第125話
「ここがそうですか……。」
「わうぅん……。」
イズミたちの前には天を衝くような大きさの巨木がそびえ立っています。その大きさは頂上が雲で霞んでいるほどです。
「じゃあ、まずは情報収集と下準備だね。モヤ助は子供たちを連れて近くの森にでも隠れていて。」
「わん。」
モヤ助はイズミを降ろした後、自分の子供たちを連れて近くの森の方へと姿を消します。
ああそれと、女性たちは戦力の増強も十分にできたので、イズミの経験値になってもらいました。このことをクロキリ兄ちゃんに言ったらお前の方がよほど魔王に向いていると言われましたけどね。
そしてイズミはダンジョン近くに作られた街に入っていきました。
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『ダンジョンの名は『天地衝く巨樹』、魔王の名は『争い煽る八百栗鼠』。出現は最初期で今までの攻略からダンジョン内には森が広がっており、出現モンスターは獣・虫系を主体に各階層ごとに変化すると判明。また、数少ない遭遇した際の情報から魔王の能力は撹乱、幻惑系と思われる。攻略に関しては現在第二階層深部まで一部パーティが到達済み。』
これがこの街でイズミが手に入れた情報です。
うーん。獣・虫系主体やダンジョン内に森があるのは別にいいですけど、魔王の能力が問題です。集団戦を行う際に最も厄介なのは味方が全員巻き込まれるような範囲攻撃ではなく、敵と味方を識別できなくなるという状況で、彼我の数の差が有ればあるほど少ない方にとっては有効な手段になりますから。
まあ結論としては、
「まあ、イズミとモヤ助が互いを認識できていれば問題は無いですよね。薄靄狼たちの役割は雑魚散らしなわけですし。」
こんなところなんですけど。
そしてイズミは街でロープやカンテラのようにダンジョン攻略に必要と思われる物を買い揃えた所で、モヤ助と街の外で合流して『天地衝く巨樹』へと突入しました。
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「木の中なのに明るいですね。」
「バウ。」
イズミたちは『天地衝く巨樹』の中を陣形を組んで進んでいきます。
が、今のところは大したモンスターにも遭遇せずに薄靄狼たちだけで対応が出来ています。
明かりについては考えてみたら『白霧と黒沼の森』の第二階層も洞窟内なのに明るかったので、きっとこちらでも同じ様な何かがあるのだと思います。
ガサガサ
と、また敵が来たようですね。
「っつ!」
あれは不味いです!
森の中から茂みを掻き分けるように出て来たモンスターは巨大なカマキリの様なモンスターでした。
その姿には特におかしな点はありません。ただ大きくて全身が赤いだけのカマキリで、ここまでにその色違いの様なモンスターも見てきました。
ですが、その雰囲気は今まで見てきたモンスターたちとは明らかに違い、こちらに圧倒的な威圧感を与えてきます。
恐らくは他のカマキリたちの上位種と言ったところなのでしょう。
それなら、イズミがこの場でとるべき策は……
「全員逃げろ!」
「「「ワン!」」」
逃げの一手です!
イズミたちが逃げ出すのと同時に赤カマキリが動き出します。
その動きは一番初動が遅かった薄靄狼を見極め、右手の鎌を振り上げ、そして、次の瞬間にはまるで瞬間移動をしたかのように進路上にあった木ごと薄靄狼の一匹を断末魔すら上げさせずに切り裂きました。
「!?」
イズミはそのスピードと鎌の切れ味に恐怖しました。あのスピードと攻撃力では殆どの薄靄狼たちは逃げられません。そして、ここはまだダンジョンの入り口であり、イズミにはこんなところで躓いている暇はありません。
だから、
「モヤ助!≪人騎一体≫≪生体武器生成・斧≫≪生体武器強化・血≫≪筋力強化≫」
「ワン!」
全力で赤カマキリの排除に入ります。
イズミの使ったスキルは四つ。≪人騎一体≫によってイズミの意思はダイレクトにモヤ助に伝えられ、モヤ助の五感が得た情報は余さずイズミに伝えられます。続けて≪生体武器生成・斧≫によって右腕から骨で出来たポールアクスが生え、≪生体武器強化。血≫でイズミの体から若干量の血液が斧の中に流れ込み、斧の刃を妖しく紅く彩ると同時に切れ味と強度が強化されます。そして、≪筋力強化≫によってイズミ自身の筋力と同時にイズミと一体化していると捉えられたモヤ助の筋力が強化されます。
また、それと同時にモヤ助は自分の周囲に霧を展開してイズミたちの姿を赤カマキリの目で捉えるのを難しくします。
「ハアッ!」
「ー!」
モヤ助が赤カマキリに突撃し、その突撃の勢いを乗せる形でイズミはポールアクスを赤カマキリに叩きつけます。
イズミの攻撃によってポールアクスを防いだカマキリの左手にヒビが入ります。
しかし、この攻撃によって赤カマキリはイズミたちを真っ先に排除するべき敵だと判断したのか左手でイズミの斧を弾くと、先程の一撃と同じような構えを取ります。
「ー!?」
「甘いです!」
ですが、鎌を上に振り上げるという事はその先に続く太刀筋もある程度予測が出来ることになるので、イズミは斧の柄を正面に構えてその一撃を防ぎます。
ただ、流石の攻撃力とでもいうべきでしょうか?今の一撃で柄の半ばまで鎌が食い込んでいます。
しかし、この一撃が防がれたことによって赤カマキリは今隙だらけです。だから、
「関節を食いちぎれ!」
「ーーーーーーーーーーー!?」
イズミは周囲に散らばった薄靄狼を再度招集。赤カマキリの右手側から関節部を狙って食らいつかせます。
赤カマキリは自由に動かせる左手で必死に抵抗しようとします。が、残念ながら左手の鎌では体に食らいついている薄靄狼を切りつけることはできず、ただ、脚を動かして薄靄狼たちを蹴りつけることで抵抗しようとするだけです。
ですが、徐々にその動きは遅くなっていき、脚は食いちぎられ、最後にはモヤ助の牙によって首をねじ切られました。
「ふう。」
しかし、今回は何とか倒すことが出来ましたが、一匹絶命に重傷数匹と少なくない被害が出てしまいました。
次からはもっと気を付けなければいけません。
ここはダンジョンで、イズミたちを助けてくれる者なんて居ないんですから。
そして、イズミたちはダンジョンの奥へとその歩を進めます。
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