33話 新たな問題?
新しい女の子が登場しますよ。
振り返り休日である月曜日を越え、火曜日。
重たい足を動かし、俺たちは学校へ向かった。
階段で茜と別れると、俺は嫌々教室に向かう。
どうしてここまで気が重いのかと言うと、体育祭の件があったからだ。
そう、あの〝借りモノ競争〟での出来事だ。
茜や司音ちゃん、そして楓ちゃんや蓮唯ちゃんからも公開告白を受けた俺。
男子は勿論、女子からも質問責めにされたのだ。まぁ全部無視したけど。
そんなこんなで、今教室には行きたくない。
だって、どうせまた質問責めにされるから。
と、そうこうしてる間に、教室の前まで来てしまった。
……はぁ、仕方ない。頑張るか。
俺は意を決して、扉を勢いよく開けた。
「おはよ──」
俺の挨拶を遮るように、クラスメイトたちが口々に喋りだす。
「おい、体育祭のことについて聞かせろや!」
「ねぇ天ノ川学園の二人とはどういう関係なの?」
「てめぇ葉雪、俺たちを裏切ったのかっ!」
「リア充爆発しろ!」
俺は手で耳を覆い、顔をしかめる。
やっぱりだよ、すっげぇうるさい。
俺はなんとかクラスメイトたちの間を通り、自分の席に着いた。
だが、数人のクラスメイトが席を囲うように寄ってくる。
「なぁ葉雪、どうなんだよ」
「高木くん、もしかしてあの中の誰かと付き合ってるの?」
「俺にも紹介してくれよぉおおおっ(号泣)」
「まじリア充爆発しろ!」
等々。
俺はふと、いつもなら来る筈の二人が来ないことに疑問を抱き、教室を見渡す。
「あぁ、翼と奏さんなら、飛矢佐先生に呼ばれて職員室に行ってるぞ?」
「ん、あぁ、そうなのか」
かすみんが二人を呼ぶ、か。意外なこともあるもんだな。
と思っていると、再び質問責めが始まる。
耐えかねた俺は席を立ち、教室を出た。
それから俺が教室に戻ったのは、HRの始まる一分前だった。
◇妹◇
昼休み。
俺はかすみんに呼ばれ、一人でいつものところへ向かっていた。
いつもなら茜も一緒に呼ばれる筈なんだが、今日は何故か俺だけだった。
こういうときは、絶対何かある。面倒事か何かが。
教室に行くときよりかはマシだが、それでも足取りは重たかった。
『旧生徒指導室』に着き、俺は一つ深呼吸をしてノックする。
中から「入れ」とかすみんの声が聞こえ、俺はゆっくりと扉を開ける。
「かすみん、用件はなん──」
そこまで言い、俺は口を閉ざす。
何故か、見知らぬ女生徒がかすみんと対面して座っていた。
……あー、なんだろう。この子に関することなのかなぁ。
俺は「ふぅ」と息を吐くと、改めてかすみんに訊ねる。
「彼女は?」
「今回のクライアントだ」
なんかゲームみたいな言い方だな。
「……そこは突っ込みを入れるところだろ」
かすみんがジト目で睨んでくる。
あぁ、そうだったの? まぁいっか。
「それで、彼女は?」
「……はぁ。彼女はまぁ、あれだ、簡単に言えばいじめの被害者だよ」
「は?」
「せせせっ、先生っ!?」
女生徒は慌てて体を乗り出し、かすみんの口を塞ごうとする。
が、かすみんは椅子を引き、女生徒から距離を取った。
「大丈夫だ、こいつは私が絶対の信頼を置いてるやつだ。たがら大丈夫」
かすみんがそう言うと、女生徒は椅子に座り、そして静かにこくんと頷く。
「それで、今いじめとか聞こえたんだけど」
俺は確認するように、かすみんに訊ねる。
「あぁ、そうだ。彼女はいじめを受けている」
「そ、そうなのか?」
俺は彼女に訊ねる。
「……」
何も口にしないが、彼女はコクリと頷く。
「……そうか。それで、かすみんは俺に何をしてほしいんだ?」
精神面でのケアとかだったら、まだできるが……まさかとは思うが、いじめの解決とか言われたら、流石に応えづらい。
「あー、それは彼女に聞いてくれ」
「は?」
「私は一応カウンセラーでもあるが、経験はないんだ。葉雪なら、この前の件があるし、そもそも妹たちのお悩み相談くらいはしてるんだろ? たがら適任だと思って呼んだ」
な、なるほど……?
