28話 体育祭、開催
遅れてすいません!
所々おかしなところがあるかもしれません。見付けた際は指摘してくださるとありがたいですm(_ _)m
土曜日。
雲一つ無い青空。絶好の体育祭日和だ。
俺たちはいつもより早く朝食を済ませ、学校に行く支度をしていた。
と言っても、体育祭で持っていく物は水筒とタオル、後はプログラム程度だろう。
俺は支度を終えると、リビングに戻った。
台所では、七波さんが鼻歌を歌いながら弁当(超大盛)を作っていた。
厳人さんと七波さんは今日の体育祭の為だけに仕事を休んでいる。
それでいいのか羽真グループの社長と社長秘書。超大企業のツートップっ!
と内心突っ込みを入れつつ、茜の支度が終わるのを待つ。
程無くしてジャージ姿の茜がリビングに入ってきた。
伊吹高校のジャージは男女同じなのでペアルックである。全然嬉しくねぇ。
「お兄ちゃん、それじゃあ行きましょう!」
「ほいほい」
俺は気怠気にそう返し茜と共にリビングを出た。
「あっ、葉雪にぃさん、もう出るんですか?」
リビングを出たところで、ジャージ姿の楓ちゃんと出会した。
「あぁ、ちょっとかすみんに呼ばれててな」
「そうなんですか。いってらっしゃい、また後程」
「おう」
俺と茜は楓ちゃんの眩しい笑顔に見送られ、いつもより二十分近く早く家を出た。
◇妹◇
時間は経過し午前八時過ぎ。
そろそろ天ノ川学園の生徒と教師が到着する時間だ。
ん? かすみんの用事? あぁ、あれな。簡単に説明すると──
「よぉ、かすみん、用事ってなんだ?」
「あぁ、それはジョークだ、冗談だ」
「は?」
──てな感じだった。まったく、用もなく呼び出すなんて、そんなに俺に会いたかったのか☆
……コホン。さて、そろそろ来てもいい時間なんだけどなぁ。
そんなことを思いながら、俺は校門前で突っ立っていた。
「お兄ちゃん、あれじゃないですか?」
隣にいた茜が、袖をくいくいっと引っ張り、前方を指差す。
「んん……………………………………はぁ?」
俺は茜に促されるままその方向に目を向け…………十台を越えるバスの列を目にした。
なんだあのバスの列は……まるで大金持ちの──はっ、そう言えば。
俺は以前の食卓での会話を思い出す。
確か、天ノ川学園って羽真グループ、厳人さんが営んでる私立高校なんだよな……あれくらい当然か。
と無理矢理納得する。
伊吹高校はただの一般の私立高校なので、勿論この数のバスが入る程の広さはない。
そのため、バスは高校前の空いた場所で停止し、それぞれのバスから天ノ川学園の生徒と教師が降りてくる。
うわぁ、どんだけいるんだよ。
言い方は悪いが、まるで物陰から出てくる黒い虫のようだ。
「……すごい人数ですね、お兄ちゃん」
「そうだな……桁違いだな」
俺と茜はその光景を眺めながら、簡単な感想を口にする。
「おっ」
天ノ川学園の生徒たちを眺めていると、一番手前のバスから見知った女の子が降りてきた。
その女の子は長い白髪を揺らし、いかにもお嬢様といった雰囲気を纏っている。
その女の子とは勿論楓ちゃんのことだ。
「楓さん、いましたね」
「そうだな」
どうやら茜も見付けたらしい。
茜から再び楓ちゃんに視線を戻すと、楓ちゃんはこちらを向き、そして表情を輝かせる。
楓ちゃんは他の生徒を置いて、笑顔でこちらに向かってくる。
「葉雪にぃさん!」
はち切れんばかりに手を振りながら、楓ちゃんは俺を呼ぶ。
俺はそれに応じるように手を振り、そして気付いた。
天ノ川学園の男子どもが物凄い形相で俺を睨んでいることを。
はははっ、そうだよなぁ、楓ちゃんお世辞抜きに可愛いから、そうなるのも当然だよなぁ……
俺は笑いそうになるのを抑え……きれずに苦笑いを浮かべてしまう。
だがまぁ、この距離ならちょっとした表情の変化なんて気づかないだろう。
「葉雪にぃさん、また会いましたね」
「そうだね」
毎日会ってるよね、とは言えなかった。楓ちゃんの笑顔を見たら。
「楓ちゃん、他の皆はいいの?」
「はい、大丈夫ですよ。大まかな動きは事前に知らされてありますし」
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだけどなぁ。
「さぁ、葉雪にぃさん! 早く行きましょうっ!」
やや興奮気味な楓ちゃんは俺の腕を引っ張る。
「おはよう、楓さん、今日は楽しみだね」
そこへ、いかにもモテまくりそうな美男子がやってきた。
楓さん、か。楓ちゃんと仲の良いやつなのか?
