだ。
登ること十分。
楓ちゃんに連れてこられたのは、俺が駅を出たところで見付けた、あの公園だった。
楓ちゃんは公園にある展望台に立つと、くるりと振り向いた。
「どうですか、葉雪にぃさん」
「……すごく、綺麗だ」
そう答えると、楓ちゃんは静かに微笑む。
「喜んでもらえたなら、嬉しいです」
楓ちゃんは展望台から、茜色の空を、そして眼下に広がる街並みを一望する。
「綺麗、ですね」
ぽつりと、楓ちゃんが呟いた。
「葉雪にぃさん、今日の私とのデート、どうでしたか? ……楽しかったですか?」
「あぁ、すっごい楽しかったよ。楓ちゃんの新しい一面を見れたし、楓ちゃんの可愛い姿もたくさん見れたから」
そう答えると、楓ちゃんは頬を真っ赤に染める。
それは多分、夕焼けの色じゃない。普通に照れているんだろう。
楓ちゃんは自分の頬をペタペタと叩き、静かに息を吐く。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「葉雪にぃさん、改めて言いますね。……私は葉雪にぃさんのことが好きです、大好きです。あのとき初めて見たときから……ずっと」
はっきりとした告白。それも〝愛の告白〟に、俺の顔は多分赤くなっている。
「俺も、楓ちゃんのこと、好きだよ。大好きだ」
俺は楓ちゃんの告白に応じるようにそう言い、そしてポケットからプレゼントを取り出した。
「これ、ショッピングモールで買ったんだけど、良ければ着けてくれ」
そう言い俺が渡したのは、銀色のチェーンと中央に翡翠の宝石が付けられたネックレスだ。
勿論、宝石は本物じゃない。だって、本物のやつは金額が馬鹿げてるんだもん。
楓ちゃんはネックレスを手に取ると、「着けてくれますか?」と聞いてくる。
「おう、勿論」
俺は楓ちゃんからネックレスを受け取ると、首に手を回し、ネックレスを着けた。
「どう、ですか?」
「すごい似合ってるよ。可愛い」
「ふふっ、ありがとうございます」
初々しいカップルのような空間。とても心が落ち着く。
「それじゃ、帰ろうか」
「はい」
俺と楓ちゃんは恋人繋ぎをして、公園を後にした。
「……葉雪にぃさんの言葉、私信じますからね」
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