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32話 妹たちと寝よっ

 体育祭の翌日。日曜日。

 俺たちは体育祭の疲れを癒すために──寝ていた。

 

「……すぅ」

「おい(あかね)、できれば俺の腹を枕にするのやめてくんない? 腕枕ならするから」

「「あかねぇだけずるいー」」

「わっ、私もお願いしたいです」

「私もー!」

「……私も、お願いします」

 

 そう、俺たちは疲れを癒すために寝ているのだ。……全員で。

 一つ言わせてほしい、光月(みつき)朝日(あさひ)、それと(すず)ちゃん、君たちは体育祭に出てないよね? まぁいいけどさ。

 ついでに場所はと言えばリビング。

 ソファー前にシーツを持ってきて、皆でその上に寝ている。

 まだ五月だが、流石にこの人数が集まると、すっごい熱い。

 そのため、冷房を掛けているのだが……先程のことで皆がより一層密着してくるからあまり効果がない。

 それに、ここまで密着すれば、手や腕に誰かのナニかが当たるし、汗に混じって女の子特有の甘い匂いも漂ってくる。

 

 正直、めっちゃドキドキする。

 いやだってね? ここにいる皆は超が付く程の美少女なんだぜ? 俺だって思春期の男子ですから、いくら妹と言えどドキドキするに決まってる。

 と、そうしている間にも、皆体を密着させてくる。誰のか分かんないけど、俺の左手に当たってるんだよ、柔らかいのが。

 いい加減熱くなってきたので、俺はさっと腕を引いた。


「あんっ」

 途端、誰かが喘ぎ声を上げ──いや、俺は何も聞いてない。

 何とか冷静さを取り戻すと、気付けばその間に再び距離を詰められていた。

 俺は立ち上がり実妹&義妹(いもうとたち)から離れる。

 

「ぶぅ~、なんで逃げるんですか、お兄ちゃん」

「そ、そうですよ。どうしてですか、葉雪(はゆき)にぃさん」

 茜が不満気に声を上げ、(かえで)ちゃんがそれに同調する。

 いや、他の実妹&義妹(いもうとたち)もうんうんと頷いている。

 どうして逃げるのか。そりゃだって、

「暑苦しいわ」

「えぇ? そうですか?」

「あぁ、すっげぇ熱いわ。最近気温が高くなってるのに、それに加えこの人数で密着すりゃより熱くなるだろ」

「大丈夫ですよお兄ちゃん、その熱さは……私たちの愛情の熱さですから!」

 とドヤ顔で言い放つ茜。

 上手いこと言ったとか思ってるんだろうなぁ。……はぁ。

 俺は頭に手を当て、息を吐く。

 なんだか、最近茜のバカさ加減が増してる気がする。

 

 それから俺たちは、一定の距離を保って寛いでいた。

 俺はふと、壁に掛けてある時計に目を向ける。

 針は十一時を指していた。

 ふむ、そろそろお昼の時間だな。

 俺は体を起こし、立ち上がる。


「昼飯作るけど、何か食べたい物あるか?」

 そう尋ねると、真っ先に茜が手を上げる。

「お兄ちゃんが食べたいです!」

「バカ」(ぺしっ)

「いやんっ♪」

 俺を食べるって、もうそれ完全に性的な意味だろ。怖いわ。

「……冷やし中華が食べたいです」

 凉ちゃんは手を上げ、要望を口にする。

 最近、凉ちゃん積極的に話すようになったよな。初めて会ったときはもっと辿々(たどたど)しかったのに。

 凉ちゃんの成長具合に頬を緩ませながら、俺は「分かった」と返す。

「他に注文はないな?」

 皆にそう尋ねると、「はいっ」と蓮唯(れんゆい)ちゃんが元気良く手を上げる。

「唐揚げ食べたーい!」

「分かった、冷やし中華と唐揚げだな」

 俺は昼飯のメニューを決めると、台所に向かった。

「あっ、私も手伝いますっ」

「ありがと」

 

 それから俺と楓ちゃんは協力して昼飯を作り、皆で美味しく食べたとさ。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 昼飯を食べてから一時間。時刻は一時過ぎ。