「あら、三末さん、おはようございます」
楓ちゃんは素早く俺から離れると、お嬢様モードで三末? くんの相手を始める。
「楓さん、僕のことは三末ではなく時政とお呼びください」
時政くんは爽やかな笑顔で楓ちゃんに微笑み掛ける。
うっわぁ、うざい……このイケメンが。
俺は顔に出さないように、心の中で悪態を吐く。
「ところで、貴方は?」
時政くんは、楓ちゃんの時とは違った、作り物の笑みを浮かべる。
時政くん、すっごい分かりやすいなぁ。
「俺は伊吹高校二年、高木葉雪だ」
「そうですか。僕は天ノ川学園高等部二年、生徒会副会長を務めている、三末時政です」
副会長さんか。優等生なんだろうなぁ。
などと思っていると、時政くんは一瞬ニヤリと笑みを浮かべ、
「──楓さんの婚約者でもあります」
とんでもない爆弾発言を落とした。
はぁ!? こ、婚約者…………今時あるんだな、そういうの。
俺が呆れ混じりに驚いていると、楓ちゃんが嫌そうな顔をする。それも、時政くんには気付かれないように。
だが、すぐにお嬢様モードに戻る。
「婚約と言っても、昔親同士が交わしたもので、今は全く意味ないですよ」
楓ちゃんが清々しい顔でそう言うと、時政くんは分かりやすく顔をしかめる。
そしてすぐに俺を睨む。
「ところで、高木さんは楓さんと仲が良いみたいですけど、どういったご関係なんでしょうか?」
「どういったって、まぁ兄妹かな」
そう言うと、時政くんは驚いたように目を見開く。
「楓さんにお兄さんがいたとは知りませんでした」
時政くんが安心したようにそう言うと、楓ちゃんはニッコリと微笑む。
「葉雪にぃさんたちは、一ヶ月前程から家で一緒に暮らしてるんです」
楓ちゃんの言葉に疑問を抱いたのか、時政くんは更に訊ねてくる。
「それは、どういうことですか?」
「まぁ、面倒な話があって、俺の両親がいない間、楓ちゃんの家でお世話になってるんだ」
「楓、ちゃん……? ……それはそうと、つまり赤の他人ってことですか?」
「ん? あぁ、そうだけど」
そう答えると、時政くんは苛立ちを露にする。
「……そうですか」
時政くんは笑顔を取り繕い、俺に明確な敵意を向けてくる。
あーらら、これは完全に敵視されてるや。
時政くんはなにか言おうと口を開き、
「天ノ川学園生徒会、集合ッ!」
その言葉に、さっと口を閉じる。
「生徒会長に呼ばれてしまいましたね。では、高木さん、また後で」
そう言い残し、時政くんはバスの方へ戻っていった。
時政くんが去った後、楓ちゃんは「はぁ」とため息を吐いた。
どうやら、楓ちゃんは時政くんのことが苦手なようだ。
◇妹◇
それから更に時間は過ぎ、午前九時。
校長先生の長い、とても長いお話が終わり、体育祭が始まった。
第一種目は三年生のリレー。俺たちには関係無い種目だ。
もう、暇すぎて暇すぎて大変。なんたって、伊吹高校の人数は普通くらいなのに対して、天ノ川学園の人数はこっちの倍近く。その所為で一つの種目が終わるのに時間が掛かってしまう。
「お兄ちゃん」
「ん、あぁ、茜」
二年生の席に、突然茜がやって来た。
「暇なので来ちゃいました♪」
「はぁ……」
俺はため息を吐く。
「えっ、お兄ちゃん、どうかしましたか?」
茜は慌てて近付いてくる。
「あぁ、大丈夫だ。なんか面倒なことが起こりそうな予感がしただけだ」
そう言うと、茜は苦笑いを浮かべる。
どうやら、茜も似たようなモノを感じていたようだ。
「そう言えば、天ノ川の副会長、白組なんですね」
茜は面白そうにそう言う。
そうなのだ。時政くんは白組なのだ。
なんだか無性にため息が吐きたくなる……
「そう言えばお兄ちゃん、楓さんのところに行かなくていいんですか?」
茜は頬を指で突きながら訊ねてくる。
「行ったら面倒なことが起こりそうだから……」
「それじゃあ二年のリレーが始まるまで、私と楽しくお話しましょう♪」
他にすることがないので、俺は茜の提案に乗った。
◇妹◇
パァン!
