表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/144

第84話 熱

 宮廷からたなびく黒い煙。

 当然、それはアパートメントを取り囲む宮中近衛隊にも見えていた。

 隊員たちの動揺は大きい。

 しばらく煙を見て、固まっていたほどだった。


 先ほどまで威勢のいい口上を口にしていた隊長も、口をあんぐりと開けたまま微動だにしない。


 最初に我に返ったのは、僕だった。

 このチャンスを逃す術はない。

 僕は魔力が空っぽになった身体を動かし、無理やり笑った。


「あははははは……。残念でしたね。こちらは囮です」


「なに? どういうことだ?」


 隊長は飛び上がった。


「まだわからないんですか? あなたたちをこちらに引きつけ、僕たちの仲間が宮廷を襲う算段になっていたんですよ」


「な、なんだとぉおぉぉぉおおぉお!!」


 天地がひっくり返るような声を上げる。

 なんだか、ちょっと面白くなってきた。


 勿論、嘘だ。

 けど、この嘘にアストリアは乗っかった。


「宮廷近衛隊は、まさしく宮廷防衛の要。それが出っ張ってくるのだ。この時を逃さずして、いつこの国に変革が起こるというのだ」


「そうです! みんな、聞いて欲しい。これが変革の狼煙です!!」


 僕がビッと宮廷を指差す。

 その瞬間――――。



 ドドォォォォォォォォオオオオオオオンンンンン!!



 再び爆発が起こった。

 今度は逆側だ。

 黒い煙がたなびき、その下では炎が燃えさかっている。


 あれ?


 思いっきりタイミングが重なってしまった。


「「「「うわあああああああああああああ!!!!」」」」


 阿鼻叫喚が隊員たちから上がった。


「なんだ、今のは?」

「あんな遠方から、宮廷を爆発させたぞ」

「魔法? それとも神仙術?」

「まずい! 宮廷をお守りしろ!」

「おのれ! 兵武省のヤツらは何をやっているのだ!!」


 なんか僕の魔法だと勘違いしてるらしい。

 完全にたまたまなんだけど。


 でも、まさか本当にそんな力が僕に宿ったとかじゃないよな。


 念のため、もう1回やってみるか。


「それっ――――」



 ズッッッドオオオオオオオンンンンンン!!



 あ、あれ?


 まさか僕――覚醒してる?


「こら!」


 アストリアが声を上げる。

 僕が叱られたのだと思ったが、違う。

 アストリアが叱ったのは、横にいたサリアだった。


「さ、サリア……」


「プ――――クスクス……。ユーリよ。まさか自分の力だと勘違いしたのではなかろうな」


「なっ! べ、別に……。それよりもダメだよ。あそこには事情を知らない人だって働いてるんだから」


「良いではないか。そら、宮中近衛隊という輩が帰っていくぞ」


 サリアは顎を振る。


 ホントだ。

 隊長が大声で「退却」の指示を出している。

 アパートメント群を囲んでいた全隊員が撤退しようとしていた。


「さて、我は疲れたから寝るぞ。どっかの誰かさんに、魔力を吸い上げられたからな」


「ありがとう、サリア」


「礼なら我に対する供物で示せ」


 そしてサリアは僕の影の中へと帰っていく。


 サリアって魔王なんだけど、なんだかんだ優しいんだよな。

 初めて出会った時は、かなりおっかなかったけど。


「ひとまずこれでなんとかなりましたね」


「ああ。今のうちに籠城の準備をしておこう。我々が反神王国同盟と接触するまでの時間を稼がないと……」


 僕らは一旦フィーネルさんの下に戻った。

 爆発音に随分と子どもたちは怯えていたようだったが、フィーネルさんがケアすることによって、落ち着きを取り戻していた。


 僕らは今後のスケジュールについて話すと、フィーネルさんの承諾を得た。


「お二人には迷惑ばかりをかけてしまって、申し訳ありません」


「迷惑じゃありませんよ、フィーネルさん」


「私たちが選択したことだ。気に病む必要はありません、“神和(かんなぎ)”殿」


「それより子どもたちは大丈夫ですか?」


「今は落ち着いています。ただ獣人の子どもたちは、非常に感覚が優れています。先ほどの砲撃の音だけで、精神的に参ってしまうことも……」


 僕たちはフィーネルさんと話していると、1人の獣人の子どもが入ってきた。


「フィーネル先生、ミーキャが!!」


 慌てて別室に向かうと、ミーキャが床に倒れていた。


「ミーキャ!!」


 フィーネルさんは見たこともないほど取り乱す。


 僕も驚いたけど、その中でもアストリアは冷静だ。


「突然倒れたのか?」


 横で泣く獣人の子どもに問いかける。

 子どもは「うん」と泣きながら頷いた。


「偉いぞ。ミーキャは大丈夫だ」


 アストリアはあまり頭を動かさず、ミーキャの体調を診る。

 少し医療の心得があるのか。

 手慣れた動きだった。


 そのミーキャだが、意識はあるようだ。

 何かぼうっとして顔は赤く、息を乱していた。


「熱がある。単なる風邪だと思いたいが、医者に診せた方がいいかもしれない」


「医者…………ですか…………」


 フィーネルさんの顔が曇る。


 確かに……。

 今の神都で不法滞在している“外民(げみん)”の子どもを診てくれる医者は、ほとんどいないと言ってもいい。


 市中は見回り組が目を光らせている。

 そんなことがバレれば、神都で診療することはできなくなるかもしれない。


「神都の外に連れ出すしか」


 幸い今なら問題ないだろう。

 だが、外に連れ出すまでミーキャの体力が持つかどうか。

 そもそも伝手がない以上、神都の外にきちんとした医師がいるかどうかすら、僕たちは知らない。


「今まではどうしていたんだ?」


「少し熱っぽい子どもには、薬を与えてここで養生していました。獣人は体力があるので……。でも、ミーキャのように倒れた子は初めてで」


「なるほど……」


 今までが幸運だったってことか。


 しかし、どうしたらいい。


「仕方ない。うちに連れていこう」


「うちって……。アストリアの家にですか?」


「他にどこにある? 幸い母上は元軍医だ」


「お医者さんだったんですか?」


「ああ。そこで父上と――――今は両親の馴れ初めはいい」


「大変有り難いですが、アストリアさん。ご迷惑をおかけするのでは?」


 フィーネルさんは心配そうに見つめる。


「大丈夫です、“神和(かんなぎ)”殿。それよりも他の子どもたちを見ていてください」


「アストリア、僕も行くよ」


「当然だ、ユーリ。お前には籠城のための買い出しを行ってもらいたいからな」


 こうして僕たちは、ミーキャを背負って、アストリアの実家へ帰ることになった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

広告下の★★★★★で、この作品の評価をお聞かせ下さい。


また2月10日に拙作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』が発売されます。こちらも合わせてよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


第2巻12月15日発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ版もよろしくお願いします
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シーモア様にて2巻発売!
↓※タイトルをクリックすると、シーモア公式に飛びます↓
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス10巻 11月14日発売!
90万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


書影が出ました! 2月10日発売! こちらもよろしくです。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 魔王はサービスが良い… 時系列的には、オークはどうなっているんだろう。 あらかじめ親子関係改善しておいて良かったですねえ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