 俺たちは午前同様、ゆったりとしていた。

 

「茜、何してるんだ?」

 ふと、茜の持っているスマホに目が行く。

 茜は普段ゲームとかしないから、多分誰かに連絡しているのだろう。

「んー、(かすみ)さんと司音(しのん)ちゃんたちに連絡してるんですよー」

 茜はスマホから目を離さずに答える。

「──お兄ちゃんっ」

 連絡が終わったのか、茜は小テーブルにスマホを置き、こちらを向く。

 

「ん? どうかしたか?」

「今から霞さんたちが家に遊びに来ますから」

「は?」

 俺は突然の茜の言葉に、()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

 もしかして、今連絡してたのって、うちに呼ぶためだったのか?

「霞さんが司音ちゃんたちを車に乗せてから来るって」

 ……もう来るのは確定なのか。

 

「それで、今日は何をするんだ?」

 甦るのは少し前の土曜日。茜の発案した『ドキッ♪ イチャラブ妹ルーレット』を皆でやった記憶だ。

「あぁ、大丈夫ですよ。当分はあのゲームはしませんから」

 さらっと笑顔で心を読んでくる茜。

 いや、まじで茜って何なんだよ。なに? 読心術までできるの? ちょっとやり方教えて?

 ……少し取り乱してしまった。

 俺は深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 

「で、何をするんだ?」

「そうですねぇ、皆でゴロゴロしてもいいですけど、やっぱり揃うんだったらナニかしたいですねぇ」

 ……なにか含みを感じたが、ここはスルーしよう。

 茜は顎に手を当て「うーん」と唸りなり、悩む素振りをする。

 少しして何か思い付いたのか、目を輝かせぽんっと手を叩く。


「ツイスターゲームをしましょう!」

 

 

   ◇妹◇

 

 

 茜の宣言から二十分。予定通りかすみんの車で三人がやって来た。

 かすみんはいつも通り? の黒を基調としたゴスロリ。司音ちゃんは黄色調のシャツにホットパンツと、やはりラフな服装。そして魅音(みのん)ちゃんは藍色のキャミソールに、その上からピンク調のカーディガンを羽織り、下はチェック模様のミニスカートだ。


「なぁ、かすみんはゴスロリ好きなのか?」

 俺はふと疑問に抱いていたことを口にする。

「ん、まぁ好きって言ったら好きだな。……着始めた理由は、お前が昔『可愛い』って言ったからだけどな」

「そ、そうなのか」

 つまり、今でもかすみんがゴスロリを着ているのは、俺が褒めたから……

 

「お兄ちゃん先輩、私には何もなしですか?」

「露出多いね」

「それだけですかっ!?」

 ガーン、と効果音が聞こえてきそうなくらいに司音ちゃんは口を開ける。

 俺はそんな司音ちゃんを無視して、魅音ちゃんに目を向ける。一瞬目が合うと、魅音ちゃんは頬を朱色に染め、顔を逸らしてしまった。


「……可愛い」

「えぇっ!?」

 おっと、つい本音が漏れてしまった。まぁ、狼狽える魅音ちゃんが見れたから良し。

「可愛いなぁ」

 俺はそのまま、魅音ちゃんの頭をゆっくりと撫でる。

「うぅーっ!」

 魅音ちゃんは顔を真っ赤に染める。だが、嬉しそうに頬は綻んでいた。

 

「葉雪、いちゃいちゃするなら家の中でやれ」

 かすみんはそう言い、唇を尖らせる。

 もしかして妬いてるのか? かすみんも子供らしいところあるなぁ。

 と笑っていると、かすみんがキッと睨んできた。

 ……そう言えば、かすみんも心読んでくるんだよな。

「よし、じゃあ行こっか」

 俺は魅音ちゃんの手を掴み、家に戻った。

 

 あっ、そう言えば、皆ラフな部屋着だったけど、着替えてるのかな。

 ふと、そんな疑問が頭を過った。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 リビングに戻ると、皆は服を着替えて待っていた。

 皆可愛いのだが、一人だけおかしいやつがいる。

「茜、どうしてお前は首輪を着けているんだ?」

 そう、何故か茜は俺が前買った首輪を着けているのだ。……ホントになんで?

