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第81話 口上

 ふと、人の気配がした。

 顔を上げると、玄関にミーキャが立っている。

 いつもフードで隠している長い耳が、ピクピクと揺れていた。


「くるよ」


 ミーキャは何か取り憑かれたように呟く。

 赤く大きな眼は見開かれ、薄暗い部屋でぼんやり光っている。


「ミーキャ?」


 フィーネルさんは流した涙を払い、ミーキャに近寄る。

 しかし、フィーネルさんが尋ねても、雪兎族の子どもの態度は変わらない。


「くるよ。いっぱい……。エルフが来る」


 呟く。


 その言葉の意味に1番に反応したのは、アストリアだ。

 いきなり走り出すと、風のように部屋から出ていく。

 僕も反射的に、フィーネルさんとミーキャを置いて、アストリアを追いかけた。


 速い。


 身体能力だけじゃない。

 技術的な足運びまで違う。

 そもそもアストリアは風の聖霊ラナンの契約者。

 本気を出されたら、僕なんて一溜まりもない。


 やっと追いついた時には、アパートメントの屋上だった。

 アストリアはその縁に立ち、眉間に皺を寄せている。

 僕も屋上から望む光景を見て、息を呑んだ。


 比較的神都の郊外にあるアパートメントからは、神都を一望できるようなロケーションになっていた。

 神都を南北に貫く大通り。

 その先には瓦屋根の宮廷がある。


 その大通りには整然と並ぶ軍隊の姿があった。

 すでにその先は僕たちがいるアパートメント群に取り付こうとしている。


「あれは? エルフの軍?」


「ああ。しかも、兵武省じゃない。宮中近衛隊だ」


「お父様の軍ですね」


 振り返ると、フィーネルさんが立っていた。

 側にはミーキャもいる。

 先ほどの取っていたフードを目深に被り、長い耳をペタンと閉じていた。


 ミーキャが怖がるのもわかる。

 風に乗って、大勢の軍靴がこのアパートメントの屋上にいても聞こえてきた。

 空気を震わせ、僕たちを圧殺するような雰囲気に呑まれる。


 遅れてフィーネルさんが、沈痛な面もちでアパートメントに向かってきている宮中近衛隊を見つめた。


「完全にわたくしの居所が、お父様に割れてしまったのですね」


 フィーネルさんは、僕たちの方を向いていった。


「ユーリさん、アストリアさん。先ほどのご提案を撤回させてください」


「撤回って? どうするつもりですか?」


「わたくしはお父様の下に戻ります」


「そんな! そんなことをしたら、フィーネルさんは? 殺されるかもしれないんですよ」


「はい。ですが、殺されないかもしれない。お父様は、わたくしの実の父です。大人しく従えば、命まではとらないかもしれません」


「だが、ミーキャたちをどうするつもりだ?」


「わたくしがお父様を説得して……」


「ダメですよ、フィーネルさん。言ってることが支離滅裂すぎる」



「仕方ないじゃないですか!?」



 フィーネルさんは激しく銀髪を振り乱した。

 その声は震えている。

 目から今にもまた涙がこぼれそうだ。


「お父――――“おおきみ”は本気です。本気でここを攻撃するつもりでしょう。そうなれば、わたくしや子どもたちだけじゃない。ユーリさんやアストリアさんまで死んでしまう。……わたくしはあなた方の優しさに触れた。誰も頼りにできないと絶望していたわたくしに、一筋の光明を見せてくれた。それだけで十分――――」


「ひどいなあ、フィーネルさんは」


「ああ。その通りだな」


「え?」


 フィーネルさんは顔を上げる。

 その目はすでに腫れていた。


「ここに連れてきたのフィーネルさんでしょ? 僕たちはフィーネルさんに選ばれたんです」


「私たちを信じてくれとはいいません、“神和(かんなぎ)”。でも、あなたはあなたが見た未来の姿だけは信じてほしい」


 僕たちは再びアパートメントの縁に立つ。

 最初に手を握ったのは、アストリアの方だ。

 ちょっと驚いた。

 けれど、言葉を交わす以上に、今アストリアが何を考えているか、僕にはわかる。


 僕たち2人は縁に並び、眼下の宮中近衛隊を望んだ。

 すでに僕たちの姿が発見されていて、近衛たちが騒いでいる。


「僕の名前は、ユーリ・キーデンス!!」


「私の名前は、アストリア!! S級冒険者だ」


「宮中近衛隊!」


「いや、“(おおきみ)”よ」


「僕たちはフィーネルさんを渡さない」


「ここに居る“神和(かんなぎ)”と子どもたちには、指1本触れさせん!」


「それでも――――」


「戦うというのであれば――――」



「「我々、2人が相手になろう!!」」



 その声は神都に轟く。

 一瞬、呆然としていた近衛だったが、しばらくして怒りと嘲笑する声が聞こえてきた。


 僕たちは同時に振り返る。

 近衛と同じく、呆然としていたフィーネルさんが立っていた。

 横でミーキャが顔を輝かせている。


「かっこいい! おにいちゃん! おねえちゃん!」


 キャッキャと無邪気に喜んでいた。


 一方、フィーネルさんはようやく言葉を絞り出す。


「お2人とも、何故――何故そこまでしてくれるのですか?」


 その問いに、僕は答えを窮した。

 だって、それはひどく当たり前のことだからだ。


「困っている人を見たら、誰だって助けるでしょ?」


「ま、そういうことだ。難しい理屈なんていらないのだよ、“神和(かんなぎ)”様」


 アストリアは肩を竦めた。


 その瞬間、またフィーネルさんの目から涙が溢れる。

 拭っても拭っても、その白い手の甲を濡らし続けた。


「ありがとうございます。……ありがとうございます」


 感謝の言葉を続けるのだった。


色んなところに喧嘩売ってるな。


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[一言] 「たかが」冒険者風情が正規軍を相手にできるのだとしたら、それは軍事力バランス的には非常にまずいのだろうけれど。 だから、あまり表だって勝ちには行きたくないところのような。でも、この二人だから…
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