第59話
ストックが貯まり過ぎているので、しばらく一日二話更新になります。
で、この話は本日二話目になります。
「あっ…ぐっ…」
爆発の衝撃から立ち直って最初に感じたのは全身の痛みと酸欠からくる眩暈でした。ですが、これでもまだいい方なのでしょう。周囲を見渡せば誰も彼もが傷つき、倒れ、中には全身が黒焦げて明らかに死んでいる人間もいます。
「っつ…はっ…!」
私は剣を支えにしてゆっくりと立ち上がります。遠くに笑っている辛王が見えます。どうやら爆発の衝撃で大分飛ばされていたようです。
しかし、私以外に立っている生物は辛王以外にはいません。どうやら爆発の規模があまりにも大きすぎて敵も巻き込まれたようですね。
『へえ。俺のスキルを生かしたコンボを食らっても立ち上がれるとはな。その根性は俺の下僕共にも見習わせたいもんだぜ。それともその纏っている霧のおかげか?チート野郎。』
辛王が私には分からない言語で話しかけてきます。しかし、あの表情は明らかに蔑みの表情ですね。
何にせよ≪霧の衣≫の火耐性強化のおかげで何とか私は助かったようです。そして、今この場で辛王と戦えるのは私だけ。となれば、私がやるべきことは…
「霧人。久野イチコ。仲間を守るために貴方に挑ませていただきます。」
イズミたちが逃げる時間を稼ぐことです。
『ハッ!何言ってるのかは分からねえが、来な!返り討ちにしてやるよ!』
「行きます!」
私は剣を右手に持って勢いよく辛王に向かって走り出します。
対して辛王は右手に炎を灯した状態で大きく振りかぶり、
『行くぜえ!≪辛火の鎌≫!』
三日月状の炎を勢いよく飛ばしてきました。おまけに右手から放ち終わった時には既に左手にも炎が灯っているのが見えます。
「っつ!」
私はまずまっすぐ飛んできた一発目を左に飛んで避け、着地と同時に体勢を低くしつつ前に跳ぶことで辛王の左手から放たれた二発目の炎を避けます。
『オラオラオラ!どんどん行くぞ!』
辛王は続けて同じスキルを連射してきます。それを私は右、左、前に上と跳ぶことで攻撃を避けつつ接近します。
そして、辛王との距離が残り3m程になったところで、
「≪短距離転移≫≪首切り≫」
辛王の後ろに飛び、その首に向かって全力で短剣を振るいます。
が、
『甘えよ!≪辛紅粉塵の操り手≫!』
「なっ!」
突然、辛王の首から巨大な赤い棘が私に向かって勢いよく生えてきたため、私は空中で体を捻る事で、わき腹に掠らせつつも何とか避け、地上に着いたところで≪短距離転移≫を使って辛王から離れます。
『ちっ、やり損ねたか。』
「ハア…ハア…すうっ」
私は呼吸を整えつつも辛王のスキルについて考えます。
現状間違いなく辛王が持っていると言えるのは粉塵爆発を起こす際に使った雷のスキルに、先程私に放ってきた炎のスキルです。この二つは明らかに別のスキルでした。
そして、辛王の周囲に漂っている赤い粉に、先程の突然体から生えて来た赤い棘。恐らくですがこの二つは辛王の固有スキルに関係したものです。何故なら赤い粉を広げる前に言った固有名詞と赤い棘を出す前に言った固有名詞が同じものだったような気がしますし、これだけ多彩な効果を持つスキルがレベルアップで早々に覚えられるとも思えませんから。
さて、そうなると私に残された手は後一つだけですね。賭けになりますがやるしかありません。
「行きます。『我は虚空を跳ぶものにして霧王の眷属。求めるは敵の首、命の華、血の噴水。』」
私は詠唱をしつつも辛王に接近していきます。もちろん辛王も炎と雷を放つスキル。そして地面から赤い棘を勢いよく突き出すことによって攻撃をしてきます。
「『跳べよ刃。我が求めるものが手に入るまでひたすらにその刃を我が敵に振り下ろし続けろ。』」
しかし、私はその攻撃を小刻みなステップで確実に避け、少しづつ接近します。
そして、辛王の目の前に来たところで、
「『切れ!裂け!断て!アウタースキル・センキリカイシャク!』」
『っつ!』
目を大きく開いて驚く辛王の首に向かって剣を振ります。
その時でした。
パキン
という音が辛王の首元から聞こえてきました。
私は目を凝らして辛王の首をよく見ます。そこにあったのは
折れた私の短剣の刃と、周囲に生える棘と同じ色をした辛王の首
「なっ!」
『ハッ!首を守っておいて正解だったぜ!喰らいな!≪腕力強化≫≪辛紅粉塵の操り手≫!』
予想外の状況に固まった私の腹に向けて、右手に巨大な赤い杭の様なものを持った辛王がその杭を突き出してきます。
私は慌ててその杭を防御しますが、柄だけになった剣に防御能力は殆ど無く、私は骨が折れる嫌な音と肺から空気が抜けていくのを感じつつ大きく吹き飛ばされます。
「ぐっ…がっ…」
吹き飛んだ私に止めを刺すためなのか、辛王のスキルによって私の周囲に大量の赤い粉が漂い始めます。恐らくは最初と同じ粉塵爆発を起こす気なのでしょう。
私には最早勝ち目はありませんでした。剣が折れ、頼みのアウタースキルも通用しなかったからです。おまけにクロキリとの連絡は未だに付きません。
辛王が左手を構えるのが見えました。
私はそれを見て、思わず目を瞑り、そして…
大量の閃光と爆音が響き渡りました。




