31話 終・体育祭
今回で体育祭編は終了です!
なんやかんやあって最終種目。
え? 雑すぎないかって? 仕方ないだろ。平凡な競技を解説するのって疲れるんだよ。
それに省いたのは『三人四脚』。特にこれといったことは起こらなかったし、無事赤組が勝ったし。
てか総合ポイント的に赤組の勝ちは確定だろう。
何故なら、残っている最終種目──『コスプレ競争』は参加者が少なく、それに得られるポイントもごく僅か。謂わば気晴らし程度のお遊びだ。例え白組がポイントを全部かっさらっても、赤組の勝利は揺るがない。
さて、やっとの最終種目なのだが……、実は俺も出なきゃならんのだ。
参加者決めの時に翼が言ったことをホントに実行するとは……俺結構疲れてるんだけど。
俺は心の中で愚痴を漏らしながら、入場ゲートまで移動する。
案の定、そこには十人程度しか生徒は来ていなかった。
やっぱそうだよな。ポイントも少ないワケ分かんない競技に、誰も出ようとは思わないよな。
そして気付けば開始数分前。
そこで放送が掛かった。
『えー、緊急連絡です。最終種目のコスプレ競争なのですが、なんと一位の組に百ポイントが入ります』
その放送に、皆驚愕の声を上げる。
俺も驚きに言葉を詰まらせる。
百ポイント、そんだけあれば白組は赤組に大差を付けて勝つことができる。
俺はもしやと思い、本部のテントに目を向ける。
遠すぎてよく見えないが、やはり厳人さんがいた。
つまり、これは厳人さんの仕業か……。あの人ホント悪戯とか好きだよなっ!
もうヤケクソになりながらも、俺は自分を納得させる。
厳人さんのやったことだ。仕方ない。仕方ないんだ……
半ば自己暗示に近い形で納得すると、俺は覚悟を決める。
生憎、この競技には時政くんや足の速い人は参加していない。
なら、俺が一位でゴールすればいいだけだ。
『開始時間となりました。選手の方々は入場ゲートから入場して、あの着替え用テントに入ってください』
考えが纏まったところで放送が掛かり、俺たち参加者は行進してテントに向かった。
◇妹◇
テントの中に委員が二人待機しており、参加者たちは委員の指示に従いコスプレ衣装に着替え始めた。
俺も委員の指示に従い、渡された袋を開け衣装を取り出す。
「……………………はぁ?」
俺は堪らず素っ頓狂な声を上げた。
いや、無理もない。何故なら入っていた衣装が──女性用だったからだ。
「あの、衣装間違えてませんか?」
俺はすぐに委員に訊ねた。
が、委員は「いえ、あってますよ」と笑いながら答える。
つまり、この衣装は意図的に俺に渡された。……ってことは犯人は翼か。
後で一発殴ってやる。
そう心に決め、羞恥心を奥底に封印して俺は着替えを始めた。
参加者が全員着替え終わると、そこで放送が掛かった。
『お待たせしました。やっと全員が着替え終わったようです。それでは最終種目、コスプレ競争開始です!』
放送の直後、テントの外からパァン! とピストルが鳴り、テントの入り口が開かれた。
俺は足に纏わり付く長いスカートをたくし上げ、一気に走り出した。
俺がテントから出た瞬間、わぁっ! と各地から声が上がった。
まぁ、驚くのも無理はないだろう。なんせ、俺が今着てるのは純白のウェディングドレスなのだから。
あぁ、くっそ、めっちゃ恥ずかしいじゃねぇか!
俺は羞恥に顔が熱くなるのを感じながら、ひたすら走る。
他の者とは結構な差が付いており、もはや赤組の勝利は確定した。
「お兄ちゃん! なんでお兄ちゃんがウェディングドレスを着てるんですかっ!?」
騒がしい声に混じって聞こえてくる茜の声。
答えたいのはやまやまだが、今は集中させてくれ。
俺はただひたすら走る。
走る。
走る……
疲労で足に痛みが襲ってくるのを必死で堪え、遂に俺はゴールした。
直後、俺はバランスを崩し、その場に倒れた。
『おぉぉおっと、葉雪選手倒れたぁぁぁあああっ! だがゴールはしているので百ポイントは赤組に入りました! さぁ皆さん、全種目に出場した葉雪選手に盛大な拍手を!』
そこで気付いた。放送をしている者が変わっている。
この声は──
俺は顔を上げ、本部の方に顔を向ける。
そこには、マイクを片手に笑っている翼がいた。
くっそぉぉぉおおおっ! やりやがったな翼! 後で絶対ぶっ飛ばす!
俺は翼を睨みながら体を起こし、衣装に付いた土を払う。
──はぁ、疲れたなぁ。
俺は青空を見上げ、静かに呟いた。
◇妹◇
全ての種目が終わり、閉会式。
ここで更にサプライズ(くっそ迷惑)で体育祭のMVP生徒の発表があった。
勿論その生徒は俺なわけで。
どうして俺が辱しめを受けなければならないんだ。俺はどこぞの女騎士じゃないんだぞ。彼の有名な「くっころ」は絶対に吐かないからな!