ピストルの音が鳴り響き、三年生のリレーの終わりを知らせる。
『さぁ、三年生のリレーは白組の勝ちで幕を閉じました! 次の種目は二年生のリレーです! 参加者は入場口にお集まりください!』
放送が掛かり、リレーに参加する生徒(二年生)が次々に席を立つ。
「さて、行ってくるか」
「頑張ってくださいね♪」
俺は「おう」と返し、入場口前に向かった。
「おや、偶然ですね、高木さん」
そして出会ってしまった。時政くんに。
「おう、さっき振りだな、時政くん」
そう返すと、時政くんは明らかに嫌そうな顔をする。
「貴方に時政と呼ばれたくないんですが」
「いいじゃないか、時政くん」
もう一度〝時政くん〟と呼ぶと、時政くんはこめかみをピクつかせる。
「ひ、人の話を聞かないとは、なんて人なんですか……」
「ほら、早く並べよ時政くん」
ブチッ、となにかが切れる音が聞こえたような気がした。気がしただけ。
「高木さん、勝負しませんか? 丁度僕たちは赤白で別れてます。体育祭で勝った方が楓さんに告白すると言うことで」
なにそれ、俺に全くメリット無いやん。
「負けたら?」
そう聞くと、時政くんは少し悩む素振りを見せる。
「そうですね、一生告白しない、と言うのはどうでしょう」
俺にメリットが無いんだよぉ。
と内心文句を言いつつ、俺は頷く。
「いいだろう、その勝負乗った」
「決まりですね」
『さぁ、時間です! 二年生は入場してください!』
話が纏まった(多分)ところで放送が掛かった。
「それじゃあ、最初の勝負です」
勝ち誇ったように笑みを浮かべ、時政くんは白組の列に消えた。
「ははっ」
俺は苦笑いを浮かべ、赤組の列に入った。
二年生のリレーは、白組の優位で始まった。
スタートダッシュの時点で白組が勝っており、そこから走者を重ねる度に白組と赤組の差は空いていった。
時政くんがちょくちょくドヤ顔を向けてきてうざかった。
だが、それもここまでだ。
なんたって、赤組の次の走者はサッカー部のキャプテン、翼だからな。
「──っ!」
翼はバトンを受け取った瞬間、桁外れの速度で走り始めた。
十メートル以上あった白組との距離は、どんどん縮まっていく。
「翼くん、頑張ってぇぇぇっ!」
赤組の女子たちから、黄色い声が上がる。
そして──
『おぉっと! ここにきて赤組が白組を抜かしましたぁっ!』
わああああっ! と場が盛り上がる。
白組の者たちは悔しそうな声を上げ、赤組の者たちは喜びの声を上げる。
保護者や地域の人たちは驚きや興奮で声を上げる。楽しんでいるようだ。
翼は着々と白組との距離を広げ、二十メートル近く離した状態で次の走者にバトンを渡した。
それから走者は五人、六人と変わっていき、遂にアンカーである俺に回ってきた。
俺は前の走者を見て、少しずつ場所を移動する。
今は赤組と白組は均衡している。
俺はチラリと隣を見る。
隣には白組のアンカー、時政くんが俺と同じようにバトンを待っていた。
まさか、アンカー勝負になるとはな。
俺は再び後ろに視線を向ける。
もう三メートル程しかない。
二メートル。
一メートル。
……ゼロ。
俺と時政くんはほぼ同時にバトンを受け取り、同時に走り始めた。
『ついにアンカーです! って、速い! 二人とも速ぁぁぁい! 両者共に前を譲らないっ!』
そんな放送が耳に残る。
「ぐっ……!」
時政くんは苦しそうに息を乱す。
それもその筈。時政くんは無理して俺にペースをあわせているのだ。
俺は昔から鍛えているため、下手な陸上部より速い。
それに比べ時政くんはある程度運動ができるくらいだろう。
それなら、どちらが勝つか目に見えている。
でも、時政くんは諦めない、か。
俺と時政くんの距離は着々と開いていく。それでも時政くんは諦めず、先程よりも速度を上げてくる。
面白い……っ!
俺は一度速度を緩め、
「ふっ!」
急激に加速した。
『おおっと! 赤組、速度が落ちたと思ったら急激に加速したぁぁぁあああっ! どんどん差が開いていくぅぅぅっ!』
ちょっとイラつく放送を流し、俺はどんどん速度を上げる。
一メートルもなかった差は、三メートル以上開いている。
そして、大差を付けて俺がゴールした。
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