第110話 ユーリVSアストリア
大変お待たせしました!(待っててほしい。。。)
4年ぶりに更新再開です!
そして、なんとコミカライズ決定です!
シーモア様限定で6月30日より単話版&第1巻が配信されます(電子限定です)。
漫画家は水陸カラカ先生。可愛い絵柄でありながら、最高にダークな雰囲気を作っていただいてます。
ユーリとアストリアのイチャイチャを楽しんでいただきながら、容赦のないファンタジー世界をどうぞお楽しみください。
※ あらすじ ※
名門の鍵師ユーリは陰謀により宮廷を追放されるが、呪われた少女アストリアを救い、ともに冒険者としてダンジョン第10層を目指すことを決意する。第2層では圧政の温床となっていた神が魔獣王であることを知る。王女フィーネルの命を依代に復活していた魔獣王と激突。限界を超えた鍵魔法で勝利を収めるも、王女の命を救えなかったことを後悔したユーリは過去改変の魔法を使い、第9層へと旅立つ。
そこにいたのは、彼の知らないアストリアだった。
「逃げよ、ユーリ!!」
悲鳴じみたサリアの声が、僕の脳内に響く。
けれど僕の身体はまるで【閉めろ】がかかったように動けない。
ただじっと目の前のアストリアを見つめていた。
(同じだ。出会った時と……)
世界から爪弾きにされたような異質な空気。
そして、あの仮面……。
懐かしさなんか微塵もない。
あの仮面は間違いなくアストリアの人生を狂わせたもののはずだからだ。
腹の奥から煮えたぎった何かを感じる。
怒りだ。僕は今――目の前にいるアストリアの姿を見て、怒っていた。
「ごめん。サリア、僕は戦うよ」
「ユーリ???」
「戦わなくちゃならない」
――――何が起きているかまだちゃんと理解できていないけど……。
「僕は取り戻さなくてはならないんだ」
僕を好きだといってくれた人を……。
次の瞬間、仮面をつけたアストリアは跳躍する。
握った剣――おそらく聖剣エアリーズに厚い大気の膜が形成される。
それはゆっくりと回転を始め、巨大な竜巻となった。
僕は知っている、その技を。
何度もこの目で見てきた。
アストリアの必殺スキルの1つだ。
風の聖霊ラナンと、類い稀な素質を持つアストリアとの合体技。
「死ネ……」
仮面の奥から呪いじみた声が聞こえる。
次の瞬間、巨大な風の刃は、第9層の赤茶けた大地に振り下ろされた。
【風砕・螺旋剣】!!
集まった周囲の空気が今度は衝撃波によって弾かれる。
爆発に似た音とともに、大地が削り取られ、さらに吹き飛ばされた。
まともに受ければ、身体はバラバラになっていただろう。
素晴らしくも恐ろしい一撃だった。
ゴゴゴ……。
まだ空気が振動する中、仮面のアストリアは踵を返す。
「どこへ行くの、アストリア」
鉄靴が止まる。
すぐに振り返ったアストリアは、爆煙の中から現れた僕を見て固まった。
仮面で表情は見えなかったけど、困惑していることは確かだ。
全身――――【閉めろ】。
僕の得意技だ。
キーデンス家が得意とする鍵魔法の応用技の1つ。
全身を固め、あらゆる物理攻撃を無効化する。
斬撃によるスキルも、この鍵魔法の前では無力だ。
(それにしても、すごい威力だ)
僕が知っているといったけど、威力は第1層や第2層でアストリアが使っていたものとは比べものにならない。全身を【閉めろ】していなかったら、今の一撃だけで僕はこの世から消滅していただろう。
実際、物理では干渉不可能なはずなのに、衣服の一部がほつれたり、焦げたりしている。
仮にあれ以上の大技があれば、耐えられるかどうか。
正直に言って、自信がない。
「え?」
周囲が青く光る。
圧縮された空気が超高熱を放ち、青白く光っていた。
光の中心にいたのは、空に浮かんだままのアストリアだ。
僕の鍵魔法の安全圏を肌感覚でわかっているのだろうか。
間合いを保ったまま、近づこうとしない。
聖剣エアリーズに纏った大気は、さらに輝いていった。
「まさか【風砕・螺旋剣】の連発??」
第1層や第2層では周囲の魔力が薄くて、アストリアは連発ができないと言っていた。
僕は忘れていた。
ここ第9層であることを……。
そして彼女が世界最高の冒険者パーティー『円卓』の一員であることを……。
そして――――。
「ユーリ! わかっただろう。魔力が濃い第9層では、アストリアは水を得た魚も同然だ。お前が見ていたアストリアはせいぜいBランク冒険者。だが、第9層のアストリアはまさしくSランク冒険者だ!!」
影からサリアが叫ぶ。
その声は少し震えているように感じた。
もしかして恐れている。
Sランクの冒険者を……。アストリアを……。
「これが最後だ、ユーリ。逃げよ。あれはお前の知るアストリアより遥かに強い化け物だ」
「サリア……………………ごめん」
「ユーリ。貴様……」
「逃げられないよ。だって目の前に泣いている人がいるんだから」
今でもはっきりと覚えている。
アストリアから仮面を解放した時の夜のことを……。
あの時、彼女は泣いていた。
ならば今この時も、アストリアは泣いているはずなんだ。
僕の大好きな人――アストリア・クーデルレイン……。
そんな人が泣いているのに、背を向けるなんて絶対にできない!!