「そんじゃ、私は隣で聞いとくから、後は任せた」
そう言うと、かすみんは俺に椅子を譲り、隣の椅子へ腰掛けた。
俺は椅子に座り、彼女の目を見る。
紫掛かった瞳には、涙が浮かんでいた。
「えっと、まず名前を教えてもらえないかな? 俺は高木葉雪だ」
「……私はっ、黒藤……夜花、です」
「ありがとう。えっと、それじゃあ黒藤さん、辛いと思うけど、いじめのことについて教えてもらえるかな?」
「はい……。いじめが始まったのは、四月の終わり近くで、最初はデブって言われるだけだったんです……」
デブ、かぁ。女の子が言われて一番嫌なやつだよな。俺男だけど。
俺は改めて、黒藤さんを観察し、違和感を覚える。
「黒藤さん、一回立ってもらえるかな」
黒藤さんはこくんと一度頷き、ゆっくりと立ち上がった。
制服はだぼだぼで、確かに太っているようなイメージが付く。
ただ、何故か胸だけはぴったりと張っている。
あぁ、もしかして。
俺はあることに気付き、黒藤さんに訊ねる。
「黒藤さん、どうして大きいサイズの制服を着てるんだ?」
「私、胸が大きくて……このサイズじゃないとキツいんです。それで……」
椅子に座り、黒藤さんは俯きながらそう答える。
なるほど、やっぱりか。だから大きいサイズを着て、それでクラスメイトたちは太っているイメージを抱いたのか。
「……あぁ、ごめん、デリカシーがないこと聞いて」
「い、いえ、大丈夫、です……」
いや、声音がもう大丈夫じゃないでしょ。
と突っ込みたい衝動を抑え、次の質問をする。
「それで、他にはどんなことを言われたんだ?」
「……陰キャとか、根暗とか……ブスとか」
お、おう……どれも結構酷いやつじゃないか。
「その、ずっと我慢してきたんですけど、もう辛くて……っ」
だんだん、黒藤さんの声が震えてくる。
こういうとき、真っ先にすることは決まっている。
俺は立ち上がり、黒藤さんの隣に移動する。
そして、
「今まで、よく頑張ったね」
そう言いながら、黒藤さんの頭をポンポンと撫でた。
「あり、がとう……ございます……っ」
黒藤さんは我慢の糸が切れたのか、静かに嗚咽を漏らした。
俺は黒藤さんが泣き終わるまで、優しく抱き締め、頭を撫で続けた。
「あ、あのっ! ごめんなさい……」
昼休み終了間際。
泣き終わった黒藤さんは、ペコリと頭を下げる。
「あと、ありがとうございました」
黒藤さんは、控えめに微笑んだ。
なんだ、すごい可愛いじゃん。
俺は釣られて、笑みを浮かべる。
「えっ、あの、どうかしましたか……?」
黒藤さんは、おどおどしながら訊ねてくる。
「いや、黒藤さんが可愛いなって」
「…………えぇっ!?」
黒藤さんは、突然素っ頓狂な声を上げる。
「わ、私なんて、可愛くありません。……ブスですし」
「そんなことないよ。黒藤さんは可愛い。俺の妹たちに負けないくらいね。きっと、黒藤さんのクラスメイトは見る目がないんだよ」
そう言うと、黒藤さんは顔を真っ赤に染め、俯きながら「……ありがとうございます」と言った。
「……この天然タラシが」
と、何故か突然、かすみんから心外な言葉を掛けられる。
「俺はタラシじゃねぇよ」
「うるさいぞ。可愛い子を片っ端から口説きやがって」
「えっ、私口説かれてたんですか? ……って、私は可愛くないですっ!」
「いや、俺は口説いてないから!」
なんて会話をしていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「もう終わりか。葉雪、放課後もここな」
「おう、分かった。黒藤さんは教室に戻るの?」
流石にいじめを受けている子を、クラスに返すのは心配だ。
「いえ、私は体調が悪いってことにしてるので、保健室に行きます」
「そっか。それじゃあ保健室まで送るよ」
「ありがとうございます」
黒藤さんの微笑みは、破壊力抜群だった。
◇妹◇
放課後。
俺は茜にメールで『かすみんから頼まれ事を受けた。今日は一緒に帰れない』と送り、教室を出た。
すぐに茜から『帰ったら甘やかしてくださいね』と返信が来た。
俺は『分かった』と返し、少し急ぎ足で『旧生徒指導室』へ向かった。
既にかすみんと黒藤さんは来ており、俺が遅れたような感じになっていた。
「ごめん、遅れた」
「いや、大丈夫だろ。帰りのHR終わってからまだ三分くらいしか経ってないし」
「だ、大丈夫です」
一度泣いて落ち着いたのか、昼休みよりも黒藤さんの声はハッキリとしている。
「それじゃあ、これからどうするかなんだけど……、黒藤さんはどうしたい?」
そう訊ねると、黒藤さんは少し俯き、答えを出す。
「いじめを、終わらせたいです」
黒藤さんは弱々しく、だが強くハッキリと答える。
正直、いじめを終わらせるのは大変だけど……黒藤さんが覚悟を決めてるんだ。なら俺は、
「分かった。全力を尽くすよ」
「……ありがとうございますっ」
黒藤さんは、勢いよく頭を下げ──ゴンッと机に頭をぶつけた。
「はうっ!?」
俺はつい、笑ってしまった。
「……笑うなんて、酷いです……先輩」
「いやぁ、ごめんごめん。黒藤さんって結構ドジっ子なんだね」
「うぅっ……」
黒藤さんは俯き、プルプルと震え出す。
「ああっ、ごめん。黒藤さんが可愛くて、つい」
「ついってなんですかついって! はっ、だから私は可愛くないです!」
やっぱり、黒藤さんは可愛いし面白い。
「……葉雪、刺されないよう気を付けろよ」
「なにその助言、すごい怖いんだけど!」
特に、茜とか刺してきそうで!
「……ふふっ」
「く、黒藤さん?」
「ごめんなさい。でも、先輩が面白くて」
「……そりゃ良かったよ」
だんだん、黒藤さんに笑みが増えてくる。これだけでも茶番をした甲斐があった。
……茜の件は茶番とは思えない程リアリティあったけど。
「それじゃあ、まずは──」
黒藤さんはゴクリと息を呑む。
「おしゃれ、しようか!」
この作品を読んで頂きありがとうございます!
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この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を