とサプライズ続きではあったが、無事体育祭は赤組の優勝で幕を閉じた。
閉会式も終わり、今は両校の生徒たちが協力してテントなどを片付けている。
そんな中、俺は片付けをサボり、体育館裏に来ていた。
いや、正確には連れてこられた、が正解だが。
俺の目の前に立っているのは、不機嫌そうな時政くん。俺を呼び出した張本人だ。
「それで、勝負は俺の勝ちでいいんだよな?」
俺は敢えて挑発するように尋ねる。
「…………そうですね、僕の完敗です」
俺は時政くんが突っ掛かってくると思っていたのだが、予想に反して時政くんは自らの負けをすんなりと認めた。
意外だな、さっさり認めるなんて。
「なぁ、もしかして楓ちゃんのこと好きじゃないのか?」
「なにバカ言ってんですか。好きに決まってるでしょう」
「ならなんで──」
「僕はバカじゃありませんからね。この体育祭で楓さんをずっと見てましたが、……楓さんは学校にいるときより楽しそうでした。それに貴方のことを好いていることも、よぉぉぉぉく分かりました」
「悔しいですけどね」と時政くんは苦笑いを浮かべる。
「そっか。俺は時政くんの評価を改めなければならないようだ」
「僕の元の評価が気になるんですが」
「生意気で金に物言わせる典型的なお坊っちゃま」
「失礼ですね貴方」
「……ははっ」
「ふふっ」
何がおかしいのか、俺たちは吹き出す。
少しして落ち着きを取り戻すと、俺たちは改めて向き合う。
「それじゃあ、楓さんを宜しくお願いしますよ。よし悲しませたら……分かってますよね?」
「当たり前だ。それに俺は悲しませるようなことはしないよ」
「どうだか。楓さん意外の女性にも好かれている貴方が、そんなこと言い切れますか?」
そこを突かれると痛いんだが……
俺はいつも通り、不敵な笑みを浮かべ、
「勿論さ。何故なら俺は、お兄ちゃんだからな」
そう言い放った。
◇妹◇
場所変わりグラウンド。
決めゼリフを口にしたところでかすみんに捕まり、片付けをサボっていた罰として教師側の片付けを手伝わされた。
まぁ、半分くらいは建前で、ホントはかすみんが俺と話したかっただけだと思う。……多分。
長い机やテント、放送機材などを片付けもう身体はボロボロだ。
時は過ぎ、空が茜色に染まり掛けている。
片付けは終了し、皆バラバラに学校を後にしている。それは勿論俺たちも同じだ。
残念ながら、楓ちゃんや蓮唯ちゃんはバスで帰ることになっているため、一緒に帰ることできなかった。
「あーあっ、疲れたなぁ」
帰路の途中、俺はわざとらしくそう呟く。
「お疲れ様です、お兄ちゃん」
隣を歩く茜が、労いの言葉を掛けてくれる。
俺は茜の肩に腕を回し、体を抱き寄せた。
「おっ、お兄ちゃんっ!?」
茜は突然の俺の行動に驚きながらも、嬉しそうに頬を緩ませる。
「いやー、茜はホント癒されるわー」
俺はそう言いながら、茜の頭を撫でる。
「そうですか?」
「あぁ、茜といると気が安らぐ。すごい落ち着く」
「私も、お兄ちゃんといると落ち着きます。……ただ、別の意味で落ち着きがなくなるときもありますが」
舌を出し、意味深な言葉を言う茜。
「そっか。それじゃあ惜しいけど離れなきゃなー」
俺はそう言い、茜を解放する。
「えぇ、なんでですかぁ?」
茜は不満気に尋ねてくる。
「だって興奮するんだろ?」
「そんな、公衆の面前じゃしませんよ」
「つまり家ではすると」
「はい、勿論です♪」
茜は眩しい笑顔で即答する。
「そこは即答するところじゃないかな」
「即答するところですよ」
違う、絶対に違う。
「そう言えば、お兄ちゃんは何で私を選んでくれたんですか?」
突然、茜がワケ分からないことを訊いてくる。
「ん? なんの話だ?」
「借りモノ競争の話ですよ。お兄ちゃんが〝大好きな人〟を引いたとき、どうして私を選んでくれたんですか?」
「あぁ、そんなことか。そりゃ当然、茜のことが大好きだからだよ」
当たり前だろ? と言うと、茜は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「お、お兄ちゃんは卑怯です……っ」
そんなことを言いながら、茜は腕に抱き付いてくる。
「ホント、お兄ちゃんは卑怯です…………えへへっ♪」
茜は嬉しそうに笑う。
あぁ、ホント可愛いなっ!
俺はつい立ち止まり、茜を抱き締める。
「おおおっ、お兄ちゃんっ!?」
茜が再び驚き声を上げる。
「どうした?」
「それはこっちのセリフですっ! どうしていきなり抱き付いてきたんですか!?」
「茜が可愛すぎるから」
「──~~~っ!?」
茜は耳まで真っ赤に染め、プルプルと震えだす。
あぁ、悶えてるよ。可愛い。
それから俺は、何度か茜に「可愛い」と囁いてから家に帰った。
──悶え果てた茜を連れて。
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