「それは、お兄ちゃんのペットって感じがして興奮するからです」

 茜は貧しい胸を張って、ドヤ顔を作る。

「……さて、始めるか」

「ちょっとっ、とうして突っ込んでくれないんですかお兄ちゃんっ!」

「いやだって、めんどくさいじゃん」

「そんなっ……!」

 茜は床に崩れ落ちる。

 俺は茜の前まで行き、しゃがんで茜の頭を撫でる。

「ほら、さっさとやるぞ?」

 そう言うと、茜は目を輝かせ──

 

「ついに私とヤる気になったんですねっ!」

 

 ……罰として、茜には十分間リビングの隅で正座させた。

 

 

 茜の罰が終わり、ついに始まったツイスターゲーム。

 ルールを簡単に説明すると、ルーレットで色とそれを押さえる手(または足)を決めるというゲームだ。

 一見簡単そうに思えるが、これは安直に決めてしまうと先が大変になるのだ。

 まぁ、俺はやったことないけどな。

 

「で? この人数がいるんだし、早く順番を決めないと時間なくなるぞ?」

 そう言うと、茜は「大丈夫です」と答える。

「勝負するのは私とお兄ちゃんだけですから」

「……なんでだ?」

「ふっふっふ、これは言わば代表戦なのですよ。兄対妹の」

「いや、こっちが一人の時点で代表じゃないだろ」

「……それで、お兄ちゃんが勝てば、私たちに何でも一つ命令ができます。逆に、私が勝つと、私たちはお兄ちゃんに何でも一つ命令を聞いてもらいます」

 こいつ、無理矢理話を変えやがった。しかも、


「……俺が不利な気がするんだが?」

「気のせいです」

「いや、でもな──」

「気のせいです」

 どうやら、茜は気のせいで通したいらしい。

 まぁいいけどさ。

「……よし、それじゃあやるか」

「はい。絶対私が勝ちますからね♪」

 茜はニヤリと妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

   ◇妹◇

 

 

 ツイスターゲームが始まって一時間。

 結果から言えば、俺は負けた。

 省きすぎだって? いや、まぁ……気にするな。

 ついでに、俺が負けた理由は、他の妹たちからの妨害だ。

 俺は姿勢を維持したまま茜に訴え掛けたのだが、茜は「そんなルールはありませんよ」と笑い一蹴した。

 妹たちの妨害は、(くすぐ)り、耳元での囁き、思いっきり体重を掛けてきたり、キスまでしてきた。

 そんなことをされたら、もう勝ち目はないだろう。

 

 そんでもって命令なのだが、一応「エロいことは無しな」と釘を刺した結果、夏休み最初の一週間を皆とデートする、ということになった。

 普通そうに思えるが、茜のことだ、絶対何か企んでるだろう。

 ……はぁ、気が重くなるぜ。

 

「お兄ちゃん、どうしたんですか?」

 茜は俺の腹を枕にしながら、可愛らしい声で尋ねてくる。

「……いや、なんでもない」

 俺はそう返し、茜の頭を撫でた。

 茜は気持ち良さそうに「んぅ~♪」と喉を鳴らし、お腹に頬擦りをする。

 

「葉雪にぃさん、私の頭も撫でてくれますか?」

 茜の頭を撫でていると、突然楓ちゃんが訊いてくる。

「分かった」

 俺はそう返し、楓ちゃんの頭を撫でる。

「ふふっ、気持ち良いです♪」

 

 もうここまで来たら、俺たちが何をしているのか皆分かっただろう。

 そう、俺たちは午前同様、シーツの上で寝ているのだ。

 いやぁ、こうやってだらけるのも、たまにはきいよなぁ。

 とそうしていると、他の妹たちも頭を撫でてと言い、這い寄ってくる。

 

 それから俺は、皆の頭を撫でながら、安らかに眠っていた。

 

 

 目が覚めたのは、もう日が暮れ始めた頃だった。

 皆良い匂いだったことを、ここに記しておく。

この作品を読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字、改善点等がございましたら容赦なく教えてください!

この作品を読んで頂いた読者様に最大の感謝を

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