「サリア、力を貸して」
「ダメじゃ!」
「どうしてもアストリアを救いたいんだ!!」
「ダメだと言っている!」
「どうして!?」
「お前はすっかり我を魔力タンク扱いしているが……。忘れたのか? 我々は時間を【崩壊】して過去の第9層にやってきた。そして、その時に使った鍵魔法は今も継続中なのだ」
つまり今もこの時も、【時間崩壊】の鍵魔法によってサリアは魔力を消費し続けているということ……。
「それじゃあ」
「有り体に言えば、お前が我の助力を請うて使っていた概念を破壊したり、規正したりする鍵魔法の使用は不可能と思え。……おそらくあれは第9層の濃い魔力を用いても無理だろ」
「じゃあ、僕は――――」
通常の鍵魔法だけで、アストリアと戦わなければならないってこと……?
ユーリ! と悲鳴じみた声に我に返る。
目の前はもう青一色になっていた。
その青い光を操るのは、やはり仮面のアストリアだ。
【風砕・螺旋剣】!!
莫大な魔力と大気、そして高温の熱を伴った必殺スキルが放たれる。
最初の一撃以上。僕が見た中でも最大の【風砕・螺旋剣】だった。
「全身――――」
瞬間、寒気がした。
頭が【閉めろ】を思考しているのに、身体が全力で拒否している。
そんな感じだった。
ふとアストリアとの修練していた時の記憶が、走馬燈のように蘇った。
◆◇◆◇◆
あれは第1層でアストリアに鍛えてもらっていた時だ。
僕はふとアストリアが何故強いのか聞いた。
その時の僕とアストリアの実力は天と地の差で、彼女は何でもこなせる器用な冒険者だと思った。僕の攻撃に対して、何でも見透かしたかのように動き、反応する。
それが不思議でならなかったのだ。
「さあ、私は身体が動くままに動いているだけだからな」
「すごい。やっぱアストリアって天才?」
僕の真っ直ぐな言葉に、アストリアはエルフ耳を赤くした後、こう返した。
「天才というなら、鍵魔法を我々の常識とは違う方向に使用しているユーリ君こそ天才だと思うがね。そうだ、ユーリ君。1つ私から至言を授けよう」
「至言?」
「君がこれから冒険者として経験を積んだ時、ある時から身体が教えてくれるようになる瞬間がやってくる。もしそんな感覚が感じた時、身体の言う通りに動くんだ」
「頭で考えるのではなく……ですか?」
「人間の本能というのは、存外馬鹿にできるものではない。頭にある知識よりも雄弁に語りかけてくることがある。だから覚えていて損はない。きっと君を助けてくれるから」
そう言って、アストリアは僕に微笑みかけた。
◆◇◆◇◆
「ユーリ!!」
サリアの悲鳴をかき消し、【風砕・螺旋剣】は再び大地を穿つ。
強風に加え、圧縮された空気の熱は岩をも溶かし、地表に巨大な線を引く。
線はそのまま離れた山の裾野まで続き、ようやく止まる。
戦闘が始まって、まだ5分も経過していない。
荒涼とした大地は、何万何千という兵士や騎士たちがぶつかり合ったみたいにあれ、変形していた。
青い光は消え、赤茶けた大地の色が戻る。
見下ろしていたのは、仮面の騎士だった。
風の加護を纏い、空に浮かんでいたアストリアはゆっくりと下りてくる。
辺りを見渡すような素振りを見せた。
「僕を捜しているの?」
不意の声にアストリアは驚いているようだった。
「やっと僕に近づいてくれた」
【開け】!
瞬間、アストリアの足元が崩れた。
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しばらく毎日更新します。
切りのいいところまで書いてますので、安心して読みにきてください。









