第76話 限界
「“神”と戦うだと!!」
黒装束たちの指揮官と思われる男は、僕の言葉を聞いて激昂する。
その顔はたちまち赤くなり、猪のように荒々しく鼻から息を吐き出した。
側でアストリアがショートソードを突き付けているにも関わらずだ。
「不敬な! 我らエルフの神を愚弄するとは! おい! 貴様もエルフだろう。あの男の言葉に怒りは感じぬのか?」
そのアストリアに男は取りかける。
依然として男に鋭い視線を投げかけるアストリアは、剣を構えたまま言った。
「簡単な話だ。お前が語る“神”と、私が信奉する“神”は違う」
「なんだと……」
「ユーリの言葉を聞いて、やっとわかった。私が何故、この故郷に馴染めなかったか。何故、冒険者のパーティーに加わったか……」
「アストリア……」
「私は私の神様を知りたかったのだ。人が作った神様ではない。自分の中の“神”を知りたかったのだ!!」
さらにアストリアは男の喉元に刃を突き付ける。
冷たい刃の感触に、ついに男の顔色が変わった。
ヒッ、と悲鳴を上げて、目に涙を浮かべる。
「お、おい!! 何をしている! 私を助けよ!! 次射はまだか!!」
男は喚き散らした。
だが、アパートメント群の中にポッカリと空いた空間の中で、それは虚しく響くのみだ。
そして、ただの1射も援護はない。
返事する声も聞こえてこなかった。
「どうしたぁ? 何故、応答せん!?」
「無駄ですよ」
激しく激昂する男に、僕は呟いた。
「お仲間には、全員――鍵魔法をかけておきました」
「か、鍵魔法!?」
「こんな風にね。唇――――」
【チャック】!
僕は男の空いた唇を塞ぐ。
モーモー言うだけで、何を言っているかわからなかった。
鼻で呼吸しなければならず、途端に鼻息が荒くなる。
「ちょうどいい、ユーリ。この男から少し情報を拾おう。今度は鼻だけ【閉めろ】してくれないか」
僕はアストリアの言われた通りにする。
鼻で呼吸できなくなったが、口で可能となった男は思いっきり息を吸い込む。
だが、依然として男に待っていたのは、冷たい刃だった。
「誰の命令で動いている。やはりシュバイセルか?」
「シュバイセル? はっ! あんな小物……!」
シュバイセルじゃない?
でも確かに言われてみれば、服装や装備は衛兵じゃない。
見た目通りに捉えると、国の暗部のような組織に見える。
その割には、目の前の男からそういう雰囲気を感じない。
どっちかと言えば、以前の僕と同じ平の役人に近い。
「なら、誰の命令だ?」
「はっ! 誰が言うか?」
「そうか。ユーリ、口を【閉めろ】してやれ」
「わかりました。口――――」
【閉めろ】!!
「ぶももももももも! もももももももも!!」
鼻と口を塞がれ、男の顔がみるみる青くなっていく。
手を突っ込んで、口を開けようとするが無駄だ。
そんなことで、僕の鍵魔法を解くことはできない。
終いには草原にのたうち回る。
鳴き声が屠殺される前の牛にそっくりだ。
「そろそろ良いだろう」
「はい」
僕は【開け】する。
ぶはあ、と男は口を開けた。
ぜいぜいと新鮮な空気を喉の奥に詰め込もうとする。
「こ、殺す気か!!」
男は涙目で叫んだ。
「それはお前の証言次第だ。誰の命令で動いている。じゃないと……ユーリ」
「はい――――」
「わかった! わかったから!! もうやめてくれ! 言うから! 全部言うから!!」
男は正座し、僕たちの前で土下座する。
それだけは勘弁と、青い顔をしながら懇願した。
先ほどまで偉そうな態度は、どこへやらだ。
「教えろ。お前たちの目的は?」
「我らの目的は、フィーネル王女の潜伏先を突き止めること?」
フィーネル?
え? フィーネルって、まさか。
僕とアストリアは同じ方向に顔を向ける。
少し離れたところで、獣人の子どもたちをなだめながら、こちらを見ているエルフの女性と目が合った。
「フィーネル……。君は、カリビア神王国の王女……?」
僕が尋ねると、フィーネルは少し悲しげに俯いた。
「いえ。何故、神王国の王女がこんな所にいる。捜しているとは、どういうことだ?」
「そ、そんなもんは知らぬ。我らはそう命じられただけだ」
「嘘だな。まだ何か隠しているのではないか?」
「知らん! 知らん! 王族の中での話だろう。我らは“小臣”や“士”だ。それ以上の事情など、我々が知る由もないことは、同じエルフのお前ならわかるだろう?」
「…………確かにな。ユーリ」
「ちょ! 待て! 貴様、何をする?!」
「全身――――」
【閉めろ】!
男は手を突き出したまま固まった。
口をぱっくりと開け、驚きの表情を浮かべている。
ちょっと間抜けだった。
アストリアは振り返る。
「フィーネル……。いや、フィーネル王女殿下。事情をお聞かせいただけますか?」
その問いに、フィーネルはすっくと立ち上がる。
王女の姿を見て、子どもたちは不安そうだった。
中には今にも泣きそうな顔をしている人もいる。
その中で1番辛い顔をしていたのは、他でもないフィーネルさん本人だった。
「はい……。私は――――」
瞬間だった。
フィーネルの声が急に遠くなる。
僕の視界がぼやけ、ついには暗転した。
この感覚……。
やばい。
ドッ……。
音を最後に、僕の意識は深い底へと落ちていった。
今日はここまでになります。
次回は再びシュバイセル回……。
いや、お前出過ぎじゃね?
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